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実演家の視点で私的録音補償金制度を議論、メーカー負担を望む声

向谷実氏も登場

 実演家著作隣接権センター(CPRA)は15日、私的録音補償金制度に関する考え方を発信することを目的としたイベント「Creators To Consumers」を開催した。イベントでは「私的録音補償金制度について考える」と題するパネルディスカッションが開かれ、2007年度中に抜本的な見直しが行なわれる同制度の問題点が議論された。

 私的録音補償金制度とは、デジタル方式の機器・記録媒体を用いて音楽を私的目的で複製する場合、録音行為を許可する代わりに、権利者(作曲家や作詞家などの著作権者、歌手や演奏家、レコード制作者)に対して補償金を支払うこととするもの。

 ちなみに、著作権法第30条では、自由かつ無償で音楽を私的録音できると定められている。しかし近年、デジタル方式による複製技術が進歩して、市販のCDと同質の複製物が大量に作成できるようになったことから、著作者の被る経済的不利益を補償するためとして、1992年12月に著作権法の一部が改正。1993年6月に私的録音補償金制度が施行された。


補償金制度見直しでは「デジタル録音の実態を見据えた議論を」

日本芸能実演家団体協議会の藤原浩氏

補償金制度の問題点
 日本芸能実演家団体協議会の藤原浩氏は、私的録音補償金制度の問題点として、1)専用機に限るとの運用、2)支払い義務者をユーザーとする点、3)定率制の矛盾――という3点を挙げる。

 1)は、補償金の課金対象が、録音を主目的とした「専用機」に限られるということだ。補償金の課金対象となるものは、政令指定を受けているデジタル方式の機器や記録媒体で、家庭内で一般に利用されるものに限られる。本来の機能に付属する機能として録音機能が搭載しているものは「汎用機」とされ、補償金の課金対象から除外されている。藤原氏は、「専用機以外によるデジタル方式の私的録音が野放しになっていると指摘する。

 「MD以降、政令指定として認められたデジタル録音機器・機材は、CD-RとCD-RWのみ。しかし、CDレコーダーなど私的録音の専用機はほとんど存在せず、CDを録音する場合にはPCなどの汎用機が使われることが大半。にもかかわらず、PCは補償金の対象外となっている」

 2)については、現在の制度では私的録音補償金の支払い義務者が「ユーザー」と定められていることから、「私的録音をしないユーザーには課金できないというドグマがある」という。そのため、実際には多くの人が私的録音に使用している機器・機材についても、課金対象にできない現状があるとしている。

 3)としては、補償金の金額は機器・機材の販売価格の一定割合とされているが、最近では販売価格がオープン化したことから補償金の単価が下落していると指摘。記録媒体1枚あたりの補償金単価は、1995年の23.6円から2005年には3.71円に下落、「記録媒体がたくさん売れても、補償金の額は減るというねじれ問題が生じている」。

 藤原氏は、「補償金制度は、2007年度中に抜本的な見直しが行なわれる予定で、今年が正念場。専用機でなければ課金できないということでいいのか、支払い義務者をユーザー負担というかたちで維持すべきか、補償金を廃止する代わりにDRMが強化され、私的録音が制限されてもいいのかなど、デジタル録音の実態を見据えた議論が必要」と呼びかけた。


メーカー負担で補償金問題が解決する

実演家著作隣接権センター(CPRA)の運営委員で音楽家の椎名和夫氏
 CPRA運営委員で音楽家の椎名和夫氏は、文化庁の私的録音録画小委員会の検討課題として議論されている、私的録音が許される範囲について説明。それによれば、1)友達から借りた音楽CDを私的使用のために録音、2)レンタル店から借りた音楽CDを私的使用のために録音、3)違法複製物から私的使用のために録音、4)違法配信から私的使用のために録音、5)違法なネット配信から私的使用のために録音――という5つの範囲が小委員会で議論されているという。

 これらの問題に対して小委員会は、3)、4)、5)は「もともと違法なものからのコピー」という理由から、私的録音の範囲から外すことについて意見は分かれなかったとしている。しかし、1)と2)を私的録音が許される範囲から除外することについては、作曲家や実演家が反対しているという。

 「家族や友人に音楽CDのコピーをあげたりもらったりすることは、音楽を楽しむ習慣として根付いている。これらの私的複製を禁止する主張が出てきた理由は、現在の補償金制度ではCDやDVDなど音楽ソフトの売上減を埋められないと判断されたからで、CPRAでは正しいとは思っていない。こうしたことが問題になっていることを音楽ユーザーに伝えるために、今回のイベントを企画した」。

 補償金制度の抜本的な見直しについて椎名氏は、次のような理想像を示した。「映像や音楽などの製品の国内市場規模は、2006年予測で6兆円以上。これらの大半は、私的複製に関連した製品の売上が占めている。欧州先進国では、補償金の支払い義務者はユーザーではなくメーカーとなっているが、今後見直される補償金制度では、ユーザー、権利者、メーカーが私的録音によって得る利益を調整する必要がある。例えば、メーカーの売上から1%でも負担してもらえれば、補償金問題は解決すると思う」。


