清水理史の「イニシャルB」

Atermに待望のWi-Fi 7対応モデル! 8ストリームで安定性を狙ったミドルレンジの「Aterm 7200D8BE」

 NECプラットフォームズから、待望のWi-Fi 7対応ルーター「Aterm 7200D8BE」が登場した。途中、新製品はいくつか登場したものの、同社が既存のラインナップにない「最新規格」に対応した市販製品をリリースするのは、6GHz帯の国内解禁と同時期となる2022年9月にリリースされたWi-Fi 6E対応の「Aterm 11000T12」以来、約3年ぶりのこととなる。

 Wi-Fi 7においてはライバルメーカーがフラッグシップモデルをリリースしても、1万円を切る低価格モデルをリリースしても静観を続けてきた同社が、ついに腰を上げて投入したのはどのような製品なのか、Amazon.co.jp専売モデルの「AM-7200D8BE」(Aterm 7200D8BEと同等品)を購入して検証してみた。

Aterm初のWi-Fi 7対応ルーター「Aterm 7200D8BE」。写真はAmazon.co.jp専売モデルの「AM-7200D8BE」

3つの驚き

 本題に入る前に、Aterm関連で驚いたことが3つほどあったので、その点について触れたい。

 1つめは、型番のルールが変わったこと。

 本誌読者のように、古くから(Aterm ITあたりだろうか)Atermシリーズを知っている人なら気づくかもしれないが、今回の新製品の型番は「Aterm 7200D8BE」となっており、伝統の「Aterm WG」「Aterm WX」といった「Aterm ○○(英字)」というネーミングルールを変更し、「Aterm 7200」と数字がいきなり使われている。

 従来ルールなら、Wi-Fi 7のIEEE 802.11beの「B」あたりを使って、「Aterm WB」などとしてもよさそうだが、過去に「Aterm WB」(2001年前後)という製品が存在していたことから、見送られたのではないかと推測できる。

 これまでの「Aterm」に続いて直接数字が使われた製品を調べてみると、1988年、Atermの初代となるISDN-TA「Aterm 100」になるようだ。これは深堀しすぎかもしれないが、今回のモデルはAtermブランドを再構築する原点回帰モデルとしての意味合いも持っているのかもしれない。

「Aterm WB」シリーズは過去に存在した
個人的にはAterm初代を見据えた原点回帰と考えたい

 2つめは、ウェブページがリニューアルされたこと。今回のWi-Fi 7対応ルーター発売のタイミングと同時期に、スタイリッシュなデザインに変更された。

 Wi-Fiメーカーのウェブページは、どちらかというとスペックが押し出された堅い印象のページが多いが、リニューアル後のAtermのサイトは利用シーンが動画で表示されるなど、モダンなページになっている。この変化からも、Atermのイメージが変わりつつある印象を受ける。

利用シーンをイメージしやすくなるリニューアルされたAtermのサイト

 3つめが、今回のレビューの本題にもつながる「Aterm 7200D8BE」のスペックについてだ。

 これまで、新規格に対応したメーカー初の製品が登場する際は、そのメーカーのラインアップを代表するようなフラッグシップモデルとなるのが通例だった。

 なので、Aterm初のWi-Fi 7ルーターは、Wi-Fi 6E対応の「Aterm WX11000T12」に取って代わるフラッグシップモデルになるのではないかと勝手に予想していたのだが、ふたを開けてみればデュアルバンドで8ストリームという、数ある国内メーカーのラインアップの中でも珍しい構成のミドル~ミドルハイに位置するモデルとなっていた。

初のWi-Fi 7対応なのにデュアルバンド対応

 おそらく、製品の企画、開発段階で、いろいろな意見があったと想像できるが、「あなたに最適な快適」という新ウェブサイトのコピーや、「Aterm 7200D8BE」のニュースリリースのタイトルにある「高速・安定通信を強化」という言葉などを見ると、何となく、この製品が目指している方向も見えてくる。

 単にWi-Fi 7に対応した製品をリリースするだけでなく、消費者が「Aterm」に望むもの、期待すること、を再構築したひとつのマイルストーンになるようなモデルが、今回の「Aterm 7200D8BE」なのではないかと思える。

見た目はシンプル

 というわけで、新世代のAtermを見ていこう。

 と言っても、実直な同社らしく、Atermであることはひと目で分かるものの、デザイン的な派手さはなく、シンプルな見た目となっている。

側面
背面
反対側面

 一見、ただの四角い箱のように見えるが、よくよく見ると斜めに切り落とした上部や少し盛り上がりを持たせた側面など複雑な構造を持っているが、嫌みのないスッキリとした仕上がりと言えるだろう。

