清水理史の「イニシャルB」

見るだけの視線制御でPCを操作? Windows 10で「Tobii Eye Tracker 4C」を試す

Fall Creators Update以降の「簡単操作」にアイトラッキングデバイスが対応

 「声」で操作するスマートスピーカーに対し、「目」でPCを操作しようというアイトラキングデバイスが身近な存在となってきた。Windows 10の「簡単操作」でもサポートされるようになった「Tobii Eye Tracker 4c」を試してみた。

大きな動きは問題ないが、細かい操作はなかなか思い通りにならず

アイトラッキングデバイスの「Tobii eye Tarcker 4C」

 最初に結論を申し上げておくと、アイトラッキングデバイスでWindowsを思い通りに動かすのは、現状では、まだまだ難しいのではないかと感じた。

 結構、目を大きく見開いているつもりでも、黒目が半分くらい隠れてしまう僕の目では、正確に視線をトラッキングするのが難しいのかもしれないが、細かな操作がなかなか思い通りにならない。

 ゲームなどで、視線を上下左右に動かすという大きな動きなら、ほとんど問題ないのだが、Windowsの「簡単操作」を使って、視線だけでアプリを起動したり、マウスポインターを「×(閉じる)」ボタンに合わせてウィンドウを閉じようとしたり、スクリーンキーボードを見つめて文字を入力しようとしても、ほぼ思い通りに操作できない。

 キャリブレーションを何度も繰り返したり、ディスプレイの距離や高さ、自分が座る位置をいろいろ調整しても大差なかったので、Windows側でまだうまくデバイスを制御し切れていないか、そもそも現状ではデバイスの側に限界があるのかもしれない。

 現在、音声認識でのコンピューターの操作が一般化しつつあるが、もっと自分の意志と直結する視線による操作は、作業効率の向上やハンディキャップを持つ人々のコンピューター活用において、活路を見い出せるように思える。しかし、視線制御に関しては、まだ声ほど人間や環境の違いを吸収し切れていないのだろう。

 Windows Helloの顔認証デバイスとしても使える上、ゲームでの利用には差し支えないので、手元にあると、ちょっとした「未来感」を味わうことはできる。だが、結論としては、まだ様子見でもいいのかもしれないという印象だ。

ディスプレイの下側に設置、初回にはキャリブレーションが必須

 というわけで、製品を見ていこう。

 Tobii Eye Tracker 4Cは、2016年に発売されたUSB 2.0接続のアイトラッキングデバイスだ。ゲーミング用のデバイスとして位置付けられており、「Final Fantasy XV」や「Assasin's Creed Origins」など、公式サイトの情報によれば100以上のゲームで利用可能とされている。

 本来は、ゲーム中に視線でターゲットを選択したり、FPSのゲームで左右を見渡すといった使い方をするためのデバイスだが、Windows 10のFall Creators Update以降では、「視線制御機能(ベータ)」でTobii Eye Tracker 4cがサポートされており、画面上の視線制御用パネルを使って、各種の操作を視線で実行することが可能となっている。

 見た目は、横長のウェブカメラといったところで、サイズは17×15×335mm。本体左側から伸びたUSBケーブルでPCと接続するようになっている。

 サイズが30cmを越えるので、Surfaceシリーズのようなモバイル向けのノートPCに設置しようとすると横幅が若干はみ出すことになるが、15インチクラスのノートPCであれば、横幅に十分収まる。

 とは言え、使用するときはディスプレイの下側に貼り付ける必要があるので、常時固定しておくわけにはいかず、付属のマグネットをディスプレイ側に貼り付け、使う時だけここにセットするというかたちになる。

 なお、筆者は、27インチのディスプレイに設置したが、機器としてサポートするサイズは、16対9で27インチ、21対9で30インチまでが限界となっている。また、操作可能な距離は50~95cmなので、近づきすぎたり、離れすぎると、視線を検知できない仕組みだ。

ディスプレイ側に金具を貼り付け、そこにマグネットで固定する
27インチディスプレイに装着した様子

 使い方は簡単で、「https://www.tobii.com/getstarted」からドライバーとコアソフトウェアをダウンロードしてインストールし、機器を接続するだけでいい。

 初回に使用するときはキャリブレーションが必要で、画面の指示に従って、画面サイズを指定したり、画面上の青い点が爆発するまで見つめるという操作を何度か繰り返すと、無事に使えるようになる。

HIDやスキャナーなど複数のデバイスとして認識される
本体の白いマーカーと画面上の矢印を合わせて位置を調整する

 宇宙船のコクピットから、流れてくる隕石を視線でターゲッティングして破壊するというゲームで、使い方を学習することもできる。

画面上に表示された青い点を見つめると爆発する。これを数回繰り返すことでキャリブレーションが完了する
デモを兼ねた簡単なゲームをプレー可能。視線で小惑星をターゲッティングしてスペースキーで爆破する

Windowsを見るだけで操作できる手軽さに、最初は驚くが……

 初見は、「見るだけで操作できる」という手軽さに驚かされる。

 通知領域に常駐するアイコンから設定画面を開くことで、視線の動きでどのような操作を可能にするかを設定できるようになっているが、例えば「マウスを動かしてワープ」を有効にすると、マウスポインターの位置を視線でコントロールできるようになる。

 例えば、スタートボタンを押したければ、そこに視線を移動し、少しだけマウスを動かせばいい。これで、マウスポインターが、ポンッとスタートボタンの位置にまで、一瞬でワープする。

