清水理史の「イニシャルB」

まさに「前代未聞のシロモノ」。Wi-Fiルーター+小型サーバーの2ーinー1を実現したASUSの新型Wi-Fi 7ルーター「ROG Rapture GT-BE19000AI」

ASUSの新型Wi-Fi 7ルーター「ROG Rapture GT-BE19000AI」

 ASUSから登場した「ROG Rapture GT-BE19000AI(以下、GT-BE19000AI)」は、ルーターとしての機能を処理するシステムに加え、「AI Board」という別系統のシステムボードを搭載したデュアルシステム構成のWi-Fiルーターだ。要するに、ルーター+小型サーバーという2つのシステムが1つの筐体に共存する非常に珍しい製品となっている。

 圧倒的なパフォーマンスにも注目だが、今までに見たことがない独自の構成を持った本製品の実力を検証する。かなり長文だが、久しぶりに興奮して書いたので、お付き合い願いたい。

ASUSという企業の恐ろしさ

 アイデアとしては思いつきそうではあるが、まさか実際に製品として発売するとは……。

 ASUSから登場した新型のWi-Fi 7ルーター「ROG Rapture GT-BE19000AI(以下、GT-BE19000AI)」は、社内にいる強烈なWi-Fiルーターマニアが“ふざけて”考えたアイデアが、あれよ、あれよという間に製品化されてしまったような奇跡的な製品だ。

 こんな製品を発売してくるASUSは、いい意味で恐ろしい。

 いや、正直、筆者のようなマニアは「スゲェ」と素直に声を上げてしまうが、果たして買う人(買える人)が何人いるんだろうと心配になるような製品で、誤解を恐れずに言えば「怪作」といっていい製品になっている。

 具体的になにがスゴいのかというと、本製品は内部に2つのシステムを搭載した2ーinー1のWi-Fiルーターになっている。

GT-BE19000AIの製品情報サイト。2つの独立したシステムが同居するデュアルシステムとなっている

 ふと、1991年にリリースされたセガの「テラドライブ」(※日本IBMと共同開発、80286と68000の2つのCPUを搭載したメガドライブ一体型PC)を思い出してしまったが、本製品は、恐らくそこまで凝った構成ではなさそうだ。ルーター本体のArm系メインボード(クアッドコア 2.6GHz/4GBメモリ/32GBフラッシュ)の上に、サブボードとして実装されたもう1つのArm系システムである「AI Board(クアッドコア2.1GHz/4GBメモリ/32GBフラッシュ/7.9TOPS NPU)」が存在し、両者が内部的にイーサネット接続(1Gbps)されていると推測される。この2つのシステムで、ルーターとアプリの役割が個別に分担されているのだ。

 以下は、4月21日に開催されたASUSの発表会で展示されていた基板の写真だ。AI BoardはSynaptics SL1680と公表されている(メインのルーター側のチップはBroadcom製)。サブボードにしたのは、シンプルにコストの問題かと想像できるが、これならサブボードなしの構成も作りやすそうだ。

発表会で展示されていた基板
AI Boardはサブボードとして搭載されている

 まあ、よくもこんな考えに至ったと感心するが、これはある意味合理的なのかもしれない。

 数は少ないかもしれないが、筆者も含め読者の中には、Wi-Fiルーターに加えて、Raspberry PiやミニPCを宅内で稼働させ、DNSサーバーやIoT管理サーバー、ファイルサーバー、メディアサーバーなどとして利用している人がいるだろう。こうしたサーバーを別に稼働させるのは面倒なので、いっそのことWi-Fiルーターに内蔵してしまおうという発想だ。

 4GBなんてメモリを搭載したWi-Fiルーター自体、そもそも珍しいが、その4GBメモリのシステムが1台に2系統も内蔵されるなどというのはフツーの話ではない。しかし、Wi-Fiルーター+ミニPCという2台体制が1台で済むと考えると、「なるほど、それならアリも」と妙に納得してしまう自分もいる。

GT-BE19000AIの概要。ルーターとサーバーの2台を1台にまとめた感じ。AI Board部分が、サーバーとしての役割を持つ

 というわけで、本製品は「AI」に注目されがちだが、単に流行りを追った製品ではない。

 詳しくは後述するが無線周波数帯をより詳しく調査できる「WiFi Insight」も搭載されており、言葉を慎重に選んで言うと、ネットワークマニアやサーバークラスタの人達の中でも、ちょっと変わった製品が好きという層に好まれる製品となっている。

