東京国際フォーラムで31日に開催された「INTERNET Watch 10周年記念シンポジウム『インターネット Next Stage』」の最後のセッションとなるセッション Part 4では、慶應義塾大学環境情報学部教授の村井純氏が「インターネット2006」と題し、これからのインターネット環境についてのビジョンを語った。
● 「WIDEプロジェクト」で掲げた分散環境がようやく現実のものに
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慶應義塾大学環境情報学部教授の村井純氏
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村井氏は1985年に「WIDE研究会」として発足したWIDEプロジェクトについて、「WIDEという名前は“Widely Integrated Distributed Environment”の略で、分散処理を非常に広域で大規模に行なって、地球全体のコンピュータがつながったらどんな環境ができるかということを考えていた」と当時を振り返った。
その上で、「現在のグリッドコンピューティングであるとか、あるいはWebの世界もそうだと思うが、地球全体がネットワーク化されて分散処理を行なうという、当時考えていたことがリアリティを持って実現されてきた。地球がつながっていることを前提にして議論ができるようになり、その意味ではようやく本物の『WIDE』になってきた」と語った。
また、「WIDEの“W”は本当は、UNIXがSystem VかBSDかといった話をしていた頃に、System“V”よりもいい仕組みを作ろうということで“W”とした」という秘話を紹介しつつ、「こういうUNIX野郎が集まってネットワークを作っていったというのがポイント。つまり、通信屋がネットワークを作るのではなく、コンピュータ屋がネットワークを作ってきた」という点がインターネットの大きな特徴だとした。
日本においては、世界で一番安くブロードバンドが利用できるようになるなど、優れた環境が整っており、今後のインターネットを切り開いていくのは日本だと主張。セキュリティの分野などでも、最先端の環境の中でどのようなソリューションを構築していくのかは、フロントエンドである日本の役目だとした。
● 無線の普及がインターネットに変化を迫る
村井氏は、特にこれからのインターネットを大きく変えようとしている要素は「アンワイヤード」だと指摘。固定されたコンピュータのネットワークを想定していたこれまでのインターネットが、端末が移動するということを前提にした新たなアーキテクチャへの変革が迫られているとした。
特に、「携帯電話は全世界で普及しているが、携帯電話でこれだけパケット交換が行なわれているのは日本がダントツ」だとして、この分野でも日本の果たす役割が大きいとした。また、無線についてはRFIDも今後重要となるが、「日本ではおサイフケータイという形で、既に500万台のICタグのリーダ/ライタが普及していて、しかもそれがインターネットにつながっている」として、日本の環境で構築される技術やサービスが世界をリードしていくという予測を語った。
RFIDについては、950~956MHzという周波数帯域を新たにRFID用に割り当てる際に行なわれた議論を紹介。この帯域は電波の回り込みが大きく、いわば「周波数のゴールデン帯域」だが、そこに新たにRFIDという技術に電波を割り当てて欲しいと言っても、これまでの議論では「そんな隙間が残ってるわけない」という話になってしまいがちだったという。
しかし、コンテナなどでRFIDを利用しようすると、高速に移動しながらのタグの読み取りを考えた場合にはこの帯域が有利なため、既に米国を中心として各国での利用も始まってきたという状況があり、物流の分野で日本が取り残されないためにも同じ周波数帯を割り当てる必要が生じてきたという。
村井氏は周波数割り当てについて、「地球全体でぶつかりあわないようにというアナログ時代の考え方から、グローバルなマーケットのことを考えるようになった。昔は、この帯域の電波は他国までは届かないから、用途も国ごとに決めていればいいやという考え方があった。しかし、現在ではマーケットがグローバルにつながっている。例えば802.11の無線機器も最初は全部海外製品だったが、日本で周波数割り当てが決まると、日本製品が世界中に出回った」と語り、周波数割り当てに対する考え方が変わってきたとした。
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日本の移動体通信の成長状況
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950MHz帯を利用するRFID
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● 遅延とルーティング、大規模システムへの取り組みが今後の課題
村井氏は、さらにこれからのインターネットに要求される要素として遅延の問題を挙げ、ネットワークゲームやリアルタイムの映像伝送といった分野で、ようやくインターネットも遅延のことを意識してくるようになったとした。
例えば映像伝送では、現在のハイビジョンは元の映像では1.5Gbpsに相当するデータを20Mbps程度に圧縮しており、圧縮・展開のためにタイムラグが生じてしまうという。WIDEプロジェクトではハイビジョン映像をそのままインターネットで送信する実験を行なっているが、こうした技術は高画質で低遅延が要求される遠隔医療などで必要とされるとした。
さらに地球規模で考えた場合には、光の速度で地球を1周するのに133ミリ秒(0.133秒)かかるが、逆に言えばこの程度の遅延であれば会話は問題なく、「全地球のユーザーがインターネットにつながり、インタラクティブなアプリケーションを作ることも可能だということが見えてきた」と語った。その観点から、日本は現在、米国を経由してヨーロッパにつながっているが、遅延を少なくするためにも、シベリア鉄道に沿う形で日本からヨーロッパに直接光ファイバを敷設することを目標としていきたいと語った。
また、VPNやP2Pのようにインターネットの上にさらに別のネットワークが構築されるようになってきており、「Ethernetもソフトウェア的にエミュレートされて、それが通常のネットワークとつながるようになってきた」という現状から、こうした時代に対応したルーティングの仕組みも考えなければならないと指摘。物理的なネットワークを前提としていたこれまでのルーティングから、仮想ネットワークにも対応した効率の良いルーティングの仕組みが必要だとした。
さらにこれからのインターネットの課題としては、大規模システムへの対応を挙げた。村井氏は例として証券取引所のシステムを挙げ、「データベースへのアクセスの規模という意味ではそう大規模ではないかもしれないが、すべてのオンライン取引を含めた全体がシステムだと思うと、超複雑系のシステムになる。この分野のエンジニアは日本にはいない。『インターネット巨大システム工学』のような、別の領域の研究も必要になる」として、大規模システムへの取り組みが緊急の課題であると訴えた。
村井氏は最後に、「これからは地球全体を考えるグローバル戦略が必要。これを作るには、我々が議論し、デザインし、共有していかなければならない。そのための仕組みが必要で、洗練されたルールも作らなければいけない。その議論を誰が始めるのか。最初の話に戻ると、日本が一番進んでいて、日本でしか気付いていない分野の問題がある。その分野の議論では日本がリーダーになっていかなければいけない」と語り、講演を締めくくった。
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日本からヨーロッパへの光ファイバ敷設を目標に
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村井氏が掲げる日本のインターネットの緊急課題
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関連情報
■URL
INTERNET Watch 10周年記念シンポジウム「インターネット Next Stage」
http://internet.watch.impress.co.jp/event/iw10year/
WIDEプロジェクト
http://www.wide.ad.jp/index-j.html
( 三柳英樹 )
2006/01/31 22:43
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