清水理史の「イニシャルB」

どう管理する? いくらかかる? 見えにくいNASのクラウドバックアップが身近になるバッファローの「キキNaviクラウドバックアップ」

 災害対策などを考えてNASのデータをクラウドへバックアップしたい――。テレワークでデータの重要性が改めて見直されるようになった今、NASのクラウドバックアップのニーズが高まりつつある。

 しかし、クラウドバックアップは、中小企業など、ITに不慣れな現場では使い方やコストが見えにくく、導入の決断がしにくい。

 そこで登場したのが、バッファローの「キキNaviクラウドバックアップ」というサービスだ。同社のNASであるTeraStationのデータを誰でも簡単に、しかも定額で、クラウドへバックアップできる。

「キキNaviクラウドバックアップ」に対応する10GbE対応4ベイNAS「TeraStation TS6400DN」シリーズ。24/16/8/4TBの各容量をラインアップする

 国内データセンターを用意し、デバイスとの組み合わせで入念にチューニングされた同サービスの特徴について、同社に聞いた。

リモート管理サービス「キキNavi」

 NASの管理は手間が掛かる。特に、それが社内の複数の部門や拠点に散在すれば、なおさらだ。

 こうした課題を解決すべくバッファローがサービスを提供しているのが、「キキNavi」と呼ばれるリモート管理サービスだ。

 キキNaviは、インターネットを経由してNASなどのデバイスと、これらのデバイスを保守・管理する担当者をつなぐサービスだ。NASだけでなく、AirStation Proやスマートスイッチなどの法人向けネットワーク機器をクラウドで管理することができる。

 稼働状況の把握や簡単なメンテナンス(再起動など)などの機能が提供されており、クラウドから機器を一元管理することができる。

 株式会社バッファローの山田磨(オサム)氏(事業本部法人マーケティング部 法人ストレージマーケティング課課長)は、このサービスの特徴を次のように説明してくれた。

株式会社バッファローの山田磨(オサム)氏(事業本部法人マーケティング部 法人ストレージマーケティング課課長)

 「NASなどのネットワーク機器は、設置される場所と、実際に管理する担当者や保守を担う販売店などが別々のケースが多くあります。これらをクラウドで結び付けることで、ユーザーにとっては障害発生時に素早く対応してもらえるようになり、保守担当者にとっては実際に現場へ足を運ぶ機会を減らすことができます。保守・管理の手間を減らし、ダウンタイムを削減できるこの点がキキNaviの特徴です」とのことだ。

離れた複数の場所に置かれたNASをリモートから一括で管理し、バックアップの操作や確認ができる

 キキNaviは、サービスとしては、すでに3年ほど前から提供されていて、利用者は順調に伸びているそうだが、これまで放置されがちだったNASの管理が見直されるようになり、実際にサービスを利用するユーザーは増加傾向にあるという。

 今回、同社がリリースしたキキNaviクラウドバックアップは、このキキNaviのサービスの1つで、同社が提供するクラウドストレージにNASのデータをバックアップすることができる機能となっている。

ローカルバックアップと何が違うのか?

 NASのバックアップ、とひと口に言っても、その目的や方法は複数ある。

 例えば、ファイル操作のミスなどから削除されたファイルを復元するための日常的なバックアップにはスナップショット機能があり、NAS自体やHDDの故障に備えるためにはUSB接続のHDDへのバックアップや、NAS同士のレプリケーションといった機能などもある。

 今回、提供が開始されたキキNaviクラウドバックアップは、文字通り、クラウドストレージへのバックアップだが、このバックアップは、前述した各種のバックアップとは、どのような違いがあるのだろうか?

 山田氏によると、「キキNaviクラウドバックアップを提供するきっかけは、お客様の声からです。大規模な災害を身近に体験された方から、災害対策としてのクラウドバックアップサービスの利用を望まれる声が多く上がるようになりました。TeraStationをご利用いただいているお客様の中には、USBストレージなどを使ったバックアップを利用されているケースが多くありましたが、これだけでは大規模な災害が発生したときにデータが失われてしまう可能性があります。BCP対策や災害対策という観点から、今回、クラウドバックアップという選択肢をご用意させていただくことになりました」とのことだ。

 もちろん、キキNaviバックアップを日常的なバックアップとして利用することも可能だが、山田氏によると、ファイルの操作ミス対策などの日常的なバックアップには、USB接続HDDなどをバックアップに利用し、災害対策としてキキNaviクラウドバックアップを併用するのが適しているとのことだ。

