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新たな商品や言葉に「出くわす」ことができるデクワスとは
~発見型エンジンを開発したサイジニアの吉井伸一郎社長に聞く


 検索エンジンに続く新たな発見型エンジンが登場した。サイジニアが開発、販売しているデクワスがそれである。

 検索エンジンが、「言葉」をもとに関連するサイトや商品などを抽出するのに対して、コミュニティ・ディスカバリー・エンジンとされる「デクワス」は、利用者の行動履歴をもとに、人、モノ、情報に、「出くわす」ことができるのが特徴だ。サイジニアの吉井伸一郎社長に、デクワスが実現する新たな発見型エンジンの世界や、そして、デクワスの今後の方針などについて聞いた。


ロボット工学のビヘイビア・ベースド技術をネットに応用

サイジニア株式会社 吉井伸一郎社長。工学博士。2004年に北大大学院情報科学研究科助教授に就任。2007年に仲間3人と起業した
――「デクワス」の概要に触れる前に、まず、吉井社長がデクワスを開発した経緯を教えていただけますか。

 それならば、私の経歴からお話しした方がいいですね。もともと私は、北海道大学大学院で、ロボット工学を研究していました。当時、ロボット工学分野では、「ビヘイビア・ベースド(behavior-based)」によるアプローチが注目され、いわば人工知能や進化計算理論、機械学習といった方法論を、ロボットに活かそうとしていました。当時から私は、インターネットに、この方法論を応用することはできないかと考えていました。

 しかし、当時のインターネットの世界は、いかに多くの対象から、短時間に検索するかといった点に焦点が当たっており、この技術を活かすことができるアプリケーションドメインが存在していませんでした。

 そうこうしているうちに、ソフトバンクグループの1社であるソフトバンクコマースが、技術開発センターを設立し、Webサービスの研究を開始するという話があり、ソフトバンクに入社しました。ここではADSLの干渉問題の解決や、スイスに赴任し、ITUに対する申請の仕事なども経験しました。

 その時期を前後して、世の中では、複雑ネットワークが話題になりはじめた。最初にこれを知ったときに、大きな衝撃を受けましたよ。日本でも2000年以降、複雑ネットワークに関する書籍が登場してきましたが、私が、大学時代に取り組んできた方法論に、複雑ネットワークを組み合わせれば、ネットへの応用や技術の進化という点で、限界に感じていたものが一気に突破できるかもしれない。

 「これだ!」と熱いものを感じました。まるで「宝の地図」に出会ったような喜びでしたね(笑)。

――すぐに開発に着手したのですか。

 ソフトバンクでの仕事が一段落したところで、北大大学院情報科学研究科の助教授の話がきたんです。そこで、助教授の仕事をしながら、研究を進めることにしました。国立大学の助教授は、比較的時間の余裕がありますから(笑)。さらに、ソフトバンクや日本ユニシスで活躍していたエンジニアが、退職してこの研究に協力をしてくれた。

 そこで、2005年に、3人でサイジニアを立ち上げました。サイジニアの社名は、「サイエンス」と「エンジニア」を組み合わせた造語です。どんな「想像」も理論に落とし込んで思考するサイエンス力と、アイデアを具体的に「創造」するエンジニアリング力の結晶、という意味を持たせています。

 研究を進めているうちに、もう少し本格的にやるべきだろう、という話になり、2006年には、インターネット分野においてインキュベーションを行っている三菱商事の子会社、イノベーションキッチンの出資を得るとともに、2007年3月には、私自身、北大の助教授をやめ、サイジニア一本でやることにしました。


わずか数カ月で13社に導入~注目を集める理由

価格比較サイト「coneco.net」への導入例。ノートPCを表示しているが、推奨製品はノートPCとは異なるものが表示されている
――現在、デクワスは、何社に導入されているのですか。

 日米で13社に導入されています。本格的に営業活動を開始したのは、今年2月ですから、わずか数カ月でこれだけの実績を獲得したことになります。国内オンラインレンタルビデオ最大手の「ぽすれん」や、(東京・港)、株式投資家向けSNSである「みんなの株式」で導入していただいたほか、米国ではオンライン・ブライダル・ストアでも採用されています。

――なぜ、デクワスがこれだけ注目を集めているのですか。

 これまでのリコメンデーション(推奨)エンジンとは一線を画すものであり、サイトの運営者、利用者にとって、必要とされる情報を提供することができるからです。

 わかりやすい例をひとつあげましょう。amazon.co.jpでDVDなどを購入をした経験がある人ならばご存じかと思いますが、購入したいDVDタイトルを表示すると、「この商品をチェックした人はこんな商品もチェックしています」というように、推奨するDVDタイトルを表示してくれます。

