清水理史の「イニシャルB」

初公開! 名古屋市内の住宅で行われるバッファローの「Wi-Fi 5 vs Wi-Fi 7」ルーター比較テストに密着!

 Wi-Fiルーターの開発は、結構、泥臭い世界だ。さまざまな設置場所や環境で使われるうえ、電波という不確定要素の多い対象を扱うだけに、必ずしも設計段階のシミュレーションの通りの性能が発揮できるとは限らない。

 そこで、バッファローは、本社がある名古屋市内に鉄骨造3階建ての一戸建て住宅を用意し、発売前のWi-Fiルーターが想定通りのパフォーマンスを発揮できるかを、日々、地道にチェックしている。平日の午後の静かな住宅街、検証チームが挑んだ「Wi-Fi 5 vs Wi-Fi 7」の比較テストに密着した。

バッファローが実際に使用している検証環境(ここは3階建て住宅の1階部分)

「どうしよう……」からの改善例も

「開発チームからの情報やスペックを考えると、もっと高い速度が出てもいいはず。しかし、検証用の住宅で測ってみると、何度計測しても想定値を下回ってしまう……」。
「どうしよう……」。

 発売前に、使われる家庭環境を模した環境(実際の住宅)でWi-Fiルーターの性能を検証するバッファローの検証チームが、経験した過去の検証エピソードだ。

 もちろん、実際には、途方に暮れたままというわけではなく、結果を開発チームにフィードバックして改善してもらい、再度検証することになるのだが、想定外の検証結果が出たときに、頭の中を駆けめぐる発売予定日や再検証への不安が思わずあふれたこの言葉は、とてもリアルだった。

懐かしの周辺機器に会えるバッファロー本社展示室

 今回、バッファローに依頼し、普段Wi-Fiルーターの検証を実施しているテスト環境をメディアとしては初めて特別に公開してもらうことができた。

 きっかけは、古いWi-Fi 5と最新のWi-Fi 7の速度で性能がどれくらい違うのか? という疑問からだ。INTERNET Watchでは毎年「Wi-Fiルーター見直しの日」としてサポートが終了した古いWi-Fiルーターの買い替えなどを呼び掛けており、2026年現在、多くのWi-Fi 5ルーターがサポート終了を迎えている。

 そこで、現在Wi-Fi 5ルーターを使っている家庭ではセキュリティのために買い換えを検討してほしいが、最新のWi-Fi 7に買い換えたら、どれくらいのパフォーマンス改善が期待できるだろうか? そのような編集部の疑問に、快く答えてくれただけでなく、検証用の住宅への立ち入りも許可され、実際に検証している様子まで公開してくれることになったわけだ。

 ここで、少しだけ話を脱線させてほしい。

 5月中旬、名古屋のバッファロー本社を訪れた際、まず出迎えてくれたのは、懐かしいPC用周辺機器の数々だった。同社の一部のフロアは、普段はなかなか入れない非公開の展示スペースとなっており、ここに歴代のバッファロー製品がずらりと並べられている。

 音響機器メーカーメルコとして創業した当時の糸ドライブプレーヤー(レコードプレイヤー)から、現在の社名の由来にもなったプリンタバッファー、メモリ、ハードディスク、筆者もPC雑誌のアルバイト時代に徹夜でベンチマークテストした思い出深いCPUアクセラレーター、そしてWi-Fi製品、NASなど、懐かしい製品がずらりと並んでいた。

 世代によって、どの製品に懐かしさを感じるかは異なるが、「パソコン」「マイコン」時代の思い出がよみがえってきて感動してしまった。

メルコ時代からのバッファローのあゆみが、多くの製品とともに展示されている
「バッファロー」の由来になった「バッファ郎」の愛称も持つプリンタバッファー
周辺機器展示スペースの奥にあるのが、創業時の糸ドライブプレーヤー
初期の「AirStation」と、当時の代表的な周辺機器

 話を戻そう。今回、訪れた検証環境は、思った以上に「普通の住宅」だ。いや、間取りを見ると、かなり広いので、普通と言っていいかどうかは微妙だが、いわゆる工場や検証ルームのような電波環境が整えられた特別な施設ではなく、人が住む普通の住宅という意味だ。

 この検証環境は、普段も同社がWi-Fiルーターを発売する前の検証で利用しており、1機種あたり2~3回ほど、試作品、発売前などの設計段階に合わせて、Wi-Fiルーターを持ち込んで実際のテストに利用している。

検証環境にて。部屋に実機を設置して性能をチェックする
スマートフォンを住宅の複数のポイントに設置して計測(写っているのは実際に検証作業を行い、説明してくれたバッファロー社員のひとり、ネットワーク第二開発部プロダクト第三開発課 大関寛之氏)
測定にはIxChariotを利用する

