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「インターネットガバナンス」をめぐるWSISでの議論と将来のあり方とは


 インターネットの管理を誰が行なうべきかといういわゆる「インターネットガバナンス」問題については、つい先日チュニジアのチュニスで開かれた世界情報社会サミット(WSIS)においてもテーマとなった。従来通りICANNを中心として民間主導による管理を主張する米国や日本らと、国連やITUなどを中心として政府主導による管理を主張する中国やブラジルなど、そしてその間でEUや発展途上国などがそれぞれ独自の主張を行ない、激論が交わされたことは記憶に新しいところだ。しかし実際のところ、WSISにおいて何が決められ、何が継続審議となったのかという点についてはいまいちよくわからない点も多い。

 「Internet Week 2005」で7日に行なわれたカンファレンス「インターネットガバナンス:過去、現在、そして未来」では、そんなインターネットガバナンスをめぐるWSISでの議論を中心に、ICANN成立前の過去の経緯、そして今後インターネットガバナンスはどのような形で行なわれるべきかについての意見が交わされた。


インターネットガバナンス問題は公共政策的問題に関する議論が中心に

JPNICの前村昌紀氏

WGIGのイシューペーパーに挙げられた主な課題

インターネットガバナンスを巡る現状
 カンファレンスの冒頭で、日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)理事の前村昌紀氏から、WSISならびにその作業部会ともいえるWGIG(Working Group for Internet Governance)の議論の結果について報告がなされたほか、過去から現在に至るまでのインターネットガバナンスの流れを振り返った上での今後の課題が示された。

 前村氏は、WGIGで行なわれた主な議論として「インターネット上で発生している諸問題に関するイシューペーパーの取りまとめ」「IPv6アドレスの管理に関する議論」「ICANNの統治に関する議論」の3つを挙げた。この中で前村氏は、イシューペーパーについては「かなり冷静に記述がなされており、よい整理ができた」と内容を評価する一方、IPv6アドレス問題やICANN統治問題についてはWGIGでは結論が出なかったと語った。

 WGIGでの議論を受けて行なわれたチュニスでのWSIS会合については、前村氏は「国際連合管轄でInternet Governance Forum(IGF)を設立し、最低5年間維持する」こと、「ICANNについては当面現状を維持する」ことの2点を結果として挙げた。ただし一方で前村氏は、この結論に至るにあたってはWSIS会合前日の夜まで議論がもつれたことを紹介した上で、IGFはWGIG体制の延長ともいえるもので、事実上それまでの議論の結論は先延ばしにされたとの見解もあわせて示した。

 ここで前村氏は過去から現在に至るまでのインターネットガバナンスについて、昔はインターネットユーザー=研究者・開発者であり相互扶助的なコミュニティとして「自分たちのルールは自分たちで作る」という考えが成り立ちやすかったのに対し、現在はインターネットが広くいろいろな人に使われるようになり、実社会とのルールのすり合わせやインフラとしての機構整備などが求められるようになっているとの変化を指摘。そして、いわゆる「インターネットガバナンス」として議論されているものが、実は技術的な規格の標準化やIPアドレス・ドメイン名などのリソース管理などを行なう「インフラストラクチャのガバナンス」と、インターネットを利用する上で必要な法・慣習の整備など「インターネット社会のガバナンス」の2つに分けられるのではないかとの見解を示した。


JPNICの丸山直昌氏
 前村氏は「インターネット問題には技術的側面と公共政策的側面がある」と語った上で、「かつてはインターネットは『参加する』ものだったのに対し、今はそこにあるのが当たり前の存在となっている」「インターネットが政府の政策課題や外交カードの1つとなったが、これは今までになかったこと」と述べ、今回の議論ではインターネットガバナンスの公共政策的側面がクローズアップされたと指摘した。

 そして「(ICANNが米国商務省と契約を結んでDNSの運営を行なうなどの)米国支配体制は素朴におかしいとは思うが、解決は容易な問題ではなく、議論の期間として(WSIS発足からチュニス会合までの)2年間は短かすぎた」「発展途上国にとっては、WGIGのイシューペーパーの内容を全部理解するだけでも容易ではない」と語り、インターネットの公共政策的側面を世界的規模で議論するにはまだ機が熟していないのではないかとの見解を示しつつ、一方でインターネットが社会インフラとして日々使われていることを踏まえて「民間セクターは信頼に足るネットワーク運営をこれまで同様に行なっていく必要がある」と述べた。

 続いてJPNIC理事の丸山直昌氏が、ICANNの事実上の前身ともいえるInternational Ad Hoc Committee(IAHC)の成立からICANNにその役割を引き継ぐまでの流れを紹介。インターネットコミュニティによるボトムアップによって作られたIAHCが、「インターネットのコントロール権限はアメリカにある」と主張する(1998年当時の)米国政府によりその存在を否定されICANN設立につながっていったものの、実際にはドメイン名管理に関してレジストラとレジストリを分離し、複数レジストラの並存を認める「Shared Registry System」、ドメイン名と商標権関連の紛争処理手順を定めたUDRPなど、「IAHCの検討内容に非常に近い内容がICANNでも使われている」との現状認識を示した。


IGFの具体像が見えない中で期待と不安が交錯

(左から)JPNICの丸山直昌氏、ICANN政府諮問委員会議長のMohamed Sharil Tarmizi氏、総務省の藤本昌彦氏、富士通の加藤幹之氏
 これらの講演を受けて行なわれたパネルディスカッションでは、主にWSIS会合で設立が決まったIGFがどのような役割を果たすのか、そしてICANNとIGFとの関係はどうなるのかといった点を中心にパネリストが持論を展開した。

