清水理史の「イニシャルB」

間違いなく「320MHz幅対応のWi-Fi 7対応PC」が欲しいならココを見ろ! 足で稼いだ情報で最新PCの対応状況を深堀りする

店頭販売されているWi-Fi 7対応PCの技適番号を調査してきた(写真は筆者所有のPC)

 Wi-Fi 7に対応したPCが登場してきた。ただし、これらのPCのうち、Wi-Fi 7の最大の魅力とも言える320MHz幅での通信ができる機種は限られている。

 しかも、以前に本連載でも解説したように、320MHz幅対応の状況は複雑で、スペック表だけでは対応の可否を読み取れない状況となっている。そこで、実際に店頭に足を運んで、現物のPCの搭載モジュールや技適番号を片っ端から調べてみた。2024年8月4日時点、Wi-Fi 7対応となる10機種のうち、320MHz幅対応のPCは何台あるのだろうか?

※編集部注:「イニシャルB」は毎週月曜日更新ですが、調べた情報をできるだけ早くお届けしたいという清水氏の意向により、今回は水曜日に更新しています

PCをひっくり返しては目を凝らす日々

 先日、家電量販店のPC売り場で、じっくりとPCを見てきた。いや、PCを買うわけではなく、Wi-Fi 7の対応状況を確認するためだ。

 片っ端からPCをひっくり返しては、強めのリーディンググラスをかけて、小さな文字に目を凝らしながら、ブツブツと技適番号を暗唱している姿は、さぞかし怪しい人物に見えたことだろう(一店舗だと怪しすぎるので数店舗めぐった)。

 なぜ、そんなことをしていたのかというと、スペック上は「Wi-Fi 7対応」とされているPCであっても、Wi-Fi 7の機能を全て利用できるわけではないことが、わかってきたからだ。

 本連載の7月22日公開の記事でも解説したが、PCのWi-Fi 7対応状況は、ハードウェア+ソフトウェア(OS/Driver/UEFI)+技術基準適合証明(技適)の3つの要件が複雑にからみあっており、ややこしい状況になっている。

 中でも、6GHz帯で通信に使う帯域幅を従来の2倍の320MHz利用できる機能は、Wi-Fi 7の目玉とも言える機能だ。PCやスマートフォンの環境(アンテナ2本のストリーム環境)では、現状のWi-Fi 6の通信速度は最大2402Mbpsだが、320MHz幅が利用できると最大5764Mbpsの通信が可能になる。

 せっかくWi-Fi 7対応ルーターと合わせて、PCもWi-Fi 7対応にしようと思って最新機種を購入しても、「320MHz幅でつながらない」のでは、がっかりしてしまうだろう(160MHz幅接続時はPCやスマートフォンは2882Mbpsが最大)。

 しかしながら、この対応状況には、技術的な問題に加えて技適の問題が関係しており、スペック表を見るだけではわからない。PCに搭載されているモジュールや背面の技適番号を確認しないと、対応状況を確認できない。

 そこで、実機の背面で技適番号を片っ端から調べてみることにしたわけだ。

 メーカーに問い合わせるという手もあるが、技適番号を問い合わせても即答してくれるとは限らず、「そもそも320MHz幅とは……」「技適が……」と説明するのも大変なので、実機を確認してしまった方が早い。そこで、足で情報を稼ぐという力業に至ったわけだ。

 限られた機種ではあるが、対応状況は本稿で確認できるので、読者のみなさんは店頭であやしい行動をしなくても済むことだろう。

技術的・法的320MHz幅対応状況

 というわけで、下表が調査結果となる。2024年8月4日時点、店頭で確認できたWi-Fi 7対応PC(ほぼCopilot+ PC)10機種の結果を掲載している。

Wi-Fi 7対応PCの技術的・法的対応状況(編集部注:表中の文字が読みにくい場合は、クリックで拡大表示してご覧ください)

 表の見方としては、「320MHz技術的対応」と「320MHz法的対応」の欄が、両方とも「〇」となっているものが、320MHz幅での通信ができる“可能性がある(詳細は後述)”PCとなる。

 「320MHz技術的対応」は、PCに搭載されているWi-Fiモジュール(厳密にはモジュール上のチップ)が320MHz幅に対応しているかどうか、「320MHz法的対応」はそのモジュールが技適で320MHz幅の認可を得ているかどうかとなっている。

