清水理史の「イニシャルB」

MLOは確認できるが、320MHz幅は…? 「Wi-Fi 7」正式対応のSnapdragon X 搭載Copilot+ PCを試した

FastConnect 7800+24H2でWi-Fi 7対応となったCopilot+ PC(Lenovo Yoga Slim 7x Gen9)

 Copilot+ PCとして知られるSnapdragon X Elite/Plus搭載機だが、実はWi-Fi 7に正式対応したPCでもあり、Wi-Fi 7の注目機能である「MLO」(Multi-Link Operation)が利用できる。

 既存のWi-Fi 7対応ルーターとの組み合わせで、5GHz+6GHz や2.4GHz+5GHzのMLOと、320MHz幅接続を検証してみた。

MLOで5GHz+6GHzのリンクを実現

FastConnect 7800+24H2

 現状(2024年6月末)、Copilot+ PCとして販売されているPCは全てQualcommのSnapdragon X Elite/Plusを採用した製品となっており、Wi-Fiに関してもQualcommのモジュールが採用されている。

 具体的には、「FastConnect 7800」というモジュールで、4096QAM、320MHz幅、MLOなどWi-Fi 7の機能をひととおりサポートしており、2x2のアンテナ構成(2ストリームMIMO時)で最大5.8Gbpsの速度を実現可能なハードウェアとなっている。

▼FastConnect 7800の製品情報
FastConnect 7800

 今回、筆者が購入したLenovo Yoga Slim 7x Gen9のハードウェアメンテナンスマニュアルを見ると、このWi-Fiモジュールがメイン基板に直付けされ、アンテナも2本接続されていることが確認できる。

ハードウェアメンテナンスマニュアルに掲載されているWi-Fiモジュール。FastConnect 7800がメイン基板に直付けされ、メイン基板から2本のアンテナが接続されている

 これに加えて、Copilot+ PCでは、Windows 11の24H2が先行して搭載されており、OSでの速度表示やMLOなどのWi-Fi 7関連の機能が正式にサポートされている。

 現行の23H2でも、4096QAMなどのOSが制御しないWi-Fi機能は利用可能だが、MLOが利用できなかったり、リンク速度表記が正しく表示されなかったりするケースもあった。こうした点が改善されていると考えられる。

 技適に関しては、FastConnect 7800(というかメイン基板そのもの)で取得しているようだ。Lenovo Yoga Slim 7x Gen9の場合、背面カバーに「003-230388」という技適番号がプリントされており、この番号で検索するとQualcomm QCNCM825という型式で取得していることが確認できた。

 内容を見ると、6.105GHz(31ch)と6.265GHz(63ch)の項目が記載されているので、320MHz幅の2つのチャネルも認証されていることがわかる。

技適の取得状況

MLOでもつながるが……

 それでは、Wi-Fi 7ならではの機能となるMLOを試してみよう。検証に利用したのは、アイ・オー・データ機器の「WN-7T94XR」エレコムの「WRC-BE94XS-B」だ。

アイ・オー・データ機器の「WN-7T94XR」とエレコムの「WRC-BE94XS-B」

 これらの機種は、ファームウェアのローダー表記に「IPQ90xx」という文字列が含まれることから、どちらもQualcommのプラットフォームが採用されることが推測されるため、相性がいいと考えたのが検証に使った理由だ。

 MLOに関しては、標準で「5GHz+6GHz」の組み合わせが有効になっている。使い方は、少々わかりにくいが、2.4GHz用に設定されているSSIDに対してMLO対応機器から接続することで5GHz+6GHzで接続される。

MLOの設定画面。標準では5GHz+6GHzが選択されている

 実際に試してみたところ、以下の画面のように「ネットワークバンド(チャネル)」に「5GHz(52),6GHz(1)」と表示され(カッコ内はチャネル)、5GHz帯と6GHz帯に接続していることを確認できた。

 ただし、「集計リンク速度(送受信)」を見ると、「2882Mbps」となっており、“5GHz「+」6GHz”の2つの帯域の速度の合計とはならなかった。

コマンドでも確認
アクセスポイント側の状態。同じMACアドレスの端末が5GHzと6GHzで接続していることを確認できる

 このケースのように、集計リンク速度が2882Mbpsの場合、合計ではなく、どうやら5GHz帯か6GHz帯の良好な方を選択しているようだ。

 実際にiPerf3で速度を計測しても、上り1280Mbps、下り1750Mbpsだったので、2882Mbpsリンクの範囲内の値となった。また、TP-Linkの「Archer BE805」で確認したところ、設定画面の表示から、5GHz+6GHzのMLO時に5GHzを利用していることが確認できた。

TP-Link Archer BE805でも検証。合計は2882Mbpsで同じ。確認時は5GHzを使っていることを確認できた

 MLOには、複数のモードが存在し、5GHzと6GHzの帯域を交互に使うのか(EMLSR)、独立して同時に使うのか(STR:メッシュ)、送信と受信で時間軸を分けて同時に使うのか(NSTR)で使い方が分かれる。

 アンテナなどに制約があるスマートフォンやPCなどのクライアントデバイスではEMLSRの利用が想定されているので、基本的には、この方式で接続されていると考えられる。

