被害事例に学ぶ、高齢者のためのデジタルリテラシー

自衛の基本を再確認しておこう!

生成AI利用者を狙うネット詐欺が相次ぐ。偽アプリや「無料」の誘いから身を守るために

 「ChatGPT」「Gemini」「Claude」といった生成AIを日常的に使う人が増えました。文章の下書きや調べ物、旅行の計画、健康や薬の相談まで、スマホに話しかけるだけで答えが返ってきます。

 利用者が増えれば、それを悪用しようとする人も現れます。最近目立ち始めているのが、生成AIの人気に便乗したネット詐欺やサイバー攻撃です。生成AIツールを装った偽アプリを配ったり、「無料で使える」とSNSで誘ったり、便利なAIツールを装ってAPIキーを盗んだりする手口が実際に確認されています。多くの人が新しいサービスを使い始め、「どれが本物なのか」「普通はどうやって使うのか」ということにまだ慣れていない状況を、攻撃者が狙っているのです。

生成AIサービスのアカウント自体にも価値がある

 2025年の時点で、セキュリティ企業のCheck Point Softwareは「AI Security Report 2025」と題したレポートにおいて、ChatGPTのアカウントやOpenAIのAPIキーなどが、犯罪者の集まるフォーラムやダークウェブ、Telegram上で売買されたり、無料で共有されたりしている実態を紹介しています(同レポートは現在、2026年版も公開されています)。

 認証情報は、偽サイトにIDとパスワードを入力させるフィッシングや、PCに保存された情報をまとめて盗むマルウェアなどによって集められます。ほかのサービスから漏えいしたIDとパスワードをChatGPTでも試す攻撃もあります。

 犯罪者が生成AIのアカウントを欲しがる理由の1つは、有料サービスを他人の契約で使えることです。さらに、アカウントには生成AIと過去にやり取りした内容が保存されている場合があります。

 病院で知らされた検査結果や飲んでいる薬、家族のこと、相続や預金の相談、仕事上の資料などを生成AIに入力したことがある人もいるでしょう。アカウントを乗っ取られれば、こうした情報まで第三者に読まれる恐れがあります。そうした過去のやり取りの記録を悪用できるという点で、生成AIのアカウントは、それ自体が犯罪者にとって価値があるのです。

盗まれたChatGPTの認証情報は、犯罪者の市場で売買されています(画像は、Check Point Softwareの「AI Security Report 2025」より)

ChatGPTやClaudeの人気を利用してマルウェアを入れさせる

 アカウントそのものを狙わず、ChatGPTやClaudeの知名度を「餌」にする攻撃もあります。

 2026年5月、セキュリティ企業のMalwarebytesは、OpenAIのChatGPTダウンロードページをそっくりまねた偽サイトを確認しました。Windows版やmacOS版のダウンロードボタンが用意されていますが、インストールすると、パスワードやCookie、暗号資産ウォレットなどの情報を盗むマルウェアに感染します。

 さらに巧妙なのが、2026年7月に確認されたClaudeを装う攻撃です。セキュリティ企業のHuntressによると、少なくとも29の組織で偽のClaudeデスクトップアプリによる感染が確認されました。

 被害者は検索エンジンのBingでClaudeのデスクトップアプリを検索し、検索結果の上部に表示された広告をクリックしていました。広告のリンク先には正規の「claude.ai」ドメインが表示されていたのですが、本物のダウンロードページではありませんでした。利用者がコンテンツを公開できるClaudeの「Artifacts」という機能を攻撃者が悪用し、偽のダウンロードページをclaude.aiドメインに作っていたのです。

 そこから「ClaudeDesktop.exe」をダウンロードして実行すると、PCを遠隔操作するマルウェアに感染します。この悪意のあるページは削除されるまでに7100回閲覧されていました。

 「検索結果に出てきた」「URLに公式サービスの名前が入っている」というだけで、本物だと判断するのは危険です。

便利なAIツールを装って「APIキー」を盗む

 ChatGPTなどの生成AIサービスをそのまま利用するほかに、別のアプリを介して利用する方法もあります。そのときに必要になるのが、「APIキー」と呼ばれる文字列です。これは、いわば自分のアカウントで生成AIを利用する合鍵のようなものです。

 2026年1月、セキュリティ企業のObsidian Securityは、「H-Chat Assistant」というGoogle Chrome用の拡張機能がOpenAIのAPIキーを盗んでいたと報告しました。

 この拡張機能は約1万回インストールされていました。利用者が自分のAPIキーを入力すると、実際にAIとの会話ができます。きちんと機能する一方で、入力されたAPIキーは攻撃者側にも送信されていました。Obsidian Securityでは、盗まれていた459個のOpenAI APIキーを確認しています。

 2026年6月には、プログラミング用開発ツール「JetBrains」の公式マーケットプレイスに公開されていた15個のAI関連プラグインからも、利用者が入力したOpenAIやDeepSeekなどのAPIキーを盗む仕組みが見つかりました。これらのプラグインは合計で7万回近くインストールされていました。

 どちらの事例でも厄介なのは、ツールとしては普通に動いていたことです。「公式ストアにある」「ちゃんと使える」というだけでは安全性を判断できません。

普通に使えるAIツールが、入力されたAPIキーを裏側で盗んでいました(画像はObsidian Securityのウェブサイトより)

 SNSでは、AI企業そのものになりすます手口も現れています。3D生成AIサービス「Meshy」は公式ヘルプで、X(旧Twitter)やInstagram、Discordなどに同社を装った偽アカウントが存在すると注意を呼び掛けています。

 警戒すべき例として挙げているのが、「無制限の無料クレジット」「極端な割引」「限定オファー」といったDMです。また、MeshyのスタッフがパスワードやAPIキーを尋ねることはないと明記しています。

 生成AIだから新しい手口に見えますが、人をだます方法そのものは昔から変わりません。「無料」「限定」「あなただけ」「今すぐ」といった魅力的な話でリンクを踏ませたり、秘密の情報を入力させたりするのです。

3D生成AIサービス「Meshy」のウェブサイトでは、「偽アプリや詐欺を見抜く方法」を公開しています

 対策は難しくありません。まず、ChatGPTやGemini、Claudeなどのアプリをインストールするときは、検索結果に表示された広告や見慣れないサイトから直接インストールするのは避けましょう。サービスの公式サイトからダウンロードページへ移動してください。

 ブラウザーの拡張機能やプラグインも、本当に必要なものだけに絞るのが基本です。特に、自分のAPIキーを入力するよう求めるツールは、提供元を確認してから利用してください。

 生成AIのアカウントでは、二段階認証が利用できる場合は設定し、パスワードの使い回しも禁物です。APIキーを利用している場合は、利用範囲を必要最小限に制限し、漏えいした可能性があればすぐに無効化することをお勧めします。

 そして、生成AIとの会話に必要以上の個人情報を書き込まないことも大切です。住所や電話番号、口座番号、マイナンバーなど、本人の特定や金銭被害につながる情報は入力しないでください。

 高齢のご家族が生成AIを使い始めたら、「アプリは公式サイトからインストールする」「無料や限定をうたうDMは信用しない」「パスワードやAPIキーは人に教えない」と伝えておくといいでしょう。

 新しい技術が広まるときは、本物の見分け方も、安全な使い方も、まだ広く知られていません。犯罪者が狙うのは、その隙です。生成AIだからといって、全く新しい詐欺対策が必要なわけではありません。知らない相手から届くうまい話を疑い、公式の入り口からサービスを使い、個人情報を簡単に渡さないという、これまでの自衛の基本は、生成AIの時代でも有効なのです。

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