3月15~16日の2日間にわたり、日本の情報セキュリティ研究体制の向上を主なテーマとした「情報セキュリティ戦略シンポジウム」が慶応大学三田キャンパスで開催されている。初日となる15日には基調講演が行なわれ、現在の日本や米国における情報セキュリティ研究体制の抱える問題点と、それを解決する目的で2004年にスタートした文部科学省の「セキュリティ情報の分析と共有システムの開発」プロジェクトの概要などが語られた。
日本では実装分野の研究者の強化が必要
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会津大学学長 池上徹彦氏
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基調講演を行なった元NTTアドバンステクノロジ社長で現会津大学学長の池上徹彦氏は、講演の冒頭で「対GDP比で、米国や韓国と比較して日本の情報セキュリティ予算の占める割合が非常に低い」という現状を指摘。原因として、単なる金額の問題というよりは(研究者の)人的リソースが不足していることや、9.11テロなど実際に大きな事件を経験している米国に比べて関係者が危機感に乏しいことなどが挙げられるとした。
その上で池上氏は、2000年時点での日本と米国における情報セキュリティ関連論文の提出点数を比較した資料を引用。日本における同分野の研究論文が暗号とユーザー認証の分野に集中しているのに対し、米国ではアプリケーション寄りの技術も含め、幅広い分野の研究が行なわれていることを指摘した。「これからの時代には暗号理論など要素技術の研究よりも、むしろ実装も含めたアプリケーションやシステム全体をどう構築するかという点の研究が求められているのに、その分野の研究で日本は出遅れている」との見解を述べた。
多様な人材を集めたオープンなプロジェクト
そこで本年度よりスタートしたのが、文部科学省の科学技術研究振興調整費に基づく重要課題解決型研究として行なわれている「セキュリティ情報の分析と共有システムの開発」プロジェクトだと池上氏は語る。
同プロジェクトは、NICT(情報通信研究機構)、AIST(産総研)とIPA(情報処理推進機構)、それに筑波大学の3つのグループからそれぞれ提案があった研究プロジェクトについて「従来であれば単にそれぞれの提案に対しYes/Noで答えるだけだったものが、よく見ると研究テーマや研究者が3つともオーバーラップしていたことから、3つの提案を融合するという極めて異例の形でプロジェクトにした」(池上氏)という。
同プロジェクトでは「アプリケーションやシステムの構築といった実装面の研究が立ち遅れている」という日本の現状を踏まえ、「あえて暗号関係の研究者には外れてもらって、それ以外の研究者に集まってもらった」という。
また池上氏は、最近はサイバーテロ対策などの観点から情報セキュリティ関連の研究に関する情報があまりオープンにされなくなってきているという問題を挙げた上で、「我々は民間・ビジネス分野のセキュリティ研究を目指しており、そのために情報は極力オープンにする」「そうした意味で、プロジェクトのオフィスも既存の縦割り行政の枠組みに巻き込まれないように独立したものを作った」などと述べ、広く開かれた研究プロジェクトを目指す意気込みを語った。
実際、このプロジェクトに参加している研究者の分野はかなり多岐にわたるという。池上氏は「私は元々NTT出身で比較的『堅いネットワーク』出身だが、他にもWIDEなど『弱いネットワーク』出身の人もいれば、いわゆる端末屋・ソフトウェア屋といわれる人たちなどもいて、それぞれ同じことを語るのにも使う言葉が異なる」「どうもインターネット上がりの人々には、トラディショナルなネットワークの考え方が理解しにくい部分があるようだ」などと述べ、異なる経験を持つ研究者同士がコミュニケーションを取る難しさをうかがわせた。今後は、こうした多様な人材による研究の成果を上げることが課題になると述べ、講演を締めくくった。
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日米における情報セキュリティ分野に関する研究論文数の比較
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今回の研究プロジェクトの概要
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■URL
情報セキュリティ戦略シンポジウム
http://www.congre.co.jp/icsec2005/
( 松林庵洋風 )
2005/03/16 14:03
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