清水理史の「イニシャルB」

バッファロー「WXR9300BE6P」、過剰さを抑え、Wi-Fi 7なのにコンパクトかつ軽量。3万円台でMLOを堪能できる優秀なモデル!

バッファローのWi-Fi 7対応ルーター「WXR9300BE6P」

 バッファローからWi-Fi 7対応ルーターの新モデル「WXR9300BE6P」が発表された。サイズも控えめ、価格も控えめながら、6GHz帯320MHz幅やMLOといったWi-Fi 7ならではの機能、必要なリソースが詰め込まれた製品だ。10月下旬からの出荷の予定で、すでにAmazonなどで予約販売が開始されているが、本誌では一足先に実機をお借りできたので、その実力を検証してみた。

過剰な部分を削り、ユーザーが求める部分を残す

 「Wi-Fi 7ルーターって、具体的にどんな製品なの?」

 もしそう聞かれて、“これがザ・スタンダードだ”と言える実機を挙げるとすれば、現時点では本製品「WXR9300BE6P」を、1つの選択肢と考えたい。

 これまでのWi-Fi 7ルーターは、いわゆるアーリーアダプター向けの価格も機能も過剰なモデルか、一応Wi-Fi 7対応だが価格のために機能を削りすぎたモデルの、両極端のイメージがあった。ようやく、ちょうどいい価格と機能を実現した製品が登場し始めてきたという印象だ。

 WXR9300BE6Pは、無線が5764Mbps(6GHz帯)+2882Mbps(5GHz帯)+688Mbps(2.4GHz帯)に対応したWi-Fi 7ルーターだ。

 速度から想像できる通り、本製品は6/5/2.4GHzの全ての帯域が2ストリーム構成と、割り切った設計となっており、絶対的な性能を追求するモデルというよりは、Wi-Fi 7の魅力的な機能をあますところなく使いきれる製品となっている。

 確かに4ストリーム対応の方が、複数台接続時の性能やメッシュ構成時のバックホール接続は有利だが、一般家庭であれば、そこまで同時接続台数に過敏になる必要もないので、実質的にはこのスペックでも十分すぎる印象だ。

 それなら、割り切って有線も2.5Gbpsくらいでいいんじゃなの? とも思えるが、本製品は1Gbps×4のLANポートに加え、10Gbps×1のWANポートも搭載している。

 これは、いたずらに10Gbpsという速度を誇示したいわけでなく、10Gbps対応の光回線によるインターネット接続サービスが増えてきた状況に合わせるべきという、実用面での配慮だ。ユーザーニーズをよく調査しているバッファローらしい発想と言える。

 価格のために過剰となりがちな部分は削りつつも、ユーザーが必要としている機能はしっかり残してくれている印象だ。

WXR9300BE6P 主なスペック
価格3万1480円
CPU-
メモリ-
無線LANチップ(5GHz帯)-
対応規格IEEE 802.11be/ax/ac/n/a/g/b
バンド数3
320MHz対応
最大速度(2.4GHz帯)688Mbps
最大速度(5GHz帯)2882Mbps
最大速度(6GHz帯)5764Mbps
チャネル(2.4GHz帯)1-13ch
チャネル(5GHz帯)W52/W53/W56
チャネル(6GHz帯)191~283ch
ストリーム数(2.4GHz帯)2
ストリーム数(5GHz帯)2
ストリーム数(6GHz帯)2
アンテナ外付け4本
WPA3
メッシュ
IPv6
IPv6 over IPv4(DS-Lite)
IPv6 over IPv4(MAP-E)
有線(1Gbps)1Gbps×4
有線(10Gbps)10Gbps×1
有線(LAG)-
USBUSB 3.2(Gen 1)
セキュリティ〇(1年無料)
USBディスク共有
VPNサーバーL2TP/IPsec
動作モードRT/AP/WB
ファーム自動更新
LEDコントロール
サイズ(mm)230×163×60

コダワリのサイズと外付けアンテナ

 それでは実機を見ていこう。本製品の第一印象は、Wi-Fi 7と10Gbps有線を、「よくこのサイズに収めたなぁ」という驚きだ。

正面、側面、背面
有線もWAN側が10Gbps対応

 Wi-Fi 7ルーターを使ったことがある人は経験があるかもしれないが、Wi-Fi 7対応ルーターの実機を手にすると、Wi-Fi 6以前の製品とのギャップが大きくて「でかっ!」「重っ!」と最初に感じることが多い。

