清水理史の「イニシャルB」

無線LAN中継機は「中継5GHz、子機2.4GHz」がオススメ! 周波数ごとに速度をテスト

 無線LANの電波が届かない場所への対策として、中継機を利用するケースが増えている。しかし、中継機の利用は、電波の届く範囲の拡張には有効だが、中継と端末の接続に使う周波数をよく検討しないと、かえって非効率な環境にもなる可能性もある。ネットギアジャパンから新たに登場した小型の無線LAN中継機「EX6110」を使って、利用する周波数帯の違いによるパフォーマンスを検証した。

ネットギアジャパンのIEEE 802.11ac/n/a/g/b対応無線LAN中継機「EX6110」

実は難しい中継機の利用

 個人的には、中継機の利用は積極的にはお勧めしない。

 なぜなら、中継機を使って効率的な無線LAN環境を作ろうとすると、設置場所や利用する周波数帯をよく考える必要があるからだ。

 このため、「無線LANの電波が届きにくい」という相談を受けたとき、まず個人的には高速なハイエンド無線LANルーターをお勧めするのだが、そうは言っても価格が高い上、ハイエンド製品といっても電波の出力には法的な限界があるため、どうしても無線LANが使えないような環境では、中継機に頼らなければならないのも実際のところだ。

 そこで今回は、なるべく効率的に中継機を使える環境を考えるということで、周波数帯の使い分けについて紹介しよう。

 中継機の場合、設置場所もパフォーマンスに影響を与える大きな要因となるが、これは環境によって違いがあるため、試行錯誤するしかない。

 筆者宅でのテストという一例に過ぎないが、周波数帯をどのように設定するかに迷ったときの参考になれば幸いだ。

Archer C1200+EX6110で周波数帯域の組み合わせをテスト

 今回のテストでは、無線LANルーターに最大転送速度867Mbps(5GHz帯接続時)または300Mbps(2.4GHz帯接続時)のTP-Link「Archer C1200」、中継機にネットギアジャパンから発売されたばかりのEX6110を利用した。

 EX6110は、既存モデルとなるEX6120と同様に、5GHz帯で867Mbps、2.4GHz帯で300Mbpsの最大転送速度に対応する中継機で、こちらはアンテナ内蔵である点が特徴だ。実売価格も4000円台と近いが、EX6120に搭載される有線LANポート(100Mbps)が省かれており、純粋に無線LANのみの中継となる分コンパクトな設計になっている。

正面
側面
背面
コンセントにつないだところ。下のコンセントにつなぐときは、逆向きにすればいい
EX6110EX6120
実売価格4680円4399円
対応規格IEEE 802.11ac/n/a/g/b
対応チャネル2.4GHz 1-13ch
W52(36/40/44/48)
W53(52/56/60/64)
W56(100/104/108/112/116/120/124/128/132/136/140)
対応バンド数2
通信速度(2.4GHz帯)300Mbps
通信速度(5GHz帯)867Mbps
ストリーム数2
アンテナ数内蔵外付け2
変調方式(最大速度時)64QAM
無線LAN機能FastLane
有線LAN×100Mbps×1

中継器と端末の周波数は分けるほうがいい

 それでは、実際のテスト結果を、周波数帯の組み合わせごとに見ていこう。なお、今回のテストは、筆者宅の1階にArcher C1200、3階の階段踊り場にEX6110を設定した状態で、3階の階段付近と窓際の2カ所で速度を計測した。

中継なし

 まずは、中継なしでArcher C1200のみの状態での速度だ。この場合、5GHz帯は問題なく通信できているが、2.4GHz帯が3F窓際で通信不可になっている。また、5GHz帯では通信ができるものの、速度はさほど高くない。なお、過去のテストでは、無線LANルーターによっては、3階窓際で100Mbps近くの速度で通信できる製品もあった。

中継なしの速度
3F階段付近3F窓際
2.4GHz42.7-
5GHz14735.1

中継2.4GHz、端末2.4GHz+5GHz

 続いて、一般的に利用されることが多い接続形態をテストした。EX6110をWPSによるボタン設定でArcher C1200に接続した例で、この場合、Archer C1200側でWPSが2.4GHz帯に設定されているため、中継に2.4GHz帯が利用された。一方、端末側は、2.4GHz帯も5GHz帯も利用できる状態となっている。

 結果としては、中継なしで不通だった2.4GHz帯の3階窓際が47.2Mbpsとなり、中継機の効果は現れていることになる。しかしながら、5GHz帯で接続した端末は、中継機なしの状態で階段付近で147Mbpsだった速度が40.6Mbpsへと落ち込んでおり、中継機により、かえって速度が低下してしまっている。

 これは、中継に利用している2.4GHz帯がボトルネックになっているためだ。このように中継の帯域が遅いと、端末側からいくら867MbpsのIEEE 802.11acで接続したとしても、速度の向上は見込めない。

