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第5回:実録! ネットオークションで違法出品物を売る人々(上)

TEXT:佐々木 俊尚
 インターネットが社会の基盤インフラとなりつつある一方、アナログ社会にはなかった新たな危険や落とし穴も増え続けている。この連載では、IT化が進む中で起こるさまざまな事件を、元全国紙記者が独自の取材によりお伝えします。(編集部)

ネットオークションで違法出品者の心情や動機とは

ACCSが実際にYahoo!オークションで購入した海賊版の例。この場合、見た目も同じように印刷しているため、一見での判別は難しい

 高額なアプリケーションソフトをCD-Rにコピーし、シリアルナンバーを添付して大量に販売するという“裏商売”が、インターネットオークションで猖獗を極めている。大手オークションサイトを少し時間をかけて巡回すれば、こうした違法CD-Rの出品は無数に見つけることができる。同じくネットオークション上で横行している詐欺とあわせ、「違法」そのものがこれほどまでに公衆の目に広くさらされているケースは他にないだろう。

 彼らはなぜこうした違法出品に手を染め、そして違法性をどう認識しているのだろうか。そして運営会社の側は、これらの実態をどう受け止めているのだろうか。違法物を販売している出品者に接触し、彼らの心情と動機を探ってみた。



大阪府在住の元証券マンの場合

 大阪府の元証券マンの男性(35歳)は2003年夏から、ヤフーオークションや独自のWebサイト上で著作権法違反CD-Rの販売を始めた。Adobe PhotoshopやMicorosoft Office、弥生会計など市価数万円のアプリケーションソフトを、数千円で販売している。毎月の売り上げは50〜60万円。経費を引いて、粗利は40万円程度になる。年末ごろからは売り上げも増え、月額100万円にまで達しているという。男性は話す。

 「良いか悪いかといえば、悪いに決まってる。もちろん犯罪だと思う。ただオカネの面だけを見れば、悪いことだからこそ競争相手も少なく、簡単に儲けられる仕事になっている」

 男性は大学を卒業後、証券会社に就職。しかし入社6年目の年、顧客とのトラブルの責任をすべて押しつけられるかたちで退社に追い込まれた。会社側からは、退職前の半年間は出社しなくとも給料を支払うという裏取引が提示されたという。この半年の間、表だって就職活動をするわけにもいかず、出張エステのドライバーのアルバイトに手を染めたのが、裏稼業への第一歩となった。

 出張エステのドライバーは午前10時から翌朝6時までの勤務。月額40〜50万円の収入になった。このときにかいま見たビジネスの手法を実地に試そうと、証券会社を正式退社した後に自ら出張エステを始めた。約1年で300万円ほど作り、この資金を元手にうどん屋を開業した。「そろそろかたぎの仕事に戻ろう」と考えたのだ。だが大失敗し、おまけに生来のバクチ好きも災いし、1年後には今度は500万円の借金を抱える結末になる。しかたなく再び裏稼業に舞い戻ることに決め、手元に残ったわずかなカネで宅配ビデオ業を始めたという。

 宅配ビデオがようやく軌道に乗り出した約3年前、初めてパソコンを購入。ビデオ販売をネットでもやってみようと思いつき、Webサイトを開いてDVDのコピー商品を販売したところ、これが当たった。宅配ビデオが20〜30万円程度の月商だったのに対し、DVDのネット販売は売り上げが月額50万円以上にもなったのだ。



アダルトビデオから違法コピーしたアプリケーションソフトへ

 このころからアダルトビデオだけでなく、アプリケーションソフトを違法コピーしたCD-Rも扱うようになった。ソフトを入手するため、大阪・日本橋の路上でコピーCD-Rを購入。その後はダイレクトメールなどで、他の業者が送ってきた同様のCD-Rを購入したり、あるいはネットオークションで落札するなどしてコピー元のソフトを入手しているという。最初は正規に購入されたアプリケーションソフトが、コピーを繰り返されて裏業者の間をぐるぐると流通し、販売されているということなのだろう。こうしたコピーの一部は、Winnyなどのファイル交換の世界にも流れ込んでいっている。あるいは、Winnyなどで入手したアプリケーションがCD-Rに焼かれ、オークションで販売されているというケースもあるのかもしれない。

 男性は「裏アダルトビデオの宅配販売もしているが、法律が規制しているからこそ新規参入が少なく、少ない資金でも商売が成り立つといえる。もし規制が仮に緩和されるようなことにでもなれば、大手の業者が大挙して参入し、われわれのような零細は商売が成り立たなくなる。つまり、われわれの仕事は法律に保護されているようなもの」と嘯くのだ。



