プロ野球参入に名乗りを上げたライブドアと楽天、ブログサービスを立ち上げ、さらに音楽ダウンロード販売サービスも開始するというMSN。ポータル他社が大きな話題を振りまくのを後目に、依然としてトップを独走するYahoo! JAPANは何を考えているのか? ヤフーのPS本部マーケティング部長兼パーソナルサービス本部企画室長である大蘿(たいら)淳司氏に、ブログを含む新サービスの予定や戦略について話を聞いた。
● プロ野球はYahoo! JAPANのビジネスの領域ではない
──ライブドアに続いて楽天も名乗りを上げ、ポータルサイト企業のプロ野球参入への動きが話題を呼んでいる。Yahoo! JAPANがこれに追従する可能性はあるのか?
社長のキャラクターにもよると思うが(笑)、当社社長の井上の基本方針は「自分たちのやるべきことを着実にやっていく、お客様が欲しいサービスを着実に実現していく」ということ。それ以外の手法で認知を図って、結果的にサービスでがっかりさせてしまうというのでは意味がない。逆に、「サービスで満足してもらい、口コミで広がることをやれ」というのが、地味ではあるが創業時代からの基本だ。未完成のサービスや情報量の少ないサービスを宣伝しても、不満足なユーザーを生むだけだ。Yahoo! JAPANは、それはやらない。裏切ったらおしまいだ。
──つまり、プロ野球への参入は考えていない?
我々はあくまでも本業中心でいく。他社では球団経営が新しいコアの事業になることもありえるだろう。それぞれの企業の戦略の話だとは思うが、Yahoo! JAPANのスタンスから言えば、プロ野球は我々のビジネスの領域とは違う。
また、Yahoo! JAPANは以前から全方位をカバーするというか、特定のチームなどに偏らないスタンスをとっている。要するに、スポーツで言えばオリンピック(JOC)やFIFAワールドカップなどのオフィシャルパートナーとなり、全般のコンテンツを提供するといったかたちだ。すべてのお客様がそれぞれ好きなチームを持っているため、特定球団を揚げた瞬間にYahoo! JAPANのスタンスではなくなる。特定球団をサポートするというのは、既定路線として考えられない。
● ブログも近く提供、ただし参入時期よりも中身を重視
──流行のブログサービスだが、大手ポータルサイトで開始していないのはYahoo! JAPANだけだ。提供の予定はないのか?
まだ具体的に何かは言えないが、Yahoo! JAPANの“総合力”を生かしたブログのあり方というのが存在すると考えている。今のブログ、すなわち日記としてのブログという位置付けだけでは長続きはしない。リアルな世界の日記でも、続けられる人は100人いれば数人だけだろう。
よく知っている人はブログが単なる日記ではないとわかっているが、一般的には簡単に日記を付けられるサービスとして見られている。実際、そういう位置付けでサービスを提供しているところも多い。しかし、そうではないのではないか? 日記ではないブログでは、Yahoo! JAPANでなければ実現できない部分がかなりあるだろう。
──Yahoo!オークションとの連携機能なども考えられるのでは?
アイディアはいろいろとあるだろう。総合力を生かすということは、そういうことだ。具体的なサービス内容は改めて発表する。
──時期的には、それほど先の話ではないと考えていいのか?
