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「6月から医薬品がネットで買えなくなる?」

~ケンコーコム後藤社長に聞く、医薬品ネット販売規制問題(後編)

eコマース自体が瀕する危機

日本オンラインドラッグ協会(JODA)理事長を務めるケンコーコム後藤玄利社長。2月24日から始まった厚生省の「医薬品新販売制度の円滑施行に関する検討会」の委員も務める
 「今回の件は、Eコマースの信頼性や将来性を、大きく揺るがしかねない側面を持っている」と後藤氏は語る。

 厚生労働省が公布した「薬事法施行規則等の一部を改正する省令」が、新薬事法施行の6月1日と同時に施行されれば、ネットユーザーは、医薬品をインターネットで購入する機会を奪われることになる。また、ネットで医薬品を販売している業者からは、憲法で保障される営業の自由を制限することになるとの指摘もある。

 後藤氏は、「各省庁の担当者やネットに対して理解が不十分な委員十数人による検討会などで“ネットは危ない”という思い込みから、法の範囲を超えるような省令が公布され、ネット販売ができなくなるという点が問題」だという。

 「これを認めてしまえば、国会審議を経ることなく、省令公布によりさまざまな権利制限が可能になるというおそれがある」と指摘する。今後、医薬品だけでなく、いろいろな商品がネット販売できなくなる可能性が出てくるというのだ。

 たとえば酒類の販売だ。「顔を見れば年齢がわかるけれど、ネットの向こうでは小学生が40歳と言って買っているかもしれない、などとなれば、お酒も対面でなければ売れないという話につながってしまう可能性もあるでしょう。」

 「薬に薬効と副作用があるように、あらゆるものにはプラス面とマイナス面の両方がある。ネットはユーザーの生活に大きな利便性を提供するが、同時に、悪用されることもある。しかし、それは決してネット特有なことではなく、他の物事にも当てはまることだ。だからこそ、ネットだからダメだと頭ごなしに決めつけるのはおかしい。そうではなくて、安全性をいかに高められるかに、知恵を絞るべきではないか」というのが後藤氏の主張だ。


ネット販売については一切触れていない改正薬事法

 元々は、2006年に改正薬事法が成立したところから話が始まる。最初の薬事法は1960年にでき、今回が約50年ぶりの大改正だった。改正薬事法は、2009年6月に完全施行される。ただし、そもそも改正薬事法自体には、ネット販売禁止などについては一切触れられていない。

 今回問題になっているのは、今年、2009年2月6日に厚生労働省から公布された「薬事法施行規則等の一部を改正する省令」だ。この省令により、現在はインターネットで購入できている一般医薬品のうち7割近くが購入できなくなるという。


厚生労働省がサイトで公開している省令の概要(PDF)。省令は2月6日に公布、改正薬事法が6月1日に施行するのと同時に施行する予定だ(赤線は編集部で付したもの、以下の図も同様) 改正薬事法では医薬品はリスクの高い方から、第一類・第二類・第三類の3種に大別される。第一類・第二類については対面で販売することが、この省令で規定された

第三類のみ、薬局・薬店などの実店舗を構える医薬品販売者が通信販売(郵便等販売)ができると省令は規定している 通信販売(郵便等販売に関する規定)として、第三類医薬品以外の販売を禁じることが、概要でも重ねて強調されている。しかし、改正薬事法ではこれについてはまったく触れておらず、省令ではじめて規定された項目となる

 当然、消費者が影響を被ることは必至だ。薬局などが近隣にない、あるいは身体に不自由があるなどの理由で医薬品購入をネット販売に頼っている利用者にとっては直接日常生活に影響する問題だ。

 省令案に対して厚生労働省は2008年9月17日から10月16日までパブリックコメントを募集。医薬品のネット販売等通信販売について寄せられた意見2353件のうち約97%、2303件が反対意見だったという。

 楽天やYahoo!がこの省令案を不服として、一般用医薬品の通信販売継続を求める署名を集めたところ、2月17日までに約50万件が集まった。これらの声を受けて、舛添要一厚生労働大臣は、問題を議論するため「医薬品新販売制度の円滑施行に関する検討会」を開催する意向を明らかにした。