 特に10Gbps対応モデルは顕著で、熱対策のために内部に巨大なヒートシンクを配置している製品が多く、思っているより一回り大きく、思っているより倍くらい重い。

 本製品は、このイメージがまったくの反対なのだ。

 ウェブページやオンラインショップの写真だと、スケール感が分かりにくく、ハイエンドモデルの「WXR18000BE10P」と同じくらいのサイズに思えるが、実は一回り小さいし、重量も1kg(!)近く軽い。なので、箱から取り出すときに、「あれっ?」といい意味で驚かされる。

サイズ・重量の比較
モデルWXR18000BE10PWXR9300BE6P
本体300×195×75mm230×163×60mm
アンテナ長さ201mm125mm(筆者計測)
重量1700g790g

 本機の筐体は、実は、既存のWi-Fi 6対応ハイパフォーマンスモデル「WXR-5700AX7P」とほぼ同じだ。家庭に設置する際に邪魔にならないよう、コンパクトさを意識して設計されたのだろうが、Wi-Fi 7対応でWi-Fi 6対応モデルと同じサイズを実現していることは、よくよく考えると驚異的だ。

 WXR-5700AX7Pは5GHz帯+2.4GHz帯のデュアルバンド対応だ。一方でWXR9300BE6Pは6GHz帯+5GHz帯+2.4GHz帯のトライバンド対応なのに、同じ筐体に収められている。

 しかも、前者は重量が830g。後者は790gなので、重量に至っては軽量化を実現してしまっている。6GHz帯のRFモジュールとか、アンテナとかどこいっちゃったの? と不思議でならない(どちらも10GbpsのWANポートを搭載している)。

 このあたりの開発秘話は、後日掲載予定のインタビュー記事を参照してほしいが、とにかく本製品は10Gbps対応のWi-Fi 7ルーターとしては、画期的なほどサイズや重量が軽減されており、見た目以上に手間とコストをかけて開発された製品になっている。

MLO時代のWi-Fiルーター

 また、本製品の特徴として、「MLO」がかなり重視されている点も注目される。

 MLOは、Multi-Link Operationの頭文字を取った技術で、Wi-Fi 7で採用された新機能だ。具体的には、6GHz帯、5GHz帯、2.4GHz帯の各帯域を組み合わせて、同時通信(MLMR)や帯域切替(MLSR/eMLSR)などのモードで通信できる。

 製品によっては、2.4GHz+6GHz、5GHz+6GHzなど特定の帯域の組み合わせしか選択できないなど、対応するモードが限られている場合があるが、本製品は現状想定されている主要なモードの、いずれにも対応できるのが特徴となる。

 具体的には、688Mbps(2.4GHz)+2882Mbps(5GHz)+5764Mbps(6GHz)の合計最大9334Mbpsで通信する同時通信モード(MLMR:主にメッシュのバックホール)にも対応しているし、688Mbps(2.4GHz)と5764Mbps(6GHz)とで待機しておきデータ通信時にいずれか空いている方を選択する切替モード(eMLSR:主にPCやスマホとの接続用)の、どちらでも利用できる。

 つまり、接続するエクステンダー、PC、スマートフォンなど、機器の違いを意識することなくMLOを利用でき、それぞれのパフォーマンスを引き出せる仕様になっている。

 しかも、標準で設定されているSSIDが「2.4GHz単独」「5GHz単独」「2.4+5+6GHz MLO」となっており、購入直後からMLO構成のSSIDに接続可能になっている。

WXR9300BE6PのSSID構成画面。MLO用のSSIDである「Buffalo-1500-WPA3」が標準で有効化されており、2.4+5+6GHzで構成されている

 既存のWi-Fi 7ルーターの中には、MLOが標準で無効化されている製品もある。おそらくまだ「MLOは時期尚早」という判断なのだろうが、バッファローはむしろ逆に「今こそMLO」と考え、標準機能として広めていく方向へ、一気に舵を切ったことになる。

 実際、現在の市場を見ると、iPhone 16シリーズ、Pixel 9シリーズ、Qualcomm FastConnect 7800シリーズ(Snapdragon X搭載のCopilot+ PC)、Intel Core Ultraシリーズ2(Inte BE201搭載機のPC)など、MLOでの通信が可能なWi-Fi 7対応端末が登場し始めており、時期的にもちょうどいい印象だ。

クライアントからの接続時の様子。MLO対応PCを利用すればMLOでリンクする。画面はeMLSR対応のIntel BE201D2Wなので、5GHz+6GHzの最大5764Mbps(6GHz/320MHz)でリンク
同じSSIDにWi-Fi 6E対応のIntel BE210搭載PCで接続した様子。MLOに対応していないので、バンドは6GHz帯のみに接続。160MHz幅で、最大2402Mbpsになる

