それは1通の住民からの投書で始まった――。そんな語りから始まる短編ドラマが完成した。投書には、マンションの光化を希望する切実な願いがあった。あるマンション管理組合の理事は、インターネットに詳しい住民を集めて研究会をつくり、またある理事は、住民全員にアンケート調査を行ない、紆余曲折を経てマンションへのBフレッツ導入を決断する、そんなストーリーだ。
とはいっても、これはNTT東日本千葉支社がBフレッツマンションタイプのプロモーションのために作ったもの。千葉県で初の導入事例となった新興住宅地・幕張ベイタウンの「パティオス18番街」の実話が元になっている。
既存の枠組みを破るNTT東日本千葉支社の柔軟な取り組み
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パティオス元理事の鈴木勝彦氏
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1日、この短編ドラマ「マンションブロードバンド化に関するメッセージ」の完成お披露目会が、幕張メディアサーフィンで開催された。上映会には、地域のマンションの住民や不動産関係者、NPO関係者などが集まった。
株式会社NTTサービス千葉第二法人営業担当マンション営業推進担当の竹内裕一氏によれば、このドラマはNTT東日本千葉支社が独自に制作したもの。ビデオは、Bフレッツ導入に関して住民のコンセンサスや理事会運営に悩む理事長の姿をコミカルに描き、パティオス18番街導入時に中心となって動いた鈴木勝彦元理事のインタビューという構成になっている。竹内氏は「ビデオは千葉支社独自の販促ツールとして作成した。この取り組みに対して、神奈川支社や仙台支社から引き合いがきている」と語る。
NTT東日本千葉支社では、既存の集合住宅へのBフレッツ導入に向けてさまざまな取り組みを行なっている。NTT東日本法人営業部地域情報化担当の行縄修氏は、「マンションの光化に関して、“たいへんそうだ”というイメージは依然として根強い。理事会などにも参加して、住民が分からない点や不安に思う点を1つづつ解消しながら、営業を行なっている」と語る。
マンションへのBフレッツ導入にあたり、どうしても立ちはだかる問題が「光ブロードバンド接続に関心を持っていないユーザーへの案内」だという。このような浮動票の取り組みに関して「住民側に1円でも負担させないような営業を重視している」と行縄氏は語る。例えば、PT(光キャビネット)や集合型回線終端装置、VDSL集合装置など、共用設備の設置コストやメンテナンス料などはNTTが負担する。住民側はMDF付近の設置スペースと電源を確保するだけでよく、電力使用料はNTT負担だ。光化に興味を持たない住民に対して、どれだけ“損をしない”でマンションの資産価値が向上できるかという点を説得の肝にしているという。
また、理事会が動くかどうかも重要な問題点だ。NTTでは理事会に直接参加し、住民が分からない点について説明をするほか、住民アンケート作りの手伝いなどもするという。光ファイバーを建物まで引いてくるための配管工事などはNTTの守備範囲ではないが、相談に乗ったり業者を紹介するなどの柔軟な対応も行なう。行縄氏は、「今までの枠組みにとらわれず、新しい営業の方法を模索している。ビデオの制作もその一環」と語る。
“ブロードバンド難民”から“横並びのダイナミズム”へ
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放映されたビデオの1シーン
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パティオス18番街の理事だった鈴木氏は、自身の体験をもとにマンションの光化を紹介した。鈴木氏によれば、全国の世帯のうち37%が集合住宅に住んでおり、東京に限定すれば6割の住人がマンションに住んでいることになる。しかしながら、管理組合や理事会がうまく機能していないところが多いという。それは、短い任期で理事が交代してしまうことで、「新しいことをしたがらない。任期を何事もなく過ごしてしまおうという理事が多く、せいぜい毎年恒例の盆踊りくらいしか機能しない」と問題点を語る。
ブロードバンドの普及に伴って、一番問題となってくるのが「光収容地域のマンションで、理事会がうまく機能していないところだ」と鈴木氏は語る。理事会が機能しないため、マンションの光化への舵取りができず、地域が光収容になっているため原則としてADSLを開通させることもできない。同氏はこの状況を“ブロードバンド難民”と定義する。
鈴木氏のパティオス18番街の場合、マンションの光化に際し、理事会がインターネットやブロードバンドに詳しい住民を集めて諮問委員会を結成した。この委員会が中心になって、既存の設備で可能なブロードバンドサービスを比較検討。重要視されたのは「速度よりも経済性や将来の安定性だった」と鈴木氏は振り返る。
パティオス18番街が千葉で一番最初のマンションへの光ファイバーインターネットの導入事例となったわけだが、その後1年で付近のマンションの3分の2が光化したという。鈴木氏は「最初の4分の1くらいのマンションは慎重に議論をしながら光化していった。ところが、それ以降は“隣のマンションが光化したからうちもしなくちゃ”という感じで、“横並びのダイナミズム”が働いた」とコメントする。
最後に鈴木氏は、「既存マンションへの光インターネット導入の問題は、ブロードバンドに関心がない住人をどのように取り込んでいくかだと思う。新しいサービスほど住民の中で関心に差が出てくるからだ」と述べた。
ビデオ上映後、会場からは光化への高い関心が
ビデオ上映後に行なわれた質疑応答では、参加者から高い関心が寄せられた。その多くは、「ADSLと比較してFTTHの有利な点、不利な点」「光化をするといままで使っていたプロバイダーは変更になるのか」「光化することでIP電話が利用できるのか」といったものだ。
不動産関係者によれば、既存マンションの光化は資産価値の向上につながるということだった。「現在、中古マンションの売れ行きは悪い。そんな中でブロードバンド完備という宣伝文句があれば、比較的売れやすいのではないか」と言う。
また、1,400戸以上あるマンションの住人からは、「住人の半数以上はインターネットに興味があるはずだが、理事会だけでは決議できず、住民総会を開く必要があり、課題が山積している」という感想も寄せられた。この人は、インターネット技術の革新のスピードの速さに対して警戒感を抱いており、「将来性がどうなのかがはっきりしないと決断できない。“これからは光だよ”というイメージが必要だ」とコメントした。
また、「共用部分の初期費用をNTTが負担してくれたとしても、将来的には光インターネットユーザーが増えてくると思う。全戸で光インターネットを利用する場合の費用やランニングコストがどうなってくるのかも不安だ」と語った。最後にこの人は「総会を行なえば、多くの住人が委任状を提出するので決議しようと思えば簡単だ。しかし、それを行なう前に将来の不安に耐えられるコンセンサスを得られるかどうかがマンションの光化の大きな問題になってくると思う」とコメントした。
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関連記事:既存の集合住宅でブロードバンドを早く実現する方法[前編]
http://www.watch.impress.co.jp/internet/www/article/2002/0329/p18x.htm
関連記事:既存の集合住宅でブロードバンドを早く実現する方法[中編]
http://www.watch.impress.co.jp/internet/www/article/2002/0403/p18y.htm
関連記事:既存の集合住宅でブロードバンドを早く実現する方法[後編]
http://www.watch.impress.co.jp/internet/www/article/2002/0404/p18z.htm
( 岡田大助 )
2003/08/01 20:17
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