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遠隔地インフラ、地上デジタル再送信など衛星の新たな展開を進めるJSAT


 衛星通信事業を手掛けるJSATでは、ブロードバンドサービスの提供が困難な地方や海上を航行する船舶など、衛星ならではのメリットを活かしたサービスの展開を進めている。また、加入者が400万人に達する勢いの「スカイパーフェクTV!」をはじめとして、ケーブルテレビ局向けの専門チャンネルの配信や、今後は地上デジタルの再送信を計画するなど、放送分野での事業も新たな展開を進めている。一方、2005年1月と7月には通信衛星「JCSAT-1B」にトラブルが発生し、大きな損害を被っている。今回は、JSATの横浜衛星管制センター(YSCC)で、JSATの今後のサービス展開と通信衛星の運用体制について聞いた。


JSAT横浜衛星管制センター 通信衛星の管制センター

「JSAT始まって以来」のトラブルが発生

JSATが利用している通信衛星の模型
 JSATでは現在9機の通信衛星を保有し、通信・放送分野での事業を展開している。1989年に第1号機となる「JCSAT-1」を打ち上げ、企業向け通信サービスを開始。1996年には「JCSAT-3」により「パーフェクTV!」(現在はスカイパーフェクTV!)がサービスを開始し、放送分野にも進出するなど、順調に事業を展開してきた。

 そうした中で2005年1月、東経150度に位置する通信衛星「JCSAT-1B」にトラブルが発生した。このトラブルは1日半で復旧したが、7月には再びJCSAT-1Bにトラブルが発生。このトラブルはすぐには復旧せず、8日後に予備衛星「JCSAT-R」をJCSAT-1Bの代替機として投入した。

 JSAT運用本部の笹原浩一部長によれば、このトラブルは衛星の位置を修正する「マヌーバー」と呼ばれる作業中に発生したという。静止衛星は、地上からは常に同じ地点にいるように見えるが、実際には赤道上空約36,000kmを地球の自転と同じ速度で飛行している。また、衛星は太陽や月の引力の影響を受けるため、常に位置を監視し、正しい位置にとどまるように制御しなくてはならない。

 許される変動はプラスマイナス0.05度、宇宙空間上では約80km四方に衛星をとどめておかなければならない。衛星の管制を行なうYSCCでは24時間体制で衛星を監視し、今後の衛星の位置の変動を予測。2週間に1度程度の割合で、位置を修正する作業を行なっている。

 7月のトラブルは、この修正作業中に正常な姿勢を保つことができなくなり、通信が行なえなくなったというものだ。衛星の製造元であるボーイング社と原因を究明した結果、燃料漏れが原因であることを突き止め、現在は姿勢制御も正常に行なえるようになり、通信も正常に行なえることが確認できたとしている。

 ただし、JCSAT-1Bについては今後同様のトラブルが起きる可能性が完全には否定できないとして、これまでJCSAT-1Bを利用してきた企業には他の衛星に移行してもらうことを決定したという。企業側の移行費用は全額JSATが負担する。また、JCSAT-1Bが予定よりも早く使用できなくなったことによる損失、予備機JCSAT-Rを投入したことによる損失などを加え、JSATではこのトラブルに伴う損失を約185億円と見込んでいる。

 JSATではこれまで16年に渡り計11機の衛星を運用してきたが、今回のようなトラブルは初めて起こったという。YSCCでは交代制で24時間の監視を行ない、地震などの災害の発生に備えてバックアップ用の管制センターも群馬県に置いているが、実際に宇宙で起こったトラブルに対してはデータから原因を推測することしかできず、原因の特定は難しいという。

 JSATでは新たな衛星の打ち上げ準備を進めており、次の衛星からはボーイングからロッキードマーチン製の衛星に変更する。ただし、これは今回のトラブルが発生する以前から決定していたということで、変更の理由はボーイングが現在製造している衛星に適当な大きさのものがなく、世界的にも同程度の大きさの衛星がロッキードマーチン製にシフトしているといった理由からだそうだ。