MLOのメリットが生きるのは混雑時

 気になる実力だが、Wi-Fi 7らしい実力を備えている。ハイエンドモデルのWXR18000BE10Pほどパフォーマンスに振り切っていないが、Wi-Fi 6環境と比べると、十分に高速化を実感できる。

 ただし、詳細は後述するが、MLOの検証はかなり難易度が高く、結果が安定しない。今回の結果は参考程度に考えてほしい。

ルーター2台直結でのテスト

 まずは、次の図のようにWXR9300BE6Pを2台利用した直結の速度を検証してみた。MLOによる3バンド同時通信が可能なため、高速な中継速度が利用できると想定できる。

テスト環境
2台直結テスト(距離は3m程度)
方向速度(Gbps)
上り3.53
下り3.44

※サーバー:Ryzen3900X/RAM32GB/1TB NVMeSSD/AQtion 10Gbps/Windows11 24H2
※クライアント:Core i3-10100/RAM32GB/512GB NVMeSSD/ASUS XG-C100C/Windows 11 24H2

 結果は、iPerf3の実行速度で3Gbpsオーバーを実現できた。メッシュのバックホールなどを考えると1Gbpsの有線よりピーク速度は高いので、十分な性能と言える。

 個人的には、もう少し速度がほしい印象もあるが、おそらくテスト環境が影響していると考えられる。MLOの場合、実際にどの帯域を使って通信されるかはデバイス任せで、3帯域全てを使うのが理想だが、周囲の電波状況などに左右されやすく、必ずしも単純な合計で通信できるとは限らない。今回の結果は、実力が全て出し切れていない可能性もある。

ルーター1台―PCのMLOによる接続テスト

 続いて、WXR9300BE6Pを1台のみ利用した環境で検証してみた。おそらく多くの人は、この環境で使うケースが多いことだろう。いつもの通り、木造3階建ての筆者宅で、1階にWXR9300BE6Pを設置し、各階でiPerf3による速度を計測した。接続先はMLO用のSSIDを利用している。

テスト環境
1台構成MLO接続テスト
方向1F2F3F入口3F窓際
上り220040420843.8
下り237061424443.4

※通信速度の単位はMbps
※サーバー:Ryzen3900X/RAM32GB/1TB NVMeSSD/AQtion 10Gbps/Windows11 24H2
※クライアント:Core Ultra 5 226V/RAM16GB/512GB NVMeSSD/Intel BE201D2W/Windows11 24H2

 1階の同一フロアで実効2Gbpsオーバーを実現できており、なかなか優秀だ。2階も400~600Mbpsなので、こちらも十分速い。

 ただし、3階の値が振るわなかった。入口付近で200Mbps前後、最も離れた窓際は40Mbps前後となった。

 これは、MLOの影響だ。今回利用したクライアント(Intel BE201D2W)は、eMLSR(複数帯域で待機し転送は1つの帯域を選ぶ切替モード)に対応しているため、接続環境や接続タイミング(空いている帯域を選ぶ)によって通信に利用する帯域が変化する。

 接続状況を見ていると、3階入り口では2.4GHz+6GHzで1729Mbps、3階窓際では2.4GHz+6GHzで172Mbpsでリンクしていた。3階入り口は6GHzでリンクしているように見えるが、実効速度を見るとデータ転送時に2.4GHzが使われた可能性が高い。窓際は明らかに2.4GHzでデータを伝送しているようで、これが速度低下に直結していると考えられる。

 筆者宅では、長距離では6GHz帯は利得が低くなるため、2.4GHzが選ばれがちで、そうなると自然に最高速度も抑え気味になってしまった。

 環境が違えば、結果も変わる可能性が高いが、長距離で速度を優先するならMLOのSSIDではなく、5GHz帯のSSIDを指定して接続する方が有利かもしれない。

メッシュ構成のルーター2台―PCのMLOによる接続テスト

 最後に、Wi-Fi EasyMeshによるメッシュ構成でも検証してみた。1階と3階にWXR9300BE6Pを設置し、各階でiPerf3を実行したのが以下の結果だ。

