清水理史の「イニシャルB」
クラウドにもバックアップを! 法人向けOffice 365のデータをNASにバックアップ、Synology「Active Backup for Office 365(ベータ版)」を試す
2018年4月16日 06:00
SynologyのNAS向けに、「Active Backup for Office 365(ベータ版)」の提供が開始された。クラウドサービスの法人向けOffice 365のデータをNASにバックアップできるモジュールだ。実際の動作を検証してみた。
それでもクラウドに保存したデータが失われる「うっかり3連発」
「わざわざクラウドのデータをローカルにバックアップしなくても……」
そう思うのも無理はない。メールやカレンダー、ストレージなど、クラウドサービスを日常的に使うようになって久しいが、こうしたサービスの障害で、データが失われてしまったという体験をした人は、さほど多くないはずだ。
クラウドに上げてさえおけばデータは安心。そう安心し切ってもいいほど、現在のクラウドサービスの信頼性は高くなっている。
しかしながら、データが失われる原因は、必ずしも障害だけとは限らず、むしろ単純な操作ミスであることも多い。
うっかり、ファイルやメール、予定、連絡先などの大切なデータを何気ない操作で削除してしまった――。そんなトラブルは、ごく普通に身の回りに溢れている。
もちろん、そんなことはサービスを提供する側も十分に承知しており、たいていの場合は、幾重かの復旧措置が張り巡らされている。
例えば、Office 365の場合であれば、削除したデータは以下のような復元が可能だ。なお、OneDriveの復元機能は、法人向けのOffice 365で利用可能な機能だったが、4月6日に個人向けOffice 365 Home/Personalでも利用可能になるとアナウンスされている。
- Outlook.comのメール
フォルダーから削除→削除済みアイテムから復元
削除済みアイテムを空にする→[削除済みアイテムを復元]から回復 - カレンダーの予定
削除した予定→メールの削除済みアイテムから回復
メールの削除済みアイテムを空にする→[削除済みアイテムを復元]から復元 - OneDriveのデータ
フォルダーから削除→ごみ箱から復元
ごみ箱を空にする→[OneDriveを復元する]から回復※
つまり、単純な「うっかり」であれば、たいていの場合、データを復元できることになる。
しかしながら、これらの機能も万能というわけではない。例えばOneDriveのデータの場合であれば、期限を意識しなければならない。クラウドサービスなので、仕様が変更される可能性もあるが、現時点では、以下のようなルールで、ごみ箱のデータが自動的に削除される。
種別 | 個人向け | 法人向け |
ごみ箱に移動されたアイテム | 30日後に自動削除 | 93日後に自動削除 |
※ごみ箱がいっぱいになったときは、最も古いアイテムが3日後に自動削除
また、[OneDriveを復元する]の場合、最大30日間までデータを復元できる仕様となっているため、それ以前のものに関しては復元できない。
つまり、うっかりファイルを削除し、さらにうっかりごみ箱を空にし、さらにさらに30日が経過するという、「うっかり3連発」によって、データが失われてしまう可能性があるわけだ。
Office 365のファイル、メール、カレンダーの予定、連絡先をバックアップする
というわけで、クラウドサービスへの依存度が高いのであれば、なおさらそのデータを自分でもバップアップしておくことが重要となる。
そんな中、Synologyが提供を開始したのが、「Active Backup for Office 365」というNAS向けのアプリだ。
同社製のNASでは、従来から「Cloud Sync」アプリで、OneDriveやOneDrive for Businessのデータをユーザーのホームフォルダーなどと同期できるようになっていた。しかし、今回のアプリは、法人向けのOffice 365専用ながら、OneDriveだけでなく、Outlook.comのメールとカレンダー、連絡先のデータも、NASへバックアップできるようになっている。
これにより、仮に、先のような「うっかり3連発」が発動したとしても、NAS側に保存されているバックアップから、メール、カレンダー、OneDrive、連絡先のデータをクラウドに復元することが可能だ。
NASというと、PCやサーバーなど、ローカルデバイスのバックアップ用と考えがちだが、クラウドサービスのバックアップとしての活用も始まったことになる。
初回は数時間、以降はほぼリアルタイムで同期できるが、データがない状態でも「エラー」
それでは、実際に「Active Backup for Office 365」を使ったバックアップを試してみよう。
