清水理史の「イニシャルB」
NECの本気? メッシュ、セキュリティ、デザインの全方位で勝ちに来たWi-Fi 6ルーター「Aterm WX5400HP」
2022年2月7日 06:55
NECプラットフォームズからWi-Fi 6ルーターの新製品「Aterm WX5400HP」が2月3日に発表された。
最大4804Mbpsに対応するデュアルバンドルーターとなっており、同社の店頭販売モデルとしては初のWi-Fi 6メッシュ対応や、トレンドマイクロのセキュリティ機能搭載が特徴となっている。
サイズも一回り小さくなった上、NECらしい細部への配慮も行き届いた同製品を実際に検証してみた。
「やるなら本気」で作られた、“ちょい上”の普及機
NECプラットフォームズから登場した「Aterm WX5400HP」は、同社のミドルハイにラインアップされるWi-Fi 6対応ルーターだ。
ここ数年のテレワーク需要でニーズの高まりつつあるWi-Fi 6ルーターだが、これまで、その中心はコスト面で有利な最大1201Mbps対応のエントリーモデルや、最大2402Mbps対応のモデルとなっていた。
しかし、こうしたニーズは一巡し、現在では、より高い性能や安定性、安心して使えるセキュリティ機能など、さらに高度な機能を搭載した「ちょい上」の普及モデルを求める傾向が強くなってきた。
本製品は、まさにそんな時代のニーズに応える製品と言える。スペックとしては、4ストリーム160MHz幅対応で最大4804Mbpsを達成する5GHz帯と、2ストリーム40MHz幅で最大574Mbps対応の2.4GHz帯に対応したデュアルバンド対応の製品となっている。
160MHz幅対応によって、低価格なゲーミングPCなどでも当たり前に搭載されるようになった最大2402MbpsのWi-Fi 6で、フルスピードでリンクできるだけでなく、4ストリーム対応により、その倍となる4804Mbpsを用意することで、複数台接続時にも余裕を持ったスペックを実現している。
もちろん、昨今のトレンドになりつつある「メッシュ」への対応もしっかりと実現していて、対応モデルと組み合わせて利用することで、手軽に通信エリアを広げることができる。
しかも、こちらも同社の店頭モデルとしては初となるセキュリティ機能(トレンドマイクロ「ホームネットワークセキュリティ」)まで搭載しており、ホームネットワークに接続されるPC、スマホ、タブレット、AV機器、家電、IoT機器など、あらゆるデバイスをさまざまな脅威から保護することが可能となっている。
こうしたセキュリティ機能は海外メーカー製ルーターでの採用例が多いが、IPv6 IPoE接続サービスでのインターネット環境では使えないといった制約がある機種も存在する。国内のインターネット事情に合わせて、セキュリティ機能までしっかりと作りこんできた本製品は貴重な存在だ。
このほか、細かい改良を上げればキリがないが、QRコードでの接続が楽になっていたり、IPv6インターネットサービスで新たにASAHIネットの「v6 コネクト」に対応したり、リモートワーク用のネットワーク分離ができたり(しかもメッシュ構成時でも意識せずVLANで!)、アプリを使って外出先からリモート管理できるなど盛りだくさんの進化となっている。
Atermシリーズとして今できることを全て詰め込んだ熟成モデルと言っていいだろう。
Aterm WX5400HP | |
実売価格(税込) | 1万7000円前後 |
CPU | ― |
メモリ | ― |
Wi-Fiチップ(5GHz) | ― |
対応規格 | IEEE 802.11ax/ac/n/a/g/b |
バンド数 | 2 |
160MHz対応 | 〇 |
最大速度(2.4GHz) | 574Mbps |
最大速度(5GHz) | 4804Mbps |
チャネル(2.4GHz) | 1~13ch |
チャネル(5GHz) | W52/W53/W56 |
新電波法(144ch) | 〇 |
ストリーム数(2.4GHz) | 2 |
ストリーム数(5GHz) | 4 |
アンテナ | 内蔵 |
WPA3 | 〇 |
メッシュ | 〇(独自) |
IPv6 | ○ |
DS-Lite | 〇 |
MAP-E | 〇 |
WAN | 1Gbps×1 |
LAN | 1Gbps×4 |
LAG | × |
USB | × |
セキュリティ | 〇※ |
動作モード | RT/BR/MA |
ファームウェア自動更新 | ○ |
サイズ(幅×奥行×高さ) | 46.5×180×180mm |
※トレンドマイクロ ホームネットワークセキュリティ
機能アップしたのに一回り小さく軽い?