 まず、ICANNで政府諮問委員会(GAC)の議長を務めるMohamed Sharil Tarmizi氏は、WGIGやIGFの理念である「マルチステークホルダーの参加」が非常に新しい概念であると語った上で、「このように政府や民間団体、市民社会が平等な立場で参加するという概念は日本人にはなじみやすいと思うが、途上国ではインターネットの普及自体、政府がリーダーシップをとっている場合が多く、このような概念はなじみがない」として、先進国と途上国の置かれた環境の違いがWGIGなどの議論にも影響しているとの考えを示した。

 Sharil氏は「(WSISで)市民社会からの参加者は全体の5%しか時間を与えられなかったが、国連会合で政府以外の人間が発言できたこと自体異例のことであり、それは評価すべき」「『WSISはトークショーだ』という人もいるが、有効性の確認はできたと思う」と述べた。ただしその一方で「IGFはまたトークショーになるかもしれないが、チュニス会合のアジェンダでは具体的な行動を求めている」として、IGFではより具体的な議論に踏み込むことを期待する姿勢を示した。また「ICANNは将来も継続し、中核的機能は残るだろう」とも語り、今後もドメイン名・IPアドレスの管理などはICANNが中心になって行なうことになるとの見解も示した。

 総務省総合通信基盤局データ通信課インターネット戦略企画室長の藤本昌彦氏は「日本政府としては、インターネットガバナンスは現状(=ICANN体制で)うまくいっているという認識だが、中にはぜんぜん違う考え方の政府もある」と述べ、「結局、全政府の着地点が見えていない以上はフォーラムを活用するしかない」として、IGFをそのような対話の場として活用したいとの立場を示した。

 かつてICANNの理事も務めていた富士通経営執行役法務・知的財産権本部長兼安全保障輸出管理本部長の加藤幹之氏は「(WSISでは)『そもそも我々は何の議論をしているのか』という話と『アメリカ主導はまずい』という議論の2つがごっちゃにされてしまっている」「政治的思惑とインターネットをどうしていくかはごっちゃにしてはいけない」と語った上で、「例えば『eコマース』1つ取っても非常に広い範囲の問題を含んでおり、IGFのような1つの組織で解決できる問題ではない」として、問題解決にはさまざまな組織が協力すべきであり、IGFもその中の組織の1つに過ぎないとの認識を示した。

 加藤氏は「国連で条約をベースに組織を作り、結果を出すにはすごく時間がかかる」とも述べ、例としてWIPO(世界知的所有権機関)におけるデジタル技術に関するベルヌ条約の改定作業を挙げた。「1996年に改定して以降10年間、これだけ環境が変化しているのに(WIPOは)何もしていません」「我々のインターネットがそんなことでいいのか」として、どうしても政府主導で物事を進める必要がある部分(新たな立法措置が必要な場合など)以外は民間もしくは技術者主導で作業を進めるべきとの姿勢も見せた。


(左から)ハイパーネットワーク社会研究所の会津泉氏、JPRSの堀田博文氏、JPNICの前村昌紀氏
 ICANNでAt-Large Advisory Committee(ALAC)の委員も務めるハイパーネットワーク社会研究所副所長の会津泉氏は「ICANNはあくまでも1つの実験であり、実際には(理事の直接選挙制など)うまくいかなかったものも多い」「途上国(の政府)はGACがあくまでも“Advisory”な組織であることが面白くないし、一方、市民社会からは『(理事)選挙で選ばれたのに制度が変わって理事を下ろされた』といった不満も聞かれる」と述べ、ICANNにもいろいろ欠点はあるとして、WSISやWGIGの存在意義を認めた。

 また、会津氏はWGIGやIGFの基本概念である「マルチステークホルダーの参加」という点に関連して「日本社会にはマルチステークホルダーを受け止める仕組みがない」「日本の各組織が勝手にIGFに参加するのでいいのか」と述べ、IGFが本格的に立ち上がった際には日本国内にも意見集約のための同様の組織を設ける必要があるのではないかとの考えを示した。

 日本レジストリサービス(JPRS)取締役企画本部長の堀田博文氏は「ICANNは自浄作用を働かせようとしていろいろ変化しており、IGFがすぐに走り出さなきゃいけない状況ではない」として、WGIGやIGFの「マルチステークホルダーの参加」という基本理念は評価しつつも、果たしてIGFが本当に立ち上がるのかという点に疑問を投げかけた。堀田氏は、ICANNとWSIS・IGFの関係について「結果の正義がプロセスの正義の挑戦を受けた」「結果を出し続けないとプロセスの正義に奪われてしまう」という表現を使い、ICANNの必要性を訴えた。

 時間の関係で議論はほとんど行なわれなかったが、IGFの具体的な形態について「ISOC(Internet Society)の会議をフォーラムになぞらえる等の提案も出されている」(藤本氏)、「いろいろな議論の場をつなぐ、先進国と途上国の間の情報交換的役割が大きくなるのではないか」(加藤氏)といった意見が出る一方で、「IGFがただのトップフォーラムとなって何の結果も出ないことを心配している」(Sharil氏)といった意見も出るなど、IGFに対して期待と不安が交錯している現状が示されていた。


関連情報

URL
  Internet Week 2005
  http://internetweek.jp/
  インターネットガバナンス:過去、現在、そして未来
  http://internetweek.jp/program/shosai.asp?progid=C5


( 松林庵洋風 )
2005/12/08 16:01

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