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「コンテンツ政策研究会」設立、産官学が参加するオープンな議論の場に


 コンテンツ政策研究会が28日、「コンテンツ政策フォーラム Vol.1」と題したイベントを東京都内で開催した。研究会のメンバーが集まり、日本のコンテンツ政策の動向や今後のあり方について意見を交わした。

 コンテンツ政策研究会は、大学などの研究者や省庁・自治体の政策担当者、企業関係者らが参加し、産官学が連携してコンテンツ政策について議論することを目的に設立された。呼びかけ人として、内閣官房知的財産戦略推進事務局参事官の杉田定大氏、慶應義塾大学デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構助教授の金正勲氏ら12名が名を連ねているのをはじめ、現在までに143名が会員として参加しているという。すでに8月にメーリングリストとWebサイトを開設していたが、今回、設立総会を兼ねたフォーラムを開催し、正式に活動を開始した。


政府とアカデミズムの「真ん中」でコンテンツ政策を研究

スタンフォード日本センター研究所長の中村伊知哉氏
 フォーラムではまず初めに、コンテンツ政策研究会の幹事会メンバーの1人であるスタンフォード日本センター研究所長の中村伊知哉氏から設立の趣旨が説明された。

 中村氏は、ここ数年でコンテンツ政策が脚光を浴びるようになり、内閣官房に「知的財産戦略本部」が設置されたのをはじめ、総務省では通信・放送政策、経済産業省では産業振興、文部科学省では文化政策や著作権の観点などから取り組んでいるほか、文化外交や警察行政などもからみあい、コンテンツ政策が「非常に政府横断的な話題」になっていると説明した。さらに、アカデミズムでもコンテンツ政策に関連するさまざまな学会があるという。

 このような背景から「政府横断的な政策領域とアカデミズム領域の真ん中にあるような『コンテンツ政策の研究プラットフォーム』、産官学でオープンに議論できるような集まりがあればいいという話が自然発生的に出てきた」と、研究会の設立の経緯を説明した。

 コンテンツ政策研究会では、通常の学会などとは異なり会長は置かないという。「広義的なコミュニティとしてしばらく進めていきたい。新しい政策形成のスタイルとして、コミュニティ作りの仕方で貢献できたら」としている。

 なお、中村氏は「集まってみたものの予算がまったくない。みんな手弁当でやっている」と述べ、企業や官庁などの協力も訴えた。


IPマルチキャストの著作権法上の取り扱いに検討が必要

内閣官房知的財産戦略推進事務局参事官の杉田定大氏

通信・放送の各サービスに対する行政規制上と著作権法上の扱いの違い
 フォーラムでは続いて、金氏から日本のコンテンツ政策の課題について説明があった後、杉田氏がデジタルコンテンツをめぐる動向などを紹介した。

 杉田氏は、「デジタルコンテンツのビジネスの課題として、通信・放送の融合や著作権の問題、あるいは業界自身が大きく変わっていく中で幅広い改革が求められている。著作権者の権利保護、消費者の利便性の確保、さらにはメーカーやサービス提供事業者のビジネスの自由度の確保という複雑な利害対立が存在する中で、デジタルネットワーク技術の急速な普及が利害調整を複雑で困難なものにしているのが現状。引き続き、ユーザー、メーカー、サービス提供事業者、あるいは著作権者の方々の利害調整の努力が必要」と述べた。

 杉田氏はまた、今後IPマルチキャストが普及してきた場合の著作権法上の取り扱いの問題も指摘した。「IPマルチキャストによる放送のような新しい流通経路に、豊富なコンテンツが流れるよう制度を整備することは極めて重要。地上デジタル放送への円滑な移行のためにも、IPマルチキャスト放送の著作権法上の取り扱いの明確化を図る必要があるのではないか」としている。

