ソフトウェア技術者連盟(LSE)は11日、ファイル交換ソフト「Winny」の開発者である金子勇氏を招き、「Winnyの技術とその到達点」と題するセミナーを行なった。セミナーではWinnyの技術的な解説に加えて、個人情報漏洩問題に対する金子氏の見解が語られた。
● ウイルスへの対処は可能だが、現状では身動きが取れない
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Winnyの開発者である金子勇氏
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金子氏は最近頻発しているWinnyネットワークへの情報漏洩問題について、「今回の問題は本質的にはウイルスの問題だが、Winnyの作者としてはこうした問題が起きていることは残念に思う」とコメント。根本的には、重要な情報を外部に持ち出せてしまうということと、ウイルスをダウンロードして実行してしまう人が問題であると指摘した。
また、「Winnyのウイルス」という言われ方もするが、出回っているウイルスは標準ではファイル名がすべて表示されないといったWindowsの仕様を狙っており、あえて言えば「Windowsのウイルス」だと指摘。PC内部の情報を流出させようとするウイルスは以前にも存在しており、Winnyが存在しなくても問題としては同様で、「Winnyさえ実行しなければ大丈夫」というのも誤った考え方だとした。
金子氏はこうしたウイルスに対しては、「(Winnyの)プログラムを数行書き換えるだけで、ウイルスへの当面の対処はできると考えている」という。しかし、Winnyの開発・提供を行なったことが著作権法違反幇助にあたるとして刑事告訴されていることや、逮捕前には京都府警が「今後、Winnyの開発・公開はしない」という趣旨の文書を提出するよう求めてきて、それに応じたことなどから、Winnyのアップデートは不可能な状況にあると説明した。
金子氏はウイルスへの対処について「協力を求められれば、やるつもりはある」としながらも、「そうした対策を取れば、それに対抗するウイルスも出てくる。そうなればバージョンアップを繰り返さなければならないが、裁判ではWinnyがバージョンアップを繰り返したことも問題とされている。ウイルスに対処し、Winnyが使いやすく安全になったら、それもまた幇助だと言われかねない」として、現状では身動きが取れないと語った。
Winnyネットワークへの情報流出が頻発していることから、セミナーには多くの報道陣もつめかけた。金子氏の裁判で弁護団団長を務める桂充弘弁護士は、「Winny自体がウイルスであるかのような報道がなされることもあるが、Winnyは情報漏洩のためのソフトではなく、ウイルスでもない。正しい認識に基づく報道をお願いしたい」と呼びかけた。
● 次のテーマは管理可能性とオープンソース
続いて行なわれた講演では、金子氏がWinnyの技術について解説した。金子氏は、「Winny1」は当時話題となったソフトウェア「Freenet」に触発されて開発したと説明。Freenetは匿名性を重視しているが、ネットワーク効率が良くない点が問題であると考え、効率性と匿名性を兼ね備えたP2Pファイル共有ソフトの開発を思い立ったという。
また、匿名性と効率性を兼ね備えた仕組みとしてはプロキシーサーバーがあり、これをP2Pファイル共有ソフトに取り入れることにしたと説明。ファイル本体ではなくインデックス情報だけを先にキーとして流通させることや、キーワードによるクラスタ化など、Winny1では転送の効率化を重視して開発を進めたとした。
続いて開発を始めた「Winny2」では、P2Pによる大規模匿名掲示板の実現が目標だったと説明。2ちゃんねるのような大規模な掲示板は常にサーバーの負荷が問題となるが、これをP2Pによる大規模分散システムで構築できないかという技術的興味から開発を開始したという。このため、ファイル共有の性能としてはむしろWinny1の方が優れていると語った。
警察による捜査・逮捕により、Winny2の開発はベータ7.1で停止しているが、考えていた機能のうち5分の1程度しか実装していない初期段階の状態で、次の目標は掲示板の管理機能の発展にあったという。当時のWinny2では、掲示板の各スレッドの管理者がそのスレッドのマスターファイルを保持する形となっていたが、マスターファイルを管理者のPCから独立させても管理可能とする仕組みを導入する予定だったという。
金子氏は、「これを応用すれば、ファイル共有の方も管理可能になり、現在流通しているファイルを変更・削除するといったことも可能になるのではないかと考えていた」と語った。こうした管理機能は、掲示板については確実に実装する予定で、ファイル共有については当時は可能性について考えていただけだが、現在ではファイル共有についても管理は可能だと考えているという。
Winny2に残された技術的テーマとしては、こうした管理可能性のほかに、オープンシステムとしての可能性を挙げた。Winnyでは、ソースファイルを公開しても匿名性の面では特に問題はなかったが、改造プログラムによりネットワークの効率が低下する可能性が排除できなかったため、当時はソースコードを公開しなかったという。
しかし、現在ではオープンソースで効率性を実現したBitTorrentがあり、オープンソースと効率性の両立は可能だと説明。次に現われるであろうシステムは、匿名性と効率性を兼ね備え、オープンソースにより開発が進められるものになるだろうと語った。
関連情報
■URL
ソフトウェア技術者連盟
http://lse.or.jp/
関連記事:本誌記事に見る“Winny流出”
http://internet.watch.impress.co.jp/static/index/2006/03/10/
■関連記事
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( 三柳英樹 )
2006/03/13 16:07
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