クラウドバックアップの「見えない」を解決

 このように、キキNaviクラウドバックアップは災害対策などに活用できるクラウドバックアップサービスとなっているが、「クラウドバックアップ」には、何かと「見えない」部分が多く、導入に二の足を踏んでしまうユーザーが多いことも事実だ。

 少し考えただけでも「どうやって使うのか?」「いくらかかるのか?」「時間はどれくらいかかるのか?」という疑問が湧いてくる。これらを同社ではいかに解決しているのだろうか。

【クラウドバックアップの「見えない」その1】使い方が見えない

 物理的なバックアップ先が手元にあるUSBストレージへのバックアップと違い、クラウドバックアップは、設定方法が見えにくい。多くのNASでサポートされているAmazon S3バックアップなどを例に見ても、アクセスキーやBucketと言われてもピンとこないし、いきなりIAMの設定なんて言われても困ってしまう。

 バッファローのキキNaviクラウドバックアップは、こうした疑問を解消すべく、「使いやすさ」にこだわっているという。

 実際の操作方法をデモで見せてもらったが、サービスは購入したライセンスを登録することで簡単に使えるようになる上、バックアップの設定も一覧表示されたNASを選択し、バックアップしたいフォルダーを選択、スケジュールを設定するという、ウィザード形式で簡単に進めることができる。

 もちろん、万が一の場合のリストアも簡単で、同様にクラウドから復元したいフォルダーを選択してリストア先のデバイスを選択するだけと簡単だ。このほかファイル単位でバックアップしたデータから、任意のファイルをダウンロードすることもできる。

デバイス管理画面。NASに加え、キキNaviに対応するWi-Fiアクセスポイントやスイッチを含め、登録機器を一覧で表示可能
各デバイスの詳細情報を表示する画面では、発生したエラーなどの状態を確認したり、再起動やファームウェアアップデートといった操作、機器のログ取得などができる
バックアップと復元のタスクを簡単に作成できる
まずはバックアップ元となるNASを選択する
NAS内の共有フォルダ一覧から、クラウドにバックアップしたいものを選ぶ
バックアップスケジュールの設定画面

 一般的なNASでは、機器の設定とクラウドストレージの設定が個別に存在するが、キキNaviクラウドバックアップでは、ソリューションとして完全に統合されているため、クラウド上で全ての設定が完結する。

 これまで見えにくかったクラウドバックアップが、直感的に扱えるようになっているのはなかなか秀逸だ。

【クラウドバックアップの「見えない」その2】コストが見えない

 クラウドバックアップはコストも見えにくい。保管容量によって料金が変化するだけでもややこしいが、サービスによっては保管だけでなく、転送量に応じて料金が加算されることがあり、これが思わぬ出費につながるケースも少なくなかった。

「キキNavi クラウドバックアップ ライセンスパック」の料金は契約期間(1年/3年/5年)と利用容量(1TB/3TB/5TB)により違い、1年1TBの「OP-KCB01-1Y」は3万6300円

 この点について山田氏は、こう説明してくれた。「キキNaviクラウドバックアップは完全な定額料金で提供しているサービスです。1TBの場合で1年間3万6300円となっており、データの保管料や転送量なども全て含まれているため、これ以上の費用がかかることはありません」。

 例えば、Amazon S3の場合、最初の50TBまでの月額料金は、1GBあたり0.025ドル。1TBで1年間なら約300ドルなので、1ドル115円で換算すると約3万4500円だ。つまり、キキNaviクラウドバックアップとほぼ同等となる。

 しかし、Amazon S3では、このほかにAPIのリクエストに対して料金が発生する上、Amazon S3からインターネットへのデータ転送(アウト、つまりリストア時)にも1GBあたり0.114ドルの料金(1TBなら1万円以上)も発生する。

 キキNaviクラウドバックアップでは、こうした見えないコストが発生しないのがメリットだ。

 また、山田氏は「法人によっては一般的なクラウドサービスのクレジットカード払いが敬遠される場合もあります。キキNaviクラウドバックアップでは、ライセンスパックという形態となっているため予算化がしやすく、支払いも方法も柔軟に選択できます」と、支払い方法のメリットについても語った。

【クラウドバックアップの「見えない」その3】バックアップ時間が見えない

 クラウドバックアップで心配になるのは、バックアップ時間だろう。インターネット経由でバックアップをするため、バックアップ容量や回線速度によっては長い時間がかかってしまう場合がある。

 これについて、株式会社バッファローの千葉隼人氏(事業本部NAS開発部第一開発課第一FW係長)は、おおよその目安を次のように教えてくれた。

 「弊社のテスト環境での一例となるため、あくまでも参考値となりますが、1Gbpsのインターネット光回線を利用した環境で、125万ファイル、合計1TBのデータをバックアップした場合で約2日半の時間となりました。これは初回のフルバックアップなので、次回以降の差分バックアップでは、より短い時間でのバックアップが可能となります」。