 仮に、「スター・ウォーズ エピソード3」を購入しようと表示すると、その下には、スターウォーズの各DVDが推奨タイトルとして表示されます。

 しかし、よく考えてみると、スター・ウォーズ エピソード3を見た人は、すでに、スター・ウォーズのすべてのシリーズを見ている可能性の方が高い。利用者にとっても、購入したいものが推奨されているわけではないし、サイトの運営側にとっても、これでは多くの販売につながらない。なぜ、こういうことが起こるのかというと、キーワードをもとに、多くの人にとって価値があると判断された情報が、上位に表示されるためなのです。

 これに対して、デクワスは、利用者の「行動履歴」をもとに検索しますから、スター・ウォーズ エピソード3を購入した人のなかで、自分の行動履歴に近い人が、次になにを購入しているか、どんな情報を見に行っているか、といった観点から、利用者個人が欲しいと思われる情報を表示する。

 同じような行動をしている利用者の動き方に準じたものを表示することで、個人が本当に欲しいものに辿り着きやすくなる。サイトの運営側にとっても、スター・ウォーズシリーズという売れ筋タイトルだけではなく、あまり注目をされない、いわば「ロングテール」の商品を推奨し、販売行動に結びつけることができるというメリットがあります。

 あるサイトでは、ロングテール型商品の推奨が増え、マイナーコンテンツのコンバージョン率が大幅に改善されたという結果が出ています。ネットの特徴は、ロングテールビジネスができることにありますが、いまの検索エンジンでは、ロングテールのビジネスに最適化されていないともいえます。


デクワス最大の特徴~行動履歴をもとにして結果を導き出す

デクワス最大の特徴は、“行動履歴をもとにして結果を導き出す”という点にある
――なぜ、こうしたことが可能になるのですか。

 先にも触れたように、デクワスの最大の特徴は、行動履歴をもとにして結果を導き出すというものです。

 まずは、利用者のさまざまな行動履歴を観測します。サイト内で、どんな商品を検索したのか、あるいは購入したのかというだけでなく、どうWebサーフィンをしているのか、どんな書き込みをしているのか、別のユーザーとのコミュニケーションをどう図っているのか、ブックマークやクリックストリームはどうなのか、というように、さまざまな行動履歴を観測します。

 この行動履歴データをもとに、膨大な数の複雑ネットワークを形成することになります。ユーザー/アイテムごとに個別の視点で、コミュニティを抽出する。Aという人は、1と2の商品に興味がある、Bの人も1と2の商品に興味を持っていて、さらに3という商品にも注目しているというような情報が得られる。

 こうした分析データから、嗜好の近い仲間を発見し、デクワスのなかでコミュニティを形成する。このコミュニティの発見をもとに、より適切な情報を提供するというものです。その人自身の嗜好が変われば、より適切なコミュニティの中に組み込まれ、そこでまた適切な情報が提供される。

 こうしたことがリアルタイムで行われていますし、機械学習や進化計算理論を採用していますから、エンジン自身が自律的に学習することが可能になる。結果として、表示される内容は、その時々で最適なものに変わりますし、個人ごとに、表示されるものも違います。

 サイト運営側にとっては、サービスイン後、利用すれば利用するほど、自動的にパフォーマンスを改善することにつながる。あるECサイトでは、当初2%程度だったおすすめ商品のクリック率が、導入1カ月後には9%にまで改善できた。さらに、3カ月後には12%にまで上昇しています。つまり、長く運用するほど適切なおすすめ商品が表示される。よりクリックしたくなるものが表示されるようになるというわけです。


――キーワードやIDによるひも付けはしないのですか。

 それはありません。IDがなくても利用可能です。キーワードから検索していくと、どうしても、自分が知っている言葉や商品名しか入力できない。つまり、それ以外の言葉や商品に到達する可能性は極めて低い。言葉として知らなかったことや、形容しがたいことについては探しようがない。

 ここに、現在の検索の限界があります。

 ところが、デクワスでは、自分や他人の行動履歴がもとになっていますから、思いもよらない関連した言葉や商品に出くわすことができる。ユーザー体験の幅を大きく広げることができるのです。

 デクワスという名称も、この「出くわす」というところからきています。実は、ほかにも、 Patent Examination Transaction Assist Systemの頭文字をとった「PETAS」や、「Proact NAVI」などの名称を考えたのですが、デクワスがストレートで、一番わかりやすいかなと(笑)。

