清水理史の「イニシャルB」

東京・大阪に続く第3のネットワーク拠点は福岡! BIGLOBEが拠点の充実を目指すワケ

福岡に開設された拠点に関する記者説明会を実施したBIGLOBE

 2024年10月、BIGLOBEが福岡に設置した拠点の本格稼働を開始した。ネットワーク拠点と言えば、東京、大阪が有名だが、各ISPが目指す次の主要拠点は、どうやら福岡ということになりそうだ。ISPが「拠点を充実させる」「バックボーンを増強する」というのは、どのような意味を持つのだろうか? 福岡で開催された説明会で、同社が目指すインターネットの姿を見てきた。

進化を続ける老舗

 BIGLOBEといえば、古くはPC-VAN、meshなどで知られる老舗のISPだ。本誌の読者であれば、NEC時代の印象が強いかもしれないが、独立を経て、現在はKDDIグループの一員となっている。

 ISPといっても、今となっては、多くの一般利用者は回線敷設時やトラブル発生時くらいしか意識しないかもしれないが、昨今は、10Gbps対応インターネット接続サービスへの注目もあって、メディアなどでISPの名前を目にする機会も増えてきた。

 もちろん、同社も光回線を利用した1Gbps/10Gbpsのサービスを個人、および法人向けに提供している。今や、インターネット接続の主流はIPv6サービスに移行しつつあるが、多くのISPがIPv4 over IPv6接続に外部のVNE(Virtual Network Enabler)を利用する中、BIGLOBEは自前の設備でIPv4 over IPv6サービス「IPv6オプション」を提供する、つまり自らがVNE事業者でもある数少ないISPともなっている。

 そんな同社が、2024年10月に、福岡拠点の本格稼働を開始した。

 ISPの拠点といっても、われわれ一般ユーザーにとっては馴染みがないが、要するに、通信機能を提供するためのデータセンターを新設したと考えればいい。

新たな拠点となる福岡支店を統括するビッグローブ株式会社九州支店長の佐藤氏
説明会は、青山学院大学地球社会共生学部 学部長 教授の松永エリック・匡史氏(写真左)と、ビッグローブ株式会社執行役員CNOの南雄一氏(右)のトーク形式で実施された

 最近では、AIなどの用途に特化した1社の巨大なデータセンターに注目が集まっているが、今回のデータセンターは、さまざまな事業者や企業が共同で機材を設置する形態となっており、そこに確保されたひと区画のBIGLOBEのスペースが今回の福岡拠点となる。

 データセンター内には、さまざまな事業者のサーバーやストレージ、ルーターなどが配置されるが、それぞれの機器を相互に接続したり、インターネットに接続したりする役割を、データンセンター内に設置されたBIGLOBEの機材や回線が担うことになる。

ネットワーク拠点の説明。データセンター内で各事業者やインターネット接続を提供する

 例えば、九州を拠点とする企業がオンラインゲームサービスを提供しようと考えたとき、BIGLOBEのIPトランジットサービスを利用することで、自社のサービスを大手ISPや各種クラウドサービスと接続することができる。

 今回は、詳細なネットワーク構成は明らかにされなかったが、おそらく個人向けのインターネット接続サービス向けの設備も福岡拠点に設置されると考えられる。これにより同社のインターネット接続サービスを利用する個人にも恩恵があると予想される。

現状は九州から大阪を経由して接続される

 同社が福岡に拠点を新設した理由は、東京・大阪に次ぐ、第3のネットワークコア拠点が必要とされ始めているためだ。

 現状、多くの通信事業者が東京・大阪の2拠点体制を採用しているのと同様に、同社のネットワーク拠点も東京と大阪が中心となっている。かつては東京に集中していたが、東日本大震災以降、通信拠点の分散が実施されるようになり、大阪に拠点が設けられるようになった経緯がある。

