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イベントレポート
【 2009/06/12 】
ひろゆき氏&夏野氏が講演「日本のネットは決してダメじゃない」
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携帯ゲーム機のような見た目のNGN対応回線品質測定器
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ISAO、IPデータキャストを利用したサービスイメージを展示
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【 2009/06/11 】
アナログ停波後の周波数帯域を利用したマルチメディアサービス
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UQ Com田中社長、高速&オープン志向「UQ WiMAX」のメリット語る
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主催者企画コーナーでは「ServersMan@iPhone」のデモも
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国内初のデジタルサイネージ展示会、裸眼で見られる3D映像など
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【 2009/06/10 】
CO2排出量が都内最多の地域、東大工学部のグリーンプロジェクト
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IPv4アドレス枯渇で「Google マップ」が“虫食い”に!?
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「Interop Tokyo 2009」展示会が開幕、今年はひろゆき氏の講演も
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コンテンツビジネス、RFID技術の成長に向けた課題~セッションレポート


 東京・品川で開催されている「2004東京国際デジタル会議」の2日目となる3日には、フォーカスセッションが行なわれた。経済産業省・情報通信機器課長の福田秀敬氏が「e-Lifeの将来と課題」と題して日本のIT産業関連企業全般が抱える問題について、TRONでおなじみの東京大学・坂村健教授が「ユビキタス・コンピューティングの明日」と題してRFIDの普及に関する問題について、それぞれ熱弁を振るった。


ハードはもちろんコンテンツも国際競争にさらされている~経済産業省・福田氏

経済産業省情報通信機器課長の福田秀敬氏
 福田氏はまず冒頭で「経済産業省はこれまで米国と日本しか見ていなかったきらいがあり、日本市場が世界の1/3を占めていると勘違いしていたが、実際には米国に差を広げられているだけではなく、EUにも差をつけられ中国に抜かれ、日本市場は相対的に小さくなっている」と指摘。「どうしても技術に目が行きがちだが、実際には『量が力』という部分が多い」と述べ、世界市場に進出して数多くの製品を売っていかない限り日本企業は発展せず、多くの優秀な人材を養えないという見解を明確に示した。

 その上で福田氏は、いわゆるデジタル家電や半導体、ソフトウェア等の分野で国際競争が激化している様子について触れ、「携帯電話では、例えば中国市場では1機種あたり10~20万台程度しか販売できないことが多いため、極力内部のモジュールを共通化してデザインを変えるというようにマーケットに応じた製品展開が必要になる」「半導体ではTexas InstrumentsやSTMicroelectronicsあたりとなら(日本企業も)同じ土俵で戦えるだろうが、いわゆるファブレス・ファウンダリモデルに勝てるかというと疑問符がつく」などと各業界における問題点を挙げた。また、日本企業が国際競争力を維持するために「テクノロジーの進化と共にビジネスモデルも変化していくため、日本企業はもっと社内の体制や他社との関係を見直さなければならない」と語った。

 福田氏はコンテンツ分野の問題についても触れ、「コンテンツの所有者たちが自分たちの権利を主張するのはある意味当然だが、そもそもコンテンツが売れないことには話にならないという現状をどの程度認識しているのか」「海外の安いコンテンツが入ってくれば必然的に日本のコンテンツにユーザーが割く時間は減るわけで、その意味でコンテンツも国際競争にさらされている」として、日本では権利関係の問題から音楽配信などのビジネスがなかなか思うように立ち上がらないことに苦言を呈し、このままでは海外の安い音楽配信などにユーザーが流出してしまうとの危機感を顕わにした。

 いわゆるサーバー型放送において、ユーザーによるメタデータの改変を認めるかどうか、録画機器におけるCMスキップ機能の是非といった問題についても、「コンテンツの改変権利はある程度は消費者に認められるべきではないか」と述べ、「こうした議論について放送局やハードメーカー側ではなく、消費者団体側から議論を起こすことが必要」と、この問題について消費者側からの目立った動きが見られないことについても苦言を呈した。