 冒頭のエピソードは、こうした普段の検証でのシーンだが、1度の検証あたり1週間ほど、なるべく同じ環境、同じ条件でテストできるように、時間や設置場所などを合わせながら、リビングや寝室といった実際の住宅環境で、どれくらいの性能が出るのかを実際に計測している。地道な作業だが、検証チームのこの努力のおかげで、発売後の製品の品質が担保されていると言ってもいい。

5年前のWSR-1166DHPL2 vs 最新のWSR3600BE4P

 それでは実際の検証の様子を紹介しよう。今回の検証では、2020年4月に発売されたWi-Fi 5対応の「WSR-1166DHPL2」と、2025年6月に発売された最新のWi-Fi 7対応製品「WSR3600BE4P」の2製品の性能を比較することになった。

検証に利用した2台のWi-Fiルーター

 テスト環境は以下の通りだ。普段、製品の検証で実施しているテストと同じで、計測ツールにIxChariotを利用し、最大2882Mbpsの無線の帯域にも対応できるように、Wi-Fiルーターの1Gbpsポートに複数台のIxChariotのエンドポイントを接続。無線で接続したスマートフォンとのIxChariotのエンドポイントの間の帯域速度を測定する。

 測定地点は1階のリビング中央付近にアクセスポイントを設置し、同一フロアのA地点、2階でアクセスポイントの真上となるF地点、アクセスポイントから斜め上方向に位置するG地点、3階のJ地点の4地点で計測。それぞれ、スマートフォンの方向を変えながら速度を測定し、その平均値を採用するという方法になっている。

検証環境とシステム構成の図

 結果は以下の通りとなる。なお、当日は編集部の撮影隊と同社の広報担当者など複数の人間が現場を歩き回ったことで値が安定しなかったため、事前に検証チームのみで測定した値を掲載する。いずれも5GHz帯の速度となっている。

WSR-1166DHPL2とWSR3600BE4Pの、アップストリーム/ダウンストリームのスループット比較

 WSR-1166DHPL2は、5年前の売れ筋で、2026年6月時点でもサポート継続中の製品だ。現状も現役で使っているユーザーが多いだけでなく、現在もAmazon.co.jpで販売されている(型番は「WSR-1166DHPL2/N」や「WSR-1166DHPL2/D」)。Wi-Fi 5(IEEE 802.11ac)対応なので、5GHz帯の最大速度は866Mbpsとなる。

 これに対してWSR3600BE4P(実売1万2980円)は、Wi-Fi 7対応で最大速度は2882Mbpsに対応している。上記の結果は、このスペック差が顕著に表れたと言える。例えば、A地点ではWSR-1166DHPL2の下りが654Mbpsほどであるのに対して、WSR3600BE4Pは1979Mbps。これがWi-Fi 5とWi-Fi 7の世代の差としてよく表れている。

 一方、長距離に目を向けてみよう。3階のJ地点の結果は、WSR-1166DHPL2が下り86Mbps、WSR3600BE4Pが402Mbpsとなっている。

 今回の住宅は、鉄骨造で電波の環境としては厳しい方になる。その環境で床を2枚隔てた場合、さすがにWi-Fi 5は100Mbpsを切ってしまうが、Wi-Fi 7なら400Mbpsを超える値を実現できている。

 これも、世代の差が大きいが、実はアンテナの違いも影響している。WSR-1166DHPL2は5GHz帯のアンテナが2本内蔵されているのに対して、WSR3600BE4Pは3本と1本多い。これにより、3本から電波状況のいい2本を選択して通信できるようになっている。この差も長距離では影響していると言える。

 もちろん、WSR-1166DHPL2の下り85Mbpsという結果でも、実用上は全く問題ない。しかし、今回のテストは1台のスマートフォンしかつないでいない状態の結果となる点がポイントだ。

 無線の場合、基本的に同時通信の台数が増えれば、時分割での通信権が減っていく。ざっくり2台同時なら帯域は半分、3台同時なら1/3、10台同時なら1/10と考えていい。仮に家族4人でスマートフォン4台。PC2台、ゲーム機1台、テレビなどの家電1台、IoT機器2台くらいが存在するケースだと、合計10台になる。これらが同時に通信するという最悪のケースを想定すると、J地点で利用できる帯域は1/10の8Mbpsほどにまで落ち込む可能性がある。

 動画ストリーミングやWeb会議、ゲームなどの低い帯域の通信なら耐えられるかもしれないが、ソフトウェアのダウンロードなどフルに帯域を活用する通信では、ストレスがたまる可能性がある。

 また、今回のテストの計測地点では、いずれの製品もWi-Fiが届かない、通信ができないポイントは存在しなかったが、Wi-Fi 5のWSR-1166DHPL2は、場所によってはJ地点の86Mbpsよりも速度が落ちる可能性はある。場所と、同時接続の台数によっては、動画やビデオ会議が途切れるような可能性もゼロではないだろう。

状況次第ではWi-Fi 5の遅延は地球一周?

