NHK放送技術研究所では5月26日から29日まで、放送技術の研究成果などを一般に公開する「技研公開2005」を開催している。展示会場では、光ファイバーなどの通信インフラのネットワークを放送のインフラとしても利用するための研究が紹介されている。
● ネットワーク利用放送実現への課題
|
ネットワーク利用放送の概略
|
テレビは電波を利用しているために、何百万という受信機に対して一斉に番組が配信できる。これと同じことを通信ネットワークで行なおうとすると、回線の容量やコンテンツ配信サーバーへの負荷が大きな問題になる。NHKエンジニアリングサービスでは、情報通信研究機構(NICT)の委託研究として、こうした通信ネットワークを利用した放送技術に関する研究を行なっている。
会場で紹介されているデモでは、複数の放送データをIPネットワークを通じて伝送し、複数のテレビで異なるチャンネルを受信する実験などを紹介している。技術的には、IPマルチキャストにより通信回線を効率的に利用するほか、テレビ放送のデータは1秒間に30フレームの映像を送信する関係で短い間隔で通信速度が激しく変動するため、この揺らぎを吸収してIPネットワークに送信するための技術などが必要とされるという。
ネットワークの形態としては、放送局から最寄りの電話局やCATV局などにコンテンツを配信し、各家庭への配信はFTTHなどのブロードバンド回線を利用する、コンテンツデリバリーネットワークを想定している。
こうした通信インフラを利用した放送サービスには、実現に向けては課題も多い。技術的には配信ネットワークの構築や、ネットワークの信頼性の問題、サービスを妨害しようとする攻撃などが行なわれた場合にどのようにして防ぐかといった点が検討されている。また、制度面や運用面では、著作権保護や通信法・放送法などの法律の整備、視聴者情報をどのように保護していくかといった問題がある。こうしたことから、現時点ではまずは大規模配信やネットワークの信頼性確保、個人情報保護などのネットワーク放送を支える技術の研究を進め、将来的なサービスに備える段階だとしている。
● 光ファイバーにテレビ放送の映像信号を多重化して再送信
一方、すぐにでも実現可能と思われる研究成果としては、光ファイバを利用した地上デジタル放送の再送信システムが展示されている。
仕組みとしては、波長多重技術により1本の光ファイバで通信データと地上デジタル放送の信号を同時に送るもので、山間部やビルの影になる都心部などへの再送信システムとして用いることを想定している。
会場では、既存の光通信網で一般的に用いられているCバンド(1,530~1,565μm)と干渉しないように、これまで使われてこなかったLバンド(1,565~1,625μm)を仕様して放送波を伝送する機器が展示されている。また、光ファイバの敷設が困難な集合住宅に向けては、信号を近くまで光ファイバで送り、各家庭へは40GHz帯の無線で送信する方式などが紹介されている。
こうした技術はすぐにも実用化が可能で、地上デジタル放送を早期に全国に普及させるためには、放送ネットワークを光ファイバで補完することが有効だとして、自治体などの協力を得て再送信システムとして普及させていきたいとしている。
|
光ファイバを利用した地上デジタル放送の再送信
|
関連情報
■URL
技研公開2005
http://www.nhk.or.jp/strl/open2005/
NHK放送技術研究所
http://www.nhk.or.jp/strl/
( 三柳英樹 )
2005/05/27 14:29
- ページの先頭へ-
|