趣味のインターネット地図ウォッチ

第86回:伊能忠敬と伊能図についてわかる事典サイト「InoPedia」開設


伊能測量隊の軌跡が見られる地図を公開

 江戸時代に「伊能図」と呼ばれる正確な日本地図を作ったことで知られる伊能忠敬。この伊能忠敬および伊能図の情報をまとめたサイトが開設された。有志で構成された「InoPediaをつくる会」によって作成・運営されており、会長は伊能忠敬研究会の名誉代表である渡辺一郎氏が務めている。

「InoPedia」トップページ

 「伊能忠敬と伊能図の大事典」というキャッチフレーズのこのサイトは、数ある伊能忠敬関連のサイトの中でもかなりの充実度を誇る。まずはトップページ左上の「伊能忠敬って?」をクリックして、伊能忠敬のプロフィールを見てみよう。ここでは忠敬の生誕にはじまり、隠居して測量の旅をはじめ、日本全国の地図を作り、死去するまでの歴史が「略伝」として年表にまとめてある。また、本人が死去してから伊能図が刊行されるまでの流れも記載されている。

 「居住した処」というコーナーをクリックすると、忠敬にかかわった人物に関する記事なども見られる。これまでに新聞や書物で発表された忠敬関連の記事からの抜粋がPDFファイルとして閲覧可能で、記事の内容を検索することもできる。

 プロフィールと併せてチェックしておきたいのが「測量術・測器室」のコーナーだ。ここでは伊能測量隊が行った測量の旅の軌跡と、その測量術について解説している。

 中でも「伊能測量隊の測跡」は必見だ。第一次から第八次までの測量ルートを日本地図上に赤線で入れており、その拡大図もPDFファイルにまとめてある。北海道から九州、伊豆の離島などをくまなく回った伊能測量隊の軌跡が詳細に記されているので、伊能図と照らし合わせながら見ていくとおもしろい。さらに、宿泊地のリストもまとめてある。


プロフィール紹介測跡を地図上で解説

測跡のPDFファイル宿泊地のリスト

伊能図の所蔵施設や史跡のリストも掲載

 測量術および測量器具の解説も見逃せない。「梵天(ぼんてん)」と呼ばれるポールや、道の傾斜を測る「小象限儀(しょうしょうげんぎ)」など、測量に使用された道具が絵付きで紹介されており、詳しい使い方が丁寧に解説されている。伊能忠敬の測量術だけでなく、測量の基礎についても学べるだろう。

測量器具の解説

 さらに、測量隊の各隊員の役割についても詳細に記載されている。これを見ると、測量隊はかなりの大所帯だったことがわかる。中には、磁石を狂わせないために作業中に刀を預かる「刀持ち」という役割の人がいたりと、細かい事実がわかっておもしろい。このほか、伊能測量隊の測量距離や旅行距離などの具体的なデータも読める。

 伊能図の解説も詳しく載っている。伊能図は大図・中図・小図とさまざまな大きさがあり、各地の記念館や博物館、図書館、大学などに散らばって所蔵されている。これらの所蔵施設の一覧リストが掲載されており、それぞれの施設にどんな種類の伊能図が所蔵されているのかも詳しく書かれている。これら膨大な数におよぶ伊能図の発見の歴史や、その内容も詳しく解説されているので、伊能図についての知識がない人も基礎から学べる。リンク集も充実しており、米国議会図書館へのリンクのページでは、アクセス方法のガイドも載っている。

 伊能忠敬関連の史跡巡りの情報も掲載されている。忠敬にゆかりのあるスポットや、生誕地公園、記念館、記念碑などのリストが載っているので、史跡巡りのガイドとしても役立つだろう。

 これらに加えて、子ども向けのコンテンツも用意。「小・中学生の勉強部屋」というコーナーでは、伊能忠敬と伊能図について、子どもにもわかりやすい文体で書かれている。


伊能測量の概要データ測量日記の原文

伊能忠敬研究会の会報からの抜粋記事関連史跡の紹介

サイト運営・作成の会員を広く募集

 なお、このサイトを作成・運営している「InoPediaをつくる会」は、有志のボランティアによって支えられている。現在、サイト作成や運営への協力者を求めており、サイト制作の仕事に携わっている人や、PCに詳しい人、古文書を読める人など、会員を広く募っている。正会員としてなんらかの役割分担ができる人は会費は無料となる。また、関心はあるけど忙しいという人は、賛助会員として費用面での協力も呼びかけている。

 会長の渡辺一郎氏によると、「InoPedia」の起ち上げを考えはじめたのは2006年ごろだという。当時、伊能大図214枚すべてを収録した「伊能大図総覧」が渡辺氏の監修により刊行された。このときは定価39万9000円という高価な本にもかかわらず、すぐに売り切れてしまったが、やはりこれだけの量の地図を世間に広めるには紙ベースでは限界があると思い、インターネット上での公開を思い付いたそうだ。

 「5月初旬にInoPediaが公開されたときは、初日に5000アクセスもありました。現在、サイト作成と運営をボランティアで手伝っていただける正会員を募集中ですが、すでに手を挙げてくださっている方も何人かいます」と渡辺氏。今後は伊能忠敬の測量日記の原文や現代文訳を収録したDVD/CDも発売する予定だ。また、海上保安庁蔵大図147枚の逐次公開も予定しているそうなので、より一層の充実が期待できる。伊能忠敬および伊能図に関心のある人は、ぜひ「InoPedia」に訪れてみていただきたい。


ミュージアムショップ渡辺会長による開設のあいさつ

関連情報



2010/5/20 06:00


片岡 義明
地図に関することならインターネットの地図サイトから紙メディア、カーナビ、ハンディGPS、地球儀まで、どんなジャンルにも首を突っ込む無類の地図好きライター。地図とコンパスとGPSを片手に街や山を徘徊する日々を送る一方で、地図関連の最新情報の収集にも余念がない。書籍「パソ鉄の旅-デジタル地図に残す自分だけの鉄道記-」がインプレスジャパンから発売中。