2005年に、いわゆる“iPod課金”などを巡り議論された「私的録音録画補償金制度」は、抜本的な見直しが必要との結論に達したため、今期は文化審議会著作権分科会に「私的録音録画小委員会」を新設して検討することになった。その第1回会合が6日、都内で開かれた。
中山信弘氏(東京大学教授)が主査を務めるほか、土肥一史氏(一橋大学教授)や苗村憲司氏(情報セキュリティ大学院大学教授)、亀井正博氏(電子情報技術産業協会)、椎名和夫氏(日本芸能実演家団体協議会)、津田大介氏(IT・音楽ジャーナリスト)ら18人の委員で構成されている。
私的録音録画小委員会では、毎月1回のペースで議論を重ね、8月下旬に審議の経過を著作権分科会に報告する予定。翌2007年9月までには報告書案をまとめ、最終的には著作権分科会の審議を経て、2007年12月に正式な報告書として公表される見通しだ。
● 「そもそも補償金制度は必要なのか」を議論
私的録音録画補償金制度に関しては、2005年に文化審議会著作権分科会の法制問題小委員会(法制小委)が、1)iPodなどのHDD内蔵型録音機器などの追加指定、2)PCに内蔵したHDDやデータ用CD-Rなどの汎用機器・記録媒体の取り扱い、3)政令による対象機器・記録媒体の個別指定方式――などを巡り議論を重ねた。
特に1については、いわゆる“iPod課金”などとも報道され、ユーザーや著作権者、メーカーなどを巻き込み議論が白熱。法制小委では「現在の補償金制度はさまざまな問題点を抱えており、現時点でHDD内蔵型機器の追加指定は適当ではない」と、暫定的ながらもiPod課金の見送りを結論とした。
新設された私的録音録画小委員会では、こうした結論を踏まえて、私的録音録画補償金制度の必要性やあり方に踏み込んで検討する。第1回会合では、今後の検討課題として、1)そもそも、私的録音録画補償金制度のような「制度的な対応」が必要かどうか、2)必要であれば、私的録音録画補償金制度による対応か、それとも別の手段による対応か――が示された。
● DRMか、補償金制度か、それとも……
DRMによる制度を構築するか、現行の補償金制度を継続するか――。日本レコード協会などによると、音楽売上のほとんどを占めるCDはDRMによって保護されていないため、DRMで保護された音楽コンテンツの売上は、現状の1割にも満たないという。こうした状況では、報告書の期限となる2007年までに、私的録音録画に関する徴収をすべてDRMで行なうことは実現性が低いと言わざるを得ない。小六禮次郎委員(日本音楽作家団体協議会理事長)は「(DRMによる個別徴収だけでなく)“デジタル的どんぶり”が必要なのではないか」と指摘する。
一方、「1992年に導入された現行の補償金制度は、その時点ではバランスの取れた制度だったが、現在はDRMなどで個別課金ができるので考慮すべきだ」と小泉直樹委員(慶応大学教授)は言う。河野智子委員(電子情報技術産業協会)は「現在は、コンテンツと記録機がダイレクトに結び付いていた時代ではない。ビジネスモデルが変りつつあるので、共通認識を持つべきだ」とコメントした。
このほか、「DRMという言葉の定義を一致させる必要がある」(生野秀年委員・日本レコード協会専務理事)、「具体的にDRMの中身を検討していきたい」(椎名和夫委員・日本芸能実演家団体協議会)などと、2005年の法制小委では抽象的な議論に進みがちだったことから、具体的なDRM論に踏み込みたいとの要望も少なくなかった。
IT・音楽ジャーナリストの津田大介委員は「消費者は音楽CDやDVDを購入した時点で、聴く権利や視聴する権利を購入したという感覚だ。家でも聴きたいし、車の中でも聴きたい。でも過度なDRMによって保護され、自由に聴けない場合も多い。そういう音楽や映画は結果的に『聴かなくてもいいや』となってしまう。業界にとっても悪いことなのではないか。補償金制度そのものはユーザーの欲求を妨げるものではないはず。補償金制度に支払うことで、ユーザーの欲求が担保されるのであれば補償金制度にも意味がある」とコメントした。
補償金制度については「制度や法律で決めるべきではなく、マーケットに任せるべきではないか」(小泉委員)との意見もあった。苗村憲司委員(情報セキュリティ大学院大学教授)は、これまでは主に利用者と著作者の扶助関係を議論してきたが、著作物を大量に利用したり、たくさんの作品を制作している“大規模”なユーザーやクリエイターを、それほど利用しなかったり、作品を作らない“小規模”なユーザーやクリエイターが扶助している関係にも注目するべきだという。さらに松田正行委員(青山学院大学教授)は「iPodなどのHDD内蔵型機器と従来の政令指定機器とのアンバランスが生じている」として、引き続きiPod課金の議論を進めるべきだと主張した。
議論を進めるにあたり、「権利保護と利用促進という相反するものをバランスとることが非常に難しい。抜本的な検討が必要で、DRMなどの技術の問題もさることながら、経営やビジネスモデルの実態を見極めることが大切」だとして、できるだけ早い時点で関係当事者からのヒアリングを望む声が多かった。また、主要国の状況を知りたいとの意見や、法制小委での議論との連携も要望があった。
次回は会合は5月17日に行なわれ、課題ごとの検討に入る予定だ。
関連情報
■URL
私的録音録画小委員会の開催について
http://www.bunka.go.jp/1osirase/chosaku_180316.html
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( 鷹木 創 )
2006/04/06 16:57
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