 これは、「光プラスTV」「BBTV」「4th MEDIA」「オンデマンドTV」のようなサービスが現在、「電気通信役務利用放送法」が適用される「自動公衆送信」の扱いを受けていることに関連した問題だ。すなわち、これらIPマルチキャスト方式のサービスが行政上では「放送」、著作権法上では「通信」の扱いになるのだという。

 これに対して総務省の審議会は7月、有線放送と同じ扱いにするべきとの議論があったと中間報告でとりまとめた。有線放送であれば著作権法上、「放送における権利処理の簡便性」が当てはまる。杉田氏は、IPマルチキャストに対して、有線放送と同じように放送における簡便な権利処理を適用するのか、あるいは自動公衆送信における複雑な権利処理で対応していくのかが議論されるべきだと指摘した。


1ダウンロードにつき5円、コンテンツ産業振興のための目的税を

コロムビアミュージックエンタテインメント代表執行役社長兼CEOの廣瀬禎彦氏
 フォーラムには、コロムビアミュージックエンタテインメント代表執行役社長兼CEOの廣瀬禎彦氏も招かれ、「コンテンツ産業振興のための政界・学会の役割」と題して意見を述べた。

 廣瀬氏は、コンテンツ産業の振興策を議論する際に資金源の議論が忘れられていると指摘し、「揮発油税のような目的税を作ったらどうか」と提案。「コンテンツ振興基金」あるいは「コンテンツ活性化税」といった、コンテンツに特化した資金を確保することの必要性を訴えた。

 徴収源については「すでに出来上がった業態からとろうとすると抵抗がある」として、今であればダウンロードサービスが考えられるという。例えば1ダウンロードにつき5円課税すると、年間100億ダウンロードあれば500億円を確保できるとした。なお、資金の活用手段については「あげたっきりの助成金というかたちでは、使ってしまったら終わり」だとし、無利子でもいいから元本を回収するベンチャー企業投資のような仕組みが必要だと付け足した。

 さらに廣瀬氏は、政府・官界に望むこととして「いちばん大事なのは、コンテンツの中身に関与しないこと。次にやるべきことは、コンテンツの流通を妨げないよう、コンテンツの交換の自由を確保すること。表現の自由と交換の自由を保障するような政府あるいは官界の後ろ盾が望まれる」と述べた。このほか、コンテンツの「目利き」を育てることの必要性も強調した。


私的録音補償金は果たして権利者のためなのか?

 フォーラムの後半は、中村氏、金氏、杉田氏、廣瀬氏のほか、研究会の幹事会メンバーである慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科助教授の土屋大洋氏、デジタルハリウッド大学教授・国際大学GLOCOM主幹研究員の福冨忠和氏、国際IT財団主任研究員の小野打恵氏が加わり、ディスカッションが行なわれた。

 ディスカッションではまず、進行役を務めた小野打氏が、「1.経団連の利用者団体協議会、著作権関係団体とブロードバンド配信の料金合意」「2.通信・放送の融合」「3.iPodなどデジタルオーディオプレーヤーへの私的録音補償金の適用見送り」という、コンテンツに関連する最近のトピックを3つ示し、各氏に意見を求めた。

 廣瀬氏は3のトピックについて、「いったい何のための補償金か?」と疑問を投げかけた。例えば、海に工場排水が流れ込んで魚が捕れなくなってしまった場合は、もともと漁業組合が事業を営んでいた漁場という資産が侵害されることに対する補償ということになるという。しかし、私的録音補償金の場合は、「そもそも、オーディオプレーヤーというものが存在してから出てきているコンテンツだとすれば、それが環境の前提になっているはず」と指摘し、いわゆる“iPod課金”の是非をめぐる議論に否定的なスタンスを示した。