 結果を見ると、320MHz幅での通信が可能なPCは、意外と少なく、10機種中3機種のみとなった。

 ちなみに、DellのInspiron 14 Plusは、技適表示方法が本体印刷ではないようで店頭では技適番号を確認できなかった。まさか店頭でUEFI画面を確認するわけにもいかなかったので、ここでは不明としている。

なぜか独自の技適番号となるSurface

 興味深かったのは、MicrosoftのSurfaceシリーズだ。

 店頭で確認できたのは第7世代のSurface Laptop 13とSurface Laptop 15、第11世代のSurface Proとなる。いずれも、ネットワーク接続の画面で確認したところ(店頭モデルはデバイスマネージャーの起動が制限されていてできない)、搭載されているWi-FiモジュールはQualcommのFastConnect 7800となっており、ハードウェア的には320MHz幅に対応していることが確認できた。

 しかしながら、背面で技適番号を確認してみると、違和感があることに気付いた。その番号が、他のSnapdragon Xプラットフォームと異なるのだ。

 他のSnapdragon XプラットフォームPCは、Qualcommが取得したFastConnect 7800の技適番号が背面に記載されている。具体的には、QCNCM825の「003-230388」、QCNCM835の「003-240062」、QCNCM865の「003-230387」のいずれかだ。これは、内蔵されたWi-Fiモジュール(チップとアンテナのセット)で取得した認証情報を記載することで、メーカーがわざわざPC本体で新たに認証を取得しなくて済むため効率的だからだ。

 ところが、SurfaceはFastConnect 7800の番号ではなく、わざわざPC本体で独自の技適番号を取得している。

 技適の認証をWi-Fiモジュールではなく、PC本体で申請している理由は、おそらくSurface Proの仕様に合わせるために独自の形状のアンテナを採用しているからだろう。

 以下のiFixitの動画を見ると、Surface Proシリーズは、Wi-Fiモジュールのアンテナ端子につながれたケーブルが数センチで再び基盤へとつなぎこまれていることが確認できる。

Surface Pro 9 Teardown: The Most Repairable Surface In Years(YouTube iFixitチャンネル))

 通常のラップトップ形状のPCであれば、モジュールに接続したケーブルをディスプレイ側に配線してアンテナモジュールと接続されるが、2-in-1形状のSurface Proでは、こうした方法が採れないため、独自に設計されたアンテナが採用されていると考えられる。

 技適の認証は、アンテナをつないだ状態での電波特性を検証する必要があるため、認証もWi-Fiモジュール+アンテナの組み合わせで取得される。他のPCはQualcommが認証を受けたモジュール+アンテナを使っているため、Qualcommのモジュールの技適認証をそのまま使えるが、Surfaceシリーズはそうはいかなかったのだろう。

あれ? 320MHz幅の記載がない??

 まあ、ここまでは、違和感はあるものの大きな問題はない。問題は、その技適番号で認証情報を調べてみると、320MHz幅の記載がないことだ。

総務省の「技術基準適合証明等を受けた機器の検索」で検索してみると、160MHzまでの記載はあるが、なぜか320MHz幅の記載が含まれていない。

上記Surface Proの背面写真に記載されている技適番号「003-230345」の検索結果。160MHz幅までしか申請がない

 このため、他のSnapdragonプラットフォーム採用PCと同じFastConnect 7800を搭載しているにも関わらず、Surfaceシリーズだけ320MHz幅が法的に認可されていない状況になっている。

 技術的には可能だが、法的には不可という、ややこしい状況だ。

 実際に技適番号で調べてみるまでは、てっきり筆者も「同じFastConnect 7800なんだから当然320MHz幅に対応してるでしょ」と思い込んでいたが、実はそうではなかったわけだ。

 実際に目で見て調べてみるというのは重要だ。

 それにしても、320MHz幅の記載がない理由がよくわからない。前述したようにハードウェア的には対応しているのだから、検査機関に検証を依頼して、320MHz幅についての記載をすればいいだけの話だ。

 考えにくいが320MHz幅に対して何らかの技術的な課題があったのか、コストや時間の問題であきらめたのか、それとも320MHz幅について重要視していないのか……。とにかく謎としか言えない状況だ。

 いずれにせよ、Surfaceシリーズは、ハードウェア的には320MHz幅に対応できるにもかかわらず技適で320MHz幅が許可されていないというチグハグな状況となっている。

 もちろんSurfaceシリーズが後から320MHz幅で技適を取得することは可能だ。ただし、その場合、過去の事例(Intel BE200D2WやIntel BE200NGW)と同様に、技適番号が変更されるはずだ。

