文化庁の文化審議会著作権分科会法制問題小委員会(法制小委)の2006年第1回会合が30日、都内で開かれた。中山信弘氏(東京大学教授)が主査を務め、土肥一史氏(一橋大学教授)や苗村憲司氏(情報セキュリティ大学院大学教授)、茶園成樹氏(大阪大学教授)ら13名の委員が議論した。
● 今期の検討課題はIPマルチキャスト放送の扱いなど
|
第1回会合が行なわれた三田共用会議所
|
法制小委では今期、「新たな著作権法上の課題」として「IPマルチキャスト放送の著作権上の取り扱い」「罰則の強化」「税関での水際取り締まりに関わる著作権法のあり方」について審議し、6月上旬までに報告書をとりまとめる。
続いて、2005年1月24日の文化審議会著作権分科会で「著作権法に関する今後の検討課題」として示された「権利制限の見直し」「私的使用目的の複製の見直し」「共有著作権に関わる制度の整備」「各ワーキンググループにおける検討課題」を審議し、8月中旬までに報告書をとりまとめる。
その後、それぞれ意見募集などが行なわれ、最終的にはいずれも12月までに著作権分科会へ報告する予定だ。ワーキンググループについては「デジタル対応」「契約・利用」「司法救済」(いずれも仮称)の3グループを設置し、テーマに応じて検討を進める。
● IPマルチキャスト放送は「有線放送なのか、自動公衆送信なのか」
課題となっているIPマルチキャスト放送は「有線放送なのか、自動公衆送信なのか」という議論がある。有線放送と自動公衆送信とでは、著作権者と著作隣接権者から必要な許諾が違ってくるためだ。例えば、有線放送による同時再送信で商業用レコードを利用して放送する場合、著作権者の許諾は必要だが、著作隣接権者にあたる実演家やレコード製作者からの許諾は不要。一方、自動公衆送信による同時再送信の場合、著作権者だけでなく実演家やレコード製作者からも許諾が必要だという。
BBTVや光プラスTVなどすでに始まっているIPマルチキャスト放送(ただし、許諾の問題から地上波の同時再送信は行なわれていない)を考えると、ユーザーから見れば、IPマルチキャスト放送も有線放送も大した違いはない。だが、現行の著作権法では、有線放送を「公衆によって同一の内容の送信が同時に受信されることを目的として行なう」と定義する。つまり、サーバーから個々の番組を選択して視聴するIPマルチキャスト放送は、「公衆によって同一の内容の送信が同時に受信される」とは言えず、「公衆からの求めに応じ自動的に行なう」自動公衆送信に該当するというわけだ。
そもそも、IPマルチキャスト放送は通信回線を用いた「放送」サービス。いわゆる「通信と放送の融合」論でいうところの「伝送路の融合」にあたるもので、関係業界では、通信と放送の融合を進めるためにも、著作権法上で有線放送と同様に取り扱われることを要望している。また、2011年の地上アナログ放送の停波を前に、地上デジタル放送への全面移行が予定される中、難視聴地域における伝送路として、有線放送に加えてIPマルチキャストによる地上デジタル放送の再送信が期待されている。
こうした背景を受けて法制小委では、IPマルチキャスト放送の取り扱いを明確化するために著作権法を改正すべきかを検討。また、法改正を行なうとすれば、現行法や世界知的所有権機関条約(WPPT)といった国際条約などに照らし、法改正のあり方を探る。さらに、地上デジタル放送の再送信を円滑に行なうため、関係権利者団体などとの著作権契約のあり方も議論する。
● 法改正を視野に入れた意見も
法制小委に先駆けて3月1日に開催された著作権分科会では、IPマルチキャスト放送についてこんな意見もあった。「現在、レコード協会はネット流通に必要な権利許諾の一元化、簡素化のための集中管理を準備しており、同時再送信の円滑な導入に協力する。民間の取り組みで解決可能であるにもかかわらず、隣接権者の権利縮小のような法改正をするのであれば、文化の発展に反するのではないか」「CPRA(実演家著作隣接権センター)でもワーキンググループで検討を続けており、いろいろ協力できる」。
これに対して、法制小委の委員からは「チャンネルをAに変えればAが見られる。有線放送もIPマルチキャスト放送も同じと考えられないわけではない」「公衆という言葉を受信者全員と捉えるのでなく、多数の受信者と捉えればIPマルチキャスト放送も公衆によって同一の内容が受信されていると考えることもできるのではないか」などと法解釈に関する意見も出た。
また、根本的な問題として「有線放送とIPマルチキャスト放送の扱いが違うのはどういう根拠なのか」「(そうした根拠は)現行法上、維持できるものなのかどうなのか。今後も妥当なのかどうか」と、法改正を視野に入れた意見もあった。
第2回会合は4月5日に開かれる。IPマルチキャスト放送に関して、業界の有識者から意見を聴取し、議論を深める予定だ。
なお、2005年にいわゆる“iPod課金”などを巡り法制小委で議論された「私的録音録画補償金制度」については抜本的な見直しが必要との結論に達したため、今期は「私的録音録画小委員会」を新設して検討することになった。第1回会合は4月6日。IT・音楽ジャーナリストの津田大介氏ら18名の委員で検討を進める。
関連情報
■URL
著作権分科会法制問題小委員会の開催について
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/kaisai/06032302.htm
私的録音録画小委員会の開催について
http://www.bunka.go.jp/1osirase/chosaku_180316.html
■関連記事
・ 知財戦略本部、IPマルチキャスト放送促進に向けて著作権法改正を提言(2006/02/21)
・ 「日本をデジタルコンテンツ大国に」知財戦略本部ワーキンググループが提言(2006/02/02)
・ 文化審議会、“iPod課金”は見送りとする報告書を決定(2006/01/12)
・ 文化庁甲野氏講演「何がネットでのコンテンツ流通を妨げているのか」(2005/11/21)
・ 総務省、2006年よりIP網を利用した地上デジタル再送信の方針を明らかに(2005/07/29)
( 鷹木 創 )
2006/03/30 17:44
- ページの先頭へ-
|