 しかも、今回のテストは1台の端末しか接続していないが、複数台の端末を接続するケースでは、中継の帯域を複数台で共有することになり、接続台数が増えるに従って遅くなることになる。

2.4GHz帯で中継。2.4GHz帯と5GHz帯の両方を端末側で利用可能
2.4GHz帯(WPS時)の速度
3F階段付近3F窓際
2.4GHz47.245.5
5GHz40.633.6

2.4/5GHz両拡張

 WPSでは中継に2.4GHz帯しか利用できなかったため、今度は中継機を手動でセットアップし、2.4GHz帯と5GHz帯の両方を中継に利用できるよう設定を変更。端末側も2.4GHz帯、5GHz帯の両方を利用できるが、実際に通信を中継するときに、どちらの帯域を使うかは機器側の判断となる。

 この場合、5GHz帯で接続した端末は非常に高速で、階段付近では中継機なしと同等以上の156Mbps、窓際でも158Mbpsで通信できている。おそらくWPS接続時と異なり、中継に5GHz帯を利用していると考えられる。

 一方、2.4GHz帯の端末は40Mbps前後となった。中継に5GHz帯を使っているのであれば、もう少し速度が向上してもよさそうなので、機器や環境によって異なる可能性はあるが、端末側を2.4GHz帯で接続したときは、おそらく中継にも2.4GHz帯を使っていると考えられる。

2.4/5GHz帯の両方を拡張
2.4/5GHz両拡張の速度
3F階段付近3F窓際
2.4GHz43.242
5GHz158156

FastLane

 最後は、EX6110のFastLaneモードを利用しての接続だ。FastLaneというと難しいように思えるが、要するに中継機までと端末の接続で異なる帯域を利用する方式となる。

 前述したように、中継と端末で同じ帯域を使うと、同時通信の際に端末の台数にプラスして中継機が利用する分で帯域が分割されてしまうが、FastLaneでは、中継に5GHz帯、端末に2.4GHz帯(もしくはその逆)で帯域を区別できるため、端末側の通信と中継の通信が同時に発生しても干渉することがない。

 今回のEX6110ではFastLaneモードとして設定したが、ほかの中継機でも意図的に帯域を分け、端末側で中継に使った帯域を無効化することで、同様の動作を設定できる場合がある。

 結果としては、バランスが非常にいい。階段付近では、やはり「中継なし」のときよりも速度が落ちてしまっているが、窓際での通信状況は良好だ。

 今回のテストでは、端末が1台なので2.4GHz帯と5GHz帯であまり差はないが、端末の台数が増えた場合は、中継に5GHz帯を利用した方が効率がよくなる。

FastLaneモード5GHz帯を中継で利用し、端末側に2.4GHz帯を割り当て
FastLaneの速度
3F階段付近3F窓際
中継5GHz-端末2.4GHz10172.8
中継2.4GHz-端末5GHz97.767.7

まとめると、5GHz帯を中継に使うのが有利

 というわけで、これまでのテスト結果をまとめると以下のようになる。筆者宅の環境では、中継機ありの方が2.4GHz帯でも隅々まで電波が届くが、5GHz帯は中継機を使うと、かえって速度が低下する場合があることが分かる。

3F階段付近3F窓際
中継なし2.4GHz42.7-
5GHz14735.1
2.4GHzWPS接続時2.4GHz67.265.5
5GHz40.633.6
両拡張2.4GHz43.242
5GHz158156
FastLane中継5GHz-端末2.4GHz10172.8
中継2.4GHz-端末5GHz97.767.7

 悩ましいのは、2.4/5GHz両拡張にするか、FastLaneにするかという判断だ。

 2.4/5GHz両拡張の方が一見高速で、端末も2.4GHzと5GHzの両方を使えるのだが、中継と端末で同じ帯域を使うということは、端末の台数が増えるほど中継の帯域が減り、速度の面で不利になることが予想できる。

 一方、FastLaneでは帯域を使い分けるため、端末側が2.4GHz帯のみ、もしくは5GHz帯のみに限定されるが、中継と端末の通信で干渉が発生することがない。2.4GHz帯を中継に使うと、5GHz帯で867Mbps接続の端末が増えたときに、中継の帯域がボトルネックになる恐れがある。このため、基本的には中継に5GHz帯を利用したいが、その場合、端末が最大300Mbpsの2.4GHz帯を台数で分割することになる。

 このあたりは、同時通信が発生する頻度、中継の帯域の実効速度が大きく影響しそうだ。実際の利用環境に即したテストをするにも限界はあるが、今までの個人的な経験から考えると、やはり中継と端末側の帯域は分けておく方が安定性は高い印象だ。

 個人的には、FastLaneで中継と端末の帯域を明確に分け、中継に5GHz帯を使って基幹を高速にしておくことをお勧めしたいところだ。

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清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できる Windows 10 活用編」ほか多数の著書がある。