クリエイティブ・コモンズ・ジャパン(CCJP)は27日、著作物の利用促進を目的とした非営利団体「クリエイティブ・コモンズ」の発起人であるスタンフォード大学ロースクールのLawrence Lessig教授を招き、著作権表示に関するシンポジウムを開催した。シンポジウムでは、現在の著作権制度とクリエイティブ・コモンズの関係の解説や、クリエイティブ・コモンズを利用した創作活動の実例などについての発表などが行なわれた。
● 著作権の独占によるデメリットの解消を
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CCJPの代表を務める東京大学大学院法政治学研究科の中山信弘教授
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CCJPの代表を務める東京大学大学院法政治学研究科の中山信弘教授は、「著作権制度は情報化時代の基本的なインフラだが、あらゆる制度はプラス面とマイナス面の両方を持っている」として、現在の著作権制度の問題点を解説した。
中山教授は、「著作権制度は、独占というメリットを著作権者に与えることによって創作活動へのインセンティブを与えるものだが、独占であるために必然的に弊害も生じる」として、利用や流通が阻害されるというマイナス面も大きいと説明。例としては、著作権者が不明なものや権利関係が複雑に入り組んでいる著作物などが、権利処理のコストが膨大なものとなってしまうために使われなくなってしまうことなどを挙げた。
また、「著作権は創作すると同時に発生するため、世の中には膨大な数の著作権が存在しているが、その中で実際に権利を行使している著作物はほんの一部」であるのに対して、「他人の著作物を無断で使用してはいけないという制限だけが際立っている」という問題を指摘。膨大な情報が流通するようになったデジタル時代においては、著作権が著作物の有効な利用・流通を妨げている側面もあるとした。
ただし、著作権法はベルヌ条約などの国際的な条約を基に各国で定められているため、当面これを改正することは事実上は不可能に近いと説明。現在の著作権制度を前提として、著作権を守りながら、かつ利用を促進するための手段として、クリエイティブ・コモンズは有効であると述べた。
クリエイティブ・コモンズは、法律が認める知的財産権のうち一部だけを行使したいという人も存在するという認識に基づいて設立された非営利団体で、著作物の利用許諾を与える際に用いるライセンスを無料で提供している。具体的には、第三者の著作物の利用に対して「帰属(原著作者名の表示を求める)」「非商用(非商用に限り利用を認める)」「派生禁止(作品の改変は許諾しない)」といった項目の採否による複数のライセンス体系を用意し、これを著作権者が採用することで著作物の利用条件を明確化する。また、ライセンスの内容をメタデータとして記述することで、著作物利用のための検索コストを下げるという役割も持っている。
中山教授は「クリエイティブ・コモンズは、例えて言えば著作権という大帝国の中での、自由な意思によって作られる自治都市のような存在」と説明。クリエイティブ・コモンズは著作権を破壊しようというものではなく、著作物の適正な流通・利用を促進し、著作権制度のマイナス面を自助努力で軽減しようという試みであるとして、今後の活動に対する理解を求めた。
● クリエイティブ・コモンズと著作権管理に残る課題
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JASRACの加藤衛常務理事
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NPO法人「FTEXT」の理事長を務める吉江弘一氏は、参加型コミュニティにより教科書や問題データベースを作成し、成果物をクリエイティブ・コモンズのライセンスで公開している「FTEXT」の活動を紹介。クリエイティブ・コモンズのライセンスを利用したメリットとしては、問題データベースをオープンなライセンスで公開したことにより、問題の追加や誤植の修正といったことが容易になったという点を挙げた。また、教科書については現在「数学I」「数学A」の2冊が公開されており、今後はさらに他の教科にも取り組んでいくという。
アーティストの鴻池朋子氏は、自身のアニメーション作品「みみお」の映像をクリエイティブ・コモンズのライセンスで公開した経緯を紹介。アニメーション作品に使用した楽曲が著作権的な制約で使用できなくなったことから、楽曲を抜いた映像のみをクリエイティブ・コモンズのライセンスで公開したという。鴻池氏は作品を公開する際の気持ちを「直感的には自分の想像力が開放される気持ち」だったと説明。また、ライセンスでは二次創作についての商用利用も禁止していないため、鴻池氏は「ぜひ作品を使って経済的な結果も生み出して欲しい」と語った。