きっとそうなるだろう。あまり先延ばしにすることはできない。ただ、変にあせっているわけではない。理想的なサービスが一気に提供できるか、あるいは段階的に提供していくかという余地はあるが、Yahoo! JAPANがブログで狙う方向は明確に差別化できるだろう。
いずれにしても、ブログサービスへの参入時期は、タイミング重視というよりも中身を考えた上で決定する。単に日記のようなものを提供するのだったらすぐにでもできるのだろうが、トレンドに乗るために不十分なサービスを開始しても意味がない。
● 音楽ダウンロード販売は我々も機会を狙っている
──米Yahoo!は、音楽ソフトウェアのMusicmatchの買収を発表した。Yahoo! JAPANも当然、音楽ダウンロード販売に参入する計画があるのではないか? 日本ではすでにMSNが、今秋にも音楽ダウンロード販売サービスを開始することを表明している。
日本には著作隣接権という特殊な事情がある。それを整理しないままで見切り発車するようなことはない。ただ、今後の半年から1年間が、音楽ダウンロード販売の領域が大きくなる時期と考えている。
ダウンロードは音楽ソフトを売るための形態の1つに過ぎない。リアルの小売店が減っていく中、CDパッケージやデジタル音源などを総合的に販売できるチャネルとしてインターネットを成長させていくべきだと考えている。音楽ソフト市場全体の活性化に役立つことが重要で、この点をしっかり見極め、我々も機会を狙っていきたい。
すでに日本でもごく一部と組んだ音楽ダウンロード販売は始まっているが、音楽の世界はジャンルごとのセグメントが意外に小さい。幅広く、数十万曲もしくは100万曲近く用意してこそビジネスが成り立つ。音楽ダウンロード販売は、お客様が毎日サイトを訪れ、“習慣”にしていただくことが大事だ。そのためには、欲しいものがなんでもあるというようなポジションでなければ、なかなかうまく立ち上がらないのではないか。
● 既存ユーザーを満足させることがリーチ拡大につながる
──最後に、Yahoo! JAPANのマーケティング戦略とはどういうものかうかがいたい。
インターネットユーザーの8割以上に達するリーチをどう活かすかという点に尽きる。単に多くのユーザーにリーチしてページビューを生成するだけでは、広告ビジネスは十分に成り立つが、コンシューマ向けビジネスは成り立たない。お客様との関係をどうやって段階的に深めていくかがポイントになる。
第1段階として、Yahoo! JAPAN IDを持っていないお客様に検索エンジンなどを使っていただいている状態がある。第2段階は、そのお客様にIDを登録していただくこと。そうすれば、Yahoo!カレンダーやYahoo!フォトをはじめとしたIDを使ったサービスが提供でき、必然的にYahoo! JAPANを訪れる回数が増える。現在、登録ID数は約3,000万件あり、そのうち常に使われるのは月に1,100万件程度。極端な話、リーチした8割以上のインターネットユーザー全員にIDを使ってもらうのがゴールだ。
そして第3段階が、Yahoo!プレミアムやYahoo! BBという有料サービスを使っていただくこと。現在、Yahoo!プレミアムは約440万人、Yahoo! BBは400数十万人の会員がおり、重複を除いても800万人以上に達する。我々としては、Yahoo! JAPAN IDを持っているお客様が気持ちよく次の段階に移行してもらえるよう、動機付けを行なって引き上げていくことをマーケティング戦略の基本としている。その動機付けは、ブロードバンドの場合もあれば、Yahoo!オークションあるいはYahoo!パーソナルズの場合もある。
──間口となるリーチを拡大あるいは維持するための戦略は?
検索エンジンによって獲得する部分がまずある。シニアの方や若年層などの初心者がインターネットの世界にどこから入るかというと、やはり“検索”からだ。ただ、検索エンジンは自社のサイト内にトラフィックを留めることができない。Yahoo!オークションを中心とした“コマース”、Yahoo!メールやYahoo!メッセンジャー、Yahoo!グループを含む“コミュニティ/コミュニケーション”という領域が重要になる。この3つがうまく組み合わさっている点が、Yahoo! JAPANのコンシューマ向けサービスの強みだと認識している。8割以上のリーチは、基本的にこの3つの領域があることで獲得している。
──初心者をターゲットにしたマーケティングは何か行なっているのか?
初心者は結局、詳しい人に聞くものだ。エキスパートから見れば、Yahoo! JAPANを紹介しておけば間違いがない。「まずはYahoo! JAPANを使ってみれば?」ということになる。初心者に直接Yahoo! JAPANをアピールするよりも、すでに使っている方をいかに満足させられるかが最も重要だと考えている。
その結果、Yahoo! JAPANをインターネットの最初の入口と考えてもらえるようになった。まさに昔から言われている“ポータル”の概念そのもの、初心者の玄関口になっている。検索エンジンだけではない総合力のたまものだ。
関連情報
■URL
Yahoo! JAPAN
http://www.yahoo.co.jp/
( 永沢 茂 )
2004/09/27 13:46
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