清水理史の「イニシャルB」

これぞバッファロー! Wi-Fi 7デュアルバンドルーター「WSR3600BE4P」はエントリー向け“だからこそ”の手抜きがないモデル
2025年5月12日 06:00
バッファローから、同社初となるデュアルバンド対応のWi-Fi 7ルーターが登場した。
手ごろな価格のエントリー向け製品だが、丁寧に作り込まれている印象で、Wi-Fi 6モデルを置き換えるのにちょうどいいモデルとなっている。発売前の試用機を借りることができたので、早速、使い勝手を検証してみた。
簡易化の流れの中でも、手間を惜しまない姿勢が伝わる
昨今のWi-Fi 7ルーターは、「簡易化」が隠れたトレンドになっている。
本製品にも存在するが、Amazon.co.jp向けの簡易パッケージ版をラインアップするメーカーが増えてきたうえ、従来モデルと筐体を流用するモデルも少なくない。紙のマニュアルのアプリ化も進められているし、各メーカーのモデルラインアップも絞り込まれている。
エコを意識した時代の流れと言うこともできなくはないが、厳しい市場競争の中、なかなかコストをかけられないという事情もあるのだろう。
そんな中、バッファローから新たに登場したのが、今回取り上げる「WSR3600BE4P-BK」だ。
Wi-Fiルーター市場で、現在、競争が激しくなりつつあるWi-Fi 7デュアルバンド対応カテゴリに新たに投入された製品で、実売価格1万円前後となるエントリークラスの製品となっている。
この製品、ひとことで言えば、「バッファロー感」がすごい。
「何を言っているのかわからない……」と思うかもしれないが、ちょっと聞いてほしい。前述したように、現状のWi-Fiルーターメーカーの多くは、激しい競争の中で製品構成や販売方法を見直し始めている。
そんな中、本製品は、パッケージから取り出してセットアップするという流れの中で、「あぁ、相変わらずバッファローだな(いい意味で)」と、安心感のようなものが伝わってくる。
もちろん、本製品にも時代の流れに合わせた変化は存在する。しかし、その中で購入者が置き去りになっていないというか、同社がこれまで積み上げてきた伝統と言えるものを土台としつつ変わろうとする姿勢が見える。
当初、実売1万円という価格を見たときは、「もっと簡易的な製品かな?」と思っていたのだが、むしろ小さなサイズもあって「バッファロー感」がぎゅっと凝縮されているような製品となっている。
小さいがアンテナは3本
それでは、製品をチェックしていこう。
無線の構成は、2882Mbps(5GHz帯)+688Mbps(2.4GHz帯)で、いずれも2ストリームとなっており、Wi-Fi 7ルーターとしては決して高性能ではない。
むしろ、6GHz帯が省かれていることで、Wi-Fi 7の特徴のひとつでもある320MHz幅(2ストリーム時最大5764Mbps)の通信には対応していない。このため、本製品は高いパフォーマンスを求めたり、たくさんの機器をつなげたりする環境向けの製品ではない。
有線は、WAN×1、LAN×3の構成で、いずれも1Gbps対応となっており、こちらも速度的には控えめだ。
項目 | 内容 |
価格 | 1万980円(エコパッケージ版) |
CPU | - |
メモリ | - |
無線LANチップ(5GHz) | - |
対応規格 | IEEE802.11be/ax/ac/n/a/g/b |
バンド数 | 2 |
320MHz対応 | × |
最大速度(2.4GHz帯) | 688Mbps |
最大速度(5GHz帯-1) | 2882Mbps |
最大速度(5GHz帯-2) | - |
最大速度(6GHz帯) | - |
チャネル(2.4GHz帯) | 1-13ch |
チャネル(5GHz帯-1) | W52/W53/W56 |
チャネル(5GHz帯-2) | - |
チャネル(6GHz帯) | - |
ストリーム数(2.4GHz帯) | 2 |
ストリーム数(5GHz帯-1) | 2 |
ストリーム数(5GHz帯-2) | - |