まずは、アプリをインストールする。NAS用OS「DSM」の管理画面からパッケージセンターを起動し、「Active Backup for Office 365」を選択すればいい。本稿執筆時点(2018年4月11日)はベータテスト中のアプリとなるため、パッケージセンターの[設定]の[ベータ]タブで、[はい、ベータ版を見ます]にチェックを付けておかないと表示されない。
ベータテストは4月30日までの予定なので、それ以降であれば普通にダウンロードできるようになるはずだが、その場合、ライセンスが要求されることが予想される。本稿執筆時点ではベータ版であるため無料で試せるが、正式リリース後の価格やライセンス体系は未定だ。
バックアップの設定は簡単だ。タスク画面から新しいタスクの追加を開始し、エンドポイントで[グローバル]を選択する。その後、バックアップしたいOffice 365の管理者アカウントを指定してサインインし、画面に表示されるおびただしい数のアクセス許可を承諾する。
その後、バックアップ対象にしたいユーザー、バックアップ対象のアプリを選択。最後に、バックアップの頻度や保存期間を選択する。
標準では、[継続的バックアップ]が選択されているが、これはリアルタイムのバックアップという意味で、データが更新される度にバックアップが自動的に実行される。
実際、この方式でバックアップを設定後、対象のアカウントに対してメールを送信してみたが、メールを受信したタイミングでバックアップも実行されたことを確認できた。機能的には、1方向の同期に近い。
試してみると、さすがにWAN経由でのバックアップとなるため、ユーザー数やデータ容量によっては数時間掛かるものの、メール、カレンダー、連絡先、OneDriveの各種データを問題なくバックアップすることができた。
ただ、現状はベータ版でもあり、かなりのエラーが表示される。今回のテストでは、テスト用に作成したアカウントに何も連絡先を登録しておかなかったのだが、ログを見ると、このようにデータが空の場合もエラーと判定されてしまうようだ。
また、メールのバックアップでも、いくつかのエラーが見られた。こちらは、はっきりとした原因は不明だが、どうも日本語で非常に長い件名が設定されているメールのバックアップに失敗しているように思える。このあたりの不可解さは、いかにもベータ版といったところだ。
このように、ベータ版ならではの挙動も見られるものの、データのバックアップや復元に関しては、大きな問題なく利用することができた。
リストアも簡単で、DSMから「Active Bakcup for Office 365 Portal」を起動し、ここからデータを選んで復元すれば、自動的にクラウド上にデータが復活する。復元先は元のフォルダーではなく、「ActiveBackupRestore_日付」などのフォルダーが作成され、そこに復元される。このため、仮にクラウド上に元のフォルダーやファイルがあったとしても、上書きされることはない(メールやカレンダーも同様)。
OneDriveでは、ファイルを間違って更新してしまっても、バージョン履歴から以前の状態に戻すことができるが、この機能はファイルそのものが存在しないと使えない。
これに対して、Active Backup for Office 365でバックアップしたファイルは、フォルダーの履歴から過去に削除した、しかも任意の時点のファイルを復元することができる。「誰かが間違って重要なファイルを編集し、バレるのを恐れてファイルを完全に削除した」などという、言わば最悪のケースでも、ファイルを編集前の状態で復元することができるわけだ。
プライバシーを守れる管理者が必要
このように、手軽に法人向けOffice 365のデータをバックアップできるActive Backup for Office 365だが、運用する上で注意が必要なのは、管理者のモラルだ。
今回のアプリに限らず、バックアップという作業では、この問題が常に付きまとうのだが、NASの管理者、もしくは復元用UIである「Active Backup for Office 365 Portal」に権限を与えたユーザー(いわゆるバックアップオペレーター的なユーザー)は、NASにバックアップしたデータをすべて閲覧できることになる。
ファイルはもちろん、メール、カレンダー、連絡先など、広い範囲のデータを閲覧できてしまうので、扱いは十分に注意する必要がある。考え方によっては、情報漏えいなどの不正が内部犯行だった場合に、NAS上のデータを証拠として確保することもできるので、このあたりは考え方次第だろう。
まとめると、小規模なオフィスや中小規模の企業では、クライアントやサーバーのバックアップに加えて、クラウドのバックアップとしてもNASを活用できるメリットは大きいと言える。運悪く操作ミスが重なっても、データを復元できる上、法人向けのExchange Onlineが備える関連メールの保持機能である、いわゆる“訴訟ホールド”のような使い方もできる。
気になるのは、ライセンスの価格だ。せめて小規模なオフィスでは、一定数のアカウント(5ユーザー程度)であれば、無料でバックアップ可能にするなど、ライセンス体系をできるだけ安く設定してくれるとありがたいところだ。