Aterm WX5400HPの開封時に驚いたのは、そのサイズだ。
サイズとしては46.5×180×180mmなので、特別に小さいわけではないのだが、同系統デザインでスペックも近い従来モデル「Aterm WX3600HP(4ストリーム最大2402Mbps+1147Mbps、51.5×215×200mm)」と比べると、明らかに一回り小さく、軽い。
いや、通信機器が小さくなるというのは、なかなかスゴイことなのだ。しかも、アンテナ内蔵で。
アンテナを含め限られた内部スペースを有効に使う工夫が必要な上、熱対策も難しくなる。
特に、今回のモデルは160MHz幅対応で最大4804Mbpsと、従来モデルよりも速度が向上している上、冒頭でも触れた通り機能が大幅に追加されている。こうした状況であっても、少しでも小型化しようという努力は、開発者のこだわりが伺えるポイントだ。
その代わり、本製品の上部は熱を逃がすためにメッシュ構造になっている。現行のモダンデザインのAtermシリーズとしては従来になかった点だが、個人的にはデザイン的な違和感はなく、むしろいいアクセントになっているとも思える。
また、小さくなったことで、設置場所の選択肢が増えたことは歓迎したいところだ。付属の台座を装着しても高さは190mmほどなので、高さ200mmの棚などに収めることも(電波を考えるとお勧めはしないが)不可能ではない。幅も50mm以下なので、壁掛けで使っても出っ張りが少ない。
何より、アンテナ内蔵は、やはり魅力だ。設置場所を占有しない上、見た目がスッキリしている。それでいて、同社ならではの「ワイドレンジアンテナPLUS」と、3直交アンテナ技術(内部の全てのアンテナがXYZ軸方向に機能)により、後述するように性能は文句なしとなっている。
インターフェースは、リセットボタンのみ底面で、そのほかは側面に配置されている。有線ポートは、全て1Gbps対応で、LAN×4、WAN×1という構成になっている。より高速な有線ポートを搭載する機種も増えてきたが、インターネット回線の主流がまだ1Gbpsということを考えると、不足を感じることはないだろう。
このメッシュはなかなか賢い
本製品の最大の注目ポイントとなるのは、何といってもメッシュ対応だろう。
メッシュには、Wi-Fi Allianceが認証を進めている「EasyMesh」という標準規格も存在するが、この規格は現状メーカー間の互換性に課題があり、メーカーを越えた相互接続性が実現されるのは、まだ少し先となりそうだ。
このため、本製品は現時点では独自のメッシュ規格を採用していて、基本的には同一モデル、または対応する同社製モデルと組み合わせて利用することになる。
しかしながら、EasyMeshのいいところはしっかりと取り込まれている。例えば、メッシュの構成が簡単にできるように工夫されている。
本製品2台でメッシュを構成する場合、1台目を通常のWi-Fiルーターとして構成後、2台目の側面にあるモードスイッチを「MA」に切り替え、2台目のWANポートと1台目のLANポートを有線LANで接続する。この状態で2台目の電源を入れれば、自動的に構成情報がやり取りされメッシュとして構成される。
一般的なメッシュの場合、Wi-FiやBluetoothを使ってアプリ経由でメッシュを構成するが、本製品はアプリをインストールする手間も必要ないし、電波の加減でメッシュ構成に失敗する心配もない。より確実かつ簡単にメッシュ構成ができるのは便利だ。
メッシュ構成後の接続状況も簡単に確認できる。設定画面から「接続図」を参照すると、メッシュを構成する2台のアクセスポイントがどの帯域で接続されているのか、それぞれのアクセスポイントにどのようなクライアントがどの帯域で接続されているのかが表示される。
メッシュの場合、設置した2台のアクセスポイント間をつなぐバックホールが非常に重要だ。筆者宅などでは、周囲に2.4GHz帯を利用する家庭が多いため、中継用のバックホールに2.4GHz帯が使われると、せっかくメッシュでエリアが広がっても、中継帯域がボトルネックになってしまって、そのメリットを生かせない場合がある。
本製品では初期値として高速な5GHz帯を選択してくれるため、バックホールの速度がボトルネックになることはなかった。前述したように5GHz帯は4ストリーム分の豊富な帯域があるので、これを中継とWi-Fi子機との接続で共有したとしても、速度的には十分すぎる印象だ。もちろん、有線バックホールも構成できる。