 しかも、デクワスは、テキストやメタデータから検索しているわけではなく、行動履歴さえ観測できればいい構造となっていますから、他の言語にも簡単に展開することができる。すでに米国のサイトで導入されたのは、言語フリーという特性を生かしたものです。

――自然文検索などは可能ですか。

 行動履歴をもとにしていますから、自然文による検索は不可能です。自然文検索は、まっくた別の技術であり、カテゴリーだと思っています。

 Webの世界を見渡すと、文字情報というのは、一部にしか過ぎません。動画や静止画、イラスト、音楽というようにさまざまなタイプのコンテンツがWebの世界には存在している。むしろ、文字情報以外の方が多いのです。文字を中心にした検索では、文字以外の検索をしようとすると、どうしても限界が出てくる。

 しかし、デクワスは、行動履歴によって判断しますから、どんな情報でも検索できる。デクワスが対象とする情報は、キーワードで検索するエンジンが対象とする領域よりも、遙かに広いといえます。


行動履歴観測だからこそ、目的のものに「出くわす」

――出くわす体験として、具体例を挙げていただくとどんなものがありますか。

 アダルトソフトの話で恐縮ですが、デクワスを導入していただいたDVDのレンタルサイトでは、一部のアダルトソフトに、ハリウッド映画のタイトルをもじったものがありました。

 メタデータでは、アダルト、洋モノなどの情報しかありませんし、キーワード検索では、きっと元となった作品などを検索するにすぎないでしょう。

 ところが、デクワスで表示すると、同様にハリウッド映画のタイトルをもじったアダルトソフトが並んだ。これは行動履歴を観測したからこそ、表示できたものなのです。

 当社では、複雑ネットワークを形成するための情報しか観測していませんから、実際に、誰が、どのタイトルを購入した、検索したという情報はわかりませんが、行動履歴をもとに表示することで、まさに、目的のものに「出くわす」ことができるのです。


――導入費用はどれぐらいかかるのですか。

 従量課金制と、売り上げに連動した成功報酬型の料金体系とを用意しています。従量課金制では、月額10数万円から導入することが可能です。成功報酬型の契約が多いかと思ったのですが、ほとんどの契約が従量課金制によるものですね。SaaS方式で提供していますから、10数行のコードを加えていただくだけで済むというのも大きな特徴です。あるeラーニングコンテンツサイトでは、最初にお話しをしてから、3日後にサービスインしたという例もありますよ(笑)。


今後の進化

デクワスのサーバー前で、共同創業者であるCDO(チーフ・テベロップロメント・オフィサー)の寒河江道博取締役(右)と吉井伸一郎社長
――今後はどんな進化を予定していますか。

 ひとつはマーケティングツールとしての進化です。ファッション業界などにおいては、トレンドリーダーをいかに探し出すかといったことがテーマとなっています。

 デクワスの行動履歴を分析することで、誰がいち早くトレンドとなったものに着目したかを見つけることができる。これをもとに、次のトレンドを予測するということもできます。

 また、よりパーソナライズを進めていきたい。iPodを購入した人に、イヤフォンの購入を勧めるのはいいが、イヤフォンを購入した人にiPodを勧めるというのはECサイトにとっては意味がない。パーソナライズを進めることで、こうしたことも解決できます。

 また、行動履歴から、オークションやSNSでの不正な動きを察知するといったこともできるようになるでしょう。

 最終的には、ディスカバリーサービスプロバイダーという形で、自らサイトを構築することも考えています。これは、2012年頃を目標にしています。

 10年前にYahoo!がディレクトリ型の検索サービスを開始し、その後、Googleがキーワードによる検索サービスで成長した。第3の検索サービスとして、デクワス(deqwas)が、ディスカバリー(発見型)サービスという形で位置付けられることを目指したい。

 ただ、ディスカバリーサービスは、これまでの検索サービスを置き換えるものではなく、併存しながら、使われることになると考えています。最安値のデジタルカメラを探すという使い方では、これまでの検索サービスを利用した方がいい。

 だが、付加価値のついた情報を入手したいという場合には、やはり信頼できる情報を得たい。一般的には、そういう場合には人づてに情報を得ようとしますよね。デクワスは、人の行動をもとにしていますから、付加価値情報を得ようという場合には適している。

 第3の発見型サービスとして世の中に定着することを目指して、デクワスを進化させていく考えです。


関連情報

URL
  デクワス
  http://www.deqwas.com/


( 取材・執筆:大河原克行 )
2008/07/11 14:33

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