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第129回:準天頂衛星「みちびき」に対応したハンディGPS「eTrex 30J」を試用


 2010年9月に打ち上げられた準天頂衛星の初号機「みちびき」。その「みちびき」に対応した米GARMIN製ハンディGPS「eTrex」が株式会社いいよねっとから発売された。

 eTrexは、GARMINのハンディGPSの中でも軽量・コンパクトを追究したシリーズで、単三形電池駆動、防水設計と、アウトドアユースに最適な製品として登山愛好家などに人気だ。その最新モデルの日本版となる「eTrex J」シリーズでは、GPSおよびロシアの衛星測位システム「GLONASS」、そして「みちびき」という3種類の測位システムに対応。測位時間の短縮と位置精度の向上を実現した。このほか、操作スティックの配置の見直しなども施されて大幅なフルモデルチェンジとなっている。

 ラインナップは地図表示のないモノクロ表示の「eTrex 10J」、地図表示が可能でmicroSDへの軌跡記録が可能な「eTrex 20J」、さらに電子コンパスや高度計なども搭載された「eTrex 30J」の3種類。今回は、最上位機種の「eTrex 30J」の試用レポートをお送りしよう。

「eTrex J」シリーズ

クリックスティックが右側に移動

 eTrex 30Jは、斜めに持った状態でも正確な方角を確認できる3軸コンパスと気圧高度計を搭載。気圧高度計は電源オフ時も記録を続けることが可能で、過去の気圧変動をグラフで確認できる。

 サイズは103×54×33mm(高さ×幅×厚さ)、質量は148g。これは下位機種のeTrex 20JおよびeTrex 10Jでも変わらない。前モデルの「eTrex VistaHCx-J」が107×56×31mm(高さ×幅×厚さ)、質量159g(電池含む)なので、厚さ以外はeTrex 30Jのほうが小型で軽量化も図られている。

 操作性において前モデルに比べて大きく異なるのは、小型クリックスティックの配置だ。親指の腹を押し当てて操作するこの独特クリックスティックは、従来は向かって左側に配置してあったが、ニューモデルでは右側に移動している。スティック配置はユーザーの好みにもよるが、個人的には右手で操作できるので、こちらのほうが好きだ。

 クリックスティックのほかには左右の側面にズームイン/アウトボタン、menuボタン、backボタン、lightボタンを装備。電源のオン/オフはlightボタンで行う。通常時にlightボタンを押すとバックライトが点灯する。ディスプレイは176×220ピクセルの6万5000色TFT液晶で、ディスプレイサイズは35×44mm。アウトドアでも視認性のよい半透過型を採用している。

 本体は日常生活防水(IPX7)で、PCとの接続はUSB 2.0で行う。内蔵メモリの空き容量は1.7GB。裏側のバッテリーケースの奥にmicroSD用のスロットが用意されている。

起動時のメニュー右側面のbackボタンとlightボタン
左側面のズームイン/アウトボタンとmenuボタン背面のDリングを回して電池カバーを開ける
単三形電池2本を使用電池の奥にmicroSDカードスロットがある
USBポートは防水カバーに覆われている

準天頂衛星「みちびき」とロシアの衛星測位システム「GLONASS」に対応

 eTrex最新モデルの最大の特徴は、GPSに加えて「GLONASS」および準天頂衛星「みちびき」に対応した点だ。

 GLONASS(グロナス)とは、ロシアが運用する衛星測位システムで、2月現在で24基が稼働している。衛星測位システムは衛星から送信された信号を端末が受信することにより現在地を特定するので、衛星数が多いほど精度が上がるし、電源オンから測位するまでの時間も早い。また、衛星の電波が途切れることも少なくなる。

 さらに日本の真上を通るみちびき(QZS-1)にも対応したことにより、山岳地や都市部でも従来より衛星の電波を捉えやすくなった。「準天頂衛星」とはGPSとほぼ同じ測位信号を送信する衛星で、利用できるGPSが少ない場合でもGPS信号を補完することで正しい位置情報を特定できる。みちびきは準天頂衛星の初号機として打ち上げられた衛星で、将来的にはさらに追加が検討されている。

 24時間いつでも準天頂衛星の恩恵を受けられるようにするには3機以上の準天頂衛星が必要だが、現時点ではみちびき1機のみなので、例えば東京の上空なら1日に8時間程度しか真上に位置しない。みちびきが現在、空のどの位置にいるかは、JAXAのみちびきデータ公開サイト「QZ-vision」で配布されている「QZ-radar」というWindows用ソフトや、App Storeからダウンロード可能なiPhoneアプリ「QZ-Finder」で確認できる。

 ちなみにeTrex 30JではGLONASSのオン/オフは選べるが、みちびきについては、GPSのみの場合でも、GPS+GLONASSの併用時でも常にオンの状態となる。また、eTrex 30Jの持続時間はメーカー発表では単三形電池2本で25時間となっているが、GLONASSをオンにすると短くなる。いいよねっとによると、GLONASSオンの状態で約20%短くなるという。

