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百度日本法人の舛田淳取締役
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中国の検索エンジン「百度(Baidu)」が1月23日、日本での本格的なサービス提供を開始した。中国の百度(Baidu.com)は、中国でトップシェアを誇る検索エンジンで、日本版の「Baidu.jp」は2007年3月からベータテストを行なっていた。
Baidu.jpでは、サービスを本格的に開始するにあたって、ベータテスト中に提供していたWeb検索、画像検索、動画検索に加えて、ブログ検索を開始。画像検索にはアルバム表示機能、動画検索には「おすすめ動画」などの機能を追加した。また、これにあわせて、Web検索と画像検索は正式サービスとなった。一方、動画検索とブログ検索については、現時点でもベータ版とされている。
既にYahoo! JAPANやGoogleが大きなシェアを占めている日本市場に対して、上陸を果たした百度はどのような戦略で望もうとしているのか。百度日本法人の舛田淳取締役に話を伺った。
● サービスの土台は完成、あとはユーザーに使ってもらうことでブラッシュアップ
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Baidu.jpのトップページ。現在はWeb検索、画像検索、動画検索、ブログ検索を提供
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――Baidu.jpは日本での「本格サービス開始」を発表しましたが、これまでのベータ版とはどこが違うのでしょうか。
舛田氏:百度は2006年12月に日本に進出するというメッセージを出して、12月20日には日本法人を設立しました。その後、これまで何をしていたかと言うと、日本版Baidu.jpのコアなサーチ技術の構築を行なっていたのですが、この基礎的な部分がようやく完成しました。これで、あとはユーザーの方々に使っていただくことで、Baidu.comで提供している検索エンジンのクオリティが提供できるという土台が出来上がりましたので、正式サービスとして開始しました。
――日本版サービスはこれからクオリティを高めていくということでしょうか。
舛田氏:いま現在でも、Baidu.jpは一定のクオリティに達していると思っていますが、中国版のBaidu.comに比べると、まだ開きがあると思います。Baidu.comは、中国で多くのユーザーに使っていただいたことで、現在のクオリティに達しています。日本版はこれから、日本のユーザーに使っていただくことで、ユーザーの行動分析などを通じてブラッシュアップしていきます。
――サービス発表では、「Baiduはダブルバイト圏のサービスとしての強みがある」といった発言がありましたが、ダブルバイト圏であることの強みとは具体的にはどのような点を指しているのでしょうか。
舛田氏:昔に言われていたいわゆるダブルバイトイシュー、シングルバイトからダブルバイトへのソフトの移植はコストがかかるであるとか、そういうことを指しているわけではありません。ロビン・リー(中国本社の総裁兼CEO)は、単語と単語の間にスペースが入らない、同じ特徴を持つ言語であるといった簡単な説明をしましたが、それはあくまでも一例です。本来的には、言語の多義性であるとかあいまいさといったものが、シングルバイトの言語に比べれば、ダブルバイト系の言語には多く見られます。それを我々はサービスに反映し、理解できるテクノロジーを持っていますので、そこをダブルバイトでの優位性と言っています。Baiduは8年間、中国語の検索精度を高めることだけに注力してきました。そこが他の様々な言語も扱っている検索エンジンとは違う点です。
――日本版はどのぐらいの人数で開発しているのでしょうか。
舛田氏:日本法人としての社員数は現在約30人ですが、Baidu.jpプロダクトチームということではもっと多くいます。日本と中国で横断的にチームを作っていますので。ただ、プロダクトに関わる人数については、非公開とさせていただいています。
● 日本版サービスの展開は日本側ですべてを判断
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「Baidu.jpのサービスはすべて日本側で判断している」と説明
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――日本版が中国以外での初のサービスということですが、日本を2番目の国として選んだ理由は?
