Internet Watch logo
記事検索
特別企画
【 2009/06/11 】
6月のマイクロソフトセキュリティ更新を確認する
[20:03]
【 2009/06/09 】
「Googleブック検索」和解案と電子書籍ビジネスの行方(後編)
[12:52]
【 2009/06/08 】
「Googleブック検索」和解案と電子書籍ビジネスの行方(前編)
[14:12]
【 2009/06/04 】
多彩なリフィルでタスクも予定も柔軟に管理できる「xfy Planner」
[10:54]
【 2009/06/02 】
DirectShowのゼロデイ脆弱性に対応する
[14:18]
【 2009/05/28 】
ソニー「nav-u」の小さいカーナビ使ってみました<徒歩・自転車編>
[10:56]
【 2009/05/26 】
SNSはメールの10倍危険? 「心がけ」が大事とカスペルスキー氏
[11:24]
【 2009/05/21 】
被害が多発する「Gumblarウイルス」への対策を実施しよう
[19:20]
ソニー「nav-u」の小さいカーナビ使ってみました<基本機能編>
[11:00]
【 2009/05/15 】
Adobe Reader/Acrobatの脆弱性対策を考える
[15:27]
【 2009/05/14 】
5月のマイクロソフトセキュリティ更新を確認する
[12:58]
【 2009/04/16 】
4月のマイクロソフトセキュリティ更新を確認する
[15:57]

構造改革に向けて動き出したIETF~2003年を振り返って


岐路に立つIETF

 今年もインターネットの世界ではさまざまな出来事があった。今回は、インターネット技術者として世界各地で行なわれるIETFなどの技術的会合に出席することが多い筆者の立場から1年を振り返ってみたい。

 近いところでは、米VeriSignが.com/.netドメインに対して9月から10月にかけて実施した「Site Finder」関連の話題が印象深い。これについては本誌をはじめとするメディアでもとりあげられ、インターネット全体に大きな波紋を呼んだ。

 Site Finderは、技術的には従来からあるDNSのワイルドカード機能を使用したものであり、決して目新しい技術が使われたわけではない。しかし、.com/.netという大量の利用者を抱えるドメイン名が対象だったため、影響範囲が大きかったことと、インターネットコミュニティに対するきちんとした事前の合意なくいきなり実施したことが、最も大きな問題であったといえるだろう。

 また、DNS技術者である筆者の目から見れば、DNSの生誕から20周年を迎えたこと、国際化ドメイン名(IDN)の技術仕様がRFCとして発行され、標準仕様が確定したこと、そしてやや手前味噌かもしれないが、災害時や非常時にJP DNSサーバが対応するための可用性の確保に向けて大きく踏み出せたことなどが、感慨深く思い出される。

 しかし、「インターネット技術者として今年印象に残ったこと」を聞かれたら、外すことができない重要な項目がひとつある。IETFそのものの構造改革に関する話題だ。これは最近のIETF Meetingにおける最も大きな課題のひとつとなっている。実際、先頃ミネアポリスで開かれた第58回IETF Meetingでは、2日間にわたるPlenary(全体ミーティング)のほとんどの時間が、この問題を議論するために費やされたほどである。


現在の標準化過程の問題点

IESGメンバー(第58回IETF Meetingより)
 ここ数回のIETFにおいて特筆すべきことは、会議の参加者が回を追うごとに減少している事実だ。今年3月の第56回サンフランシスコ会議では1,679名、7月の第57回ウィーン会議では1,304 名、そして11月の第58回ミネアポリス会議ではついに1,180名にまで落ち込んでしまった。これは最盛時の半分以下である。

 原因としては、もちろん米国経済の減速が大きい。しかし、IETFそのものの活動が長期低迷傾向にあるということも否定できない問題になってきている。具体的には、インターネット標準を決めるための“力”が落ちているということだ。

 IETFにおける標準化の過程は次のようになっている。まず、各テーマに応じてその技術の専門家が集まりワーキンググループ(WG)が形成される。技術は分野ごとに8つのエリアに分けられており、テーマはいずれかのエリアに属する形になっている。

 WGは議論を通じて意見の集約や仕様の策定を行ない、その結果はインターネットドラフト(Internet-Draft)としてまとめられ、それぞれのエリアの担当者(Area Director:AD)を含むIESG(Internet Engineering Steering Group)に送られる。その後、最終的なレビューが行なわれ、IESGによる承認を経た後にRFC(Request For Comments)として標準化が完了することになる。

 これまではこのような形をとることにより、各分野の専門家による標準化のための議論を効率的に進めたり、各エリアのADによって最終的な整合性が図られる形で標準化活動を進めることができていた。しかし、インターネットそのものの急激な成長によって、こうした形での活動に限界が見えてきたのだ。

 具体的には、IESG(AD)への負荷の集中である。現在のIESGは13名のメンバーで構成されている(General Areaは現在IETFチェアが1人でADを務めており、2名が複数のADを兼任している)が、この13名で130以上ものWGと220人以上のWGチェア(WGの議長)、そして数千人・数万人のWG参加者を“Steering(舵取り)”しなければならない。これが現在のIETFの体勢なのである。