移動しながら利用する際の接続先切り替えもスムーズだ。ローミングへの対応で、例えば1階のアクセスポイントに接続したノートPCを持ったまま3階まで移動すると、途中で3階のアクセスポイントへと自動的に接続先が切り替わる。Windowsの通知領域のWi-Fiのアンテナが減ったと思ったら、すぐにフルに復帰するので、移動しながらの利用も接続先の切り替えなどを意識することはない。
試しに、電波状況を調査するツール(NetSpot Pro)を利用して、電波状況のヒートマップを作成してみた。
Aterm WX5400HPを1台のみで構成した場合、筆者宅の場合、2階のバルコニー付近で若干電波が弱くなり、3階に関しては全体的に青みがかった色で電波がかなり弱くなっていることが分かる。
一方、2台のAterm WX5400HPを1階と3階に設置してたメッシュを構成した場合、1台構成では弱かったポイント、2階のバルコニー付近が黄色っぽい色へと変化し、3階に至っては2台目が階段付近に追加されたことで、全体的に赤くなり、電波状況がかなり改善されていることが分かる。
メッシュ構成にすることで、このように長距離での通信環境が大きく改善されることがよく分かる結果となった。
また、速度も大幅に改善された。以下は、同じく1台構成とメッシュ構成でiPerf3による速度を測定した結果だ。
1F | 2F | 3F入口 | 3F窓際 | ||
1台 | 上り | 928 | 652 | 373 | 25.9 |
下り | 938 | 780 | 542 | 63.2 | |
2台(メッシュ) | 上り | 939 | 641 | 395 | 378 |
下り | 936 | 771 | 525 | 454 |
※サーバー CPU:Ryzen 3900X、メモリ:32GB、ストレージ:1TB NVMe SSD、OS:Windows 10
※1台使用時の3階窓際は2.4GHz帯で接続された状態
本製品は、単体のWi-Fi 6ルーターとして見てもかなり高速な製品と言える。160MHz幅のおかげで1階の近距離は900Mbpsオーバーと、1Gbpsである有線LANの上限に届いている。
2階の600~700Mbpsという結果や、3階入口の300~500Mbpsという結果もかなり高速で、木造の一般的な住宅であれば、1台でも十分すぎるほどの性能を発揮する。
ただし、筆者宅でのテストでは、1台構成の場合、3階窓際の最も遠い地点で、2.4GHz帯での接続になってしまいiPerf3の結果が下りで63Mbps前後、上りで25Mbps前後と、かなり落ちてしまった。
メッシュ構成は、こうした長距離や遮へい物がある環境での改善に効果的で、3階窓際の値が、下りで一気に7倍の454Mbpsにまで向上している。
3階の階段付近に2台目を設置したことで、前掲のヒートマップのように3階全体の電波状況が改善され、3階窓際でも5GHz帯を利用して接続することが可能になったおかげと言える。
メッシュ構成にすることで、せっかくの高速な5GHz帯のWi-Fi 6を広いエリアで活用できるようになったわけだ。
セキュリティ機能で脅威をシャットアウト
本製品のもう1つの特徴は、トレンドマイクロのホームネットワークセキュリティを利用できる点だ。
この機能は、工場出荷時状態で有効にされている上、前述したようにIPoE IPv6接続サービスの環境でも利用可能なため、普通に初期セットアップをするだけで、自動的に自宅のネットワークを保護できる。
具体的に何をする機能なのかというと、Wi-Fiルーターでやり取りされる通信を監視することで以下のような脅威から保護することができる。
- Wi-Fiへの不正な接続を遮断
- フィッシングなどの危険なサイトや有害サイトへの接続をブロック
- ネットワーク内の機器に脆弱性がないかを診断
- インターネットの利用時間を制限※
- 家族がWi-Fiに接続したことを通知(帰宅通知などに活用)※
※管理アプリからの設定が必要です
最大で90日間(起動時から30日間、スマホアプリからアカウント登録後60日間)は無料で利用できるようになっているが、継続利用には料金が必要になるため、まずは機能を体験してみるといいだろう。
具体的にどのようなメリットがあるのかというと、例えば以下のような例がある。
インターネット上からのポートスキャンの検知
ゲームやリモートアクセスなど、ルーターで開放されているポートが悪用できるかどうかを第三者がツールを使って自動的にチェックすることがある。こうした通信を検知し、遮断することができる。
