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第8回 裏名簿業者が証言! Yahoo! BB事件にみる「流出名簿」の恐るべき実態

TEXT:佐々木 俊尚
 インターネットが社会の基盤インフラとなりつつある一方、アナログ社会にはなかった新たな危険や落とし穴も増え続けている。この連載では、IT化が進む中で起こるさまざまな事件を、元全国紙記者が独自の取材によりお伝えします。(編集部)

Yahoo! BBの名簿流出は今回が初めてではなかった!

450万件の個人情報漏洩を認め謝罪した、2月27日会見時の孫正義ソフトバンクBB社長

 「企業から流出した名簿は、価値が高ければ高いほど高額で取り引きされる。かつては10万件で300万円ぐらいの金額になったが、最近では流出があまりにも多く、インフレを起こしていて100万円ぐらいにまで値下がりしている。」

 取材に応じたA氏は、そう証言した。

 A氏は東京都内に事務所を構え、名簿にからんだビジネスを行なっている。年齢は50歳代前半。元は総会屋だったが、1982年の商法改正で利益供与が禁止されてからは仕事が続けにくくなり、廃業。現在は裏ビジネスを展開する連中のサポートに回っている。スーツ姿に身を包み、にこやかな表情に穏和なたたずまいを漂わせているが、右翼団体を主宰しており、強面の顔も持っている。

 筆者からの再三の取材依頼に応じ、事務所でのインタビューに応じたA氏は、こう切り出した。

 「Yahoo! BBの名簿が問題になってるだろう? でもあそこの名簿が流出するのは今回が初めてではない。私の知っている限り、過去に5〜6回にわたって出回っている。記憶の範囲で言えば、半年に1度ぐらいは出回っているのではないか。」

 Yahoo! BBの加入者名簿流出と、その名簿を使った恐喝未遂事件が世間を騒がせている。2つの流出ルートのうち、愛知県在住の男性会社員が逮捕された件では、この会社員が過去に派遣会社社員としてYahoo! BBのカスタマーサポートセンターに勤務していたことが判明。同センターで顧客データベースからデータを引き出し、持ち込んだ記憶媒体に保存して盗んだとみられている。

 一方、Yahoo! BBの代理店社長らが逮捕されたルートの漏洩経路はまだ解明されていないが、「逮捕された3人は、いずれもメールを読み書きできるほどのコンピュータ知識しかなく、データベースの操作は困難。ソフトバンク内部の人間が関与しているのではないか、と警察では見ています」(全国紙の警視庁担当記者)という。

 いずれ捜査が進展すれば、今回の事件の漏洩経路は突き止められるだろう。だがA氏は、今回の事件は氷山の一角だというのである。もちろん、この証言が真実かどうかは、現時点では確認できない。

 その点を捜査関係者にぶつけると、「その可能性は否定できない。だが現時点では、今回立件した事件の漏洩ルートに絞って捜査している」という返答だった。



Yahoo! BBの名簿は、10万件が入ったCD-R1枚で30〜50万円前後まで下落

 A氏は続ける。

 「最近よく出回っている名簿は、Yahoo! BBとプロバイダのA社、B社の3つ。あまりにも多く出回っているため、値崩れを起こしてしまっている。Yahoo! BBの名簿は10万件が入ったCD-Rが1枚で30〜50万円前後にまで下落している。」

 確かにここ数年、大手企業などから顧客の個人情報が流出する事件は多発している。たとえば最近では2月、消費者金融大手の三洋信販(福岡市)の顧客データ約32万人分が漏洩。また昨年11月にはコンビニのファミリーマートが展開しているネット通販向けの会員制度「ファミマ・クラブ」の会員情報18万人分が流出した。6月には同じくコンビニのローソンの56万人分が流出している。数え上げていけば、切りがないほどだ。しかも多くの事件では、流出経路さえ判明していない。多くが内部犯行だとみられているものの、最終的な特定にまで至っていないのが現状なのである。防ぎようがない、ということだろうか。



漏洩したデータの多くは、迷惑メールや違法なアダルトサイトの架空請求業者へ

 いずれにせよ、こうして漏洩したデータの多くは、名簿業者などに流れているとみられている。実際、ファミリーマートの事件では「ファミマ・クラブに登録したメールアドレスに、架空請求メールが届いた」という顧客からの苦情が寄せられたことが明るみに出るきっかけとなっているのだ。こうした名簿の多くはダイレクトメール業者だけでなく、迷惑メールや違法なアダルトサイトの架空請求業者にまで流れているということなのだろう。A氏が続ける。

 「この業界で有名なのは、大手消費者金融のC社の顧客名簿、つまりサラ金からカネを借りてるヤツの名簿だね。神田あたりに店を構えている街金融の業者が、大手消費者金融の名簿を指定して、広告メールを打ちたいと言ってくるケースも多い。ターゲットがはっきりしているから、こういう名簿は高く取り引きされる。」

 そして中でも最も高額で売買されるのは、「迷惑メールに反応を返した人の名簿」なのだという。たとえばアダルトビデオの販売業者が、迷惑メールを大量に送信する。最近では数百万単位で送信されることも珍しくない。100万通のメールを送り、それに対して返事をして、実際にアダルトビデオの購入にまで踏み切るのは、せいぜい10人程度。だがこの購買行動にまで踏み切った10人は、必ずほかのアダルト関係のダイレクトメールにも飛びつくと見なされるのである。

 そこで、アダルトビデオ販売業者は、これらの購入者の名簿を裏ビデオ業者などに横流しし、利益を得るのだという。A氏は「この手の名簿は、以前は1人1,000円と言われていたが、最近はかなり値下がりした。それでも1人100円で取り引きされている」という。

 モラルもプライバシー保護も法令遵守もへったくれもない。食うか食われるか、の裏稼業の実態である。そして大手企業から流出した名簿は、こうした魑魅魍魎の世界に投げ込まれているのが実情なのだ。Yahoo! BB事件の背後に広がる闇は、深い。

(2004/3/3)

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佐々木 俊尚
 元全国紙社会部記者。その後コンピュータ雑誌に移籍し、現在は独立してフリージャーナリスト。東京・神楽坂で犬と彼女と暮らす。ホームページはこちら

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