 今回とくに問題とされているのが、国民にとって大切な問題であるにも関わらず、法改正作業の段階ではなく、その後の省令において、禁止事項が盛り込まれたという経緯だ。パブリックコメントも97%が反対であるのに、パブリックコメントを募集した厚生労働省がこれだけ多くの反対意見を押し切って規制強化の省令を出しているというのは理解しにくい。

 すでに省令は公布されたものの、今後、あらためて省令内容が見直される可能性はあるのだろうか。


ネットの方がより高い安全性を提供できる面も

 後藤氏の主張は、「利便性を取るか安全性を取るかという話ではないんです。我々も、医薬品の販売には安全・安心が最優先だと考えている。それにたとえば、ネットの方がいくつかの点ではより高い安全性を提供することができる」ということにある。

 「睡眠薬なら1人1個に限る」というような個数限定などは、コンピュータなら思い違いや見落としなどはなく、間違いなく制限することが可能だ。実際にケンコーコムでは社内の薬剤師の意見をもとに、こうした制限機能を以前から実装している。

 また、店頭では客がたて込む時間には遠慮もあって十分な情報を得られないことも多々あるが、ネットであれば、個々の医薬品の情報をじっくり比較検討し、さらに1つのネット店舗の情報だけに限らず、医薬品データベースで調べることもできる。ネットの方が、自分の都合に合わせて、豊富な複数の情報からじっくり判断することができるわけだ。

 ケンコーコムでは、2002年から医薬品のネット販売を始めているが、福岡の店舗に勤務する薬剤師が、ネットを介して顧客の医薬品に関する問い合わせなどに直接答えている。

 また、ケンコーコムは「インターネットによる服薬説明機能」を実装している。ネット上で医薬品や健康食品を購入する際に、アレルギーや年齢、妊娠などの質問に対して回答することで、その人がその医薬品を飲むことが適切かどうかシステムで自動的にスクリーニングし、回答内容に関する服薬説明が閲覧できるようになっている。


ケンコーコムでは、薬剤師の社員の意見を取り入れ、安全対策を進めてきた。解熱鎮痛剤のエキセドリンを買う場合は、まず商品ページで「1回に買えるのは1個まで」という断り書きがある エキセドリンをかごに入れると、「ご購入の前に」という画面が表示され、服用が禁忌とされる項目にチェックを入れると注意書きが赤字で表示され、同時に次画面に進むボタンがオフになり購入できない

服用に問題がある項目に該当しなければ、次画面に進み、副作用についてなどの注意書きが表示される 注意事項を読むと、次画面でやっと買い物かごが表示される。この画面でも、購入制限が1個の医薬品については、数量がプルダウンで1個しか選択できない。個数制限などでは、対面販売よりもむしろ確実だ

 購入の有無に関わらず、薬剤師に対してメールや電話で質問をしたり、適切な服薬方法を指導するなども行っている。メールや電話では店頭のように他の客や混み具合に気を使う必要もないので、店頭で対面で聞くよりむしろメールの方が気楽という人も多いだろう。

 また、ネット販売では顧客の履歴が容易に把握できる利点もある。店舗では何を何個売ったかは把握できても、誰に売ったかを把握することは不可能だ。

 ネット販売であれば、販売され始めた後で副作用の情報が新たに発表されたような場合でも、薬剤師が購入履歴から、ネットを介して該当する顧客に対して必要な情報を提供してすることもできるので、店頭販売よりもむしろ安心な点もある。


医薬品の流通全体としての取り組みも必要

 ケンコーコムが所属する日本オンラインドラッグ協会では、2006年に自主ガイドラインを策定した。ガイドラインはその後も改訂を重ね、2008年には、「安全・安心な医薬品インターネット販売を実現する自主ガイドライン」として、Webサイトでも公開している。

 「医薬品のネット販売に規制は要らないとはまったく考えていない。むしろ安全対策としての規制が必要だと考えている。ただ、それには一定のルールを行政側に示して欲しいと、これまで再三厚生労働省に訴えてきた。そのたたき台として提出してきたのが自主ガイドラインだ。」(後藤氏)。しかしそれらが検討会等で取り上げられることはなく、結果として規制を大幅に強化するのみの省令が公布されたことを「大変残念」だと述べる。

 ケンコーコムでは、前述の通り、以前から医薬品販売の個数制限をしている。「薬剤師が『安全に売るために必要』と会社に提案してきたので、取り入れた結果。できるだけ安全性を確保しようと、薬剤師の提案に関してはできる限り取り入れている」という。