ブロードバンドの利用が困難な場所に衛星のメリット

放送状況などの管理を行なうJSATのテレポートセンター
 JSATでは衛星を利用したインターネット接続サービスとして、FTTHやADSLなどのブロードバンドの利用が困難な地域に向けたサービスを展開している。上り・下りとも衛星を利用する接続サービスで、通信速度が上り最大1Mbps、下り最大5Mbpsの「ライトプラン」が月額10万円、上り最大2Mbps、下り最大15Mbpsの「スタンダードプラン」が月額20万円。地上の設備などにかかる初期費用が85万円からとなっている。

 現在は試行サービス中で、沖縄県の伊江島など3島で試験を行なっており、2006年に正式サービスを予定している。実験では村役場や病院などの施設での利用が多く、このほか地域に共有の衛星アンテナを設置し、有線LANや無線LANによる住民向けサービスの展開なども行なわれているという。

 JSAT企画管理本部の鳥井英幸部長は、「誤解を恐れずに言えば“条件不利地域向け”と考えている」として、「すでにADSLの人口カバー率は90%に達したというが、残りの10%については全くブロードバンドサービス開始のめどが立っていない地域も多い。こうした地域を埋めるサービスとして、衛星が有効に利用できるのではないか」と語った。

 また、同様にブロードバンドサービスの利用が困難な船舶向けサービス「MegaWaveMarine」の提供も開始している。日本列島の近海を航行する船舶を対象としたサービスで、上り回線にはNTTドコモの衛星サービス(最大4,800bps)、下り回線にはJSATの衛星回線(最大1Mbps以上)を利用する。初期費用は180万円程度、月額料金58,000円で、別途NTTドコモの衛星サービスの料金が必要となる。

 最近では、船舶でも本社とのデータのやりとりや海図データのダウンロードなど、大容量のデータ通信へのニーズが高まっているということで、今後はさらに外洋を航行する船舶に向けたサービスを展開していく予定だという。


スカパー!、CATV向け映像配信に加え、地上デジタルの再送信を予定

ケーブルテレビ局向け配信サービス「JC-HITS」の監視モニター
 JSATの通信衛星を利用したサービスのうち、最も広く利用されているのがCSデジタル放送「スカイパーフェクTV!」だ。通信衛星「JCSAT-3」と「JCSAT-4A」を使用する「スカイパーフェクTV!」と、「JCSAT-110」を利用する「スカイパーフェクTV!110」は、合計約300チャンネルを放送し、約393万人の加入者を集めている。

 また、2004年からはケーブルテレビ局向けの専門チャンネル配信サービス「JC-HITS」を手掛けている。ペイパービューチャンネルなどを含む64チャンネルを衛星を利用してケーブルテレビ局に配信し、EPGや視聴制限制御などのシステムを提供することで、ケーブルテレビ局のデジタル化・多チャンネル化に伴うコストが低減できることがメリットとなる。

 さらに今後は、地上デジタル放送の衛星を利用した再配信に向けての準備を進めているという。7月には情報通信審議会で、光ファイバや通信衛星を利用した地上デジタル放送の再送信を認める答申が行なわれている。2011年のアナログ放送停止を控え、確実にスケジュールに間に合わせるための措置として、光ファイバや通信衛星の利用が認められた形だ。

 JSATでは現在、地上デジタル放送の品質の映像を、H.264を利用した圧縮により放送する実験の準備を進めている。圧縮率の高いH.264を使うことで、通信帯域の効率化を図る。実験はまもなく開始の予定で、スカイパーフェクTV!とともに映像品質などの確認を行なう。


関連情報

URL
  JSAT
  http://www.jsat.net/
  衛星インターネットサービス
  http://www.jsat.net/internet/
  JC-HITS
  http://www.cablecast.co.jp/

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( 三柳英樹 )
2005/10/24 11:15

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