 これは、まさに、意のままという感じだ。

 ウィンドウを閉じる、リンクをクリックするといった操作をするとき、こちらの意志を事前に察知してマウスポインターが移動するようで、ちょっと感動する。

 とは言え、移動して欲しくないときでも、視線を追ってマウスポインターがワープしてしまうこともあり、結果的には、数分で「無効」にしてしまうような機能なのだが、見るだけで操作できることの凄さを実感できる機能とは言える。

 このほか、Tobiiのアプリケーションで利用可能な機能としては、「アプリケーション切り替え(Alt+TABで切り替えたいアプリを視線でハイライト)」、「Windowsスナップアシスト(スナップ後に視線のみでアプリを切り替え)」、「通知非表示(通知を見終わったら自動的に隠す)」、「タイプするだけ(Edgeの検索窓に視線を向けた状態でキー入力すると検索できる)」などがある。

「マウスを動かしてワープ」の設定を有効にすると、マウスを少し動かしただけで、視線の先にマウスポインターが自動的に移動する。感動するが、実用的かと言われると難しい

 一方、Windowsの機能としては、「簡単操作」の「視線制御(ベータ)」で設定を有効化すると利用可能となる。

 機能をオンにすると、画面上に視線制御用のパネルが表示され、パネル位置移動、マウスの左右クリック、マウスポインターの移動、スクロール、キー入力、音声会話、Windowsキー、タスクビュー、キャリブレーション、設定、パネル非表示といった機能を視線で選択できるようになる。

 使い方は簡単で、使いたい機能に視線を合わせ、数秒視線を留めておけば選択となるのだが、これはなかなかコツがいる操作で、冒頭でも触れたように、筆者はピンポイントでうまく機能を選択できない上、選択までのタイミングが短い印象で、操作に戸惑っているうちに、意図しないものが選択されてしまうことが度々あった。

視線制御を有効にすると、画面上のパネルで視線制御が行えるようになる

 例えば、音声会話はなかなか面白い機能で、視線で選んだ画面上の「YES」「NO」「HELLO」などのボタンや、画面上のスクリーンキーボードを使って入力した文字が、音声で再生されるようになっている。

 現状は、英語キーボードのみの対応となる上、音声エンジンが日本語に対応しているものの「Goodby」を「グツビー」と読み上げるなど、ベータ版らしい機能の粗さが残っているあたりも気になるが、難しいのはキー選択と入力だった。思い通りのキーへ視線を合わせることができなかったり、視線を移動している途中で別のキーが選択されてしまったりと、なかなかうまくいかない。

 視線による操作というのは、なかなかシビアで、慣れないと思い通りに操作するのは難しいということを実感させられた。

 こういった機能が、もっと気軽で簡単に使えるようになることは、社会的な意義を考えると、とても重要なのだが、そのチューニングには、もう少し時間が掛かりそうな印象だ。

画面上のキーを視線で指定すると、音声合成によってスピーカーから声が出るのだが、なかなかうまく操作できない
キャリブレーションでどこを見ているかを判断できるが、筆者の場合、画面の四隅へ正確に視線を合わせるのが難しかった

赤く点灯するLEDが想像以上に目障り、若干上がるCPU負荷も問題か

 このように、面白いデバイスではあるものの、まだまだ実験的な印象が強い。そして実用面でも、さらなる改善が必要に思える。

 最も気になるのは、赤く光るLEDだ。Eye Tracker 4Cは、有効時に左右に大きく2つ、中央に小さく6つのLEDが赤く点灯するようになっているのだが、これが思った以上に視線に入ってくる。

 ディスプレイの中央から上に視線がある分には、まだ我慢できるが、下半分に目線が移動すると、どうしてもこのLEDが気になってくる。これはもう少し、どうにかしてほしい。

赤く点灯する8つのLEDが気になる

 また、当たり前だが、トラッキングを有効にしておくと、微妙にCPUパワーを使い続ける点も気になった。

 環境によって変わる可能性が高いが、筆者宅のPC(Core i7 7700、メモリ16GB)では、通常、何もアプリを起動しないアイドル時はCPU使用率が2~3%ほどになるが、トラッキングが有効になっている場合、これが8~9%ほどへ若干上がる。環境によっては、もう少し比率が高くなる可能性もありそうだ。

 このほか、PCによってはドライバーがうまくインストールできない場合もあった。筆者宅では、デスクトップPC(Windows 10 Insider Previews Build 17627)ではまったく問題なくEye Tracker 4Cのセットアップができたが、いずれもFall Creators Update適用済みの「Lenovo E550」と「Surface Pro 2」の2台では、ドライバーのインストール中に、インストールできませんでしたと表示されるエラーが発生してロールバックしてしまい、正常に利用することができなかった。

 2016年の発売からは時間が経っているので、もう少し枯れていてもよさそうなものだが、まだ不安定な部分が残っているのは少々残念だ。

有効時は8~9%ほどのCPU負荷が常に掛かるイメージ。無効にすると2~3%に落ちる

大きな可能性を秘めた視線によるPC操作の今後に期待したい

 以上、TobiiのEye Tracker 4CをWindows 10で使ってみたが、デバイスとしても、Winodws 10側の対応としても、まだまだ完成度が高いとは言い難い印象だ。

 視線でPCをコントロールできる点はとても面白いのだが、まだ利用者や環境を選ぶ上に、常に使われることを念頭にした快適さには欠ける印象がある。

 もちろん、ゲーミングという用途に向けた製品なので、Windowsの操作に多くを期待するのは酷だが、それを期待したくなる可能性は十分に秘めている。

 デバイス側の進化も期待したいところだが、特に、Microsoftには日本語対応関連の開発に、もっとリソースを割いて欲しいと願うところだ。市販のPCと低価格なデバイスで、視線だけでPCを使えるようになれば、きっと多くの人の手助けになるはずだ。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できる Windows 10 活用編」ほか多数の著書がある。