 また、IESGメンバーは全員が本業を有しており、IETFの専任ではない。IETFでADを任されるような“有能な”技術者は例外なく極めて多忙であり、そのような中で“兼業”の形でIETFを運営していかなければならないのだ。

 このような状況を考えた場合、現在のIETFが“動きが遅くなっても、それなりに機能している”のは、ある意味奇跡に近いのかもしれない(もちろん、AD各位やWGチェア、そして参加者たちの並々ならぬ情熱の上に成り立っていることは忘れてはならない)。


問題解決のための構造改革

 IAB(Internet Architecture Board)やIESGでもこの問題は認識しており、現在、解決に向けたさまざまな“構造改革”を実施しようとしている。そのうちのひとつが、標準化のための内部プロセスの改良だ。

 具体的には、IESG/ADからWGチェアに一部権限と責任を委譲し、より機動的なWGの運用を行なうことで、標準化活動をよりスムーズにしていこうというものである。以下、現在の案を説明していこう。

1)RFC発行時の責任の委譲

RFC発行の際には、そのRFCの候補となるインターネットドラフトの著者だけではなく、IANAやRFCエディターとのやりとりも必要になる。従来、IANAやRFCエディターからの質問に対する回答や、インターネットドラフトの著者への最終的な確認については、担当エリアのADが最終的な責任を持っていた。この責任を ADからWGチェアに委譲する。

2)WG内におけるプロセスと活動結果に関する責任の委譲

WG内におけるプロセスや活動結果(インターネットドラフトやRFC)の品質についての最終責任は、これまで担当エリアのADが最終的な責任を持っていた。これをWGチェアに委譲する。

3)WGチェアの判断でWGのチャーターやマイルストーンの更新を可能に

従来、WGのチャーターやマイルストーンの更新(例えば、時期の調整など)には、担当エリアのADの許可が必要であった。今後はWGチェアの判断によりこれらを更新することを可能にする。しかし、新たなマイルストーンを作ることは、従来通りIESGの承認が必要である。

4)WGのメーリングリストに対するWGチェアの管理権限の強化

従来より、WGでの議論を円滑に進めるために各種メーリングリストが使用されていた。しかし、メーリングリストでの議論では、特に参加者が増えてきた場合など、WGの趣旨を理解していない参加者や、場合によってはWGにおける議論や合意形成の妨げになる発言を繰り返す参加者が出現することにより、正常に機能しなくなってしまう場合がある。今回、特にWGの運営に混乱を引き起こすと判断される参加者からの投稿を、WGチェアの判断で一時的に停止することを可能とする(ただし、これには担当エリアのADの承認が必要)。

 要は、これらの制度改定によりWGチェアの権限を強化し、IESGの負荷を軽減することでIETFの活動を円滑化しようというのが、今回の“構造改革”の趣旨である。


円滑な運営と活性化に向けて

 IETFではこれら以外にもいくつかの構造改革案が進行しており、これらは次々回のIETF Meeting(第60回IETF)を目処に方針をまとめる予定となっている。いずれにしてもこれらの構造改革案は、いわば“制度疲労”を起こしているIETF活動を活性化させ、従来の活動的なIETFを復活させようという試みにほかならない。

 しかし、この改革案は“WGチェアが有能である”ことが必要条件である。もしWGチェアが非活動的であったり、また何らかの形で中立的でなかったりすると、場合によっては“自分に都合のいい標準”が出来上がってしまったり、いちばん重要な“標準の品質”にまで影響が出かねない。

 そのため、これらの改革がうまくいくかどうかは、まだ何とも言えないというのが実状だろう。技術者は、ここしばらくIETFの動向に特に注視していくことが必要ではないだろうか。


関連情報

URL
  IETF(英文)
  http://www.ietf.org/
  IETF Meeting参加者数の推移(英文)
  http://www.ietf.org/meetings/past.meetings.html
  IETF Problem Statement(英文)
  http://www.ietf.org/internet-drafts/draft-ietf-problem-issue-statement-05.txt
  IETF Problem Resolution Process(英文)
  http://www.ietf.org/internet-drafts/draft-ietf-problem-process-03.txt
  関連記事:米VeriSign、問題の「Site Finder」サービスを一時停止
  http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2003/10/06/668.html
  関連記事:日本語ドメイン名の普及に、残る課題はアプリケーションの対応
  http://internet.watch.impress.co.jp/www/article/2003/0730/jprs.htm
  関連記事:WIDEとJPRS、首都圏災害に備えてDNSサーバーを大阪に分散
  http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2003/08/05/45.html


( 森下泰宏/日本レジストリサービス )
2003/12/26 12:08

- ページの先頭へ-

Internet Watch ホームページ
Copyright (c) 2003 Impress Corporation All rights reserved.