「デジタル複製=悪」という図式は疑問

IT・音楽ジャーナリストの津田大介氏
 「音楽はコピーされて広まることによって、音楽業界にも好影響がもたらされる」という持論を語るIT・音楽ジャーナリストの津田大介氏は、デジタル方式の私的複製を許可する私的録音補償金が、音楽業界に悪影響を与えるという考えに異論を示した。

 「デジタル方式の複製技術が著作者に対して大きな影響を与えているのは間違いない。しかしそれが悪影響ならば、デジタル技術の普及に伴い音楽業界の市場規模は縮小しているはず。にもかかわらず、CDが登場した当時と比べれば、業界の規模は拡大している。この事実をきちんと見るべき。私的録音補償金のせいで音楽業界が悪影響を受けているという矮小化された議論はすべきではない」。

 私的録音補償金管理協会によれば、補償金額は2000年の40億3,600億円をピークに下落の一途をたどり、2006年では8億8,500万円(予測)にまで落ち込んでいるという。補償金の確保が難しくなっている状況に対して津田氏は、補償金制度の廃止を検討して新たな制度を作るのが本音と述べたが、「補償金を支払わない代わりにコピーが制限されるよりも、補償金を支払うことで、多くの人に音楽を広められるようにすべき」と語った。

 私的録音録画小委員会では、補償金制度を廃止する変わりに、DRMによって私的複製を制限しようという議論が出ている。こうした議論について津田氏は、「自分で買ったCDをコピーする場合でも、せいぜい5回くらい。それだけで日常的にどれだけの被害があるのかは疑問だ。大量複製するわけでもないのにコピー制限されるのは、精神的に束縛をかけられた感じがする」として、DRMによるコピー制限に反対の立場を示した。


クリエイターのメタデータをCDに登録することで補償金を適正分配

音楽家の向谷実氏
 エンドユーザーが私的録音補償金を負担していることが大きな問題と語る音楽家の向谷実氏は、「国内のハードウェアメーカーは、欧米では私的録音制度に準じた金額を支払っているが、日本では『PCで音楽を録音する人はいない』といった論法を掲げて補償金を支払わない」として、椎名氏と同様、ハードウェアメーカーも補償金を負担すべきであると訴えた。

 「今年は補償金制度見直しの最後のチャンスだが、制度の必然性の可否も含めて、関係団体全員で討論すべき。その際には、我々権利者にも一声かけてほしい」。

 さらに向谷氏は、「補償金が対象アーティストに適正に分配されているかどうかも疑問」と語った。この発言に対して、実演家に補償金の分配を行なっているCPRAの椎名氏は、「CDの制作に携わったアーティストの情報が、メタデータとしてCDに登録されれば、適正にアーティストに補償金を分配できる。しかし、この分野の取り組みは遅れていて、課題となっている」と答えた。


“iPod課金”については一定の理解を示す

 会場からの質疑応答では、iPodなどのデジタルオーディオプレーヤーを課金対象とすることについて意見が求められた。

 これに対して藤原氏は、「私は課金してもよいと思っている。現在は、専用機でなければ課金対象にならないが、今後は、補償金制度の本来の原則に戻り、どのようにしたら公平な課金ができるのか考えるべき」と答えた。

 津田氏も「補償金制度を続けるのであればiPodは課金対象にするべき。iPodは汎用的に使えるが、ほとんどの人が(専用機として)音楽を聴くために購入している」と回答。ただし、「PCのHDDにも課金するとなると、ビジネスユースで使っているPCに課金することは乱暴すぎる」として、iTunesなど音楽を録音するソフトウェアに課金するアイディアを示した。

 ハードウェアメーカーが補償金を負担することについてパネリストらは、「納得できる落としどころの1つ」(津田氏)、「現状の制度では(メーカーからの)補償金を受け取るすべがない。そのあたりを論議すべき」(向谷氏)、「ユーザーを支払い義務者としている補償金制度は特殊、欧米ではメーカー負担が主流。この点は見直す意味がある」(藤原氏)など一定の理解を示した。

 こうした議論を受けて、アップルジャパンで法務を担当しているという傍聴者が、「Appleは欧州で補償金を支払っているが、欧州政府などに補償金制度を廃止する運動を進めている。現状の方針としては、日本法人だけでなくワールドワイドで補償金制度を支持していない」と発言。アップルが私的録音補償金制度に一定の理解を示していると認識していた向谷氏や椎名氏が、とまどう一幕も見られた。

 パネルディスカッションの最後には、アーティストの坂本龍一氏が寄せたメッセージが紹介された。「僕もいちリスナーとして、DRMのせいで非常に不便を被っています。なんとか、リスナーに不便をもたらさずに、クリエイターやプレイヤーの権利もきちんと保護される仕組みが出来ないものでしょうか。是非みなさんでよく話し合っていただきたい」。


関連情報

URL
  Creators To Consumers
  http://cpra-c2c.com/

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( 増田 覚 )
2007/03/16 21:10

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