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JPRS取締役の堀田博文氏(右)と企画本部担当部長の大橋由美氏(左)
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6月にパリで行われたICANNの会合において、インターネットのトップレベルドメイン名(TLD)の新設に向けた勧告が理事会で承認された。
現在、インターネットのTLDとしては、「.com」「.net」「.org」などの分野別ドメイン名と、「.jp」「.uk」のような国や地域ごとのドメイン名があり、前者は「gTLD(generic TLD)」、後者は「ccTLD(country code TLD)」と呼ばれている。
今回のパリ会合で承認された勧告は、このうちgTLDをさらに増やすためのものだ。ICANNではこれまでにも「.info」や「.biz」などのgTLDを追加してきたが、今後の勧告ではさらに多数のgTLDを追加することを想定しているという。
ICANNでは、どのような議論のもとにgTLDを新設しようとしているのか。パリ会合に出席した、JPRS取締役の堀田博文氏と企画本部担当部長の大橋由美氏に話を伺った。
● gTLDの新設は既定の路線、今後は数の上限を決めずにレジストリを募集
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これまでに新設されたgTLD(ICANNパリ会合の資料より)
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――gTLDを新設しようという話は、突然出てきたようにも見えるのですが。
堀田氏:歴史的な流れから言いますと、ICANNにおいてgTLDをさらに増やそうという議論は1999年頃から始まっています。そもそも、ICANNを作った目的の1つには、gTLDをもっと増やすべきだという意見が強まったこともあります。そうした中で、2000年にまず第1ラウンドとして、「.info」や「.biz」など7つのgTLDが新設されました。さらに2003年からは第2ラウンドとして、「.asia」や「.mobi」など6つのgTLDがこれまでに新設されました。
この2つのラウンドを通じて、さらにgTLDを導入しても技術的にも大丈夫だろうという話になって、新gTLD導入のためのポリシー勧告が2007年8月にICANNの理事会に提出されました。そのポリシー勧告が、今回の会合で理事会によって採択されたという流れになりますので、これまでの経緯からすると、今回、何か特別に驚くようなことが起こったとは感じていません。
――これまでの「.info」などと同様に、新しいgTLDのレジストリ(ドメイン名の管理を行う機関)を募集するという話なのですね。
堀田氏:そうです。従って、単に「新しいgTLDが自由に登録できるようになります」という言い方だと、少しニュアンスが違うかなと思っています。ICANNとはレジストリ契約を結ぶ必要がありますし、契約にあたっては運用が継続できるかどうか、財務はしっかりしているかといった、様々なチェック項目もあります。さらに言えば、勧告には書いてありませんが、申請料という形でお金もかかるはずです。
――申請料はいくらぐらいなのでしょうか。
堀田氏:過去の例で言えば、第1ラウンドの時は5万ドルでした。第2ラウンドはもう少し安かったと思いますが。また、ドメイン名の数に応じて、毎年ICANNに支払う金額もあります。ですから、「誰でも応募できます」というのはその通りなのですが、単にドメイン名を登録するのとは全然違う厳しさがあると思います。
――どのくらいの応募があると思われますか。
堀田氏:それはまだわからないですね。ただ、会合の場にも、やりたいという人はたくさんいました。そうしたgTLDを増やしてほしいという話がずっとある中で、これまでのgTLDの新設では、多数の候補から数個のgTLDだけが選ばれていました。今後は、実際の審査がどうなるかはまだ正式には決まっていませんが、一定の基準を満たせばOKということになると思います。
大橋氏:追加するgTLDの数の上限は最初から設けることはしないという点が、これまでと一番大きく変わったところだと思います。
● gTLD新設に向けて動き出したが、具体的な議論はこれから
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新gTLD導入のスケジュール案(ICANNパリ会合の資料より)
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――今回の理事会の決議によって、具体的にはいつ頃からgTLDの募集などが始まるのでしょうか。
大橋氏:今回、承認されたのはあくまでもポリシー勧告だけですので、具体的な話はまだこれからになります。ポリシー勧告は、「新gTLDは、秩序正しくタイムリーで、かつ予測可能なやり方で導入されなければならない」といった原則であるとか、「(ドメイン名の)文字列は他者の法的権利を侵害してはならない」といったような内容の、gTLDの新設にあたっての考え方をまとめたものです。スケジュールなどはまだ案の段階で、決議でも「事務局は引き続き実装計画やスケジュールについて検討を続けるように」という指示があるだけです。
