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“世界に誇るべきソフト”Winnyに合法的利用の未来はあるのか?


 「Winny事件を契機に情報処理技術の発展を社会的利益について考えるワークショップ」の第3部では、第1部および第2部で講演した弁護士や研究者らを中心としたパネルディスカッションが行なわれ、Winny開発者の逮捕が日本のソフトウェア産業に与える影響や、ソフトウェアとしてのWinnyが抱える問題点や可能性などについて議論された。


Winnyは日本が世界に誇るべきソフト

(左から)東京電機大学の佐々木良一氏、九州大学の岡村耕二氏、日本IBMの丸山宏氏
 まず最初に、岩手県立大学の瀬川典久氏が、技術者や研究者が持つべき「マインド」を説明。「技術者は常に法的リスクを負っている」にもかかわらず、それを常に理解して活動しているのかどうか疑問を投げかけ、「著作権法やプロバイダ責任制限法、個人情報保護法など、技術者・研究者が法律的知識についてもっと深い知識を得る必要がある」と指摘した。しかし、「自分がやっている技術や研究に関して相談できる弁護士がいるのか、第三者のセキュリティコンサルタントに相談できるのか」は疑問であり、技術者が誰でも手軽に法的知識にアクセスできる環境の必要性が指摘された。

 ディスカッションの司会を務めた東京電機大学の佐々木良一氏によると、Winny開発者の47氏が逮捕された事件は、「警察が思っている以上に、技術畑に大きな影響を与えている」という。実際、学会の中では、Winny環境下におけるトラフィックを解析した投稿論文を査読するだけでも著作権侵害ほう助にあたるのではないかとセンシティブになっている人もいる状況だとしている。

 このように、47氏逮捕による萎縮効果が日本のソフトウェア産業に影響を与えるとの懸念に対して、日本IBMの丸山宏氏は「世界に誇れるソフトウェアを作れる人は私たちとってヒーロー。Winnyに限らず、SoftEtherなど、日本が世界に誇れるソフトウェアをどんどん出してきて欲しい」とコメント。Winnyについては、著作権侵害に使われたのかもしれないが、「誰がどのような目的で作っているのかが問題であって、開発者に問題があるとは思えない。この手のソフトは、日本でいくら縛っても、中国やインドでも出てくる。日本で開発したソフトウェアを日本の処罰の対象にすることが、日本のソフトウェア産業にとっていいことだとは到底思えない」との意見を示した。

 また、47氏の弁護団で事務局長を務める弁護士の壇俊光氏も、「彼(47氏)はネットワークの専門家ではないのにこれだけのものが開発できたということは、どちらかというと日本が誇るべき存在ではないか。(Winnyの原型となった)Freenetは海外では表彰を受けている。日本では、それよりもいいものを作ったら逮捕された。これは海外でどう思われているのか、日本人はもう少し謙虚に考えるべきではないか」と述べた。


Winnyが不正コピーの温床にならないためには

(左から)弁護士の岡村久道氏、弁護士の壇俊光氏
 ディスカッションでは、47氏の逮捕の是非を問うだけでは議論が不毛になるとして、Winnyの可能性についても意見が交換された。瀬川氏がWinnyを活用した分散型バックアップシステムのアイディアを示したほか、九州大学の岡村耕二氏はWinnyのキャッシュがIXに集中しがちなトラフィックを分散する仕組みにも似ていると指摘。合法的に使う技術が出てくれば、今後、Winnyに関連する問題が乗り越えられるのではないかと期待が寄せられた。

 しかし、佐々木氏は「現在のままでWinnyに課金機能だけを付け加えると、結局どういうビジネスが成り立つのか。エッチ系サイトなどで、誰かわからずにお金を払ってコンテンツを見るなど、必ずしも志が高い使い方にはならない」と疑問を投げかける。Winnyの周辺技術が今後ビジネスで使われる可能性はあるとしながらも、「現時点でWinny上で流れている情報の大部分が不正コピーであるという指摘は多分正しい。そういう中で、Winnyが不正コピーの温床にならないためにどうすればよいのか」という議論が必要になると指摘する。

 壇氏は、「インターネット自身がポルノを見るための道具と考えらる時代があった。Winnyもまだそういう時期。Winnyが商用的に重要であると考えられれば、コマーシャリズムも出てきて、不正コピーという印象も変わってくるのではないか。例えば、動画配信の最初に広告ページを付け加えるだけでも、ビジネスとしてある程度成り立つのではないか。Winnyは利用している人がわかるため、ISPがそれに対して課金することも可能。ビジネスユースを考えていくことによって、健全に使われていくようになっていく」と述べた。

 これに対して会場からは、Winnyが優れた「負荷分散システム」としての側面がある一方で、誰がアップロードしたのかトレースできない「匿名性」という側面があるためにこれだけ普及し、不正コピーの蔓延を助ける状況になったことを認識すべきとの意見が出された。すなわち、ビジネスユースとしてだけならば、負荷分散システムだけのWinnyでも成り立つはずであり、匿名性がある限り健全に使われるようになるかは疑問だという。

 弁護士の落合洋司氏もWinnyの匿名性について、Yahoo!オークションに携わっている立場から意見を述べた。コンピュータソフトウェア著作権協会が47氏の逮捕に対して示した見解のうち、「何ら権利侵害を防止する措置を講じることなく」という部分については、実は共感する部分があるという。「インターネット上での発言など、そういう意味での匿名性はむしろ今後もある程度保護される必要ある。しかし、何か犯罪ないし犯罪の嫌疑があった場合に、情報の発信者を法律の手続きに沿って調べられるという、そういう意味で匿名性が担保されているべきなのではないか」としている。その点で、Winnyは匿名性が担保されていないソフトなのだという。


Winnyの合法的利用にはデータの削除機能が不可欠

(左から)弁護士の落合洋司氏、岩手県立大学の瀬川典久氏
 ワークショップの会場にはインターネット業界の著名人も詰めかけており、ディスカッションではパネリスト以外の参加者からも活発に意見が出された。

 産業技術総合研究所の高木浩光氏は、Winnyを合法的に使う方法もあるという議論が47氏を養護するために巻き起こっているが、「それは本当にWinnyでなければできないのか?」を問わなければならないという。実装方法を決めるのは難しいものの、Winnyが合法的に問題なく使っていけるようにするには、データを削除する手段を付加することが必要だと指摘する。

 削除などのコントロール機能は、映画会社などが情報を流す場合など、今後のP2Pのあり方として当然必要だが、「技術者たちもそう考えていると思われるのに、誰も言わない」。それを技術者が指摘すると、著作権保護の対策がとれたのにもかかわらず、Winnyではあえてやらなかったのではないかという根拠を技術者から与えてしまい、47氏が裁判で不利になってしまうのを懸念してのことだ。この風潮について高木氏は、「長期的には決してよくないことだ。最終的に有罪となった場合には、P2P全体が悪しきものと思われてしまう」としている。

 また、「WEB110」代表の吉川誠二氏は、プライバシー侵害の被害者救済という観点からコメント。Winnyの開発者が逮捕・起訴されたことについては妥当とは言い切れないとしながらも、「今回、もし開発者の責任が何ら問われなかった場合に、権利を侵害された方の救済方法はどんなものがあるのか。開発者の責任を問う以外に、権利侵害を統治する方法が現時点では見あたらない以上、逮捕は仕方がない」と見ているという。


関連情報

URL
  Winny事件を契機に情報処理技術の発展と社会的利益について考えるワークショップ
  http://www.ipsj.or.jp/01kyotsu/workshop/winny/winny_workshop.html


( 永沢 茂 )
2004/06/28 22:28

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