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「初音ミク」生みの親らが語る、CGMのビジネス化や権利の課題


 ブロードバンド推進協議会(BBA)は22日、「CGM新潮流。オンラインコミュニティの未来像」と題したシンポジウムを開催した。「初音ミク」の生みの親であるクリプトン・フューチャー・メディアの佐々木渉氏(メディア・ファージ事業部初音ミク制作担当)による講演などが行われた。


音楽制作目的だけでなく、キャラクターの所有感も購入を後押し

クリプトン・フューチャー・メディア メディア・ファージ事業部 初音ミク制作担当の佐々木渉氏
 佐々木氏は、初音ミク発売に至る企画コンセプトなどを説明した後、「VOCALOID」シリーズの売り上げ規模について説明。VOCALOIDを使った製品は以前にもいくつか発売していたものの、最も売れたもので3000本程度、他は300~600本程度にとどまっていたのに対して、初音ミクは4万本、続く「鏡音リン・レン」も約2万本に達しているという。

 ただし、このうち楽曲を入力して使っている“アクティブユーザー”は1万人から1万5000人ほどと見ており、音楽制作を目的としないキャラクターファンにも波及していると指摘する。「当初は全く予想していなかったが、インストールすることでパソコンの中に初音ミクというキャラクターがいると感じているユーザーもいる。この所有感も売り上げにつながっている」。

 佐々木氏によると、初音ミクのブームは今年2~3月以降、落ち着いた感はあるが、現在も1週間に300本はコンスタントに売れており、最近になって初音ミクを知って購入している層もあるという。

 ユーザーが初音ミクを使って制作したコンテンツが、新たにユーザーを引き付けて大きな流れになっているというが、これには、VOCALOIDの性質として「ネタの波にもある程度乗ることができ、非常に順応性が高い」ことがあると説明した。

 一方で、何でも歌わせることができるということで懸念していたのが「人間にお願いできないことを機械にお願いしてしまえばいいという使い方」、すなわち、エロ系を何でも歌わせることができるツールとしてVOCALOIDが広まってしまうことだったという。

 当初この懸念に対してクリプトンでは、イメージ戦略で切り抜けようとしていたが、ふたを開けてみると、同社が公式にユーザーに働きかけたわけでもないのに、「はちゅねミク」など3頭身キャラクターなどギャグ的な要素の方が多く、「エロは初音ミクのメインストリームではなくなっていった。安心している」という。佐々木氏は、「リスナーの許容範囲の中で、初音ミクと過度に離れたものは淘汰されていく」と指摘する。


「ピアプロ」は、CGMを商品として具現化するための実験

クリプトンの今後の活動の方向性。キャラクター展開による、音楽制作ソフト市場へのライトユーザーの取り込みも

佐々木氏が考える、初音ミクの波及効果
 続いて佐々木氏は、クリプトンが運営しているCGM型コンテンツ投稿サイト「ピアプロ」を紹介。このサイトでは、イラストや音楽、歌詞の投稿を受け付け、ユーザーが自分の楽曲などと組み合わせて公開してもらう仕組みを提供しており、「ニコニコ動画」の素材として機能している側面もあるという。

 ピアプロでは、公式コラボレーションとして、フィギュアメーカーや雑誌、CDレーベルなど企業とのタイアップで、ユーザーから楽曲やイラストを募集する企画も実施している。これについて佐々木氏は「ユーザーが制作したものを具体的な商品として落とし込んでいく実験」と表現した。

 「CGMなど、ネット上でユーザーが作ったものをどう展開すればお金が回るのか、才能と結び付けられるのかが課題になっている。ピアプロで考えているのは、まずはユーザーたちに、自分や自分の仲間が作ったものが商品化されることを体験して慣れていただくこと。また、たくさんのユーザーで一緒に作品を作ることや、インターネットを通して作品を作り、アウトプットするといったさまざまな可能性に関して、ピアプロを通して体験していただくことによって、次につながっていくのではないかと考えている。」

 ピアプロの会員は10万人を超えているという。今のところ、扱う素材としてはVOCALOIDのキャラクターである初音ミクと鏡音リン・レンのみとなっているが、2009年4月ごろに向け、さらにもう一歩進んだ実験を検討しており、他の多様なキャラクターについても社内で検討しているとした。

 また、公式コラボレーションで企業とのタイアップを続けていく一方で、同人による個人制作のCDや画集、ゲームなどを、Webや携帯サイトを使って結び付けて行く仕組みも実験していきたいという。「みんなの共通項というか、初めてこういう存在になることができた初音ミクをひとつの象徴として大事にしたいと考えている。そこから派生してくるキャラク―については、ユーザーさんが対価を得やすい仕組みを考えていきたい」とコメントした。


CGMのビジネス化、障害はやはり権利問題

パネルディスカッションの司会を務めたゲームジャーナリストの新清士氏

フジテレビジョン情報制作局情報制作センター情報企画部・企画担当部長の福原伸治氏
 シンポジウムの後半は、「CGMの新潮流。ユーザーの生産活動がもたらす新しいビジネスモデル確立の可能性と課題」と題したパネルディスカッションが行われた。佐々木氏も参加し、CGMのビジネスモデルのほか、権利の問題などに議論は及んだ。

