清水理史の「イニシャルB」

Wi-Fi電波を活用して自宅を見守る!? “Wi-Fiセンシング”を実用化した新サービス「MAMOLEO ライトプラン」
2025年5月19日 06:00
関西地区で通信サービスやエネルギーサービスを提供するオプテージから、「MAMOLEO ライトプラン」(以降「MAMOLEOライト」と略す)という見守りサービスの提供が開始された。
家の中に設置した複数台のWi-Fiセンサー端末によって人が動いたときなどの電波のゆらぎを検知することで、家の中の見守りを実現するサービスだ。手軽に使えるだけでなく、プライバシーを保護しつつ、ゆるやかに家の中の活動を可視化できる新しい発想の監視ソリューションを試してみた。
注目の「Wi-Fi Sensing」をサービス化
オプテージのMAMOLEOライトは、「監視」や「見守り」といった分野に新風を吹き込むソリューションだ。
監視や見守りというと、カメラを使ったソリューションを思い浮かべる人が多いかもしれないが、今回のMAMOLEOライトはカメラではなく、Wi-Fiの電波を利用するのが最大の特徴となる。
「電波で見守り」と言われてもどういうことかピンとこないかもしれないが、これにはWi-Fiで使われている2.4GHz帯の電波を使って人の動きを検知するWi-Fi Sensing(IEEE 802.11bf)を利用する。
現状のWi-Fiもそうだが、電波を使ってデータをやり取りするには、その経路上にある壁による反射や遮蔽物などの影響、つまり空間の状態を把握する必要がある。
まっすぐ届く情報もあれば、壁で反射して遅れて届くデータもある。こうした情報はCSI(Channel State Information)と呼ばれ、通信速度などを決定するのに使われる。
Wi-Fi Sensingは、このCSIの変化を解析することで、経路上の空間で何が起こっているのかを判断しようという取り組みだ。例えば、経路上を人が横切ったときなど、通常時とは異なるCSIが計測されたときに、「経路上に何かがある」ということを判断できる。
つまり、センサーとなるWi-Fi端末を家の中の複数のポイントに設置し、その間を人などが通過したこと(CSIの変化)を検知することで、電波で見守りや侵入者の検知を実現できるというわけだ。
カメラによる監視の「見られている」感覚がない
Wi-Fi Sensingを利用したMAMOLEOライトの最大の魅力は、「見られている」という気持ち悪さがほとんどない点だ。
既存のカメラを利用した見守り・防犯ソリューションの場合、部屋にカメラを設置することに抵抗がある人も少なくないことだろう。万が一の場合に侵入者の姿を捉えられるかもしれないが、そうではない日常でも、常にカメラがあることを意識した生活をしなければならない。
一方、MAMOLEOライトは、そうした緊張感がない。
MAMOLOEライトは、あくまでも経路上の電波状態の変化しか記録・解析しない。家の中の生活や人の姿が直接的に記録されることがないのだ。
Wi-Fi Sensingの解像度は、利用する周波数帯域幅や解析の精度などに依存し、将来的には手の動きや人の呼吸などまで判断できるようになるとされているが、現状のMAMOLEOライトの場合は、人の移動(実測では3~4m前後)を検知できる程度となる。
つまり、MAMOLEOライトでは、「家の中で人が動いている」という状況や「どれくらい動いている」という状況は分かるが、それが誰なのか? どんな格好をしているのか? どこを見て、何をしているのか? といった細かな情報は記録されないわけだ。
死角なし、昼夜(明るさ)も関係なし!
