「原点回帰で冷静な補償金議論の再開を」権利者91団体が訴え


左から日本音楽著作権協会の菅原瑞夫氏、実演家著作隣接権センターの椎名和夫氏、日本映画製作者連盟の華頂尚隆氏

 デジタル方式の録画機器に課金される私的録画補償金を徴収・分配する私的録画補償金管理協会(SARVH)が10日、デジタル放送専用のDVDレコーダー(以下、デジタル専用録画機)の補償金を納付しなかった東芝を提訴したことを受け、音楽や映像などの権利者91団体「Culture First」は同日、会見を開いた。SARVHの提訴を「至極当然」と支持するともに、補償金制度の見直しに関する議論を一刻も早く再開すべきと主張した。

 デジタル専用録画機への課金をめぐっては、文化庁著作権課が9月にSARVHからの問い合わせに答えるかたちで、「補償金の対象機器に該当する」との見解を表明。しかし、東芝側は「アナログチューナーを搭載しないデジタル放送専用の機器であることから、補償金制度の対象機器となるかの結論が出ていない」とSARVHに通告し、2月に発売した3製品に補償金を上乗せせず、納付期限である9月30日までに該当機器の補償金を納付しなかった。

 東芝のほか、パナソニックもデジタル専用録画機を5月に発売しているが、補償金を上乗せせずに販売していることが明らかになっている。SARVHではパナソニックとの話し合いを続けていく考えだが、もし納付期限の2010年3月末までに納付がなかった場合は、東芝と同様に発展することが予想される。

 補償金制度は、メーカー側が対象機器・媒体の価格に補償金を上乗せして販売するかたちで、消費者から徴収する仕組み。録画機器に対する補償金は、メーカーの業界団体である電子情報技術産業協会(JEITA)を通じてSARVHに支払われる。なお、現行の著作権法では、メーカー側に補償金徴収に関する協力義務があるとされている。文化庁の審議会では2005年以降、補償金制度の見直しの議論が続いていたが、現在は議論が中断した状態となっている。

メーカー通告容認で2011年に補償金制度が事実上廃止に

椎名氏
菅原氏

 10日の会見で実演家著作隣接権センターの椎名和夫氏は、「メーカー側の通告を容認すれば、2011年に地上波放送がアナログからデジタルへと完全移行する時点で、補償金制度の見直しに関する議論が決着しなくとも、事実上、補償金制度が機能を停止することを意味している」として、デジタル専用録画機の価格に補償金を上乗せしないメーカーの意向は到底容認できるものではないと主張した。

 なお、デジタル専用録画機への課金については、著作権法施行令の改正にあわせて2009年5月に文化庁が出した施行通知で、「デジタル専用録画機が発売されて関係者の意見の相違が顕在化した場合は調整を行う」と明記していた。この点について椎名氏は、「アナログチューナー非搭載の機器を現行制度の対象外とすることを述べたものではない」と指摘。その上で、現行法を無視するメーカーの主張は「手前勝手」と批判した。

 「権利者が法の下に与えられている権利を事実上否定して、その上で話し合いを行おうという姿勢が、はたして正当なものと言えるのか。法が存在する以上、法は尊重されるべきであり、将来の制度に対する意見は見直しの議論の中で述べられるべき。これらは明確に区別される必要がある。」(椎名氏)。

 日本映画製作者連盟の華頂尚隆氏も「独自の考えに基づいて現行法を無視するメーカーの不当行為は、『日本は法治国家なのか』という危機感すら覚える」と非難。「メーカーの行動は、義務を果たさず権利だけを主張する子どものわがままと同じレベル。マスコミには、こうした不当行為をただすべく、報道の力で厳しくしかってほしい」と訴えた。

 また、日本音楽著作権協会の菅原瑞夫氏も、メーカーは現行の著作権制度を順守すべきだと主張した。「現行制度においてDVDレコーダーは、補償金の課金対象機器となっており、それは録画ソースが何であっても例外はない」。SARVHが東芝を提訴したことについては「至極当然」と支持し、権利者として全面的にSARVHをバックアップする考えを示した。

原点回帰で一刻も早く問題解決を

華頂氏

 「コンテンツの保護と利便性の確保」で解決すべき課題は「至極明快」と語る椎名氏は、「ユーザーはコンテンツをできるだけ自由にコピーしたい。しかし、その度が過ぎるとコンテンツビジネスが痛手をこうむる。その問題を解決・調整するために現在採用されているのが補償金制度だが、必ずしもうまく機能していない」という「原点」に立ち返るべきと主張。その上で、関係者間の真摯な話し合いを冷静に一刻も早く再開すべきと訴えた。

 椎名氏は私的録画補償金制度の見直しにおける論点として、「メーカー側が補償金制度の機能停止を主張するのであれば、私的録画から権利者がこうむる不利益を補償しうる実効的な方法をメーカー側から提案すべき」と指摘。また、ダビング10環境下の複製についてメーカー側が「補償の必要がない」と主張するのであれば、権利者の不利益が存在しないことを証明しうる、客観的なデータを示すべきではないかとした。

 さらに、私的録音補償金制度の見直しにおける議論として、「現在無制限に行われている音楽CDからのコピーこそ『補償の必要性』がある」と指摘。その上で、補償金の対象機器であるMDが下火になり、補償金対象外である、iPodをはじめとするHDD/メモリ型音楽プレーヤーが台頭するなど、補償金制度と私的複製の実態のかい離が進んでいるにもかかわらず、「現在崩壊寸前の補償金制度の見直しに応じないのはなぜか」と疑問を呈した。

 補償金制度の見直しに関する議論については、華頂氏も「喜んでテーブルに着く」として歓迎する考え。ただし、その際にはHDD/メモリ型の音楽プレーヤーに加え、HDD内蔵型の録画機器、PCのHDDに対する課金についても議論すべきだとした。また、菅原氏は「補償金制度が最高の解決策とは思わないが、現状ではモアベターな制度。異論があれば、提案をいただきたい」と述べ、メーカーに対して協調を呼びかけた。


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(増田 覚)

2009/11/10 21:28