 もうひとつ、検証チームが用意してくれたテストは非常に興味深い結果となった。Pingなどでお馴染みの遅延(レイテンシ)の計測となる。

 検証環境は以下の通りで、IxChariotで4台のスマートフォンで負荷をかけた状態で、5台目のスマートフォンをF、G、Jのポイントに移動させながらPingを実行し、遅延の値を計測したものとなっている(このテストはスマートフォンの向きは固定)。

 要するに、家族が複数端末を同時通信するようなケースで、各地点でどれくらいの遅延が発生しているのか? を計測していることになる。

遅延の測定結果

 結果は以下の通りだ。Wi-Fi 7対応のWSR3600BE4Pは、2階のF地点なら29msと実用的な範囲内だが、さすがに3階のJ地点だと140msを超える。一方、Wi-Fi 5対応のWSR-1166DHPL2は、F地点でも248ms、J地点では500msを超えてしまう結果となった。

WSR-1166DHPL2とWSR3600BE4Pの、レンテンシ―(遅延)の比較

 一般的にPingの値は、東京-大阪が10ms、東京-韓国が20ms前後、東京-シンガポール(東南アジア)が70ms前後、東京-米国西部が100ms前後、東京-米国東部が160ms前後、東京-フランス南部が200ms前後、東京-ブラジル南部が270ms前後(参考:Azure ネットワーク ラウンドトリップ待ち時間統計)となっている。

 つまり、WSR3600BE4Pなら、近距離は2階ならアジア、3階でも米国東部あたりとの通信に相当する遅延で済む一方で、WSR-1166DHPL2は2階でもブラジル、J地点に至っては、東京-大阪逆ルート、つまり東京→(100ms)→米国西海岸→(70ms)→米国東海岸→(90ms)→フランス→(110ms)→アラブ首長国連邦→(80ms)→シンガポール→(70ms)→大阪」(合計520ms)と、東京からぐるっと地球を一周して大阪と通信するくらい(Pingは往復時間なので実質2周分)の遅延が発生していることになる。

 500msというのは、0.5秒だが、通信の世界で1秒の半分も反応が遅れるというのは、なかなか厳しい。例えば、Zoomは、以下のようにオーディオ、ビデオなどのレイテンシの目安として150ms以下を推奨しており、遅延が大きくなるほど、「あなたが話し、他のユーザーがオーディオを受信するまでの時間」が大きくなるとしている。これを考えると、WSR-1166DHPL2の結果は、どの地点でも、会話がかぶる、成立しにくいなどの弊害が考えられる。

▼Zoomのヘルプ(推奨の動作環境など)
ミーティングおよび電話の統計にアクセスする

 もちろん、このテストは、同時接続でフルに負荷をかけているため、過酷な環境と言える。このため、WSR-1166DHPL2を使っているユーザーの誰もが同じ状況になるわけではない。しかし、例え過酷な状況でも、Wi-Fi 7のWSR3600BE4Pなら、たとえF地点でもZoomの要件を満たせることになる。この差は大きい。

 なお、なぜ、このような差がでるのかを検証チームに質問したところ、「詳細な検証が必要だが、CPUの処理能力の差ではないか」という推測が示された。

 同時接続などのケースではCPUによる処理能力が影響することが多いため、その差が遅延の大きさに表れているのではないかということだ。

実環境での実用性が確かめられた状態でわれわれの手に届く

 以上、バッファローの検証環境に密着して、普段、どのような検証をしているのか? 製品が出荷されるまでに何を確認しているのかなどの話を伺いつつ、実際にWi-Fi 5世代とWi-Fi 7世代の製品の違いを数値で確認した。

 話を聞く限り、テスト環境や状況を合わせるための工夫をしているうえ、想定外の結果の際の苦労などもあるが、ユーザーの環境に近い環境、近い状況で、実際に製品をテストするという地道な活動が、結果的に製品の品質にも直結することを実感できた。

 特にPingの検証は興味深い結果で、Wi-Fi 5世代の製品は、状況次第では、同じ家庭内であっても、米国も、ブラジルも超えて、さらに先に至るほどの距離で通信しているのと同じ状況になってしまうのは面白い結果だ。

 昨今は、脆弱性対策の観点で、古いWi-Fiルーターは5年を目安に買い替えることが推奨されている。今回のWSR-1166DHPL2はまだサポート対象の製品となっているが、今回のように最新モデルとの実力差を見せつけられると、買い替えを検討したくなる。

 バッファローの検証チームの地道な努力にも敬意を表しつつ、そろそろ古いWi-Fi 5対応製品の買い替えを検討した方がいいだろう。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。「できるWindows 11」ほか多数の著書がある。YouTube「清水理史の『イニシャルB』チャンネル」で動画も配信中