国立情報学研究所の高野明彦教授は、文章に含まれる単語の組み合わせから関連すると思われる図書が検索できるシステム「Webcat Plus」の取り組みを紹介。実際の新聞の社説の文章から関連する図書を検索するといった実例を示し、こうした書籍などのデータベース化について、データベースがどのような形で公開されるべきかといった問題などを、クリエイティブ・コモンズを手がかりにして考えていきたいと語った。
日本音楽著作権協会(JASRAC)の加藤衛常務理事は、音楽著作権管理団体とクリエイティブ・コモンズの関係を説明。海外でも多くの国で音楽著作権管理団体とクリエイティブ・コモンズが会合を持っており、両者は著作物の有効な利用促進という観点で共通の認識に立っていると説明した。
ただし、現状のJASRACの管理システムでは、クリエイティブ・コモンズのかなりの部分に対応できないと説明。JASRACでは2002年に約款を改定し、録音権やネット上への送信権などの権利ごとにJASRACに信託するかを著作権者が決められる仕組みとしており、個別の権利についてはクリエイティブ・コモンズのライセンスで管理することも可能だが、楽曲全体の管理にはまだ対応できておらず、この点が今後の課題だとした。
加藤氏はクリエイティブ・コモンズに対しては「ポータルサイトを持たなくていいのかと心配している」ことを表明。JASRACでは約150万曲のデータベースを公開しているが、クリエイティブ・コモンズも同様にデータベースを集約して公開する形にしていかなければ、利用が促進されないのではないかという点を指摘した。
ニフティMOOCSビジネス部の黒田由美氏は、自由に使える映像や音楽の素材を集め、クリエイターに提供する「NeoM rePublic」の試みを紹介。ショートムービーなどのコンテスト応募者から寄せられる声は好評なものの、二次創作の作品に正しくライセンス表記がされていない例が多いなど、ライセンスに対する理解がまだ十分に進んでいないという問題点を提示した。
● 契約で著作権制度の難点を克服していく形に
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スタンフォード大学ロースクールのLawrence Lessig教授
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Lessig教授は今回のシンポジウムの発表内容を聞いての感想として、「著作権という同じ問題に直面していながら、日本はこうした問題を解決していこうという動きが感じられるのに対して、米国は依然として考え方の違いから戦う姿勢が消えていない」とコメント。クリエイティブ・コモンズを著作権法の面でどのように解決していくべきかという質問には、中山教授が「現行の著作権法の中では難しい面があるだろうと思う。コモンズに賛同する人の意思で、契約によって著作権制度の難点を克服していく形が望ましいのではないのではないか」と答えた。
Lessig教授は鴻池氏に対して、「アーティストにとってクリエイティブ・コモンズはどのような存在で、多くのアーティストは作品を公開したいと思っているだろうか」と質問。鴻池氏は「最初はメリットもよくわからないし、『なんだこれは』と思うかもしれない。しかし、自分にはすごくメリットがあると感じられた。自分が物を創造する上で、社会的に認められた自由があるというのはとても解放されたイメージだった」と語った。
JASRACの加藤氏が指摘したポータルサイトの重要性についてはLessig教授も同意し、利用者が容易に作品を検索できる仕組みが利用の促進には重要だとした。また、データベースについて加藤氏は、「JASRACのデータベースには、どの部分の権利をJASRACで管理しているかを記載しているが、その他の部分は誰が管理しているのかは記載していない。これはJASRACではなく、より中立的な形で外部に作るべきだと考えている」とコメントした。
一般ユーザーの著作権に対する認識については、ニフティの黒田氏が「プロの人は自分の作品の権利や法律に対する意識は高いが、一般の人はまだ十分ではない」と説明。これまで個人Webページの作成者に対しては「他人の著作権を勝手に使ってはいけない」という面ばかりを説明してきたが、今後は自己の著作物についての考え方も意識してもらう必要があるのではないかとした。
関連情報
■URL
クリエイティブ・コモンズ・ジャパン
http://www.creativecommons.jp/
FTEXT
http://www.ftext.org/
鴻池朋子氏の作品「みみお」の紹介ページ
http://commonsphere.jp/feature/content/kounoike/mimio.php
Webcat Plus
http://webcatplus.nii.ac.jp/
JASRAC
http://www.jasrac.or.jp/
NeoM rePublic
http://neom.nifty.com/
( 三柳英樹 )
2006/03/27 19:37
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