それでは、監視の意味がないのでは? と思うかもしれない。もちろん、万が一の証拠という意味では、Wi-Fi Sensingは物足りないかもしれない。
このため、完璧な監視ソリューションを目指すのであれば、カメラなどとの併用を検討する必要がある。実際、オプテージのMAMOLEOではカメラを使った監視ソリューションも提供しており、こうしたサービスと併用できる。
Wi-Fi Sensingには、次のようなメリットがあるため、家の出入り口などはカメラで、全体は電波で監視するという使い分けを検討するといいだろう。
- 電波の届く範囲を広く監視できる
- ある程度の遮蔽物なら電波が透過できるため死角が少ない
- 光に依存しないため昼夜関係なく監視できる
また、同社はサービスと組み合わせて利用できる警備員の駆けつけサービスも提供しており、MAMOLEOライトの場合は1回30分5500円で利用できる。
つまり、広く、死角なく、電波で家の中を監視しておくことで、不在時にあやしい動きを検知したら駆けつけサービスを活用する、帰宅前に監視状況を確認し誰かいる気配を検知している場合は家に入らずに駆けつけサービスを利用する、といった使い方をするのが適している。
簡単に使えて、シンプルな設計
実際の使い方を見ていこう。
MAMOLEOライトプランは、月額1100円でWi-Fiセンサー2台が提供される。まずは、このセンサーを設定、設置する。
スマートフォンに「MAMOLEOライト」アプリ(iOS/Android対応)をインストールし、画面の指示に従ってアカウントを作成する。その後、本体底面のQRコードを読み取って設定を進めるだけでいい。必要なのは各センサーの有効化と、センサーの情報をクラウド上に転送するための既存のWi-Fiへの接続設定となる。
ポイントとなるのは設置場所だ。Wi-F Sensingでは、センサー間でやり取りされる電波の状況(CSI)がベースになるため、検知したい領域を対角線上に挟むように2つのセンサーを配置する必要がある。
廊下や階段、リビング、見守りならトイレなど、人が通る場所をカバーするように2つのセンサーを配置しておこう。
これで、自動的にセンサー間を人が通過した状況などが記録され、アプリの検知履歴から日別に時間帯ごとの検知状況を棒グラフで確認できる。グラフが高いほど、活動量が高いことを示している。
外出する場合は、アプリのボタンを[防犯]に切り替えるだけでいい。これでセンサー間で人の動きだと思われる「あやしい動き」が検知された場合に、アプリに通知される(過去の通知は通知履歴から確認できる)。
実際、どれくらいの感度なのかが気になったので試してみた。家にいる状態で、あえて防犯モードに設定し、しばらく椅子に座ったままじっとしていた。この状況では、人は家の中にいるものの動いていないので検知はされない。
続いて、椅子から立ち上がり、3~4mほど歩いてみた。すると、アプリの画面上で「あやしい動き」が検知されたことが表示された。
前述したように、Wi-Fi Sensingではアクセスポイント間の電波の状態の変化を検知するので、人が通信エリアを横切るなどの動きがあった場合に検知されることになる。
もちろん、過去の履歴も参照可能で、通知の履歴に関しては、「動きがある」状態だけでなく、「動きがなくなった」状態も通知される。
例えば、不在時にあやしい動きを検知した状況のまま帰宅したとしても、中に誰かがいるのではないか? と不安になって中に入ることを躊躇してしまう。しかし、本製品では、動きがなくなったことを通知してくれる。もちろん、動かずじっと潜んでいる可能性はあるため、完全に安心できるわけではないが、チャイムを押す、声をかけるといったことで、再び通知の有無を確認することもできるだろう。
生活の可視化から生まれる新たな発見
MAMOLEOライトの興味深い点は、こうした監視、防犯といった対策だけでなく、見守りという用途との相性が抜群にいい点だ。
例えば、高齢の親世帯などに設置すれば、プライバシーを保護しつつ、家の中の活動をゆるやかに見守ることができる。
下図は、MAMOLEOライトで実際に検知された活動の様子だ。なお、生活パターンを公開することは、防犯上よくないので、読者のみなさんは公開しないように注意してほしい。