 もちろん、世界初で、今後も同じような製品が出てくるとは思えないし、他社がマネしようとしても、「絶対(これは言い切れる)」できない製品となっている。

 もう一度、言うが、この製品を実際に販売できるASUSという会社はつくづく恐ろしい。

巨大な本体と派手なデザインと充実のインターフェース

 それでは、本体を見ていこう。

 本製品は、とにかく巨大だ。サイズは350.41×350.41×220.6mmとなっており、さらに長さ20cm(!)もあるアンテナが四辺に2本ずつ合計8本装着されている。国内ではアンテナ内蔵が好まれる傾向が強いが、やはりパフォーマンスを重視して外付け、それも巨大なアンテナが装着されていることになる。

正面
背面

 デザインも独特で、カラーはホワイト。本体上部には透明のパネルで内部が透ける構造となっており、チップなどを模したロボティックな模様が見える工夫がなされている。また、その下に見えるヒートシンクがブルーとパープルのグラデーションとなっており、細かい部分にまでコダワリが詰まったデザインとなっている。

 ヒートシンクを、わざわざグラデーション塗装するとか、もはや普通の感覚では理解不能だったのだが、発表会で公表されたAI Boardのヒートシンクも同じカラーとなっていた。「なるほど、AI Boardのアイデンティティカラーなのか」と、うっかり納得しそうになったが、「いや、普段、見えないんだし、そもそも塗装する必要ないだろ!」と自分に突っ込んでしまった。

 もちろん、光るし、点滅する。設定用アプリやウェブ画面でAURA RGB機能を利用することで、上部のロゴマークを「グラディエン」や「レインボー」のような効果で飾ることができる。

 正直、こうした派手な演出はユーザーの好み次第だが、市販のWi-Fiルーターのデザインを「派手/シンプル」の2方向に分類したとすれば、派手系の先端にあるのが本製品と言ってもいい。

スケルトンで内部に独特なデザインがあしらわれており、ちらりと見えるヒートシンクもカラフル
AI Boardのヒートシンクも同じくグラデーション塗装。こんなところにコストをかけるのは異常
ロゴ部分が光る。光り方を変更できる(周囲を暗くして撮影)

 無線のスペックは、Wi-Fi 7ことIEEE802.11be対応で、6GHz帯が最大11529Mbps、5GHz帯が最大5764Mbps、2.4GHz帯が最大1376Mbpsと、トライバンドで全バンド4ストリームに対応した製品になっている。

 ASUSのWi-Fiルーターには、クアッドバンドに対応したGT-BE98もラインアップするため、無線のスペックで言えばGT-BE98の方が上だが、CPUやメモリ、前述したAI Boardなどの構成では本製品が上回る。どちらがASUSを代表するフラグシップモデルなのか? と言われると判断が難しい印象だ。

 もちろん、有線も豪華な構成で、WAN/LAN用として10Gbps×1、2.5Gbps×1、LAN用として10Gbps×1、2.5Gbps×3、1Gbps×1が用意される。WAN、LANともに10Gbps対応となっているのが特徴で、増えてきた10Gbpsインターネットサービスや10Gbps対応のNASなどを減速なしで接続できるようになっている。

有線LANポート。10GbpsポートがWAN/LANと、LANの2つある

 さらに本製品の有線LANは、LAGを利用した冗長性の確保、VLANを利用した柔軟なネットワーク構成にも対応している(コンシューマー向けでは省かれがちなログ機能も充実している!)。こうした機能は、近年、コンシューマー向け製品では省かれる傾向が強いが、ASUSはかたくなに機能を維持している。というか、機能が増えることはあっても、削られることはめったにないというのもASUS製品の特徴かもしれない。