違法物を販売しているのに、なぜかIDが削除されない現状

 男性はネットオークションでも違法物を販売している。オークションでは、常に運営会社からの出品削除やID停止のリスクがついて回る。それをどう回避しているのだろうか。だが男性は「IDについては、簡単に削除はされないことはわかっている。それほど心配はしていない」と断言するのである。

 実際、男性は2003年7月からオークションでの違法出品物販売を開始し、すでに半年以上が経過して数百万円を売り上げているのにも関わらず、使ったIDの数はわずか3個。削除をされた経験もない。「『これは裏コピー品です』とでも書けばさすがに削除されるかもしれないが、『CD-Rとシリアル番号のみの販売です』といった説明であればたいていは大丈夫」なのだという。代金振込先の銀行は架空名義の口座を使い、住所は秘書代行センターを利用している。

 一方、出品物に関しては、運営会社から頻繁に削除されている。しかしこれについても男性は「過去に何度も出品を削除されたが、出品後にすぐ削除されることは少ない。希望落札価格を設定しておいて、即決で落札できるようにすればいい。仮にその前に削除されても、入札者のメールアドレスさえわかれば、直接交渉できるので問題はない」という。しかもここ1カ月前後は、出品の削除さえされていないという。

 出品が削除されているという事実からは、運営会社は明らかに彼の違法出品を認識しているということがわかる。しかしその後も出品が放置され、IDも停止処分になっていない――これはいったい何を意味するのだろうか。オークションをめぐっては、以前から「違法出品物が野放しになっている」と批判され、これに対して運営会社の側は「パトロールを強化しているが、すべてをチェックするのは難しい」と弁明してきた。だが男性の証言からは、運営会社が違法出品物を放置している実態も浮かび上がってくる。



運営会社よりも怖い相手とは……

ACCSが実際にYahoo!オークションで購入した海賊版の例。これは「認証破壊」を推奨している悪質な例だ

 男性が気にかけているのは運営会社ではなく、むしろ取引相手の動向と言えるようだ。つまり取引相手が、警察や著作権侵害監視組織などに通報することを警戒しているのである。男性は「もし仮に著作権ホルダーやオークション運営会社から警告が来ても、『当方は正規の中古品しか販売していない』と返信し、後はIDの削除さえしておけばいい。それよりも怖いのは、顧客とのトラブル。トラブルがきっかけで通報され、逮捕される結果になる可能性が最も高い。顧客はこちらが届けたCD-Rを持っており、逃れられない証拠になってしまう」と話す。

 このため、たとえば落札後、受け渡しの前段階で「これは正規品なのか」「アップデートは可能なのか」と細かく質問してくる取引相手に対しては、「正当な料金で正規版を買ってください。当方での購入はお断りしています」とメールを送り、その段階で連絡を絶っている。

 「文句を言ってくる人がいても、品物の受け渡し前であれば、どうにでもごまかせる。そういう人物には売らないのが鉄則だ。だいたい、本気で違法CD-Rを購入しようとしている人はなぜか皆低姿勢で、文句を言う人はほとんどいない」と男性は笑うのだ。

 男性はオークション以外に、Webサイトでも違法CD-Rを販売している。売り上げは、Webサイト経由がオークションを遙かに凌駕している。「オークションであれば履歴が残るが、サイトなら購入の記録が残らないという心理的安心感があるのかもしれない」と男性は顧客の購買行動を推測している。また同じような違法業者が、サイトにCD-Rを買いに来るケースもあるという。Webサイトに関してはスパムの発信や広告活動を行なっているわけではなく、ネットオークションの出品説明などから誘導されてくるケースがほとんどだという。オークションは、こうした違法出品物を売買する人々にとってある種の「ポータル(玄関口)」と化しているのだろう。

 男性は述懐する。「正直、これといった考えで始めたわけではない。スタートしてみたら、予想以上に儲けがあり、そのままずるずると続けてしまっているというのが正直な気持ちだ。リスクと利益のバランスを考えれば、たいていの人はリスクの方が高いと思うのだろう。その通りかもしれないが、リスクさえ考慮に入れれば、特に知識は必要ではなく、やる気なら誰にでもできる商売だと思う」

 こうしたハードルの低さが、違法物の販売という裏ビジネスを横行させている背景にあるのだろう。

(次回に続く)

(2004/2/4)

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佐々木 俊尚
 元全国紙社会部記者。その後コンピュータ雑誌に移籍し、現在は独立してフリージャーナリスト。東京・神楽坂で犬と彼女と暮らす。ホームページはこちら

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