ストリーム数(6GHz帯) | - |
アンテナ | 内蔵3本 |
WPA3 | 〇 |
メッシュ | 〇 |
IPv6 | 〇 |
IPv6 over IPv4(DS-Lite) | 〇 |
IPv6 over IPv4(MAP-E) | 〇 |
有線ポート(LAN) | 1Gbps×3 |
有線ポート(WAN) | 1Gbps×1 |
有線ポート(LAG) | - |
引っ越し機能 | 〇 |
高度なセキュリティ | ネット脅威ブロッカー2 |
USB | - |
USBディスク共有 | - |
VPNサーバー | - |
DDNS | - |
リモート管理機能 | - |
再起動スケジュール | - |
動作モード | RT/AP/WB |
ファーム自動更新 | 〇 |
LEDコントロール | 〇 |
ゲーミング機能 | - |
サイズ(mm) | 43×148×133 |
その代わり、サイズはかなりコンパクトで、43×133×148mm(幅×奥行×高さ)となっている。Wi-Fi 7ルーターというとサイズが大きい印象があるが、本製品は手のひらサイズと言っていいコンパクトさで、従来品となるWi-Fi 6対応のWSR-3000AX4P(40×133×148mm)とほぼ同じになっている。
特筆すべきは、この小ささでありながら、何と3本のアンテナを内蔵している点だ。5GHz/2.4GHz共通×2、5GHz専用×1という構成になっており、5GHz帯で3本のアンテナを使えるようになっている。
前述したように、本製品の5GHz帯は2ストリーム対応の2882Mbpsなので、実際の通信に利用するアンテナは2本となる。なぜ3本搭載されているのかというと、使い分けるためだ。
Wi-Fiの電波は、遮蔽物などの影響によって、さまざまな経路で到達する。このとき、筐体内のさまざまな位置に配置された3本のアンテナのうち、電波状況のいい2本を選択することで、最適な通信状況を得られるわけだ。
おそらく大きなメリットを受けるのは、向きや位置が頻繁に変化するスマートフォンを使った通信となりそうだが、後述する筆者宅での検証のように水平方向だけでなく、垂直方向での通信でも高い速度を実現しやすいというメリットもありそうだ。
まさかの2色ラインアップで壁掛け対応
デザインはシンプルだが、Wi-Fi 7を表す「7」と「Buffalo」のロゴがあしらわれたものとなっている。製品写真だと、ロゴの色合いが強く、主張が激しいように見えるが、実機はもう少し色合いが薄く、思ったより目立たない印象だ。
本製品で感心したのは、ブラックとホワイトの2色をラインアップしている点だ(型番末尾の「BK」が「WH」となる)。同社は従来からエントリーからミドルクラスの製品で複数カラーのモデルを提供してきたが、簡易化が進むWi-Fiルーター市場では、もはや2色ラインアップは負担が大きい存在と言える。コストがかさむうえ、販売計画も難しくなる2色ラインアップを、この時代でもよくぞ実現したと、素直に褒めたい。
テレビの横などほかの家電の近くに設置する場合はブラック、玄関近くなど壁紙に合わせた色にしたいときはホワイトと、用途に合わせて選べるのが秀逸だ。
また、本製品に付属する台座は、縦置き時には底面に取り付けるが、背面にも取り付け可能となっており壁掛け用のフックとなる。こうした点も地味にコストがかかっている。
Wi-Fiルーター本体のサイズがWi-Fi 6対応モデルのWSR-3000AX4Pとほぼ同じなので、筐体は基本的に流用されているのかと思ったが、よく見ると角が丸く削られていたりと、思ったよりデザインが変更されている。一部、共通化されている部分もありそうだが、単純に筐体を流用するような設計は避け、実用性を保ちつつ、うまく新しいイメージを打ち出している印象がある。
余談だが、デザイン的には側面にある赤い横線のワンポイントにも注目してほしい。この手の製品に詳しい人なら、この赤いラインを見るだけでバッファロー製品であることがすぐにわかる象徴的なデザインだが、これは数年間から印刷になっている。
