東京都武蔵野市にある「NTT武蔵野研究開発センタ」において8日・9日、NTTグループが研究・開発に取り組んでいる技術を紹介するイベント「NTT R&Dフォーラム2007」が開催され、約100テーマにおよぶ展示や講演が行なわれた。8日には、NTTの和田紀夫代表取締役社長が「コミュニケーションの変容と未来」と題して講演し、ICT(Information and Communication Technology)の進展に対する研究・開発の方向性を語った。
● ICTの進展で、時間・距離・知識偏在の壁を越える大変革が起きている
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NTTの和田紀夫代表取締役社長
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和田社長はまず、ICTがもたらす社会の大きな変化として、ブロードバンド加入者数の推移を示したグラフを示し、2006年9月の段階で固定回線で2,500万加入を突破したことを紹介。回線種別ではDSLが最も多いものの、2006年第1四半期で純減に転じて以降は減少が続いている一方で、FTTHが急速に増加しているとして、「まさに光ブロードバンド時代が到来しつつある」と述べた。
また、携帯電話についても今年に入ってPHSを含めた加入者数が1億を突破するとともに、旧来の2Gから通信速度の速い3Gに急速に移行しており、加入者の3分の2が3Gに移行済みと説明。NTTドコモがサービスを開始した3.5GのHSDPA(High Speed Downlink Packet Access)にも触れ、移動体でもブロードバンド化が進みつつあることを示した。
ブロードバンドや携帯電話の利活用が進み、ICTが進展することで社会に起こっている大きな変化として、和田社長は3つの例を挙げた。1つ目は「サービスの融合」で、放送と通信、固定と携帯、端末においてもPCとテレビあるいは携帯電話など、あらゆる場面で急速に融合が進みつつあるとした。
2つ目は「Web 2.0に代表されるネットビジネスの新たな潮流」で、これについてはGoogleやAmazon.com、Wikipediaなど「オープン指向」のものが成長していることを挙げた。3つ目は「ビジネスや課題のグローバル化」で、企業のグローバル化が進展すると同時に、サイバーテロやウイルスなどもグローバルレベルでの発生が問題になっていると指摘した。
このような社会の大きな変化によって、和田社長は「時間の壁、距離の壁、知識が偏在していることの壁を越える大変革が世界的に起こっていることを実感している」という。時間や距離の壁を越える例としては、米国の企業がインドにコールセンターを開設し、距離を逆手にとって時差を活用している事例や、日本の患者とカリフォルニアの専門医を結んで診断を受けられる遠隔胎児医療の実験を紹介した。
さらに、知識偏在の壁を越える例としては、Wikipediaや、NTTが実験中の動画共有サイト「ClipLife」を紹介し、「ICTの普及によって、ネット上に知識が集積されて新たな価値を生む仕組みが次々に実現されようとしている」と述べた。
一方で和田社長は、「ICTは影の部分も持っている」として、ウイルスや不正アクセス、著作権侵害、個人情報の漏洩、デジタルデバイドなど、ネット社会特有の問題も顕在化していると説明。チャットやオンラインゲームを長時間やりすぎるあまり現実の生活に支障を来たすネット依存症や、被害額が増加しているというワンクリック不正請求の例を挙げ、「ICTはさまざまなよい点をもたらす反面、悪意ある利用者にどう対応するのかといった外在的な問題もある。それと同時に、人間対人間が向き合って対話する能力を退化させる結果、人間のコミュニケーションのあり方そのものにもマイナスの影響も与えるといった内在的な問題もある。こうした影の側面にどう対応するかが、現実の問題として大きくなりつつあると考えている」と述べた。
● 不正アクセスやネットの悪用など、ICTの影の部分の克服にもNGNが貢献
講演では続いて、NTTが現在フィールドトライアルに取り組んでいるNGN(Next Generation Network)の役割について説明。その目的として、「付加価値の創造、生産性の向上に貢献したい」「不正アクセス、ネットの悪用など、影の克服に貢献したい」「少子高齢化、介護医療の充実、環境・エネルギーの問題、自然災害の問題など、日本が避けて通れない社会問題の解決に貢献したい」という3項目を挙げた。
和田社長は「これらの課題を解決していくには、既存の電話網だけでは十分ではない。ベストエフォートのインターネットでも不十分。電話網の信頼性や安定性と、インターネットの利便性や経済性という両者のよい面をあわせ持ったネットワークを構築することが必要不可欠と考える。それが、我々の目指すNGN」と改めて説明。NGNの特徴として、1)QoSによる品質保証、2)セキュリティの確保、3)信頼性の確保、4)オープンなインターフェイス――の4点を挙げた。
品質保証については、ベストエフォートを含む4つのレイヤーをアプリケーションに応じて提供していく。セキュリティについては、発信者IDによるなりすまし防止が可能なほか、不正アクセスや異常トラフィックをネットワークの入口でブロックする機能があるという。さらに信頼性については、災害やトラフィックの異常集中など、さまざまな状況を想定してネットワークを構築すること、トラフィックのコントロール、重要通信の確保などの機能をネットワーク上で提供することを挙げた。
インターフェイスについては、仕様を他の事業者に公開するということで、この点について和田社長は「NGN構築のキーワードは“オープン&コラボレーション”。NGNの取り組みはNTTだけで進めることはできない。インターフェイスを介して他事業者のネットワークとオープンに接続し、異業種・他業界と協力して新しいサービスや付加価値を創造していきたい」と強調した。NGNのフィールドトライアルには、情報家電ベンダーやアプリケーションプロバイダー、ISP、大手通信キャリアなど、最終的には30数社の参加が見込まれるという。
最後に和田社長は、「NTTグループでは、NGNや研究・開発の取り組みを通じ、ICT社会にかかわる問題の解決や、日本の国際競争力の貢献の向上に貢献したいと考えているが、NTTだけでは実現できない。他のネットワーク事業者やサービスプロバイダー、さまざまな業界と一体となって取り組んでいくことが必要。今後の事業展開にあたっては、“オープン”と“コラボレーション”をキーワードとしてを掲げて進んで生きたい」と述べて講演を締めくくった。
関連情報
■URL
NTT R&Dフォーラム2007
http://www.nttrdforum.jp/info/
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・ NTT和田社長、NGNに「不退転の決意で取り組む」(2006/12/20)
( 永沢 茂 )
2007/02/09 14:02
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