 ロゴや模様も最小限で、側面にコンパスでなぞったようなアーチラインと、底部に通気を兼ねたメッシュ状の構造があるくらいで、「Aterm」という文字もシンプルに記載されている。このあたりのデザインは、先で触れたフラッグシップモデルのAterm WX11000T12にも一部共通するものとなっている。

 近年のWi-Fiルーター、特にフラッグシップモデルやゲーミングモデルは、「ド派手」で「でかい」というイメージがあるが、その対極にあるような、いい意味で「地味」なデザインで、サイズも約54×215×200.5mm(幅×奥行×高さ)と小さくはないが、大きすぎない。

 アンテナももちろん内蔵(しかも同社ならではのコダワリの小型・全方向のワイドレンジアンテナプラス)となっており、見た目的にも、性能的にも、設置場所を選ばない製品となっている。

2.4GHz+5GHzの8ストリーム構成のメリットを考える

 続いて、スペックを見ていこう。

NECプラットフォームズ Aterm 7200D8BE
項目内容
価格2万7478円(Amazonで販売されている同等商品AM-7200D8BE)
CPU-
メモリ-
無線LANチップ(5GHz)-
対応規格IEEE 802.11be/ax/ac/n/a/g/b
バンド数2
320MHz対応×
最大速度(2.4GHz)1376Mbps
最大速度(5GHz-1)5764Mbps
最大速度(5GHz-2)-
最大速度(6GHz)-
チャネル(2.4GHz)1-13ch
チャネル(5GHz-1)W52/W53/W56
チャネル(5GHz-2)-
チャネル(6GHz)-
ストリーム数(2.4GHz)4
ストリーム数(5GHz-1)4
ストリーム数(5GHz-2)-
ストリーム数(6GHz)-
アンテナ内蔵8本
WPA3
メッシュ
MLOMLMR/eMLSR
IPv6
IPv6 over IPv4(DS-Lite)
IPv6 over IPv4(MAP-E)
有線(LAN)2.5Gbps×1+1Gbps×3
有線(WAN)10Gbps×1
有線(LAG)×
引っ越し機能
高度なセキュリティ(HomeShield)見えて安心ネット/こども安心ネットタイマー
USB-
USBディスク共有-
VPNサーバー-
DDNS-
リモート管理機能
再起動スケジュール
動作モードRT/AP/メッシュ
ファーム自動更新
LEDコントロール
ゲーミング機能-
サイズ200.5×215×54mm

 この製品は、Wi-Fi 7対応だが、6GHz帯の採用が見送られており、2.4GHz帯も5GHz帯も4ストリームという構成を採用している。

 6GHz帯に非対応であることは、現状のWi-Fi 7ルーターでは珍しいことではない。エレコムのWRC-BE36QS-B、アイ・オー・データ機器のWN-7D36QR、Archer BE220(BE3200)などがすでに市場に存在する。いずれも6GHz帯を省く代わりに、価格も抑えられたエントリーモデルという位置づけだ。

 ただし、本製品は、同じ6GHz帯を省いたモデルでも、こうしたエントリーモデルとは若干、位置づけが異なる。

 本製品の通信速度は、2.4GHz帯で最大1376Mbps、5GHz帯で最大5764Mbpsとなっており、2.4GHz帯、5GHz帯のいずれも4ストリーム対応(同一空間中で同一周波数で4系統同時通信可能)となっている。

 現状の各メーカーのミドルレンジのWi-Fi 7ルーターのラインアップを見ると、その多くが6GHz+5GHz+2.4GHzのトライバンド対応であるものの、いずれの帯域も2ストリームまでの対応となっているケースが多い。

 つまり、今回のAterm 7200D8BEのデュアルバンドで、各帯域4ストリーム(合計8ストリーム)の構成は、現状の各社ラインアップの中で手薄な部分を突いたような構成となるわけだ。

 唯一、TP-LinkのArcher BE450/BE7200が今回のAterm 7200D8BEとまったく同じデュアルバンド合計8ストリーム構成でガチ競合となるが、国内メーカーでは、現状、本製品がこのクラスを担う存在となっている。

 あえて今回の構成を選択した理由は、おそらくニュースリリースのタイトルにあった「高速・安定通信を強化」するためだろう。

 確かに、6GHz帯、特に320MHz幅を利用した最大5764Mbps(2ストリーム時)クラスの製品では超高速な通信が可能だが、6GHz帯は長距離や遮蔽物がある環境での伝送が苦手で、家庭環境では必ずしも速度を生かしきれるとは限らない。