 しかしながら、この2拠点体制にも課題が見え始めている。以下は、IXのJPIXが公開している東京、大阪の拠点のトラフィックデータだ。時間帯ごとのトラフィックなども確認できるが、後半の年単位のグラフを見ると、直近5年、特にコロナ以降の2020年からのトラフィック増加が激しいことがわかる。

JPIXのトラフィック情報(首都圏・大阪)より。東京と大阪のトラフィックは年々増加している

 BIGLOBEの福岡拠点を利用すれば、九州のユーザーはこうした混雑を回避できる可能性がある。現状、九州の各県のユーザーは、個人も法人も大阪の拠点を経由してインターネットに接続しているが、福岡経由での接続になれば利用者の遅延を少なくできる。当然、福岡拠点の活用によって東京、大阪拠点へのトラフィック流入が減れば、東京、大阪のユーザーにもメリットがある。

九州のユーザーは大阪を経由してインターネットに接続している

 もちろん、九州でサービスを提供する事業者にもメリットがある。従来は、九州―大阪間の回線を用意しなければならなかったが、IPトランジットサービスを利用することで、大阪や東京を経由することなく、福岡拠点から低コストでインターネットへ接続可能になる。さらに、災害などのトラブルが東京や大阪で起きても、影響を回避できる。

 つまり、福岡のデータセンターにBIGLOBEがインターネットとつながる窓口を提供することで、データセンターへのさまざまな事業者の参入をうながし、最終的に九州の地域経済の活性化や、九州への投資も増える可能性があることになる。

九州の企業は大阪を経由することなくサービスを提供可能。遅延が少なく、災害にも強いサービスを提供できる

なぜ九州なのか?

 しかしながら、「第3拠点」ということなら、九州以外の選択肢もあるはずだ。実際、北海道にデータセンターを新設しようとする動きも活発だ。

 この点について、同社はアジアの玄関口としての九州の活気に期待しているという。2024年に熊本に完成したTSMCの工場に加え、半導体素材メーカーの相次ぐ九州進出もあり、九州はシリコンアイランドとしても注目を集めている。また、今回、同社が説明会を開催した福岡市天神も、2015年から「天神ビッグバン」としてビルの再開発、企業の誘致がさかんに行われている。

 官民が連携した地方創生の動きが活発であることから、インフラとしてのネットワークの需要も伸びることが予想される。同社が目指すのは「日本のインターネットをより良くすること」とのことなので、将来的には、北海道拠点も視野に入っているようだが、まずは活性化が進む九州がターゲットとなったわけだ。

官民が連携した地方創生の動きが活発な福岡。投資が集まり、新たなサービスが生まれる可能性が高い

先陣を切るかたちでの参入

 このように、BIGLOBEはISPとして、九州でのネットワーク改革にいち早く取り組み始めたことになる。

 しかしながら、こうした取り組みが実を結ぶためには、BIGLOBEに続く企業の存在が不可欠となる。いくらデータセンター内の接続環境を整えたとしても、データセンター内につなぐ対象となる組織や機材がなければ意味がない。

 BIGLOBEは、どちらかというと将来的な発展を見込んだうえで、今回、九州拠点の拡充に踏み切ったことになる。BIGLOBEが先陣を切ることで、他のISPも同様に九州に拠点を設け、地元九州の大小さまざまな企業が新しいサービスを開発するきっかけになることを期待しているのだろう。

 本誌の読者、特に九州在住の方は、今後、インターネット接続環境の改善が見込まれる。また、九州で事業を展開している企業は、今回のBIGLOBEの参入で、新たなサービスを展開するのに有利な状況となった。

 ISPは単にコンシューマー向けに接続サービスを提供しているだけでなく、インターネット全体、さらにはインターネットでビジネスを展開する企業、それを支える地域全体に向けて品質の改善に取り組んでいることを、あらためて実感させられた。今後も、面白い取り組みをしてくれることを期待したいところだ。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。「できるWindows 11」ほか多数の著書がある。YouTube「清水理史の『イニシャルB』チャンネル」で動画も配信中