もちろん、かつては「AOSS」ボタンとして知られていた物理スイッチの名残だ。現状、AOSSボタン(WPSボタン)は、反対側の側面に移動している。
このように、筐体にしろ、ボタンにしろ、伝統を残しつつ「簡易化」を進めているあたりが、実にバッファローらしい。
見よ、この圧倒的な取説の物量を
この伝統と簡易化の共存は、取扱説明書にも表れている。
パッケージには、セットアップガイドや引っ越しガイド、困ったときは、セットアップカードなど、何と8種類ものガイドが同梱されている。
いや、本当に、これは、現状の簡易化の流れと真逆の発想だ。海外メーカーも、国内メーカーの手法をまねて丁寧なガイドを同梱するケースはあるが、さすがにここまでの物量はない。特に「引っ越し(同社製品同士での移行)」だけの専用取説が付属するあたりは、なかなか手間がかかっている。
おそらく、バッファロー製品、というか国内メーカー製品を購入する人は、こうした丁寧なガイドの存在を期待しているはずだ。価格の安いエントリーモデルでも、否、エントリーモデルだからこそ、こうしたユーザーの期待に応えようとしているのは素晴らしい。もはや矜持と言ってもいい。
もちろん、紙の取説など不要、と考える人も少なくないことだろう。同社は、その対策もしており、スマートフォン用の「AirStation」アプリを使ってセットアップする場合、設定の流れの中で接続方法を画面で確認できる。ランプが光らない場合など、つまずきやすいポイントもしっかり解説されており、かなり完成度が高い印象だ。
こうしたアナログ(紙)・デジタルの両面でのガイドも、コストに影響しそうなポイントだが、そこから逃げていない点に感心した。
こうきたか! 新発想のSSIDの使い分け
もうひとつ、個人的に興味深かったのは、SSIDの使い分けだ。
もともと、バッファローは複数のSSIDを積極的に使い分けるメーカーで、帯域や暗号化方式、ゲスト向けなどの複数SSIDを使うメーカーだった。複数帯域のSSIDを統一して逐次最適な帯域を自動選択する「スマートコネクト」などの機能を提供するメーカーが多い中、これも独自路線という印象だった。
今回のWSR3600BE4P-BKでも、SSIDは基本的に用途ごとに複数設定済みとなっているのだが、その使い分け方が少し変わっている。
以下は、本製品に同梱されているセットアップシートだが、3つのSSIDに対して「2.4/5GHz共通」「5GHz(通信速度重視)」「2.4GHz(到達距離重視)」と、カッコ書きで用途が記載されている。
3つあるSSIDのどこにつなげばいいのかをわかりやすく説明したもので、初心者でも安心で使い分けができる。
一体、どういう設定で使い分けているのかが気になったので、設定画面を見てみたところ、「2.4/5GHz共通」がWi-Fi 7のMLO有効のSSID(WPA3)、「5GHz(通信速度重視)」が5GHz帯専用でWPA2接続、「2.4GHz(到達距離重視)」も2.4GHz帯専用でWPA2接続となっていた。
要するに、実質的に5GHz帯は、Wi-Fi 7に対応したクライアント向けと、Wi-Fi 6以前に対応したクライアント向けでSSIDが分けられていることになる。「5GHz(通信速度重視)」に関してはWi-Fi 7対応クライアントで接続した場合でもWi-Fi 6相当(最大2402Mbps)でリンクすることを確認できたので、詳しい人ほど、「5GHz(通信速度重視)」接続時に近距離でも2882Mbpsでリンクしないことに「あれ?」と思ってしまうかもしれない。
このあたりの説明方法は、なかなか苦労が見えるところだ。確かに「MLO」用接続先と言ってもわかりにくいし、WPA2やWPA3と言われても、自分の使っている端末がどちらに対応しているか判断できる利用者も少ない。