 福田氏は最後に改めて、日本企業は非常に厳しい国際競争にさらされており、「従来のようなロケーションに即したビジネスモデルではなく、いかに世界規模で素早くユーザーをつかむかというモデルに進化している」と語り、「厳しい競争があるからこそハードもコンテンツも豊かになる」「我が国の企業の国際競争力がなければ好循環は生まれない」として、日本企業がもっと海外と互角に戦えるだけの力をつけるよう参加者に訴えていた。


RFIDは技術的な開発から制度面の整備が必要な段階に~東京大学・坂村氏

東京大学の坂村健教授
 続いて登場した坂村健氏は、まず「日本では『ユビキタス・コンピューティング』の概念はだいぶ定着してきたが、世界的に見ると各国が関心を持つ分野はそれぞれ異なり、『グローバルスタンダード』という言葉で簡単に語れるものではない」と述べた。その一例として、RFIDに関するEPCglobalや米国政府の動きについて、「米国のような流通過程におけるShrinking問題(流通過程で商品が行方不明になる問題)は日本ではほぼ存在しない」「テロ対策にRFIDを利用する話もいわば米国内のローカルな話」と述べ、流通の管理目的に使用されるRFIDは応用例の1つに過ぎず、それをベースにRFID全体の標準化を進めようとする一部関係者の動きに釘を刺した。

 また、RFIDの種類を1つに統一しようとする動きについても、坂村氏の研究室でさまざまな周波数のRFIDを貼り付けてどの程度タグが読み取れるかというデータを取っている中で、「とても1種類のタグで全てのソリューションをカバーするのは困難だということがわかっている」と述べ、「タグを統一して価格を安くすれば全てが解決するというのは間違い」と語った。

 坂村氏はRFIDのリーダー・ライターが使用する電波の出力の問題についても、「先日米国でサプライチェーンマネジメント(SCM)にRFIDを利用している例を見てきたが、倉庫に馬鹿でかいアンテナがついていて、しかもアンテナの出力が4~10Wと大きいため、アンテナにドクロマークがついていたりする」「こんな高出力の電波を近くで浴び続けたら、タバコをぷかぷかやるのと同じぐらい体に悪いのに、そういった体への負担の問題を流通の人は全く無視している」と語り、電波の性質や問題点をろくに理解しない人間が「とにかく電波が飛びさえすればいい」と安易に出力を上げてRFIDを利用しようとする動きを批判。それを防ぐためには、「とにかくリーダー・ライターを小型化して、低出力でも十分タグが読み取れるようにしなくてはならない」として、現在それに向けた研究開発を進めていると語った。


 とはいえ、全体的に見ると、RFIDに関しては着実に要素技術が揃いつつあるわけで、坂村氏も「今はあらゆる要素技術が集合し、広く使われる前夜まで来ている」と環境整備が徐々に進んでいると語った。しかし「RFIDによるネットワークはインターネットと同様で、システム全体に責任を持つ主体を想定できないし、ベストエフォートで運用せざるを得ない」と述べた上で、「日本でRFIDをシステムとして導入した場合、何かトラブルが出るとすぐに責任問題に発展してしまう上、システムの導入に誰も責任をとりたがらない。そのため、せっかく要素技術で日本はリードしているのにシステムとしての導入が進まない」と語り、今やRFID導入の障壁は技術的な問題ではなく、制度的な問題に移ってきていると指摘した。

 こうした問題については、「盗聴は技術で防げても裏切りは技術では防げず、そこは制度面でカバーするしかないように、RFIDも責任分界点やセキュリティポリシー、プライバシーポリシー、法制度などの制度面を整備していかないと、巨大なシステムは作れない」と語り、RFIDの普及のためには早急に制度面の整備を進める必要があることを訴えた。

 最後に坂村氏は、「(同氏が主催する)ユビキタスIDセンタでは今年だけで30個ぐらい実証実験を行なっており、この秋から冬にかけてその成果を次々発表するので期待して欲しい」と語り、講演の参加者にユビキタスIDセンタへの参加を呼びかけて講演を終えた。


関連情報

URL
  2004東京国際デジタル会議
  http://nb.nikkeibp.co.jp/digital/


( 松林庵洋風 )
2004/09/03 15:38

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