脆弱性を狙った攻撃の遮断
OSやアプリの脆弱性を狙って攻撃するサイトなどにアクセスしようとすると、次のように攻撃の種類を検知してアクセスを遮断することができる。うっかり、偽サイトなどに誘導され、スクリプトなどを実行されることを回避できる。
不正なプログラムのダウンロードを遮断
マルウェアなどの不正なツールをダウンロードしそうになると、それを検知して遮断することができる。
ポイントは、こうしたセキュリティ機能をネットワーク内の全ての機器に対して適用できる点だ。
Windowsであれば標準のセキュリティ対策機能(DefenderやFirewall、Smart Screen)などで同様の対策も可能だが、本機能であればPCはもちろんのこと、スマートフォン、タブレット、ネットワーク対応テレビ、ゲーム機、ネットワーク家電、スマートスピーカー、ネットワークカメラ、各種センサーなど、ホームネットワークに接続されている機器全てを保護することができる。
こうした安心を得られることは本製品の大きな魅力と言えるだろう。
また、自宅でリモートワークする場合などを想定したネットワーク分離の機能「リモートワークWi-Fi機能」も利用できる。
本製品では、セカンダリSSIDの標準設定でリモートワークWi-Fiの機能がオンになっており、これを有効にすることで、メインのSSIDとは別の分離されたネットワークを用意できる。
さらに、「SSID内分離(セパレータ)」もオンにすることで、セカンダリSSIDに接続した端末は、基本的にWAN回線にしかアクセスできないように制限され、同じWi-Fiに接続している端末や、有線LAN接続の端末との通信が遮断される。
これにより、例えば自宅に会社のPCを持ち帰って作業する際に、家族のPCとの接続が遮断されるのはもちろんのこと、ほかの家族とリモートワークの接続が重なったとしても、重要なデータが家族に見られる心配がないことになる。
この機能は、前述したメッシュを構成した場合にも利用可能だが、メッシュの場合、アクセスポイント間を移動する可能性があるため、より高度な機能として提供される。具体的にはVLANを利用して別のセグメントを作成し、ネットワークを分離する。
しかしながら、ユーザーはVLANやセグメントなどといったことは一切意識する必要はない。単にメッシュネットワーク分離機能をオンにするだけで、こうした設定はAtermが全て自動的に構成してくれるわけだ。
前述したセキュリティ機能がIPv6環境で使えることもそうだが、本製品では、各機能が個別に存在するのではなく、きちんと組み合わせて利用する際のことが考慮されている。こうした当たり前のことができていない製品も多い中、しっかりと実際のユーザー環境を考慮しているあたりは、さすがと言える完成度だ。
細かな配慮に感服
このほかにも、いろいろな進化がなされている。
例えば、「Atermホームネットワークリンク」アプリを利用することで、インターネット経由でAterm WX5400HPの状態を確認したり、設定を変更したりできる。これにより、実家などにAterm WX5400HPを設置した際に、リモートから機器を再起動するなどのメンテナンスが可能になる。
また、地味だが、同梱されている接続用のQRコードも進化していて、iOSではカメラで読み取るだけで自動的にWi-Fi接続が可能になった。
それだけでなく、接続用のQRコードは、設定画面でSSIDやパスワードを変更した際に自動的に表示したり、設定画面から任意のタイミングで現在のQRコードを表示したりできる。変更時にもきちんと対応できるのはありがたいところだ。
このようにAterm WX5400HPは、基本的な無線性能を進化させながら、メッシュによる拡張性を確保することで、高速かつ安定した通信ができるようになっている。
その上で、セキュリティ機能を搭載し、しかも自動的に、かつ回線環境やメッシュ構成を問わず利用可能にすることで、安心してWi-Fiを使える製品に仕上がっている。
フラッグシップ機としてAterm WX6000HPも存在するが、本機は価格も手ごろな上、サイズも小さく、セキュリティ機能を中心に機能が充実しているのが魅力だ。Wi-Fiの性能や、こうしたホームネットワークのセキュリティといった点に関心があるユーザーなら、本製品を積極的に選ぶメリットがあり、特にお勧めできる製品と言えそうだ。
(協力:NECプラットフォームズ株式会社)