 日本オンラインドラッグ協会に加入している薬局や事業者らも、自主ガイドラインに合致するよう、販売方法や情報提供の方法を見直したり、システムを構築するなど、独自の工夫を重ねているところだという。

 「ただし、ネットでいくら個数を制限しても、店頭をいくつか回れば多くの個数が購入できてしまうなら、あまり制限の意味がない。ネットのみの取り組みではなく、店頭も含め全体として、いかに安全・安心に医薬品を販売するかという取り組みが必要」だとする。

 今回の問題で世間に医薬品のネット販売の認知が高まったおかげで、日本オンラインドラッグ協会にもネット販売における心配や危険性を指摘する声が寄せられたそうだ。そこで、「それらを反映させてさらにレベルアップし、より安全な流通体制を作ろうとしているところ」だという。

 「今後、新しい技術を享受できるような薬事法ができるだけ早く再改正されるべきだし、通信販売などのあり方を薬事法の中で定義すべきでしょう」(後藤氏)。


ケンコーコムは安全対策でもっとも進んだサイトと言えるだろう。一方、ほとんどの医薬品通販サイトはというと、この画面のように個数制限などもまだできていない状態だ。ここは個数はプルダウン選択だが、自由入力で何百個でもかごに入れられる販売サイトもある 鎮痛解熱剤などは、通常は薬の成分やメーカー、副作用、販売者と問い合わせ先などが商品ページに記載されているが、まったく説明無しで販売しているサイトもあるのが現状だ。日本オンラインドラッグ協会も規制やガイドラインの必要性を認めている

検討会で省令の変更を望む

 ケンコーコムの売上において医薬品が占める割合は、全体の7%程度だ。そのうち売上全体の約5%が、今回の規制で販売できなくなる第2類の医薬品となる。「6月から省令通り施行され、ネットで販売できなくなる可能性もある」と後藤氏は語る。しかし、舛添厚生労働大臣が直轄の検討会を設置し、「検討会の結果次第では(省令の)内容が変わる可能性がある」と発言するなど、今後どうなるかは「現段階ではまったくわからない」(後藤氏)という。

 新たに検討会が開催されることに関して後藤氏は、「パブリックコメントが大きく後押ししてくれたと思っている」と評価する。「署名やパブコメなどでひとりひとりの方が主張していくことが大切です。一部の人の思い込みや偏った意見――また、たとえば特定の既得権益の団体が大きな声で言ったら決まってしまうというようなことがあったとしたら、数多くのネット通販などによって健康維持を図っている方々が被害を被ってしまいかねないと危惧しています」。

 検討会には、ネット業界から新たに日本オンラインドラッグ協会の理事長として後藤氏、楽天会長兼社長の三木谷氏の他、慶応大学総合政策学部教授国領二郎氏、全国伝統薬連絡協議会が参加する。伝統薬は通信販売の比率が高く、ネット通販と同様規制対象となるための参加だ。

 検討会のテーマは、(1) 薬局・店舗等では医薬品の購入が困難な場合の対応方策、(2) インターネット等を通じた医薬品販売のあり方、という2本立てとなる。しかし今回新たに参加する上記4名以外のメンバーは、前回の検討会とほぼ同じ顔ぶれであり、医薬品ネット販売を大きく制限しようという省令に反対する側がマイノリティなのは変わらない。

 後藤氏は、「検討会で今後必要なことが何かを把握してもらえば、完全な規制は防げるはず。そのために検討会で意見を述べたい」と決意を語る。


関連情報

URL
  薬事法施行規則等の一部を改正する省令の概要(厚生労働省、PDF)
  http://www.mhlw.go.jp/bunya/iyakuhin/ippanyou/pdf/gaiyou.pdf
  一般用医薬品販売制度ホームページ(厚生労働省)
  http://www.mhlw.go.jp/bunya/iyakuhin/ippanyou/index.html
  医薬品の販売等に係る体制及び環境整備に関する検討会報告書(厚生労働省)
  http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/07/s0704-14.html
  NPO法人日本オンラインドラッグ協会
  http://www.online-drug.jp/
  ケンコーコム
  http://www.kenko.com/


( 取材・執筆:高橋暁子 )
2009/02/26 10:33

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