 さらに、権利者の立場から考えても「(私的録音補償金が)果たして権利者のためなのかどうかよくわからない」という。「アーティストの立場から言うと、自分の作ったものが幅広く使われ、それに見合う対価が払われていればよい。何かあったものが損なわれたから補償するだと言っているのだとしたら、もともとあったものは何かという議論になる。侵害されたものが何なのかはっきりしない。そういう意味では、アーティストとリスナーあるいはクリエイターと利用者の間にある企業の論理だ。クリエイターあるいはそれを利用する側に立ったら、こういった議論にはならないだろう」として、補償という発想自体に疑問を示した。


通信・放送の融合は、ほとんどが著作権の問題

 福冨氏は、通信・放送の融合のトピックこそが最も大きな問題であり、「どこかで制度的に調整しなければならない」と指摘する。

 この点について廣瀬氏は「放送事業では(電波帯域という)公共的な有限資産を分配するということで放送法というものがある。通信、特にインターネットは資産としては無限。そこに枠組みをはめて免許だとか分配だとかという議論は本当に適切なのか」と疑問を投げかけるが、福冨氏によれば「単純にここで問題になっているのは、ほとんど著作権の問題だけ。つまり、通信においては、なぜ著作権の処理が大変なのという議論だ」と回答した。

 福冨氏は、放送事業者においては、放送著作権という利用許諾が比較的簡単な方法が可能になっている代わりに外資の問題や編集・編成の問題などの規制があると説明した上で、「単純に私は、放送事業者と同じだけの条件を備えたら、通信事業者にも放送著作権の処理方法を与えたらどうか」との意見を示した。編集方針が中立的で、報道や教育など編成が多用、外資が導入されていない事業者であれば、「インターネットであろうと放送と同じ権利処理にすればよいのではないか。そういう突破口がないと、この議論は延々と繰り返される」と強調した。

 この問題については、杉田氏も「米国でも(通信・放送の)融合が進んできているし、実際に中身を見ると、地デジで流されるものとIPマルチキャストで流されるものはほとんど変わらない。また、IPマルチキャストで地上波の同一再送信が行なわれるようになってきた時に、IPマルチキャストの自動公衆送信と地上波の放送が違うものだということをユーザーには説明しにくい」との問題点を指摘した。


デジタル技術の普及によってコンテンツの考え方も改めなければならない

 通信・放送の融合のトピックについて福冨氏が「これらは結局、著作権の問題」と指摘したのにならい、小野打氏は「じつはこれら3つのトピックは、ほとんどメディアの問題であって、コンテンツの問題ではないのだと思う」とコメントし、中村氏に意見を求めた。

 中村氏は、「メディアの問題だという指摘は、その通り」と認めた上で、「1はブロードバンド、2は地デジ、3はハードディスクドライブ。メディアは違うが、いずれも新しく起こってきたデジタルという技術によって、コンテンツの考え方を改めなければならない事態が起こっている」と回答した。

 また、所管官庁も1は経済産業省、2は総務省、3は文化庁であることから、「それぞれ所管官庁が異なっているが、いずれもコンテンツ政策ということで非常に省庁横断的。昔だったら中央官庁が何か仕切ってさばいて終わりにできたかもしれないが、これができなくなっている。1の問題でも、経団連が出てこざるを得なかった。コンテンツ政策研究会のような場を設け、多くの議論をしないと政策が進まないという状況になっている。その時に、もう少しきちんとアカデミズムが立ち入ってくる必要がある」と強調した。

 ディスカッションはこの後、米国、韓国、フランスのコンテンツ政策のスタンスを踏まえ、日本のコンテンツ政策の目指すべき方向性についての議論に展開。最後に、コンテンツ政策研究会の活動内容について意見を交わして終了した。

 コンテンツ政策研究会では今後、国際動向や各国の政策の把握・分析、国内政策や産業への提言・評価、国内外の統計収集・産業構造分析などを行ない、その成果を報告書やポータルサイト、政策・産業動向レビュー、大学・研究機関向けのテキスト、シンポジウムなどで公表していく予定だ。


関連情報

URL
  コンテンツ政策研究会
  http://contents-policy.net/

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( 永沢 茂 )
2005/11/29 19:27

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