このような感じで家の中の動きが可視化される。だいたい6時前に起きて、昼前後に活動が低くなり、夜になるにしたがって活動が減り、24時前後に就寝という動きが分かる。
MAMOLEOライトでは、こうした日々の生活がパターンとして記録され、その履歴を画面上で簡単に確認できるようになっている。このため、普段と違うパターンに気づきやすい。
例えば、高齢の両親が住む実家を見守るといっても、現在、両親が何時に起きて、何時に寝ているのか把握していない人の方が多いだろう。しかし、MAMOLEOライトでは、一定期間、動きのパターンを記録できるため、過去のパターンとの比較がしやすい。朝なかなか起きてこない、午後にまったく動いている様子がない、といった様子が分かれば、実際に訪問する、駆けつけサービスを活用する、といった次のアクションにつなげやすい。
また、一緒に暮らすパートナーへの気配りにも役立つ。履歴を見れば、「昨日、寝る時間が遅かった」「夜中に何度か起きているが大丈夫か」といった生活の変化に気づくこともできる。
一人暮らしでも、最近、「睡眠時間短いなあ」などと、自分自身の生活を見直すきっかけとして利用できそうだ。
カメラで同じことをすると、家族との信頼関係が崩れかねないが、電波を使ったゆるやかな見守りなら、「何か違う」「何か変」という状況だけに気づくことができる。
いわゆる「監視」や「見守り」という型にはまった使い方だけでなく、家の中の活動を可視化できるのは、非常に面白い。場合によっては、家族との会話のきっかけ、生活リズムを見直すきっかけとして利用することもできそうだ。
今後の進化も期待できる
もちろん、このサービスは今年4月に登場したばかりで、欠点がないわけではない。
例えば、現状のアプリは起動や読み込みに時間がかかる。ただし、同社によれば対策を進めているため、今後、解決されるはずだ。
表示される情報が少ないのも気になるが、現状のままでも監視や見守りの目的は果たせているので、むしろ情報が増えることでシンプルな画面と操作体系が失われるデメリットの方が大きい。前述した生活パターンの分析などに使うなら、一週間の傾向を分析したり、時間軸で複数の日付を縦串で分析したりできるような表示があっても面白いかもしれないが、UIが複雑化するくらいなら、思い切って各種情報を取得できるAPIを公開してくれる方が個人的には面白いのではないかと思う。
また、誤検知にも注意が必要だ。筆者の環境では、現状、誤検知は発生していないが、センサーの設置場所によっては、家の外を通過する車や人などを検知してしまうケースがあるという。
センサーの設置場所が壁際で、かつ木造などの電波が通過しやすい環境、しかも壁が道路に面しているケースなどで発生しやすいとのことなので、センサーの設置場所を工夫する必要があるだろう。
このほか、2.4GHz帯を利用するため、電子レンジなどの機器の影響も受け、通信が途絶えてしまうケースもあるという。逆に、本製品の電波が既存のWi-Fi環境に影響を与える可能性もあるが、筆者が使ってみた限りでは、速度が低下したり、途切れたりすることはなかった。
というわけで、オプテージのMAMOLOEライトを試してみたが、Wi-Fi Sensingという技術的な面白さもあるものの、サービスとしてよく練られている印象だ。電波だからこそできる新しい「監視」や「見守り」、そして「生活の可視化」に期待が膨らむサービスと言える。興味のある人はぜひ使ってみることをおすすめする。
最後になるが、駆けつけサービス提供の関係から、MAMOLEOのサービス提供エリアは、関西の大阪府・京都府・兵庫県・奈良県・滋賀県の5府県に限られる。今回、端末をお借りして東京都内の筆者宅で試しており、センサーやアプリの利用において問題はないが、正規サービスとしての提供エリア外であることをお断りしておく。
動画でWi-Fi Sencingの技術を解説
YouTubeチャンネル「清水理史の『イニシャルB』チャンネル」で、Wi-Fi Sencingの技術について詳しく解説する動画を公開しています。今回の記事とあわせてご覧ください。(編集部)