 フジテレビジョンの福原伸治氏(情報制作局情報制作センター情報企画部・企画担当部長)は、ニコニコ動画について「ビジネスモデルとしてどう成立させるのか非常に難しい。権利の問題をどうクリアするのかが大きな障害であり、これがクリアされない限り、ビジネスのステップにいくのは難しい」と語る。

 この点に関連して、福原氏がモデルケースになるのではないかとするのが、Perfumeのミュージックビデオをユーザーに制作してもらい、動画共有サイト「ワッチミー!TV」を通じて募集した事例だ。

 福原氏は、フジテレビのWebマガジン「少年タケシ」の編集長も務めている。このコンテストは「Perfume × 少年タケシ PerfumeのMV作ってくれんかねぇ?」というかたちで、少年タケシとPerfumeの共同企画として実施された。2カ月間で約100本が集まったという。

 この事例では、公式に画像素材などを提供したため、DVD化するにしても権利処理の問題はそれほど難しくないという。しかし、「ビジネス的なものを感じると、ユーザーは敏感に反応する」とも述べ、収益化を考え、実際にDVDにしようとした瞬間にユーザーが離れてしまうのではないかとも指摘した


権利のグレーゾーンの解釈と工夫が重要

シックス・アパートのメディア事業担当ディレクターで、「小鳥ピヨピヨ」管理人、「ギズモード・ジャパン」ゲスト編集長も務めるいちる氏(左)、有限会社ネクサムのGoodPlayer.jp事業部eスポーツ/ゲームプロデューサーの犬飼博士氏(右)もパネリストとして参加
 動画共有サイトにかかわる著作権の問題は、初音ミクを使った楽曲を投稿する場合にも関連してくる。しかし佐々木氏によれば、「結果的に初音ミクは、カバー曲よりもオリジナル曲の方が広く評価される流れが出来てくれた。初音ミクを大事にしていこうという中で、カバー曲をやるときは慎重にやろうということが、弊社が言うまでもなく、共通認識としてコミュニティの中にある」。

 また、ニコニコ動画では、JASRACとニワンゴの契約により、JASRACの管理楽曲についてはユーザーが演奏した動画を公開できるようになった。「カバー曲がNGではないというルールで、ユーザーが有用な楽しみ方をしてくれればいい」とも述べた。

 一方、福原氏は「著作権の問題に関しては、現行のレギュレーションでは、やはりいろいろなものがひっかかる。我々もテレビ番組を作っていて、許諾がたいへん」と述べた上で、「初音ミクを見ていて、けっこうドキドキしている。これ、JASRACに全部請求されたらたいへんなことになる」とコメント。しかし、それを乗り越えてオリジナルのものが出てきた点を評価する。

 「著作権にひっかかるものを全部排除するというようなところで、制限の中から何か生まれるという考え方もあるが、ある程度のグレーゾーンを設けておけば、次のところに行くのではないか。今、ニコニコ動画やYouTubeがその段階に来ている。メディアにはどこかに必ずグレーゾーンがある。それを、我々現場はどこまで拡大解釈するのか、どうやって工夫して利用するのかということ。」(福原氏)

 福原氏はCGMについても、「『いろんなものを使うのは当然だろう』という考え方もあるが、そうではなく、レギュレーションを守ってやるところになっていく。グレーゾーンをどう判断するかという中で何か生まれてきそうな気がする」と述べた。


Perfumeはニコニコ動画を知らなかった?

 このほか福原氏は、ミュージックビデオのコンテストでPerfumeの事務所やレコード会社と交渉していた2007年末の段階のエピソードを紹介。Perfumeは、MAD映像などが動画共有サイトに投稿されるなどして人気に火が付いたという経緯があるが、別にマネージメントサイドがマーケティング戦略としてこれを黙認していたわけではないという。逆に、YouTubeやニコニコ動画はほとんど見ておらず、「当人たちもニコニコ動画の存在を知らなかった」。

 「積極的にネットを利用していたわけではなく、知らないうちに広まっていたということのようだ。非常に希有な例で、戦略でも何でもなく、すべての歯車がカチッと合った結果としてのブレイク。著作権的な問題にみんなが気が付く前に広まっていた新しいパターンだと思う。」(福原氏)


関連情報

URL
  OGCシンポジウム「CGM新潮流。オンラインコミュニティの未来像」
  http://www.bba.or.jp/ogc/sym/080722/
  クリプトン・フューチャー・メディア メディア・ファージ事業部
  http://www.crypton.co.jp/mp/
  ピアプロ
  http://piapro.jp/
  Perfume × 少年タケシ PerfumeのMV作ってくれんかねぇ?
  http://www.watchme.tv/e/perfume/

関連記事
「初音ミクの著作権ってどうなの?」販売元のクリプトン伊藤社長が講演(2008/03/18)


( 永沢 茂 )
2008/07/23 13:50

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