株式会社バッファローの千葉隼人氏(事業本部NAS開発部第一開発課第一FW係長)

 125万ファイルという多くのファイルのバックアップで2日半なら、十分に優秀な結果と言ってよさそうだ。

 同社によると、パフォーマンス面でのチューニングを念入りに実施しているそうで、「バックアップ時のAPIでなるべく無駄を省くように工夫している」(千葉氏)という。

 実は、この部分は相当に重要なポイントとなる。インターネット上でクラウドバックアップの事例などを検索すると、バックアップ先のクラウドサービスのAPI制限により、バックアップに想定以上の時間がかかるケースを参照することもできる。

 クラウドサービスによっては、1日あたり1分あたりなど、一定時間に受付可能なリクエスト数が定められている場合があり、この制限によってバックアップで待ち時間が発生したり、エラーで何度も再リクエストが発生するなど、想定外の事態が発生したりする可能性があるのだ。

 特に、複数拠点のNASに対して同時間帯にバックアップを実行させる場合などには、この制限が発生しやすく、バックアップ設計の落とし穴になりやすい。

 また千葉氏は、「メモリの使い方も工夫しています。メモリ搭載量が少ない機種では、大量のファイルをバックアップする際に、メモリ上に大きなファイルリストを保持してしまうとメモリを圧迫してしまいます。このため、メモリ使用量がなるべく少なくなるように工夫しています」という。

 千葉氏は、「キキNaviクラウドバックアップは、TeraStationのバックアップに最適化された設計をしています」と、さも当たり前のことのようにサラリと答えるが、汎用的なクラウドストレージと異なり、複数拠点からのバックアップを想定したバックアップ専用に設計されているだけあって、大量のファイルを扱うバックアップサービスとしての完成度は高いと言えそうだ。

【クラウドバックアップの「見えない」その4】バックアップの失敗が見えない

 もう1つ、クラウドバックアップサービスの盲点となりがちなのが、バックアップの失敗、つまりエラーが見えにくい点だ。

 バックアップを設定しただけで安心してしまい、いざリストアしようとデータを確認すると、何カ月も前の古いバックアップのまま、ジョブがストップしていたというケースは珍しくない。

 もちろん、NAS側、もしくはクラウド側のいずれかでエラーが通知されている可能性はあるが、日常的に両方をチェックするのは困難な上、エラーの原因を調査しようにも、その切り分けも難しい。

 この点について千葉氏は、キキNaviクラウドバックアップのメリットをこう説明してくれた。「キキNaviクラウドバックアップでは、バックアップの進捗、つまり今何をどれくらいバックアップしているかという情報やエラーなどは、管理画面から的確に把握できます。NASが地方の拠点に点在している場合でも、個別のNASごとに状況を確認する必要はなく、NAS全てのバックアップ状況が、キキNaviの管理画面でまとめて確認できます。また、エラーが発生した場合などにエラーをメールで通知することもできるので、バックアップの失敗なども確実に検知できます」という。

万一バックアップが途中で止まってしまったときも、エラーの内容などが細かく確認できる

 こうした管理のしやすさ、状況の把握のしやすさ、トラブル時の対応のしやすさは、NASというデバイスとクラウドストレージというサービスを、どちらも同じベンダーが開発している大きなメリットだ。

競合と比べた場合の優位性はどこにあるのか?

 このように、NASベンダーが、自社製品のためのバックアップ環境を自前で用意するというのは、今回のキキNaviクラウドバックアップに限らず、世界的に大きな1つのトレンドとなりつつある。

 例えば、海外NASベンダーであるSynologyは、「Synology C2 Storage」という自社製NAS専用となるバックアップ用のクラウドストレージサービスを2018年から世界で展開している(しかも1TBで年間69.99ドルと格安)。NASの付加価値として、クラウドバックアップサービス、それも自社製品専用のクラウドサービスが重要視されるようになってきた実例だ。

 では、こうした既存のサービスと比べたとき、キキNaviクラウドバックアップの優位性はどこにあるのだろうか?

