不便の声をヒットの種に～金曜午後はPC禁止、ヤフーが「スマホフライデー」

　“スマホファースト”を掲げ、全社を挙げてスマートフォン向けサービスを強化しているヤフー。そんな同社が「スマホフライデー」と銘打ち、9日13時から18時45分までの業務時間中はPCに触れず、スマートフォンとタブレット端末のみを使う取り組みを行った。“前代未聞”という全社員行事の狙いについて、執行役員チーフモバイルオフィサー（CMO）の村上臣氏らに聞いた。

FaceTimeを通じてインタビューに応じてくれた海外出張中の村上臣CMO

●社員の8割は苦い顔、微妙な空気に

　事の発端は10月25日にヤフー社内向けに行われた、定例の社員向け決算説明会。壇上の村上氏が突然こう切り出した。「11月9日にスマホフライデーをやります」。

　「社員の8割は苦い顔。微妙な空気だった」と振り返る村上氏。宣言直後は、「本当にPCを使えないのか」「業務に影響が出る」といった戸惑いの声が少なくなかったというが、“スマホファースト”を推進する新生ヤフーにとって必要な取り組みだと判断した。

　「ヤフーの社員はPC向けサービスを作るために入社した人がほとんど。スマホアプリの開発部隊もPCの画面を立ちあげて作っている。また、スマホでTwitterやFacebookを使っている社員でも、その他のサービスを使っているかというと、そう感じないときもあった。」

　なお、ヤフーは全社員に対して「新しいiPad（第3世代）」を配布しているほか、iPhone 5も順次、全社員の約4700人に配布している。

●「これは不便」を洗い出す

　スマホフライデーの狙いは2つ。まずは、スマートデバイスで社内外のサービスを徹底的に使いこなし、そこから出てくる課題点や改善ポイントを探すこと。次いで、スマートデバイスで業務を行うにあたって影響があるものを見つけて共有することだ。

　普段PCで使っているソフトやサービスがスマートフォンでは使えない――。こうした不満は織り込み済みだ。「デバイスに依存せずにブラウザー経由で動くアプリもある。この手の情報に詳しい社員とそうでない社員が、ノウハウを共有してもらうことも狙い」。

　村上氏はこうした不満の声にこそ"ヒットの種”が隠れていると語る。「不満という強い思いは、何かを踏み出す力。ウェブで流行ったサービスを見ても、不満を解消したり、欲求を実現するものばかり。こうした強い思いがアイデアのもとになる。」

　とはいえ、どうしても業務でPCが必要な場合は、上長の許可を得れば使用できるのだという。

村上氏からヤフー全社員に送られたメール

●只今より「スマホフライデー」開始を宣言します

　スマホフライデーが始まった13時。村上氏は、全社員に宛ててこんなメールを送った。「みなさん、PC業務はストップしましたか？　只今より『スマホフライデー』開始を宣言します」。

　社内では、複数台のタブレット端末を用意し、Bluetoothキーボードを操作するエンジニアや、iPadで資料を共有したり、メモ帳の替わりに使いながら会議を行う社員の姿がそこかしこに見られた。

　スマホフライデーで見つかった改善点は、社内専用のSNSに設けた専用ページに次々と投稿される。当日は500人以上がログインしており、「Yahoo!メッセンジャーのiPad版は？」や「業務アプリがスマートデバイス化されていない」といった声が続々と書き込まれた。

　「PCが使えない制約で何が起こるか。スマホだけを使っている人の立場になってみるのは新しい気付きがあるし、プロダクト開発に生かされるはず。全社員が実際にスマホを持って議論してもらいたかった。」

●前代未聞の全社員行事、洗い出された課題は爆速で解決を

　村上氏が構想を発表したのが10月25日、それから2週間足らずで実施に至ったスマホフライデー。企画を取り仕切ったスマートフォン戦略本部事業推進室の斎藤兼氏は、「防災訓練を除けば、全社員行事は前代未聞。弊社は“爆速”を掲げていますが、4000人の全社員に理解してもらうスピード感に苦労しました」と話す。

　スマートフォン戦略本部事業推進室室長の高橋僚介氏は、「反対の声もありましたが、腹をくくったのか、『じゃあどうするか』という空気に変わった」と振り返る。「うれしかったのは、この時間帯はスマホでこのサービスの使い勝手を議論しよう、といったグループができるなど、準備を進めるうちにどんどんポジティブな声が増えてきたこと」。

　高橋氏によれば、スマホフライデーを今後も継続するかは未定だ。まずはスマホフライデーによって見つかった課題を“爆速”で抽出し、その中で優先順位を付けて“爆速”で解決していきたいという。

スマートフォン戦略本部事業推進室の斎藤兼氏（左）と高橋僚介氏