福井弁護士のネット著作権ここがポイント

2012年著作権法改正でどう変わる? 違法ダウンロード刑罰化の懸念編


 著作権法の一部を改正する法律が6月20日、参議院本会議で可決・成立した。今回の改正では、違法ダウンロード行為に対する罰則(違法ダウンロード刑罰化)が加えられたほか、DVDなどに用いられる「CSS」などの暗号型技術を回避して行う複製が違法(刑事罰はなし)となること(DVDリッピング違法化)などが盛り込まれた。

 多くのインターネット利用者に関係すると見られる今回の著作権法改正だが、どの程度の影響があるのか。果たしてどこまでが合法で、どこからが違法となるのか。知的財産権に詳しい骨董通り法律事務所の福井健策弁護士に聞いた。「違法ダウンロード刑罰化編」「違法ダウンロード刑罰化の懸念編」「DVDリッピング規制編」の3回にわけてお伝えする。

 第2回は「違法ダウンロード刑罰化の懸念編」。

ネット中心にかつてないほどの「著作権不信」が高まる

 今回の立法は、1)オープンな議論の不在、2)海賊版と社会はどう向き合うか、3)さらなる立法への懸念、などの課題を残しました。

 第一に、従来の「文化審議会から積み上げて内閣が提案する」ルートの著作権法改正案に、最終段階で議員立法によってダウンロード刑罰化が盛り込まれ、修正後衆議院ではほぼ審議なし、参議院でも1日の参考人招致で決議に至った過程が問題です。

 誤解の無いようにいえば、文化審議会には従来から課題も指摘されており、議員立法自体は議会制においては本則ともいえ、それ自体が悪いという意味ではありません。しかしそれは議員立法に至る過程が透明でオープンであり、国会で十分な審議が尽くされることが大前提です。

 今回は、文化庁を通しては反対も強く刑罰化は難しいので議員ルートが選ばれたと言われており、そのような「裏口」から法案を通すなどは論外でしょう。現に今回の立法はネットを中心にかつてないほど「著作権不信」を高め、当分は著作権をめぐる建設的な議論は難しいと感じさせる状況です。

 もっとも、今回の改正に対して感情的な言葉をぶつけるだけの批判が生産的だとも思えません。まして、ひとつの政策が気に入らないからといって他国の政府にサイバー攻撃をかけるような一部行為を称賛しても、問題は何一つ解決せず、立法した側も態度を硬化させるだけでしょう。

コンテンツ産業の背を焼くような焦燥感にも理解を

 第二に、今回の立法は「その著作物は適法にアップされたものか?」という困難な判断をユーザーに強いるように見える点で、果して海賊版対策として最適の方法なのか疑問が残ります。

 権利者や立法者からすれば、「ターゲットは明らかに違法・悪質な行為であって、判断が微妙なケースを摘発したりはしない」と言いたいのでしょうが、例えば「店頭のCDを盗んではいけない」というルールほど一般ユーザーにとって守りやすいものか、疑問は残ります。

 ただし、同時に権利者側の海賊版に対する危機意識は理解する必要があります。日本のほとんどあらゆるコンテンツ産業は長年続く産業縮小に悩まされており、特にCDの売上は10年間で3分の1にも縮小しました。これは、日本の戦後最大の斜陽産業で、「失業」の代名詞だった石炭産業が昭和40年代に経験した産業縮小のペースを上回ります。さらにその差を埋めるはずの有料音楽配信も、全く伸び悩んでいます。

 他方で、日本レコード協会の調査による違法ダウンロード数は年間で43.6億ファイル。この数字にはさまざまな疑問も呈されていますが、違法ダウンロードが10億ファイル単位で存在しているのは恐らく事実でしょう。ではそれだけ膨大な「海賊版」が、正規版の売上縮小と本当に無関係なのか? コンテンツ産業の中でも、デジタル海賊版の影響をほぼ受けないライブイベントの売上だけが縮小していない事実を見ても、疑問は残ります。

 今回の刑事罰化が危険だと思えば思うほど、このコンテンツ産業の背を焼くような焦燥感を理解し、実効性のある別な解決策をともに模索することが大切ではないでしょうか。

刑罰化で効果がなければ「非親告罪化」や「法定賠償金」の導入も

 第三に、なぜそんな面倒なことを社会が、ユーザー側が考えなければならないのか? ひとつは、今回の刑罰化で海賊版が減らない場合、さらなる法改正の可能性があるからです。それは、恐らくは告訴無しに著作権侵害の処罰を可能にする「非親告罪化」や、知的財産の民事訴訟をしやすくする「法定賠償金」の形を取るでしょう。日本がTPPに加盟する場合、その導入の可能性は高まります(過去コラム参照)。

 権利者・ユーザー・政府がそれぞれ未来に対して責任をもって、作品の流通を促進しつつクリエイターへの収益還元を図れる、より良いルールを論じあえるのか。今、一番危機に瀕しているのはこの当たり前のことかもしれません。


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2012/7/11 11:00


福井 健策
HP:http://www.kottolaw.com Twitter:@fukuikensaku
弁護士・日本大学芸術学部客員教授。骨董通り法律事務所代表パートナー。著書に
著作権とは何か」「著作権の世紀」(ともに集英社新書)、「契約の教科書」(文春新書)ほか。最近の論考に「全メディアアーカイブを夢想する」など。