テスト環境
EasyMesh構成MLO接続テスト
方向1F2F3F入口3F窓際
上り2140347841623
下り2130371104101

※通信速度の単位はMbps
※サーバー:Ryzen3900X/RAM32GB/1TB NVMeSSD/AQtion 10Gbps/Windows11 24H2
※クライアント:Core Ultra 5 226V/RAM16GB/512GB NVMeSSD/Intel BE201D2W/Windows11 24H2

 こちらも興味深い結果になった。上りを見ると、メッシュらしい結果が得られており、3階でも600~800Mbpsと、かなり高速化できている。

 しかしながら、下りは3階で100Mbps前後で、上りとの差がかなり大きい。

 リンク速度を確認すると、3階入り口も窓際も5GHz+6GHzの5764Mbpsでリンクしているので、クライアントとメッシュエージェント間は6GHzで高速だが、メッシュのバックホール(コントローラーとエージェントの間の無線区間)のMLO通信で2.4GHzが選ばれた可能性がある。

 上りは600~800Mbpsを実現できているので、バックホールに2.4GHz+5GHz+6GHzの合計(または5GHzや6GHzを含む組み合わせ)で通信できたと想定される。一方、下りのときは干渉などの影響でバックホールの伝送に5GHzや6GHzが使われず、2.4GHz単独で伝送されたのではないかと推測される。

 製品としての能力は600~800Mbpsあるが、MLOの帯域選択条件によっては2.4GHzが選択され、速度が低下するケースもあるという例になる。

MLOの検証は難しい……

 とまあ、こんな感じで、MLOの検証というのは非常に難しい。

 クライアントの特性で、どの帯域を優先するかも違うし、周囲の電波状況によって選択される帯域も変化するし、接続を切り替える条件も違うため、切り替わるタイミングも変わってしまう。

 実際、検証中も数分も経つと、クライアントの接続が5GHz+6GHzから2.4GHz+6GHzに変わる様子を確認できた。アクセスポイントの近くだと、安定して5GHz+6GHzの構成を維持する印象だが、離れた環境では切り替えの頻度が上がる印象がある。

 正直、環境を固定できないため、ベンチマークテストで信頼性の高い値を掲示しようとすると、恣意的な値を選択せざるを得ないことになってしまう。今回は、それを避けて、計測したままの値を掲載したわけだ。

 ただし、上記テストのように2.4GHz帯が選ばれることは、実用性と言う点では、正しいし、メリットもある。

 遅延を考えると、太い帯域の混雑や干渉が解消するまでデータの送信を待ち続けるよりも、細い帯域でもいいから先に通信を開始してしまった方が効率がいい。例えるなら、大通りが渋滞しているなら、徐行してでも細い脇道を迂回した方が結果的に早く目的地に到着できるようなものだ。結果的に同一空間中の電波の通信権を多く獲得できるメリットが勝る。

 このため、周囲で干渉が発生したり、接続するクライアントが多かったりする実環境では、このMLOの動作がメリットとして生きてくる可能性が高い。

 今回は一見すると異常値を含むようにも見えるテスト結果となったが、これこそMLOの複雑性が現われたものだ。MLOの本質は従来のiPerf3のような単独のスループットを計測するベンチマークテストでは測れない点を理解してもらえると幸いだ。

製品としてはかなり工夫されている

 以上、バッファローのWXR9300BE6Pを実際に試してみた。製品としては、かなり力が入った製品で、かけられている労力を考えると、正直、3万円という価格は安い。

 MLOに関しては、今後、端末が増えてくることで、組み合わせの最適化が進むのではないかと考えられるが、普通に使う分には、むしろ空いている帯域が積極的に選ばれるのでメリットは大きいだろう。

 機能面も充実しており、EasyMesh(MLOも利用可能)にも対応するうえ、「スマート引っ越し」機能によってバッファロー製品であれば古い機種であってもWi-Fi設定だけでなく、ISP設定やその他のWi-Fiルーターの設定を含めた設定を移行できるようになっている。また、セキュリティ機能の「ネット脅威ブロッカー2 プレミアム」も、1年間の無料ライセンスが付属している。

 さらに、紙のマニュアルだけでなく、AirStationアプリの画面上でセットアップガイドが表示されるうえ、同梱されたマニュアルに「アンテナガイド」が含まれており、マンションや3階建てなどケース別にアンテナの調整方法が細かく記載されている。

 使いやすさという点では、かなり優秀だ。冒頭でも触れたように、MLO時代を切りひらくザ・スタンダードと言える製品なので、Wi-Fi 7ルーターの購入を検討するなら、ハイエンド、ローエンドのどちらを考える人にとっても、候補に加える価値があるだろう。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 11」ほか多数の著書がある。