 同社が目指す「あなたに最適な快適」を実現するのであれば、より多くユーザーが、さまざまな環境で活用しやすい2.4GHz帯と5GHz帯に特化し、その上で、その2.4GHz帯と5GHz帯の帯域のストリーム数を増やすという方向で通信のキャパシティを増やすことを選んだのではないかと推測できる。

 そう考えると、Wi-Fi 7ということでは、MLOのメリットも生きてくる。本製品を複数台組み合わせてメッシュを構成した場合、2.4GHz(4ストリーム)+5GHz(4ストリーム)の合計8ストリームで、最大7140Mbpsの通信ができる。

 実際、同社の製品情報ページに掲載されている検証環境でのテスト結果では、MLOのメッシュ構成で無線区間(メッシュのバックホールに相当)の実効速度で最大5280Mbpsという結果が掲載されている。

▼掲載の検証結果を参照する
Aterm 7200D8BEの製品情報ページ

 ストリーム数が多いおかげで、帯域ごとの同時接続可能台数が多くなることもメリットだ。トライバンド製品は6GHz帯など空いている道路に端末を迂回させることで各帯域の同時接続数を稼ぐイメージだが、本製品は2.4GH帯も4車線、5GHz帯も4車線と、道路の幅を広げることで混雑を回避できる。

 メッシュのバックホール接続と同時に、PCやスマートフォンなどを接続するケースも考えると、単一の帯域のストリーム数が多いメリットを享受できるシーンは少なくないだろう。

 つまり、本製品が適しているのは、単純なピークスピードを追求するような環境ではなく、広いエリアに散らばった多数の端末、特に2.4GHz帯対応のIoT機器や5GHz帯対応のスマートフォンやPCが同時に接続するようなケースと言える。こうしたケースでメッシュを構成するのであれば、珍しい本製品のようなスペックが生きてくる。

有線やMLOでも生きる安定性

 このほか、スペック面での注目は有線ポートの充実だ。本製品は、WAN側が10Gbps×1、LAN側が2.5Gbps×1+1Gbps×3という構成になっている。

一番下のWANが10Gbps対応、その上のLANが2.5Gbps対応。残りが1Gbps対応となる

 これにより、近年、利用者が増えつつある10Gbpsに対応したインターネット接続サービスを生かせる。欲を言えばLAN側も10Gbpsに対応してほしかったが、さすがに価格を考えると贅沢だろう。どちらかというと、こうした点も、単純なピークスピードではなく、合流先の幹線道路を10Gbps化し、そこに流れ込む道路は2.5Gbpsや1Gbpsに抑えて混雑を減らそうという、安定志向の構成と言える。

 また、先ほどメッシュ構成時のMLOについて触れたが、MLOはWi-Fi 7対応クライアント接続時にも利用可能となっている。メッシュ構成時のMLOは、MLMR(Multi-Link Multi Radio)という方式でMulti(複数)のRadio(2.4GHz+5GHz)を同時に使って通信する方式だったが、クライアント接続時はeMLSR(enahanced Multi-Link Single Radio)という2.4GHzと5GHzを切り替えながら通信する方式となる。

MLO対応クライアントで接続すると、複数帯域を利用していることを確認できる

 同様に通信状況に応じて帯域を切り替える方式は、バンドステアリングなどの既存技術でも可能だが、MLOのeMLSRは2.4GHz帯と5GHz帯でリンクを常に確保しておけるのが特徴だ。結果的にデータの伝送には、いずれかの一方の帯域しか使えないが、その切り替えが早く、無線ネットワーク全体での通信権を確保しやすい。その結果、遅延を抑えられるのが特徴となる。

 ただし、MLOのeMLSRモードは、端末(チップ)ごとに対応状況も異なり、例えば、2.4GHz+5GHzは可能だが、5GHz+6GHz(本製品は関係ないが……)はできないというケースもあり、結構複雑だ。
 なので、本製品どうしでメッシュを組み、MLMRで通信するケースでのメリットが現状は大きいと言える。

アプリへの移行で変わりつつある設定方法

 使いやすさについても問題ない印象だ。WPSを使ったボタン操作で既存の環境からSSIDなどの設定を引き継ぐこともできるし、スマートフォン向けのアプリで初期設定や管理なども簡単にできる。

Aterm ホームネットワークアプリ。初期設定や管理などの機能が統合された

 Atermシリーズでは、設定や管理などの機能が「Atermホームネットワークリンク」というアプリに統合されており、このアプリから初期設定(初期設定ウィザード)、詳細設定やこども安心ネットタイマーなどの設定、通知確認(Aterm設定アシスト)、インターネット経由での設定管理(ホームネットワークリンク)、ヒートマップ作成などの機能を利用できる。