「GLONASS」をオンにした場合の衛星情報画面。各アイコンに書かれている番号が衛星番号(PRN番号)を示しており、「みちびき」の番号は「193」。下の棒グラフは衛星の信号強度を示しているGPSと「みちびき」だけの場合の衛星情報画面

JAXA「QZ-vision」のサイト

Windows用ソフト「QZ-radar」。レーダー上の「Q1」が「みちびき」の位置を示している

iPhoneアプリ「QZ-Finder」。レーダーの中央付近(天頂付近)にある赤い点が「みちびき」の位置を示している「QZ-Finder」には、カメラで写した映像に衛星の位置をARで表示する機能も搭載衛星の位置をGoogle Maps上で確認することも可能

5種類の方法でルート探索が可能

 地図データは「20万分の1全国道路概略地図」が標準で入っているが、概略図のみで詳細図は入っていないので、情報量はかなり少ない。詳細図を入れてナビゲーション機能をフルに使うには、別売の道路ナビ用地図「日本詳細道路地図(シティナビゲーター)」が必要となる。この地図は地番号までの住所データやポイント情報なども豊富で、個人宅以外のデータを収録した電話番号データも収録されている。

 ナビゲーションのルート探索方法は「直行」「時間優先」「距離優先」「一般道優先」「有料道優先」の5種類が用意されており、車両も「車/バイク」「徒歩」「自転車」の3種類から選べる。また、マップマッチ(道路に合わせて自車位置を修正する機能)のオン/オフや、有料道路や幹線道路、未舗装道路を回避するかどうかも設定できる。

 ナビゲーションの目的地設定は住所や電話番号のほか、緯度経度、高速道路のSA/PAや出入口などから検索できる。また、「フード/ドリンク」「ガソリンスタンド」「宿泊施設」「娯楽」に加えて、公共施設や病院なども豊富に収録する。ただし、ナビゲーションの案内は交差点で曲がる方向を示すだけの簡易的なもので、音声案内もなくカーナビと比べるとかなり見劣りするが、バイクや自転車での使用には十分だと思う。

 また、登山用の地図データとしては「日本登山地図(TOPO10MPlus)」が別売で用意されている。こちらは国土地理院の2万5000分の1地形図を基図にしたもので、日本全域で10m間隔の等高線を収録するほか、水場や山小屋などのポイントも収録している。このほか、日本近海の海岸線や等深線などを収録した「日本航海参考図(ブルーチャート)」や、サードパーティ製の地図データも利用できる。

「20万分の1全国道路概略地図」中縮尺では国道や県道の号数を強調表示
「日本詳細道路地図(シティナビゲーター)」日本詳細道路地図ではコンビニなどの施設アイコンが表示される
目的地検索のメニュー「フード/ドリンク」を選択した場合のメニュー
ナビゲーション画面

位置情報を複数回測定して平均値を計算

 このほかGARMIN製GPS同士でポイントやルート、トラック、ジオキャッシュポイントのデータがワイヤレスで共有できるほか、ANT+互換のケイデンスセンサーや心拍計ベルトとの接続も可能だ。ケイデンスセンサーや心拍計ベルトは下位機種のeTrex 10JやeTrex 20Jでは使えないので、自転車トレーニングなどにも使用したい人はeTrex 30Jを選んだほうがいいだろう。なお、いいよねっとによると、ラインナップの3機種で測位精度に差はないという。

 さらにもうひとつユニークな点として、ジオキャッシングの管理サイトを2種類サポートしている点が挙げられる。従来のジオキャッシング形式に加えて、GARMINの運営によるジオキャッシュの情報サイト「OpenCashing.com」の2つのサイトをサポートしており、表示形式を切り替えることが可能だ。

 ほかにも、日の出や日の入の時間を確認できる「太陽と月」や、狩猟と釣りに適した時間を確認できる「狩猟と月」、計測したいエリアの周囲を歩くと面積を計算できる「面積計算」、高度の推移がわかる「高度グラフ」などさまざまな機能を搭載する。中には、現在地点を登録すると同時に、その場所へ戻るためのナビゲーションを開始する「救助ナビ」という機能もある。これは航行中の船舶からクルーが落水した場合のレスキューなどに使われる。

 また、この製品には現在地をポイント登録する機能が搭載されているが、さらに位置情報を複数回測定して、その平均値を計算することで位置情報の精度を高める「平均位置測定」という機能もある。

ジオキャッシュポイントのリスト箱のアイコンでジオキャッシュポイントを表示
高度グラフ「平均位置測定」の画面

軌跡データをmicroSDに記録できる日本版

 ちなみにeTrex Jシリーズは、英語版の「eTrex 10/20/30」をローカライズしたものだが、単に表示が日本語化されているだけでなく、日本版独自の機能がいくつか盛り込まれている。