MLOの複数のモード。今回の例は、おそらくEMLSRで接続されている

▼インテルによる技術解説資料
Wi-Fiテクノロジー・ガイド

 そこで、利用する周波数帯を切り替えてみた。設定画面で、MLOで使う周波数帯を2.4GHz+5GHzに切り替えたところ、今度はリンク速度が3570Mbpsと表示された。2882Mbps(5GHz帯)+688Mbps(2.4GHz帯)なので、速度が合計されていることがわかる。

 速度の合計が必要な場合は、2.4GHz+5GHzの組み合わせで利用するとよさそうだ。ただし、2.4GHz帯はあまり電波状況がよくないので、どこまで実効速度に効果が出るかはわからない。今回は実効速度の検証まで手が回らなかったので、改めて検証してみたいと思う。

2.4GHz+5GHzの組み合わせ
「netsh wlan show interfaces」コマンドで詳細を確認可能

320MHz幅でつながらない……

 このように、FastConnect 7800搭載のCopilot+ PCを利用すれば、MLOをいち早く体験できるが、肝心の320MHz幅がつながらない……。

 前述したように、ハードウェアも対応済み、技適でも認証済みとなっているので、基本的には320MHz幅でつながるはずなのだが、アクセスポイントを変更しても(TP-Link Archer BE 805でも検証)、チャネルをいろいろ変えても160MHz幅の2882Mbpsでしかリンクしなかった。

6GHz帯での接続。320MHz幅でリンクしない。画面はアイ・オー・データ機器の「WN-7T94XR」だが、エレコムの「WRC-BE94XS-B」も同じ
TP-Link Archer BE805での接続状況。こちらも160MHz幅の2882Mbpsでしかつながらない

 筆者の経験では、320MHz幅でリンクしないケースは、PSC(Preferred Scanning Channel)という機能が関係している可能性がある。クライアントが接続可能なアクセスポイントを能動的に検出する際に、6GHz帯の全てのチャネルをスキャンすると時間がかかるので、限られたチャネルのみをスキャンする機能だ。これが有効になっていると、5、21、37、53、69、85、101、117、133、149、165、181、197、213、229のみをスキャンする。

 しかし、前述したように、日本では320MHz幅のチャネルとして、中心周波数6.105GHz(31ch、利用チャネルとしては1~61ch)と6.265GHz(63ch、利用チャネルは33~93)が想定されている。このため、筆者の推測となるが、PSCが有効になっていると、利用可能なチャネルとして320MHz用の1chや33chを認識できないのではないかと考えられる。

 というわけでPSCを疑ったのだが、今回検証に利用したアイ・オー・データ機器の「WN-7T94XR」とエレコムの「WRC-BE94XS-B」は、PSCの設定そのものが存在しないだけでなく、チャネルも「自動」設定時で、ほぼ確実に「1ch」が選択されるようになっており、上記の条件とは合致しない(手動で33chを選択しても320MHz幅は有効にならず)。

 このため、どうしてLenovo Yoga Slim 7x Gen9が320MHz幅でつながらないのかが、まったくわからない。

 考えられるのは、PC側のドライバーだ。現状のドライバーのバージョンは1.0.4028.800(2024/5/8)となっており、この後のバージョンの更新は提供されていない。

まぼろしの5764Mbps

 ちなみに、MLOの検証中、一瞬だけ、以下の画面のように「5GHz+6GHz(または6GHz+5GHz)」で集計リンク速度が5764Mbpsとなったのを確認した。

この値がまた謎だ。MLOのEMSRで6GHz帯が320MHz幅でリンクしたのか、それともMLOのSTRで2882Mbps(5GHz)+2882Mbps(6GHz)でリンクしたのかがわからない。

 なにせ一瞬だったもので、コマンドを実行したときには、もう2882Mbpsに戻ってしまっていた。

集計リンク速度が5764Mbpsとなったのを2回だけ見たが、どのような条件でなるのかがわからない

状況が安定するまで待ちかも

 以上、FastConnect 7800を搭載したWi-Fi 7対応のCopilot+ PCを検証してみたが、確かにMLOなどWi-Fi 7の機能を利用できるが、費用をかけて買い替えるほど魅力的か? と言われると、現状は疑問だ。

 どのPCを使うか? どのアクセスポイントにつなぐか? 設定はどうなっているか? ファームウェアのバージョンは? OSのバージョンは? ドライバーのバージョンは? など、条件の組み合わせが複雑すぎて、どの機能が、どういったケースで使えるのかが判断しにくい。

 もちろん、普通につないでインターネットを利用する分には、全く問題ない。また、Wi-Fi 7ルーターのメッシュで採用されているMLOも、同一ベンダー同士なら基本的に問題ない。

 しかし、PCやスマートフォンの場合、メーカー(チップベンダー)間の実装の違いが関係してくると、互換性の問題はかなり複雑になる。MLOのような高度な機能を活用したいと考えているのであれば、Wi-Fi 7対応PCを買うのは、もう少し様子を見てもいいかもしれない。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 11」ほか多数の著書がある。