 この場合、残念ながら古い技適番号が本体に印刷されたモデルは、その対象外となる。メーカーが本体を回収して、印刷されている番号を書き換えない限り、新たな認証には対応できない。

 どこかのタイミングでモデルのリビジョンが変更され、店頭モデルの技適番号が変更されるかもしれないが、そうした情報が大々的に発表されることもないので、やっぱり店頭で、技適番号を目視して、技適情報を検索しないと、安心できない。

 筆者のような「絶対320MHz幅対応PC買いたいマン」であればそんな苦労もいとわないだろうが、技適番号から許可されている周波数帯をいちいち調べなければならないのは、好ましい状況とは言い難い。

Microsoftの技適認可番号
MicrosoftのSurfaceシリーズの申請状況。モデルごとに個別に申請されているが、いずれも160MHz幅までの対応となっている

あくまでも320MHz幅でつながる”可能性がある”だけ

 さて、ここまで紹介してきたが、前述したように、「320MHz技術的対応」と「320MHz法的対応」の欄が両方とも「〇」となっていたとしても、320MHz幅での通信ができる“可能性がある”に過ぎない点には注意したい。

 320MHz幅対応は、このほかOS、ドライバー、PCのファームウェアの対応が必要となっており、アップデートなどでこれらが適用されないと実際につながらない。

 実際、筆者が個人的に購入したLenovo Yoga Slim 7x Gen 9は、先の表のとおり、モジュールも〇、技適も〇だが、本稿執筆時点でもドライバーまたはファームウェアが320MHz幅対応していない状況で、実際にWi-Fi 7対応ルーターに接続しても320MHz幅ではリンクしない。

 ただ、アップデートを待てばいいので、時間の問題だと思いたい。さすがに提供されないということはないとは思うが……そろそろ何とかしてもらえないでしょうか?

モジュールレベルの対応状況

 最後に、Wi-Fi 7対応モジュールレベルでの対応状況も、下表にまとめておく。Qualcommのモジュール(QCNで始まる型番)が複数あるのは、モジュールの物理的なサイズの違いとなる。

Wi-Fi 7対応のおもな無線LANモジュールの技適番号

 以前調査したときは、Intel BE200NGWは対応していなかったが、新たに追加されていた。総務省の技適情報データベースは認可から番号検索が可能になるまで期間がかかるため、製品発売後に検索可能になるケースも多い。あくまでも2024年8月4日時点での検索結果となる点に注意してほしい。

 また、MediaTekのモジュールの場合、MT7925はハードウェア的に160MHz幅までしか対応していない。このモジュールは、最近登場したRyzen AI搭載のCopilot+ PCで採用されているので注意したい。320MHz幅通信が必要な場合は、MT7927を搭載したPCを選ぶことが重要になる。

320MHz幅にこだわるなら、慎重に調べてから買うべき

 以上、「複雑だ」とか「わかりにくい」とか言っているだけでは、話が前に進まないので、今回は実際に現場で対応状況を調べてみた。少なくとも、現状のPCの対応状況が明らかになっただけでも、調べた価値はあったかと思う。

 本稿の公開時点で発売されているPCの場合は、先の表を見てPCを買えば320MHz幅対応(の可能性がある)モデルを入手可能だ。

 しかしながら、今後の課題として、今回の調査結果にないPCついて、読者の方々がどのように320MHz幅対応を確認すればいいのか? という課題は残る。

 事前にメーカーに確認するという手もあるが、正直、話が複雑なので、窓口のオペレーターにスムーズに話が通じるとは考えにくい。仮に問い合わせをするなら、「搭載されているWi-Fiチップの型式を教えてください」「背面に技適番号は記載されていますか?」「記載されている場合は技適番号は何番ですか?」という問い合わせをするといいだろう。

 しかし、その手間を考えるなら、今回の筆者と同様、店頭で確認した方が早い。技適検索ページの読み取りも簡単とは言えないが、現状は地道に調べるのが確実だ。

 理想は、PCメーカーが320MHz幅対応の可否をはっきりとスペック表に明記してくれることだ。

 現状、PCのスペック表の記載は「Wi-Fi 7対応」「IEEE 802.11be対応」という記載のみとなっている。場合によっては、注意書きで「6GHz帯は国によって利用状況が異なる」ことなどが記載されるケースもあるが、320MHz幅対応の可否を読み取ることは通常できない。

 誰が見ても320MHz幅に対応しているか否かがわかる記載をしてほしいところだ。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 11」ほか多数の著書がある。