現在挙がっているスケジュール案では、新gTLDの導入は2009年末には開始したいとしています。ただ、この通りに進めようとするなら、次のICANNの会合が11月にありますが、その時点で実装計画やスケジュールが正式に承認されなければ、スケジュール通りにはいかないでしょう。ですから、11月の会合では、より具体的な実装計画やスケジュールが出てくるとは思います。
――現在の案では、例えば「.sony」のように、企業が自分のTLDを登録することは可能なのでしょうか。
大橋氏:他者の権利を侵害してはならないということはポリシーに明記されていますが、権利を持つ企業自身が提案するのであれば問題ないと思います。その上で、レジストリとしての条件を満たしていれば、認められると思います。
ただし、レジストリであれば、ICANN公認レジストラを通じたサービス構造になるはずですので、1企業が自分のためのドメイン名としてTLDを用いることができるようになるかは、現時点ではまだわかりません。
――そもそもgTLDを増やすことについて、反対意見はないのでしょうか。
大橋氏:ブランドや商標を持っている企業の立場からすると、迷惑だという意見もあります。gTLDが増えれば、防衛的に、多数のドメインを登録しなければならなくなってしまうという考え方からです。今回のパリ会合でも、企業からそうした意見表明がありました。
――たとえばgTLDが200個になったら、たいへんですよね。
堀田氏:ただ、gTLDが200個になった時を想像すると、これまでとは少し違う雰囲気になるのではという気もしますね。200個を全部登録しなければいけないかと言うと、「.com」や「.jp」のようにユーザーに浸透しているものはともかく、そうでないgTLDまでは押さえておかなくてもいいかも知れません。
――まぎらわしいドメイン名のようなものは大丈夫なのでしょうか。
大橋氏:既存のTLDや、予約済みの名前とは類似してはならないということは、ポリシー勧告に明記されています。
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「新gTLD導入の具体的な議論はまだこれから」と語る堀田氏
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――英数字以外の国際化ドメイン名(IDN)についても並行して議論が進められていたと思うのですが。
堀田氏:今回の新gTLDにはIDNの話も入っています。「.会社」のようなgTLDですね。一方、ccTLDの方でも「.日本」のようなIDNを導入しようという議論があって、こちらは少し遅れていたのですが、今回のパリ会合でポリシーの提案書がccTLDのコミュニティと政府諮問委員会から提出されました。理事会としては、このポリシーの実装について具体的なプロセスを検討しなさいという決議になっています。
新しいgTLDと、IDN化されたccTLDの2つについては、どちらを先に導入しようという話は決議に入っていないのですが、理事の間では同時がいいだろうという話が出ていました。ですので、おそらく同時に行うという方向で検討が進んでいると思います。
――導入に向けての技術的な問題は解決しているのでしょうか。
大橋氏:2月のニューデリー会合で、導入に向けた課題についての報告書が事務局から出ています。その中では、DNSへの影響であるとか、運用や法的な問題などについて多くの課題が挙げられていました。そういう意味では、2月の時点ではまだ課題は多いという感じだったのですが、今回の決議は「実装可能であるとのスタッフの助言があったことを踏まえて、ポリシー勧告を採択する」となっているので、急に話が進んだと感じた人もいたのではないでしょうか。
堀田氏:この「スタッフからの助言」というのが、まだ正式な文書で出ていないのですが、たぶん会合で行われた事務局によるプレゼンテーションと同じ内容のものだと思います。その中では、gTLDの導入にあたっては、正式な異議を出すためのプロセスをきちんと整えるとしています。つまり、何か危なそうだったらみんなに文句を言わせることで、問題を解決していこうという考え方ですね。
大橋氏:ただ、会合でもその点について質問が挙がりました。正式な異議というのは誰が出せるのか、それが正式な異議であるという判断は誰がするのかとか、まだ決まっていないことはたくさんあるという感じですね。
堀田氏:ともあれ、導入に向けての議論の土台ができたことは間違いありません。これによって、具体的な議論はこれから活発になっていって、問題点の整理が進んでいくだろうと思います。
――ありがとうございました。
関連情報
■URL
JPRS
http://jprs.jp/
ICANN
http://www.icann.org/
ICANNパリ会合に関するサイト
http://par.icann.org/
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( 三柳英樹 )
2008/07/08 12:07
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