LAGやVLANの設定も可能
ASUS ROG Rapture GT-BE19000AI スペック
価格14万円前後
CPUクアッドコア 2.6GHz(ルーター)+クアッドコア 2.1GHz(AI Board)
メモリ4GB/4GB
無線LANチップBroadcom
対応規格IEEE802.11be/ax/ac/n/a/g/b
バンド数3
最大速度(2.4GHz帯)1376Mbps
最大速度(5GHz帯-1)5764Mbps
最大速度(5GHz帯-2)-
最大速度(6GHz帯)11529Mbps
チャネル(2.4GHz帯)1-13ch
チャネル(5GHz帯-1)W52/W53/W56
チャネル(5GHz帯-2)-
チャネル(6GHz帯)1-93ch
ストリーム数(2.4GHz帯)4
ストリーム数(5GHz帯-1)4
ストリーム数(5GHz帯-2)-
ストリーム数(6GHz帯)4
アンテナ外付け×8
WPA3
メッシュ
IPv6
IPv6 over IPv4(DS-Lite)
IPv6 over IPv4(MAP-E)
有線(WAN/LAN自動認識)10Gbps×1+2.5Gbps×1
有線(LAN)10Gbps×1+2.5Gbps×3+1Gbps×1
有線(LAG)〇(VLANも対応)
引っ越し機能-
高度なセキュリティ〇(無料)
USBUSB 3. 2 Gen 1×1+USB 2.0×1
USBディスク共有
VPNサーバー
DDNS
リモート管理機能
再起動スケジュール-
動作モードルーター/AP/メッシュ
ファーム自動更新
LEDコントロール
ゲーミング機能
サイズ(直径×高さmm)350.41×350.41×220.6

 ということで、本製品は非常に豪華なスペックになっているが、その分、消費電力も大きい。10Gbpsポートを2つとも接続し、無線クライアントも数台つないだ状態でのアイドル時の消費電力は24~26Wほどで、無線通信で負荷をかけると30W(!)ほどにもなる。ワットチェッカーの表示を見て、思わず笑ってしまった。

 ただ、本製品にはAIを活用した省エネモードが搭載されており、利用状況に応じて自動的に消費電力を抑える機能も搭載されている。今回は試用期間が短かかったため、この効果を体験することはできなかったが、アイドル時は自動的に不要な機能や帯域を無効にすることで、一応、消費電力を抑えることも可能だ。

省電力モードを利用可能。AIによって自動的に消費電力を抑えられる

多機能なダッシュボード

 設定や管理に関しては、手軽さとマニアックさが融合している感じだ。

 まず初心者向けの工夫として、アプリによる設定が可能で、以下の画面のように、回線の自動判別やリモート管理にも対応する。ただし、自動設定はIPoE IPv6のIPv4 over IPv6方式のすべてに対応しているわけではない。

 自動設定に失敗した場合も、一応、DS-Liteの手動設定は可能だ。それでも、どんな回線でも対応できるというわけではない。実際、筆者宅はASAHIネットの固定IPサービス(IPIP接続)を利用しているが、この方式では現状接続できない。

 高性能なWi-Fiルーターなので、小規模な法人環境でニーズがある固定IP向けのIPIP接続への対応は、ぜひ進めてほしいところ。4月の発表会の際には、同社の開発担当者と直接話をする機会があったので、「IPIP接続にぜひ対応して欲しい」と一方的に要望を伝えておいた。

 現状、IPIP接続は個人向けでは、Linksys、法人向けではバッファローとYAMAHAくらいしか対応していない。こういうコアなユーザーが求める機能を搭載できるのは、おそらくASUSくらいしかないので、ぜひ対応して欲しいところだ。

インターネット回線の自動設定対応。ただし、すべての事業者に対応するわけではない
手動設定も可能

 設定や管理用のウェブ画面も改善がされている。

 まず、最初に表示されるダッシュボードの情報が豊富だ。インターネット接続状況、クライアントの接続状況(無線/有線)、システム負荷などに加え、DNSベンチマークとしてGoogleやCloudflareへのPing結果、イーサネットポートとして有線ポートの接続状況などが表示され、画面上部には「Ask Router Assistant」というAI機能も搭載される。

ダッシュボードにさまざまな情報が表示される

 UbiquitiのUniFiシリーズほどではないが(同社製品をかなり意識しているのではないかと思える)、現状のコンシューマー向けルーターではかなり豊富な情報や機能が備えらえた管理画面となっている印象だ。

