清水理史の「イニシャルB」
不具合修正目的で「Lenovo Yoga Slim 7x Gen9」にDellのドライバーを入れたら、ついでに320MHz幅で通信可能になった
2024年11月11日 06:00
サポート外であることを承知で、Lenovo Yoga Slim 7x Gen9に他社PC向けの最新Wi-Fiドライバーをインストールしてみた。当初は不具合修正目的だったが、結果的に謎の不具合も修正され、320MHz幅でもつながるようになり、Wi-Fi 7の実力をフルに発揮できるようになった。
他社は「緊急」で最新ドライバーが公開されているのに……
Intel BE201D2W搭載の320MHz幅対応PCを新たに購入したものの、MLOのテストでいろいろなチップを試す必要があり、以前に購入したLenovo Yoga Slim 7x Gen9の検証をしていた。
このPCは、QualcommのFastConnect 7800を搭載しているのだが、なぜか上り(PCからAP方向への送信)の速度が遅いという現象に悩まされていた。
そこで、こまめにファームウェアやドライバーの更新がないかをチェックしているのだが、発売以来、Windows Updateを実行しても特にドライバーが更新される気配はなく、メーカーのサポートサイトをチェックしても、Wi-Fi関連のドライバーの更新は提供されていないようだった。
Qualcommは一般向けに製品のドライバーを公開しておらず、搭載製品のメーカーから配布されるしくみになっているのだが、念のためFastConnect 7800のドライバーについて何か情報がないかとウェブを検索してみたところ、何と、Dell(8月30日付)とASUS(9月23日付)が、ARMプラットフォーム向けのFastConnect 7800の最新ドライバーを提供していることが確認できた。
▼Dellのドライバーダウンロードページ
Dell Qualcomm FastConnect 7800 Wi-Fi and Bluetooth Driver
▼ASUSのドライバーダウンロードページ
ASUS Vivobook S 15 S5507QA Driver
しかも、ASUSは「緊急」、Dellも「CRITICAL」のタグ付けがされている。Dellのページに掲載された情報によれば、以下のような内容が修正されていた。
修正内容:
- 同じチャンネル番号を使用してマルチリンク操作を使用すると、システムが応答を停止する問題を修正しました。
- クイック共有を使用してファイルを共有すると、Wi-FiまたはBluetoothが切断される問題を修正しました。
- 軍事信号またはレーダー信号が検出された場合の送信電力が正常でない問題を修正。
- ソフトウェア対応アクセスポイント(SoftAP)ホットスポットの使用時に送信電力が正常でない問題を修正。
- システムの使用時にWindowsのエラーメッセージまたは感嘆符が表示される問題を修正。
(Dell Qualcomm FastConnect 7800 Wi-Fi and Bluetooth Driverより。機械翻訳済み)
筆者の手元にあるPCのドライバーのバージョンは「1.0.4028.800」となっており、リリース時点から変更されていない。おそらく上記の不具合を抱えたままのバージョンなのではないかと推測される。
内容を見ると、特定の操作をした場合の不具合なのでメーカーによって対応が分かれた可能性はあるが、筆者のようにいろいろテストをする環境では、特にMLO関連の不具合を放置したくないところだ。
相当悩んだが、最悪リカバリーすればいいので、事前に復元ポイントがあることと、購入時に作成したリカバリー用USBメモリが使えることを確認した上で、ダメ元で上記のドライバーに更新してみることにした。
ASUS製ドライバーは失敗でシステム復元、Dellドライバーは成功
もちろん、サポート外になるのは確実なので、読者のみなさんは、絶対に真似をしないように注意して欲しい。
実際、筆者も初回は大失敗を経験した。
まず、日付が後のASUSドライバーをインストールしてみたが、これが大変だった。
同社が配布しているドライバーは、ディスプレイやオーディオなどのドライバーも含んだ統合パッケージになっており、インストールはできたものの、ディスプレイの解像度が変更され、カメラが認識しなくなり、デバイスマネージャーに警告が表示されまくる状況になってしまった。
仕方なくシステムの復元を使って、直近のWindows Updateをインストールしたタイミングまでシステムをロールバックして元に戻した。暗号化解除のBitLockerキーの入力も必要なので事前の確認が必要なうえ、そもそも復元ポイントがないと詰むので注意が必要だ。
続いて、Dellのドライバーを試すことにした。こちらはWi-Fiドライバーのみが配布されているが、上記の失敗から、インストーラーを使うのは避け、「Extract」でドライバーを展開後、デバイスマネージャーから手動でドライバーを更新した。
すると、無事に従来の1.0.4028.800から、1.0.4094.3000へと更新された。
MLOの動作で何か違いがないかを確認しようと、MLO対応のWi-Fi 7ルーター(バッファロー「WXR9300BE6P」)に接続してみて、驚いた。
なんと、320MHz幅でつながるようになっているではないか!
なぜ、Lenovoはこのドライバーを提供してくれないのだろうか? MLO関連の不具合修正だけでも重要だと思われるし、320MHzに対応となるなら、なおのこと配布してくれてもいいと思える。何か他の箇所で問題があるのだろうか?
思いがけず320MHz幅での接続が可能になったので、軽くiPerf3を実行してみたところ、以下のような結果になった。いや、速い。近距離ならシンプルに1Gbps前後、速度が上乗せされる印象だ。
また、旧ドライバーは上りが極端に遅い傾向がみられたが、これが改善されているように見える。ドライバーを入れ替えながら2回ほど検証してみたが、上りが明らかに速い。
ドライバーバージョン | 上り(Mbps) | 下り(Mbps) |
1.4028.800(160MHz幅) | 428 | 1440 |
1.0.4094.3000(320MHz幅) | 2110 | 2250 |
なお、FastConnect 7800は、どうやら省電力設定に敏感なようで、PCに外部電源をつないで給電している場合は上記のような速度が出るが、ケーブルを外すと極端に速度が落ちる傾向も見られた。
別件で、他社の技術者の方と雑談した際、LPIモードとVLPモードの切り替えがされているのではないか? というアドバイスをいただいたが、どうもその線が濃厚そうだ。電源ケーブルを外す=屋外で使う可能性がある、という判断によって、VLPモードで出力が抑えられている可能性がありそうだ。
このあたりは、謎が多いが、この仮説が正しければ、旧ドライバーは電源接続時でもVLPモードで動作していたのではないかと推測される。
しばらく使ってみる
以上、興味本位でドライバーを更新してみたら、320MHz幅でつながるし、謎だった上りの遅さの謎に迫れそうになるし、いろいろ面白い体験ができた。ぜひ、メーカーに正式なドライバーの配布をお願いしたいところだ。
なお、繰り返しになるが、サポート外になるため真似しないでほしい。筆者も復元ポイントやリカバリーできる状況を整えて実行したが、失敗すると、いろいろ苦労することになるので、メーカーのドライバー配布を素直に待った方がいいだろう。