 今回のAterm 7200D8BEから、新たに初期設定ウィザードが利用可能になった。実際に使ってみると、アプリの画面上で、Wi-Fiへの接続方法がガイドされ、インターネット接続の自動設定も実行できた。

 もともと、Wi-Fi接続用のパスワードやウェブ管理画面のパスワードなどがランダムな値となっているため、そもそも初期設定で実行すべき項目が少ないので、あっさりとした初期設定ツールなのだが、スマホでの設定が主流になりつつあることを考えると便利と言えるだろう。

本製品からアプリ上で初期設定が可能になった。といっても、インターネット回線の自動判別くらいなので、わりとあっさりしている

 ただ、1点気になったのは、この設定方式がまだ洗練されていない印象がある点だ。具体的には、物理的な接続方法の確認と、本体設定の導線がうまくつながっていない印象がある。

 本製品には、紙のマニュアルが最小限しか同梱されない。Amazon.co.jp専売モデルであるからかとも思ったのだが、昨年発売されたAterm WX5400T6あたりの世代の製品から、同梱されるのは「お使いになる前に」のみになり(保証書や無線LAN接続用QRコードシールは同梱される)、その冒頭に、ウェブ上の取扱説明書にアクセスするためのQRコードが掲載されるようになった。

同梱されるマニュアルは、基本的に「お使いになる前に」のみ。あとはQRコードからオンラインドキュメントに誘導される

 以前(Aterm WX11000T12あたりの世代)は、「つなぎかたガイド」というイラスト入りの紙のマニュアルが同梱されていたのだが、これがウェブ版に置き換わった。

 それ自体は時代の流れもあるので問題ない。また、「お使いになる前に」の裏面には、「つなぎかたガイド」の抜粋として接続方法の図解も掲載されているため、どうしても紙でセットアップしたいという人のフォローもなされている。

設定の基本はアプリだが、つなぎ方はウェブ上のつなぎかたガイドか、抜粋を参照するかたちとなる

 しかしながら、こうした流れの複雑さと散在する情報によって、ユーザーがたどるべき本筋の導線がどこにあるのかが分かりにくい。つなぎかたはウェブで参照すべきだが、紙にも抜粋情報がある、しかしアプリの画面上には物理的な接続の情報は表示されない、という状況で、紙がなくなりつつあるものの、アプリで完結するわけでもないという、どっちつかずの状況になっている。

 もともと、アプリでの設定ガイドは、紙のマニュアルが同梱されない海外製品で使われるようになった手法だ。これに対して、国内製品は手厚い紙のマニュアルで対応してきた。Atermシリーズは、どうやらアプリ側に舵を切っているが、まだ完全に船の向きが変わり切っていない印象がある。

 せっかくやるなら、アプリに全振りして、箱を開けた瞬間、いや箱を開ける前からスマホの画面上で、物理的な接続、Wi-Fi接続、インターネット接続設定など、全ての情報にアクセスできるようになってほしいところだ。まあ、初期設定に関しては、今回のAterm 7200D8BEから始まった取り組みなので、今後、ブラッシュアップされることを期待したい。

 このほか、「Aterm ホームネットワークリンク」アプリの「ホームネットワークリンク機能」を利用することで、外出先から自宅のWi-Fiルーターの管理も可能となっている。この機能によって、例えば、外出先からリモートで自宅のWi-Fiルーターを再起動することなどが可能だ。

リモートからWi-Fiルーターを管理できる

 しかも、本製品はこのリモート管理をグループ分けして最大6グループまで管理できるようになっている。これにより、自宅はもちろんだが、実家のWi-Fi、新入学や新社会人などで一人暮らしを始めることになった家族、親戚、友人など、異なる場所にあるAtermの管理やサポートしなければならないケースが、劇的に楽になる。

 Wi-Fiのパスワードを変更する、Wi-Fiルーターを再起動する、ファームウェアのバージョンを確認する、といったことのためだけに現地に行かなくて済むのは、とても便利だ。

 さらに、このアプリにはヒートマップ機能も搭載されており、Wi-Fiの電波状況の可視化も可能となっている。Atermシリーズは、その安定性の高さから、他人に薦めやすい製品という印象が強かったが、こうしたアプリの充実によって、導入後のサポートが楽なり、自分の負担も軽くなることから、より他人に推奨しやすい製品になった印象だ。