 中でも感心したのは「WiFi Insight」と呼ばれる機能だ。

 これは、スペクトラムアナライザーというほどではないが、チャネルの干渉状況を時系列に分析可能な機能だ。もちろん、全帯域の電波をリアルタイムに分析するわけではなく、2.4GHz帯と5GHz帯のチャネルごとに、ほかのWi-Fiが使用しているチャネル、非Wi-Fiが使用しているチャネル、DFS(5GHz帯)をシンプルに時系列にグラフ化したものとなるが、「Wi-Fiが遅い」という原因を探す手助けになる。

WiFi Insightの画面。2.4GHz帯の調査結果。縦軸がチャネルで、横軸が時間。つまり、どのチャネルが、どれくらいの時間、どれくらいの強度の干渉を受けたかを判断できる。5GHz帯はDFSの状況もチェックできる

 例えば、瞬間的なチャネルの使用状況ではなく、継続的な調査によって数時間や1日単位で干渉の少ないチャネルを探すことができる。また、ルーターによってチャネルが自動的に変更されたり、帯域幅が自動的に変更されたりした場合でも、記録されたイベントから、その状況を判断できる。さらに、その原因がほかのWi-Fi機器なのか、非Wi-Fi機器なのか、DFS(レーダー)なのかという判断にも役立つ。

 これは推測だが、リアルタイムの検出を実行するとWi-Fi通信が遅くなる可能性があるのだが、FCCの内部写真を見ると、基板上にDFS ANT(CON15)というアンテナ用コネクタが確認できるので、チャネルスキャン用に専用のアンテナを装備しており、それを使って各チャネルを常時チェックしているのかもしれない。

 前述したように、本格的なWi-Fi調査用のスペクトラムアナライザーには及ばないものの、簡易的な調査機能を搭載してきただけでも高く評価したい。

 画面上部の「Ask Router Assistant」は、自然言語でQ&Aやルーターの設定ができる機能となっている。ローカルで処理されるLLMとなっており、例えば「無線でつながっているデバイスの数は?」と質問すると「2」などと回答することや、「LEDをオフにして」と依頼するとLEDをオフに設定することができる(公式には日本語非対応だが簡単な日本語には対応する)。

接続しているデバイスの数を問い合わせた様子
今すぐLEDをオフにしてと依頼
AI Boardで動作しているLLM(slm-asus)のコンテナのログ。中国では、Qwen 1.5BベースのDeepSeek R1の蒸留モデルが動作するが、日本などのワールドワイドではSmolVLM-500M-Instruct-Q8_0が動作することが分かる

 本製品は「AIルーター」という側面も持つ製品となっており、このRouter Assistantに加え、Wi-Fiの安定性(チャネルの選択など)、ゲーミング性能(アダプティブQoEのAIバランスモード)、省エネ性(前述したアイドル時の省電力機能)、さらには後述するAIボード上のコンテナアプリの機能(Frigate)などにAI技術が活用されている。

 ただし、本製品の本質は、デュアルシステムによる処理負荷の分散であり、Wi-Fiルーターとしての性能を落とすことなく、開発者自身が欲しい機能、思いついたアイデアを思う存分投入できるようにした点にある。この「やりたい放題感」をいかに面白がることができるかどうかが、本製品を買うかどうかの基準になりそうだ。

AI Boardを試す

 では、そのAI Boardを実際に試してみよう。

 まず、設定画面でデュアルシステムであることをあらためて確認しておこう。本製品の設定画面の「AI Board」を開くと、「AIボード設定」という項目で、AI Boardのホスト名を確認、ファームウェアの更新、工場出荷状態へのリセット、再起動などが可能になっている。

AI Boardの画面。基本はコンテナでアプリを動作させる。システムが独立しており、ファームウェアや再起動などもルーター本体と個別に実行する

 これは、ルーター本体の設定とは別に、ネットワーク上でホストとして認識され、ファームウェアを更新したり、リセットしたりできるという意味だ。本体や設定画面上は融合しているが、システムとしては内部的に分離されていることが分かる。

 AI Boardは、基本的にDockerを利用したコンテナ環境となっており、プリセットされたアプリとして、広告ブロックの「AdGuard Home」やIoT機器管理用の「Home Assistant」、NVR(ネットワークビデオレコーダー)の「FRIGATE」などが用意されている。

 これらはワンクリックで自動的にインストールされ、ルーターの設定画面内から各アプリへの設定画面にアクセスするボタンなども配置される。まずは、この3つのアプリを試してみるのがいいだろう。

