16日、東京都新宿区にある京王プラザホテルにおいて「IPv6 Business Summit 2004」が開催された。今回のイベントはもともと、毎年年末に「Internet Week」と併催されていた「Global IPv6 Summit」が、昨年末より主に技術面を取り扱う「IPv6 Technical Summit」とIPv6 Business Summitの2つに分割されたもの。会場にはIPv6をビジネスとして扱おうとする参加者が多数集まり、講演やパネルディスカッションに加えIPv6対応製品の展示などが行なわれた。
午前中は、イベントの実行委員長を務める富士通の秋草直之会長、慶応義塾大学の村井純教授の両氏に加え、NTTコミュニケーションズの鈴木正誠社長が登場し、講演を行なった。
● IPv6における日本のリードをひっくり返されないように~秋草氏
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富士通の秋草直之会長
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まず最初に開会の挨拶に立った秋草氏は、今回のイベントの事前登録者が約4,000名弱に達したことに触れ、「IPV6への関心の高さに驚いている」と感想を漏らした。その上で同氏は、「PKIも当初はアジアでは日本が(基盤整備などで)先行していたが、現在は韓国、シンガポールなどに普及度で抜かれているにも関わらず、日本では相変わらず(PKI自体が)良いとか悪いとか言っていて導入が進まない」とPKIを引き合いに出した上で、「現在はIPv6については日本が先行しているが、何年か後に(他国に抜かれて)やっぱりということにならないようにして欲しい」と、IPv6の導入が思うように進まない日本の現状に苛立ちを示した。
同氏は、「周りを見渡して様子を見るのではなく、まず実際に行動することが今の日本においては一番重要」と述べ、「米国も国防総省などが中心になって、半ば強引にトップダウンで(IPv6の導入を)進めている」と、日本も負けずに積極的にIPv6の導入を進めるべきだとの姿勢を再三にわたり強調した。
● IPv6の目的は自由と創造性、今後は安心なネットワーク作りが課題~村井氏
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慶応義塾大学の村井純教授
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秋草氏の後、麻生太郎総務大臣のビデオメッセージを挟んで登場した村井氏は、まずIPv6の規格の策定が始まった当時について、「1992年にIPv6のデザイン作業がスタートしたが、その前に(IPv4の)次の世代のプロトコルとして、当時のCCITT(現ITU-T)とISOが、OSIの作った『CNLP』をまだ動いた実績もないのに『このプロトコルにする』と決めようとしたので、IABが『まだ動いてもいないプロトコルを採用するとは何事だ』とかみついた」と経緯を振り返った。
そうして作られたIPv6について同氏は、「インターオペラビリティを重視しつつも、CNLPと違って極めて簡素化されたものになった」「IPv6において、技術的・社会的課題に私たちが初めて正面切って取り組み始めた」と述べ、その上で「今後はこれをどう“Dependable”なネットワークにしていくかが重要だ」と語った。この“Dependable”=“安心な”ネットワークという点について同氏は、「安心とは主観的概念であるため、時と場合によっては技術レベルが低くても十分安心を与えることができる場合もあるし、生命に関わるような部分においては逆もあり得る」と述べ、「(ネットワークを)使う人のレベルに合わせた技術を提供していくことが重要だ」との見解を示した。
また同氏は、「IPv6の目的は自由と創造性だと言っている」との前提を示した上で、「NATだと、決まった方法でしか(外部のネットワークと)通信できないが、IPv6だと自立したノード同士による自由が生まれるため、それら自立したノードによる対等に責任を持ったネットワークを作りたい」「これからのインターネットは“造る”から“創る”ものになる」と、IPv6によって新たなネットワークの可能性を創造することに期待する姿勢を示した。その具体例として同氏はMobile IPやアドホックネットワーク、RFIDや動画配信技術などを挙げていた。
● 今年中にIPv6ベースのサービスを次々に商用化したい~鈴木氏
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NTTコミュニケーションズの鈴木正誠社長
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キーノートスピーチの最後を飾った鈴木氏は、インターネットが現在抱えるセキュリティ、回線品質、設定の面倒さなどといった問題を解決していくにあたって、IPv6には大きなポテンシャルがあるという認識を示した上で、「一時代前のインターネットが次の世代に変わる節目に来ている気がする」と述べ、その流れに乗り遅れないためにも「あらゆる業界が協力してIPv6への移行を進めていく必要がある」と述べた。
その上でNTTコミュニケーションズとして何をやっていくかという点について、同氏はIPv6の長所を活かすポイントとして「フレキシブル、安全性、利便性」の3つを挙げ、特に安全性と利便性については「IPv6を使い携帯電話のグローバルローミングのようなサービスを実現し、移動中でもセキュアなコネクティビティを提供したい」との意向を示した。また同氏は、13日に実証実験の開始を発表したばかりの「ネット家電接続サービス」や、ホットスポットでのIPv6による接続サービスなどを年内に順次サービスとして開始していきたいという意向も表明した。
同氏は「今まではアプリケーションとして自信を持って出せるサービスはなかったが、今後積極的にIPv6ベースのサービスを提供し、できるだけ早くマーケットをにぎやかにしていきたい」と語り、「IPv6により新しいライフスタイル、ビジネススタイルを創造したい」と語り講演を締めくくった。
関連情報
■URL
IPv6 Business Summit 2004
http://www.v6bizsummit.jp/
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( 松林庵洋風 )
2004/02/16 20:54
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