性能も問題なし

 パフォーマンスも問題ない印象だ。というか、中距離が結構速い。

 以下は、木造3階建ての筆者宅の1階に本製品を設置し、10Gbps接続のWAN側に接続したサーバーに対して、各階でiperf3による速度を計測した結果だ。クライアントにはWi-Fi 7対応PC(最大2882Mbps、MLO対応)を利用している。3F窓際において5GHz帯で接続した場合の結果も、参考値として加えた。

ベンチ結果
方向1F2F3F入口3F窓際
Aterm 7200D8BE
(MLO)
上り164091358948.1
下り21301190103066.5
Aterm 7200D8BE
(3F窓際5GHz接続時)
上り---175
下り---300

※単位:Mbps
※サーバー:Ryzen3900X/RAM32GB/1TB NVMeSSD/AQtion 10Gbps/Windows11 24H2
※クライアント:Core Ultra 5 226V/RAM16GB/512GB NVMeSSD/Intel BE201D2W/Windows11 24H2
※1Fのみクライアントを電源接続

 リンク速度が最大2882MbpsのPCで、1階で下り2Gbpsオーバーを実現できているので、Wi-Fi 7の実力を十分に発揮できていると言える。また、2階だけでなく、3階でも実行速度で1Gbpsを超えており、中長距離の性能が高い印象がある。なお、下りより上りが遅いのは、バッテリー駆動時のPCの省電力特性の影響と考えられる。

 6GHz帯だと3階以上ではかなり速度が低下するので、2.4GHz+5GHzに割り切った本製品の特性がよく出ている。5GHz帯が混雑して使い物にならない環境でもない限り、本製品のパフォーマンスに不満はないだろう。

 ただし、長距離の場合、MLOの影響で速度が下がるケースがある。筆者宅の場合、普通に移動しながら使うと、3階の入り口では5GHzでリンクするが、そこから5~6歩移動すると、MLOによって接続が2.4GHz帯に切り替わった。

 2.4GHz帯は、上限速度も高くないが、混雑によって速度が大きく低下する傾向にある。このため、下りで66.5Mbpsにまで下がってしまった。

 同じ場所でもタイミングよく5GHz帯でリンクすると、下りで300Mbpsを実現できるので、5GHz帯と2.4GHz帯が切り替わる狭間では、速度が安定しなかったり、2.4GHz接続で最大速度が低くなってしったりするケースがありそうだ。

Atermシリーズの今後のラインアップにも期待

 以上、Atermシリーズ初の市販Wi-Fi 7ルーター「Aterm 7200D8BE」を利用してみた。

 正直、リリースを見た段階では、「地味だし、デュアルバンドかぁ」という印象だったのだが、よくよくスペックを調べてみると、競合とは違う狙いが見えてくるし、製品を詳しく検証していくと同社がうたう「あなたに最適な快適」「高速・安定通信を強化」といった言葉が込められた製品であることを実感できる。

 ミドルレンジの製品としては良品だと思うが、問題点は、前述したアプリでの初期設定がまだ洗練されきっていないこと、そして価格になりそうだ。

 前述したように、スペック的にガチ競合となるTP-LinkのArcher BE450/BE7200の実売価格は2万円前後と、本製品より数千円安い(しかもUSB共有やVPNサーバーなど機能も多い)。

 また、ほぼ同じ価格でTP-Linkのトライバンドルーター「Archer BE550」(有線が2.5Gbpsまで)が販売されているうえ、同じくトライバンド製品ではエレコムの「WRC-BE94XS-B」(販売終了)やアイ・オー・データ機器の「WN-7T94XR」が2万5千円前後と、本製品よりも安く販売されている。

 要するに、製品の方向性も面白いし、完成度も高いが、市場での戦いは厳しい状況にあると言える。

 NECプラットフォームズは、店頭やネットショップで製品を販売するだけでなく、回線事業者に通信機器を提供するメーカーとしても知られている。本製品も回線事業者向けのクラウド型統合管理サービス「NetMeister Home」に対応するなど、回線事業者向けの販売施策も充実しており、「純正」や「公式」として多く採用される信頼性の高さがひとつの特徴となっている。こうした信頼性に対して、コストを支払うと考えれば、高い買い物ではないだろう。

本日(24日)20時から動画でレビュー!

 YouTubeチャンネル「清水理史の『イニシャルB』チャンネル」では、3月24日の20時からAterm 7200D8BE(AM-7200D8BE)のレビュー動画を配信します。チャンネル登録して配信開始をお待ちください!(編集部)

ついに出た!! NECプラットフォームズのWi-Fi 7対応ルーター「AM-7200D8BE」の謎に迫る
清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。「できるWindows 11」ほか多数の著書がある。YouTube「清水理史の『イニシャルB』チャンネル」で動画も配信中