 ただし、あくまでも別のシステム上で動くアプリとなるため、個別の設定が必要になる。例えば、AdGuardなどは、インストール後、AdGuardのIPアドレスをルーターのDHCPサーバー設定の配布DNS設定として登録し、クライアントのDNSサーバーをAdGuardに切り替える設定が必要になる。

あらかじめ用意されているアプリはワンクリックでインストール可能だが、設定は個別に必要になる

 ASUSは、ルーターメーカーの中でも、特に豊富かつ丁寧なオンラインドキュメントを提供するベンダーとなっており、これらの設定に関しても、ステップバイステップの画面説明と共に分かりやすく解説されている。なので、初心者でもドキュメントを参照すれば各機能を問題なくセットアップすることができる。

▼ASUS:サポート よくあるご質問
[AI ルーター][ROG Rapture GT-BE19000AI] スマートホームガイド:広告ブロックからインテリジェント オートメーションまで

 もちろん、サーバー管理に慣れたユーザー向けの自由度も確保されている。Docker管理用のPortainerをインストールすることができるため、DockerコマンドやCompose用定義を使って自分でサーバーを立ち上げることもできる。

 本製品は、前述したWiFi Insightにしろ、このDocker管理にしろ、一般ユーザーからすると「?」となるような機能に対して、うまいさじ加減で機能を簡略化したり、ドキュメントなどつまずきそうなポイントに対してフォローする工夫をしたりしている。製品としては、十分マニアックだが、それをなるべく広いユーザーが楽しめるように工夫している点に感心した。

Portainerを使って独自にコンテナを起動することも可能

 なお、AI Boardで動作するからといって、必ずしもNPUを使うとは限らない。気になったので発表会で確認したが、すべてのAI機能で必ずしもAI BoardやNPUが活用されているわけではない。というか、現状、NPUを使うのは、前述したNVRアプリの「FRIGATE」のみとなる。

 例えば、Adaptive QoEのAIモードはルーター本体のCPUで動作し、AI BoardもNPUも関与しない。同社は、何らかの機械学習を利用するソフトウェア機能を「AI●●」と呼んでおり、それがルーター本体で動くか、AI Boardで動くか、さらにAI Boardで動く場合にNPUを使うかどうかは、まったく別の話というわけだ。

 このほか、個人的に気になったのが、USBファイル共有機能だ。本製品はUSBポートに接続したストレージをファイル共有やメディア共有などで利用できるが、この機能は残念ながらルーターと同じメインのシステムで動作する。

 実際に10Gbpsで接続したPCからCrystalDiskMarkによる速度を計測したのが以下の画面だ。その時のダッシュボード上のシステム負荷を見ると、50%近くまで上昇している。もちろん、ネットワークの負荷もかかっているので、純粋にUSB機器の制御やSambaの処理の負荷だけではないが、メイン側の負荷が上昇していることが分かる。

 サブボードのAI Boardが内部的に1Gbpsのイーサネットで接続されていること、さらにUSBのインターフェースが用意されていないこと、この2点によってAI Boardではなく、メイン基板側で処理するしかないのだが、前述したように、AI Boardはルーター側の負荷を軽減させる目的もあるので、AI Boardで動くように設計してほしかった印象だ。

CrystalDiskMarkの結果
ベンチ中のルーター処理を実施するメインシステム側の負荷の様子

肝心のパフォーマンスはどうか?

 気になるパフォーマンスだが、最初にお断りしておくと、海外では、本製品は史上最速、実効3Gbpsオーバーという評価がされることがあるが、残念ながら日本では、そこまで実力は高くない。いや、国内の他社製品と比べてもトップレベルの実力は持っているが、規格外と言うほどではない。

 というのも、米国では、6GHz帯向けにAFC(自動周波数調整)という仕組みが用意されており、スマートフォンアプリのGPS機能などで設置場所を判断し、6GHz帯のSPモード(より高い電波出力が許可されるモード)を有効化できる。

 このAFCによるSPモード許可も、本製品のマニアックさを印象付ける機能の1つで、前述した海外での「最速」の評価につながる要因ともなるのだが、残念ながら日本ではSPモードそのものが現状許可されていないため、この機能は利用できない。