 山田氏は、「ひと口に言えば、TeraStationに最適化されているのが特徴ですが、具体的には次の3点が優位性と言えます」と、キキNaviクラウドバックアップの特徴として以下を挙げた。

1.大量ファイルのバックアップに対応

 「NASのバックアップの特徴として、大量のファイルを扱う点が挙げられます。10万、100万単位のファイル数になることも珍しくありません。こうしたファイルを高速かつ安定してクラウドにバックアップできるようにするために、クラウドサービスだけでなく、TeraStation側も含めて設計しているのが特徴です」(山田氏)。

 実際、同社が公表しているデータでは、625万ファイル(合計5TB)のバックアップでも動作検証済みとなっている。このように、NASならではのバックアップ事情がきちんと考慮されているのは心強い。

 また、山田氏は、データだけでなく、設定もバックアップできるという特徴も挙げた。「キキNaviクラウドバックアップでは、登録されているユーザーやグループの情報、共有フォルダーの設定、アクセス権の設定など、NASの設定もバックアップすることができます。このため、NASの故障時なども設定を含めた復元が短時間かつ簡単にできます」とのことだ。

625万ファイル(容量5TB)のファイルをバックアップ可能なことが同社の検証で確認済みだ
NASのファイルやデータだけでなく、ユーザーやグループ、共有ファイルのアクセス制限などを含む設定までをクラウドバックアップできる

2.導入のしやすさ

 「コストの部分でも触れましたが、本製品はライセンスパックという形態で、固定料金で提供するサービスとなっています。予算化が容易で、支払い方法もクレジットカードだけでなく柔軟に選択できるので、法人での導入がしやすくなっています」(山田氏)。

 また、データセンターが国内にある点も導入しやすさにつながるだろう。山田氏によると「データのバックアップ先となるデータセンターは全て国内にあります。海外にデータが保存されることはありません」とのことだ。

3.管理がしやすい

 さらに「キキNaviは、保守管理を担当する販売店様や、実際に利用する企業のIT担当者様をクラウドで結び付けるサービスです。データを単にクラウドに保管できればいいというサービスではなく、何かトラブルが発生した際に、それを把握したり、すばやく対応できたりするようになっています」(山田氏)という。

 問い合わせ先も、ハードウェア(NAS)とサービス(クラウド)で別々となることはなく、バッファローに一元化されることもありがたい。

 この点について、株式会社バッファローの田村佳照氏(事業本部 NAS開発部 第一開発課長)は、こう補足してくれた。「今回のキキNaviクラウドバックアップは、使いやすさと速度を考慮して開発しました。購入後に、いかに高い満足度を感じていただけるかを考慮し、特に使い勝手には気を配っています。社内でも、いろいろな人に実際に使ってもらってフィードバックをもらうことで、開発部門だけでは気付かない部分にまで手を入れています」という。

株式会社バッファローの田村佳照氏(事業本部 NAS開発部 第一開発課長)

 実際、キキNaviの管理画面は、非常に分かりやすい設計になっている。これなら、保守管理を担当する販売店、実際に利用する企業のIT担当者など、誰でも簡単に操作できるだろう。

ソリューションとして完成しているクラウドバックアップサービス

 以上、バッファローが同社製法人向けNASのTeraStation用に提供を開始した「キキNaviクラウドバックアップ」について、開発の経緯や工夫を実際に聞いた。

 上記でも触れたが、今後、NAS向けに自前のクラウドサービスを用意することは、1つのトレンドになりそうだ。汎用的なクラウドストレージではなく、自社製品に最適化されたクラウドストレージを用意し、なるべく簡単かつ高速にデータをバックアップできる環境を用意することで、より安心してNASを利用できるようになる。

 特に、インタビュー中に山田氏が語っていた「テレワークの普及やペーパーレスという流れの中で、NASのデータは、量も、その価値も以前に比べて大きなものとなっています。そのNASのデータを確実に守れるようにしたい」という言葉が印象的だった。

 NASはここ数年で一気に中小の現場を含め普及し、今では当たり前のように使われているが、その価値や重要性をもう一度見直し、きちんとデータを保護する対策を検討すべきなのだろう。

 中でも、今回のサービスは、特に国内ベンダーらしい、細かな配慮と、気付かないような技術的な工夫がなされている上、NAS本体やクラウドサービス、そしてそのサービスを提供するバッファロー本体や、販売や保守を担当する販売会社までをカバーする、一体となったソリューションとして提供されている。その上で、かなり作りこまれた完成度の高い技術も惜しげなく投入されている。

 現状は、以下のように、まだ対応機種が限られているため、このサービスを利用するには対応製品が必要だが、この完成度の高さを考えると、この機会に対応機種へリプレイスするのもありと言えそうだ。この機会に導入を検討してみるといいだろう。

キキNaviクラウドバックアップ対応機種

  • TS6000シリーズ:FW Ver.5.54以上
  • TS5010/TS3020/TS3010シリーズ:FW Ver.5.08以上
清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 11」ほか多数の著書がある。