個人的には、現状の説明だと違いがわかりにくく、設定画面を見たり、実際につないだりする必要あるので、「(MLO)」や「(WPA2)」と併記してくれた方がわかりやすいのだが、エントリーモデルという位置づけで考えると、そうはいかないのだろう。セットアップカードという限られたスペースで説明するのは困難かもしれないが、もう一工夫ほしいところだ。
3本アンテナの恩恵? 速度は優秀
肝心のパフォーマンスはなかなか優秀だ。以下は、木造3階建ての筆者宅の1階に本製品を設置し、各階でiPerf3の速度を計測した結果だ。Wi-Fi 7対応クライアントを利用し、「2.4/5GHz共通」と「5GHz(通信速度重視)」の両方のSSIDで検証した。
SSID | 方向 | 1F | 2F | 3F入口 | 3F窓際 |
2.4/5GHz共通 | 上り | 932 | 623 | 337 | 61.7 |
下り | 943 | 768 | 557 | 35 | |
5GHz(通信速度重視) | 上り | 946 | 673 | 363 | 160 |
下り | 945 | 739 | 569 | 255 | |
※単位:Mbps
※サーバー:Ryzen3900X/RAM32GB/1TB NVMeSSD/AQtion 10Gbps/Windows11 24H2
※クライアント:Core Ultra 5 226V/RAM16GB/512GB NVMeSSD/Intel BE201D2W/Windows11 24H2
※1Fのみクライアントを電源接続
有線が1Gbpsなので、最大速度は1階でも900Mbps前後となるが、2階でも上り600Mbpsオーバー、下り700Mbpsオーバーと速い。
特に、上りの特性が良好な印象だ。今回のテスト環境もそうだが、最近のノートPCは省電力のためにバッテリー駆動時に上りの電波の出力が抑え気味になる傾向があり、その結果、下りに比べて上りの性能が低くなる傾向がある。
本製品でも3階ではその傾向が顕著に出るが、2階に関しては、下り700Mbps台に対して、上り600Mbps台なので、上りの速度の落ち込み具合が低い。筆者の経験上、400~500Mbps台でもおかしくないが、その低下が抑えられている。これは、本製品の3本アンテナの恩恵かもしれない。
3階に関しては、最も遠い3階窓際の結果に注目したい。「2.4/5GHz共通」のSSIDに接続した場合はMLOによって、ここで5GHz帯から2.4GHz帯への切り替えが発生する。このため、速度も100Mbps以下と遅くなってしまう。
一方、「5GHz(通信速度重視)」は、5GHz帯を維持することで、下りで250Mbpsオーバーを実現できている。
セットアップガイドの説明に従うと、「2.4GHz(到達距離重視)」を選びたくなってしまうが、筆者宅の環境では5GHz帯を維持した方が高速なため、SSIDの選び方が難しい印象だ。
いずれにせよ、小型のエントリーモデルの割にパフォーマンスは高い。有線が1Gbpsで十分と割り切るなら、いい選択肢と言えそうだ。
価格以上の価値を感じられ、誰にでもおすすめできる製品
以上、バッファローのデュアルバンドWi-Fi 7ルーター「WSR3600BE4P-BK」を使ってみたが、エントリークラスとしては優秀な製品と言える。価格的には、さらに安い製品も存在するが、見えないコストがつぎ込まれている感じで、手間をかけて作られている印象を受ける。
高度な機能は有料になるが、ネット脅威ブロッカー2ベーシックにも対応しているうえ、EasyMeshにも対応している。サイズがコンパクトなので、EasyMeshの2台目として選ぶこともできるし、将来的に余ったら中継機として流用することもできる。価格も手ごろなので、誰にでもおすすめしやすい一台と言えそうだ。
※「WSR3600BE4P/N」は「WSR3600BE4P」の簡易パッケージ版同等製品です
本日20時からライブで語ります!
本日(5月12日)の20時から、YouTube「清水理史の『イニシャルB』チャンネル」でライブ配信を行い、清水さんに「WSR3600BE4PーBK」について語っていただきます。チャンネル登録のうえ、ぜひご視聴ください。(編集部)