AFC(というかSPモード)は日本では利用できない

 また、通常のLPIモードでも日本国内では米国モデルに比べて電力が抑えられており、電波の出力的には、既存のほかのWi-Fi 7ルーターと大差がないことになる。ただ、そもそも高性能なCPUとメモリが搭載されており、かつ余計なアプリ処理をAI Board側に分散できることで、パフォーマンス的には他製品よりも有利な状況にある。

 ということで、いつも通り、木造3階建ての筆者宅にてiPerf3の速度を測定した結果は以下の通りとなる。

ASUS ROG Rapture GT-BE19000AI iPerf3テスト結果
通信1F2F3F入口3F窓際
6GHz上り2720105051486.4
6GHz下り27301670799270
2.4/5GHz(実質5GHz)上り1370804478378
2.4/5GHz(実質5GHz)下り17901140702597

※サーバー:MINISFORUM MS-01 Core i5-12600H/RAM64GB/1TB NVMeSSD/10Gbps SFP+/Proxmox 9.1 LXC(Ubuntu 24.04)
※クライアント:Core Ultra 5 226V/RAM16GB/512GB NVMeSSD/Intel BE201D2W/Windows11 24H2

 まず、6GHz帯の結果だが、1階が2.7Gbpsと速い。筆者が計測した機器の中ではトップレベルの性能で、文句のつけようがない。しかも、一般的な製品は、計測結果にバラツキが出ることがあるのだが、本製品は安定して2Gbps以上をマークし続けることができており、高い速度を維持しやすい印象がある。

 6GHz帯は2階も下り1.67Gbps、3階入口も約799Mbpsとなっており、距離を感じさせない速度がしっかり出せている。唯一、3階の窓際は、6GHz帯の弱点が出た格好で、下りは270Mbpsと実用的なものの、上りが86.4Mbpsと遅くなってしまった。これは周波数の特性、および前述した日本のLPIの出力制限のため仕方がない。

 なので、長距離は5GHz帯を使うべきだ。5GHz帯は1階こそ下り1.79Gbpsと6GHz帯には及ばないものの(それでも十分速いが……)、6GHz帯が苦戦した3階窓際で下り597Mbpsと超優秀な結果が出ている。

 国内の出力制限内でも非常に高速かつ安定しており、パフォーマンスについは現時点でトップレベルであることは間違いない。

 なお、本製品ではMLOが標準で無効になっているため、上記テストもMLOオフの状態で検証している。TP-Link製品もそうだが、海外製品はこうした機能が無効化されているケースが多い。主に互換性の問題だと推測されるが、Wi-Fi 7以降の端末が多く存在するケースでは有効にすることを検討してもいいだろう。

MLOは無効化されている

具体的な活用事例の提示が売り上げ向上のカギ

 以上、ASUSの新型Wi-Fi 7ルーター「ROG Rapture GT-BE19000AI」を実際に試してみた。良くも悪くも規格外の製品で、実売価格も14万円前後と驚くほど高いため万人におすすめできる製品ではない。

 が、好きな人には「ブッ刺さる」製品であることは間違いない。個人的には、「ゲーミング」や「AIルーター」という、俗っぽいキャッチコピーだと、今までのハイエンドWi-Fiルーターの延長線上と捉えられがちで損をしている印象を受ける。デュアルシステムである点や高いパフォーマンスの部分を前面に押し出して、もっと自由度が高く、可能性を秘めた製品である点を訴求した方がいいのではないかと思える。

 ただ、自由度が高いということは、ユーザーの発想やスキルも問われるということでもある。AI Boardにどのようなアプリを実装し、具体的に活用するかという事例や、そのプロセスを楽しむユーザーの生の声が増えていくことが、この製品の魅力を決めることになりそうだ。ざっと考えても、ゲーミングと関連付けてAI Boardでゲームのサーバーをワンクリックで立ち上げるといった使い方が想定できる。

 本製品に必要なのは、価格を抑えることではなく、ASUS製品でしか得られない価値を提供し続けることだ。なので、ぜひIPIP固定IP接続もサポートして欲しい。数千人、数万人のユーザーが70%満足する製品なんて、ASUSが作る意味がない。数十、数百人のユーザーが120%満足するというか、これじゃないとイヤと言える製品を作ることが同社の使命だろう。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。「できるWindows 11」ほか多数の著書がある。YouTube「清水理史の『イニシャルB』チャンネル」で動画も配信中