国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)は20日と21日の2日間、「情報社会の合意形成」をテーマにしたフォーラム「GLOCOM forum 2005」を横浜プリンスホテルで開催した。その中で、GLOCOMの情報社会学若手研究会が主催したセッション「ネットコミュニティと合意形成」が行なわれた。
セッションの出席者は、2ちゃんねる管理人の西村博之氏、イレギュラーズアンドパートナーズの代表取締役を務める山本一郎氏、ブログ「ガ島通信」を運営する藤代裕之氏ら。ブログ「R30::マーケティング社会時評」を運営するR30氏もスカイプやメッセンジャーなどを利用し、オンラインで参加した。GLOCOMからは、同センターのリサーチアソシエイトを務める澁川修一氏やGLOCOM研究員の鈴木謙介氏、同じく庄司昌彦氏らが参加した。
● 肩書きを背負って書いている記事は信頼できる
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ガ島通信の藤代氏
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2ちゃんねるの西村氏
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まず、GLOCOMの鈴木氏がインターネットと既存ジャーナリズムを対比し、インターネットの高い匿名性を指摘。記事に署名が必要かどうかといういわゆる「匿名顕名問題」を参加者に問いかけた。
これに対してガ島通信の藤代氏は、「新聞記事やテレビニュースといった既存マスメディアの原稿は、誰が書いているかわからないことが多い。基本的には、インターネットと同様に匿名である考えていいのではないか」と回答。一方、2ちゃんねるの西村氏は「確かに新聞記事では個人名を記載しない記事も多いが、訴えれば個人名が必ず出てくる」と既存メディアが匿名を隠れ蓑にできない点を指摘する。その上で「記事に名前を書くかどうかは記事に対する責任の問題だ。好き放題書いたとしても、会社に所属し肩書きを背負ってまで書いていれば、それなりの根拠があり、信頼できる記事だろうと判断できる」という。
また、“切込隊長”としてブログも運営している山本氏は「顕名では発言の責任が問われるが、信用を担保できる」とコメント。また、実名に限らずハンドルネームであっても継続的に同一の署名を利用することで、記事に対する反応を長期的に観測できる。このため、自分自身のポジションや書いた記事の正しさが時系列的に判断できることも利点だという。
山本氏はさらに「これまでは大学の先生に師事して、学会で発表をして……というようにいくつかの段階を踏まえなければ実名で記事を書くことはできなかった」と指摘する。インターネットはそうした署名記事に対する障壁を引き下げ、匿名顕名問題の選択肢を増やしたと説明した。
● “趣味のジャーナリズム”を実践~R30氏
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“切込隊長”こと山本氏
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スカイプとメッセンジャーを利用して参加したR30氏
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「新聞を取る人が少なくなっているので、地元のクリーニング屋のチラシが無視できない状況だと聞いている。事実上、新聞販売店は広告を配るための組織になっているようだ。ジャーナリズムの本来の役割が問われているのではないか」と危惧するのはGLOCOMの澁川氏。また、鈴木氏は「インターネットの普及によって、プロフェッショナルとしてのジャーナリズムとは別に、一般のブログなどで行なわれている“趣味のジャーナリズム”が拡大している」と分析する。
地方紙での記者経験を持つ藤代氏は「チラシ広告で経営が成り立つのであれば、それはそれで万々歳なのではないか」とコメント。趣味のジャーナリズムについては「1次ソースにどこまで迫れるかが問題だ」と指摘した。また、マスメディアでの職歴があるというR30氏は、これからは新聞社の雇用も流動化するのではないかと予想。記者からほかの職業に転職し、本職とは別にブロガーとして“趣味のジャーナリズム”を実践する自分自身になぞらえて説明した。
西村氏は「信頼できる情報を得るためには、1次ソースを調査する取材班と記事を編集する機能は必要」との立場。趣味のジャーナリズムは増えるかもしれないが、職業としてのジャーナリストはなくならないとの考えを示した。
このほか、鈴木氏はブロガーには既存メディアをソースにし、既存メディアのカウンターパートの役割を果たす“ネット論説委員”もいると指摘。藤代氏は「このネット論説委員は結構有効だ」と見る。「総務省がインターネットを実名化すると報道された時に論争になったのだが、記事を書いている新聞記者も総務省が挙げているソースをちゃんと呼んでいないことがわかった。まずは資料を読め、読んでから書けということ。そういうことを指摘するにはネット論説委員も有効だ」という。
● ネガティブな人が集まった時の間違った合意形成は問題
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R30氏からは、月額5万円支払われるなら同氏のブログをasahi.comに移設してもいいという爆弾(!?)発言も
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セッションのテーマである合意形成については、かつての組織動員的な合意形成がインターネット上ではどのような動きになるかが議論された。西村氏は「田代まさしをTime誌の表紙に載せようという呼び掛けには参加してくるが、『ハッピー☆マテリアル』のCDを買おうという呼び掛けには大多数のユーザーは参加しないのではないか」と指摘。「結局、合意形成はテクニカルな方法論。どうやって人を騙すかということに近い」とし、多くの人が賛同するか、もしくは新聞のようなオーソリティによる意見表明が合意形成において重要なのではないかと分析した。
藤代氏は「2ちゃんねるでは、朝日新聞が親中報道で叩かれることがあるが、結局そういう叩く行為も親中報道以外のまともな記事が前提になっているからこそ行なわれるのではないか。朝日新聞の権威によって叩いている」とコメント。山本氏は、朝日新聞に対する賛否両論が「メディアの知名度がある程度上がれば起こること」とした上で、「ネガティブな人が集まった時に間違った合意形成が行なわれることが問題だ」と述べた。
会場からは「ブログは信じられるか」という質問もあった。セッション参加者は「前のエントリーはネタ臭いけど、今回のエントリーは信頼できる可能性があるのではないかというように、個々のエントリーの内容を判断するべきだ」(藤代氏)、「ブログ運営者と利害関係のない話題であれば信じられる」(西村氏)などと回答。また、極論かもしれないが「そのブログを一切信じないという選択肢もある。信じないことで莫大な損をすることはないので、判断を保留するというのもアリだろう」(西村氏)との意見もあった。
また、「自分にとっての良い論説委員を探すには」との質問に対しては、西村氏が「私の場合、自分の意見を代弁してくれる人か、正反対の意見の人を選んでいる」と回答した。
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GLOCOMの鈴木氏
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同じく庄司氏
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R30氏とのコミュニケーションも担当した澁川氏
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関連情報
■URL
GLOCOM Forum 2005 ネットコミュニティと合意形成
http://www.glocom.ac.jp/j/projects/gforum/2005/program/015/
( 鷹木 創 )
2005/08/22 15:10
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