パシフィコ横浜で開催中の「Internet Week 2005」で7日、IPv6を中心としたカンファレンス「IPv6 Technical Summit 2005」が催された。午前のセッションでは、インターネット総合研究所代表取締役所長の藤原洋氏と、インターネットイニシアティブ(IIJ)取締役副社長の浅羽登志也氏による基調講演が行なわれた。
● 固定通信網・移動体通信網に加えて放送網がIPで融合
藤原氏は、IPによって変わるメディアビジネスの変化について講演。IP化により起こるメディアの変化として、「ポストPC」「ポストブロードバンド」「ポストモバイル3G」「ポスト放送」の4つに関する予測を語った。
藤原氏は、PCの次に来るポストPCの方向性として重要な概念として「ユビキタス・コンピューティング」を提示。大勢で1台のコンピュータを使う「メインフレーム・コンピューティング」の時代から、1人が1台のコンピュータを使う「パーソナル・コンピューティング」の時代を経て、1人が無数のコンピュータを使う「ユビキタス・コンピューティング」の時代に至るという、米Xeroxパロアルト研究所のMark Weiser氏が提唱した概念を説明した。
また、ADSLの普及により日本は世界一のブロードバンド大国になったが、今後の「ポストブロードバンド」の方向性については、FTTHによりインターネット、電話、テレビの3つのサービスを提供する「トリプルプレイ」を通信事業者が実現できるようになったことが重要だと指摘。また、第3世代携帯電話の次に来る「ポストモバイル3G」の分野については、従来の携帯電話規格の延長線にある技術よりも、WiFiやWiMAXといった無線LAN技術の延長線上にある技術の方が標準化が早く、第4世代携帯電話というよりは「次世代ワイヤレスブロードバンド」として普及が進むのではないかという予測を語った。
こうして固定通信網と移動体通信網がIPという共通の基盤を持ち高速化していく中で、固定通信と移動体通信の融合サービスとしてFMC(Fixed-Mobile Convergence)が語られることも多くなったが、さらにここに放送網が加わり、3つのメディアがIPを中心として融合すると説明。この融合は、事業者同士の提携というインフラ側の主導よりも、むしろコンテンツプロバイダーの側が各インフラをまたぐ形でコンテンツの提供を進めるようになり、コンテンツ主導によるネットワークの融合が進むと予測した。
藤原氏は、こうしたPC・ブロードバンド・モバイル・放送という分野での変化が、これからは同時進行で起こるとして、コンテンツ市場規模が現在の10兆円から2010年には15兆円に拡大するというデータを紹介。また、これまでの10年は、インターネットが電話網を使って発展してきた、いわば通信とインターネットが融合してきた時代だが、今後の10年は放送とインターネットが融合する時代を迎えると語り、講演を締めくくった。
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次世代ワイヤレスブロードバンドについての予測
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固定通信網・移動体通信網・放送網の融合がコンテンツ主体で進む
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● インターネットは電話網の「すねかじり」から「ひとり立ち」の時期に
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IIJ取締役副社長の浅羽登志也氏
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IIJの浅羽氏は、ISPの観点から今後のインターネットの課題について講演。日本で電話の世帯普及率が10%に達するまでには76年かかったが、インターネットはわずか5年で到達したというグラフを示し、「このグラフはこれまで、インターネットがいかに速いスピードで普及したかという例として挙げられることが多かったが、実際にはインターネットは電話というインフラを利用して普及した」として、これまではいわばすねかじりの状態であったと指摘した。
一方、これからはインターネットが成長と発展のために新しい技術開発が必要なひとり立ちの時期を迎えているとして、現在はすねかじり状態の「フェーズ1」から、ひとり立ちする「フェーズ2」への移行時期にあたるとした。
浅羽氏は新しい技術が必要とされている例として高速なバックボーン回線を挙げ、IIJがこれまで利用してきた回線を年代順にプロットしたグラフを紹介。最も高帯域な回線でも1.5Mbpsだった時代から、45Mbps、150Mbps、600Mbpsと指数関数的に帯域を増やしてきたが、これもインターネットの側から電話会社に頼んで高帯域のサービスを提供してもらってきた、いわばすねかじりの歴史だったと説明。また、2003年には9.6Gbpsの回線を使用するまでに到達したが、現時点ではこれよりも広帯域な回線がなく、今ある技術ではこれまでのようには成長できないという問題点を指摘した。
こうした高速大容量化への取り組みに加え、安心・安全にインターネットを利用できる仕組み作りが必要だと説明。迷惑メールやフィッシング、DDoS攻撃といった問題に対して、現状では対症療法的な対策しか打ち出せておらず、これらを根本的に防ぐための技術の開発も求められているとした。こうした、既存の問題を解決し、今のユーザーの利便性を維持・向上させながらインターネットをスケールアップしていくことが、インターネット発展のフェーズ2の方向性として求められているとした。
また、IPv6もフェーズ2への備えとして必要だと説明。IPアドレスの枯渇への対策として、短期的にはIPアドレスの割り当て方法の見直しやNATの使用、長期的にはIPv6への移行という2つの解が示されたが、短期解(NAT)が成功をおさめたからといって長期解(IPv6)への移行は不必要というわけではなく、IPv6はフェーズ1の間に用意された重要なツールで、これをインターネットのスケールアップというフェーズ2で活用していくことになる提言して、講演を締めくくった。
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インターネットは5年で世帯普及率が10%を超えたが、既に普及済みの電話インフラを利用していた
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IIJが利用してきた回線速度の変遷。現在は9.6Gbpsを複数本使用している
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関連情報
■URL
Internet Week 2005
http://www.internetweek.jp/
IPv6 Technical Summit 2005
http://internetweek.jp/program/shosai.asp?progid=C3
( 三柳英樹 )
2005/12/07 20:35
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