舛田氏:一番の理由は、私どもがフォーカスしてきたのはサーチであり、そしてダブルバイト圏の言語を扱ったサーチだということです。従って、優位性を発揮できるのはやはりダブルバイト圏であり、そして市場規模などを総合的に判断した結果、日本での展開を選びました。私どもは、まずはアジアの中で最も競争力のある検索サイトになりたいということを強く意識しています。そのメッセージを伝えるためには、日本でのチャレンジがどうしても必要です。もちろん、それは一番困難な市場であるということも十分理解しています。しかし、一番難しい所にこそチャレンジするべきで、その取り組みを通じてグローバルカンパニーとしての体制を作り上げていこうと考えています。
――米国では人気のサービスでも、日本ではうまくいかなかった例もあります。中国で人気のサービスでもそれは同じことだと思うのですが、日本市場の特性であるとか、そういった点を中国本社はどの程度理解しているのでしょうか。
舛田氏:日本プロジェクトがスタートした時に、まず明確なルールとして設定したものがあります。百度は「User first, User Friendly」という理念を掲げていますが、他の国でのサービス展開にあたっても、やはりユーザーに近い所ですべてを判断していくべきだということです。従って、Baidu.jpのプロダクトについては、どのサービスを提供するのかといったことも含めて、すべて日本側で判断しています。
――中国ではなく日本が決定権を持っていると。
舛田氏:ロビン・リーの言葉を借りれば、「自分達は日本のことを知らない。知らない人間が判断することほどナンセンスなことはない。自分達が中国で成功した理由も、中国のユーザーや文化、そしてルールをどこよりも熟知していたからだ」ということです。画一的なグローバルスタンダードというのは、我々の考えるグローバルの展開ではありません。各エリアには違いがあり、個性があります。それを反映できるサービスにしようというのが、我々の考えるグローバル展開です。
――そうすると、中国の百度では多くのサービスを展開していますが、それをそのまま日本に持ってくるというモデルではないということですか。
舛田氏:日本のプロダクトチームがユーザーのニーズを分析して、その中で、あるプロダクトがBaidu.jpには必要だと判断した場合に、同じものがBaidu.comにもあれば、日本に持ってこようという話もあるかもしれません。ただ、その際にも言語だけを日本語にするのではなく、日本向けにきちんとローカライズすることが前提です。ですから、Baidu.comでどんなに人気のあるプロダクトであっても、日本市場に合わなければ日本に持ってくるという選択肢はありません。
● 「検索精度の向上」が最優先、そこから口コミでの広がりに期待
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舛田氏は日本での戦略について「まずは検索精度の向上が最優先」と語る
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――ユーザーに使ってもらうことでクオリティを高めていくということですが、多くのユーザーに使ってもらうための戦略は?
舛田氏:前提として、日本の検索市場の8割~9割はYahoo!とGoogleが握っています。しかし、複数のエンジンを使っている方も6割ほどいるというデータもあります。これは頻度は別にしての話ですが。ただ、そうした他の検索エンジンへの期待もあると考えています。我々はそうした期待を真正面から受け止めて、ユーザーが満足いかなかった部分に対して、Baidu.jpを使おうという戦略を取っていきたい。そういう意味で、我々がまずやらなければいけないのは、何よりも検索精度の向上です。
よく「他社とどのように差別化するのか」という質問をいただくのですが、目新しい機能や派手な機能を付ければユーザーが集まるとは思いません。検索エンジンに求められているのはやはり検索精度だと考えていますし、そこにはこだわっていきたい。それができなければ、何をやってもダメだと思っています。
――そうなるとまずはヘビーユーザー層にアピールする形になると思うのですが、それでシェアはどうやって獲得していくのでしょうか。
舛田氏:たとえばGoogleが日本に来たときにも、口コミで精度の高さが広がっていったわけですよね。もともと検索の精度に不満があったかというと、それほど表面化していたわけではなかったと思います。それでも、Googleが登場したことで、最初はヘビーユーザーからだったかもしれませんが、口コミで広まっていったわけです。検索サービスは、どの会社の結果が正解ということはありません。検索結果の順位は、各社の価値観によって付けられています。そういう意味では、我々はユーザーによりシンパシーを感じていただけるようなプロダクトを提供していきたいと考えています。
――検索精度をユーザーにアピールするのは難しいと思いますが、具体的にはどうするのでしょうか。
舛田氏:口コミ以外にはありえないだろうと思っています。検索エンジンが定着するためには、派手にCMを打てばいいというものではありません。ユーザーに使っていただいて、「なんだ、Baiduも案外使えるじゃないか」といったところからスタートするのが、正しい姿勢だと思っています。そのためにも、検索精度を上げていくことがまず重要です。
● 「遊ぶサーチエンジン」をキーワードに、日本独自の展開も
――検索精度の向上の他にはどのような戦略を考えていますか?
舛田氏:検索精度の向上に加えて、百度では「遊ぶサーチエンジン」というキーワードを掲げています。これは、Baidu.jpならではの、「これを調べるならBaiduだよね」と言われるようなサービスを展開していきたいと考えています。エンターテイメントであるとか、他社があまり力を入れていないけれどもユーザーニーズのある分野のサービスを展開していきたいと思っています。
――「遊ぶ」というのは、具体的には検索結果の見せ方を工夫するといった方向ですか。
舛田氏:結果の見せ方もそうですし、検索の前のプロセスでも、もっと楽しくしたり、ワクワクさせたり、まだまだいろいろできると考えています。あるいは、検索結果だけではなく、それを活用する方法についてもそうです。我々は本当の意味での検索ポータル、検索プラットフォームとして、ユーザーのニーズに合わせていろいろなプロダクトを展開していきたいと考えています。
――日本独自の取り組みとして「Baidu Lab」を立ち上げたということですが、これもその一環でしょうか。
舛田氏:日本市場では後発なので、いろんなチャレンジをしていかなければならないと思っています。もしかすると、「Baiduはふざけているのか」と思われるようなサービスも出るかもしれません。私はそれでいいと思っています。そこからユーザーと一緒に考えていって、その中でユーザーニーズにも合致するものがあれば、サービスとして提供していくという形もあるかと思います。
――日本独自ということでは、携帯電話向けのサービスについてはいかがでしょうか。
舛田氏:Baidu.comではモバイルサーチもやっていて、中国でもトップシェアです。日本でもモバイルサーチはもちろん重要で、若年層に対しては特に重要です。とても魅力的で、挑戦すべき市場だと考えています。モバイルサーチの分野はまだ各社とも試行錯誤の段階で、まだまだチャンスがあると思います。
――中国のサービスではMP3検索が人気があるということで、日本でもそうしたサービスを期待する声も多いと思うのですが。
舛田氏:まず、中国とは市場環境も違いますし、法律も違います。我々はローカルのルールに従うのが重要と考えていますので、当然日本で展開するサービスについては、それらを判断してということになります。
● ビジネスの話は、まずユーザーを獲得してから
――発表では、ビジネスについては2010年から取り組むという話でしたが、それまでは日本での収益は考えないということなのですか。
舛田氏:はい、そこにはこだわっていませんし、早急に求めるべきではないと思っています。現時点では、まずはユーザーのことだけを考えればいいとグループでは判断しています。日本市場は難しい市場ですので、まずはすべての力をユーザーのニーズを獲得するために注ぐべきだという判断です。
――日本でははまずは先行投資ということでしょうか。
舛田氏:ある種の先行投資ですね。ただ、昨今の状況を見てみますと、例えばYouTubeがそうですが、まずユーザーニーズを獲得しなければその先が無い、逆に言えばユーザーニーズさえ獲得できれば、ビジネスにはそんなに苦労しないという考えです。私どものサービスはプラットフォームでありメディアだと思っていますが、現時点ではまだ何の価値も無いメディアです。例えば広告を出したいというクライアントがいたとしても、我々はまだ価値をお返しできません。ですから、もっと我々の価値が高くなってから、一緒にビジネスをやりましょうというのが正しい姿勢だと思います。
――それまではビジネス面の話はしないと。
舛田氏:そういう意味で、2010年というのが我々が想定している、ユーザーニーズをある程度獲得できるだろうと考えているタイミングです。随分遅いという意見も聞きますが、そのぐらいはかかるだろうと思っています。
――日本では検索エンジンとしてどのぐらいのポジションを目指していますか。
舛田氏:目指しているのは、中国で8年前にBaiduを立ち上げてからのストーリーと同じものです。もちろん、当時と今の日本では状況が違いますし、Yahoo!やGoogle、Live Searchといった他社の存在もあります。ただ、他社を気にするというよりは、とにかくユーザーにきちんと向き合っていくことで、数字はその結果としてついてくると思っています。
関連情報
■URL
Baidu.jp
http://www.baidu.jp/
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( 三柳英樹 )
2008/01/31 13:54
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