 日本版だけの機能としては、まず地図画面でトラックアップ(進行方向を上にするモード)設定時に、設定した縮尺以下になると自動的にノースアップ(北を上にするモード)に切り替える機能が追加された。

 また、地図を非表示にして、速度や経過時間などさまざまな情報を並べて表示する「トリップコンピュータ」の画面では、英語版では項目ごとにリセットすることができないのに対して、日本版ではリセットしたい項目だけを選んで自由にリセット可能となっている。

 さらに英語版では軌跡を内蔵メモリにしか保存できないが、日本版(eTrex 20J/30Jのみ)ではmicroSDにも保存可能となっている。

 このほか、eTrex 20J/30Jのみ電池切れ前のアラーム時間が延長されている。また、日本語入力のユーザーインターフェイスも改良されて、より使いやすくなっている。

トリップコンピュータ電子コンパス
日本語入力画面

左右のブレの少ない安定した軌跡

 それでは軌跡ログを見てみよう。今回比較に使ったのは、GARMINの「GPSMAP60CSx」とアップルのiPhone 4。東京都内の街中を自転車で走行してみた結果と、東京西部の高尾山を登った結果をGoogle Earth上に表示した。

高尾山では、テストに使用する3機をRAMマウントを使ってパイプフレーム付きザック(イスパック)に固定(中央がeTrex 30J)。発売されたばかりの新型eTrex向けRAMマウント用ホルダーを使用している

 地図上の赤い線がeTrex 30J、水色の線がGPSMAP60CSx、黄色の線がiPhone 4のログを表している。iPhone 4のロガーアプリには「GPS-Trk」を使用。ログの記録間隔は5秒おきとした。なお、いずれのログもみちびきが天頂付近に位置する時間帯に計測している。


市街地でのログ

ビルの多い上野駅付近でも安定した軌跡を見せた

スタート/ゴール付近は少し外側に膨らんだ

 市街地のコースは、長方形の右上の地点からスタートして反時計回りに進んでいる。ひと目見てわかるのはeTrex 30Jのログは左右のブレが少ないこと。ほかの機器のログがジグザグになっているところも、eTrex 30Jのログは実際に自転車が進んだ通りに真っ直ぐに進んでいる。

 特に違いが際立っているのはコース左上の上野駅付近。このエリアは背の高いビルが多く、首都高の高架と挟まれているおかげでかなりログが荒れるスポットなのだが、eTrex 30Jは大きな誤差を見せず実際に通った軌跡に近いログが得られた。

 右上のゴール付近ではほかのGPS機器と同じように、実際よりも外側に膨らんでしまっているが、膨らみ方は小さい。筆者はGPS機器をレビューするときはいつもこのコースでテストしているのだが、ここまで安定した軌跡が得られたのは初めてだ。

 次は高尾山のログ。図の右端が山麓で、左端が山頂となっており、往路は上側の軌跡で、沢沿いを歩く琵琶滝コース。復路は下側の軌跡で、尾根を歩く稲荷山コースとなっている。

高尾山でのログ

頂上付近

山麓付近

 いずれの機器についても、復路の稲荷山コースは尾根歩きのため衛星電波を受信しやすく、ほぼ安定したログを見せた。違いが出たのは見通しの悪い沢沿いの往路で、大きな曲がり道の部分で誤差が激しくなっている。このような個所でも市街地でのログと同じように、eTrex 30Jのログは左右のブレの少ない安定した印象を受ける。

 次に、同じログをGoogle マップ上で読み込んで、川や施設の位置関係がわかりやすい琵琶滝付近を拡大した図を掲載する。この地点は極めて上空の見通しが悪いエリアなので、いずれのログも地図上の山道からは外れているが、GPSMAP60CSxやiPhone 4のログの一部が重なってしまっているのに対して、eTrex 30Jのほうは一応、川を沿うような形にはなっている。

Google マップでの比較

電源オンから測位完了までの早さ

 全体的には、山岳地よりも市街地のほうが測位精度の高さが感じられる結果となった。みちびきだけでなくGLONASSの効果もあるが、従来のGARMIN製GPSに比べて精度は確実に向上していると思う。

 もうひとつ感じたのが電源オンから測位が完了するまでの早さだ。ホットスタート(軌道情報を保持した状態でのスタート)はもちろん、コールドスタート(軌道情報を持たない状態でのスタート)もかなり早く、すぐに地図上に現在地が表示される。衛星情報画面を見ると、電源オンしてから即座に多数の衛星電波を捉えていく様子がよくわかる。

 なお、筆者が試用した時は、みちびきは早朝から昼すぎにかけて天頂付近に位置するような状況だったが、この時間帯は次第にずれていくので、夜中から朝にかけてしか使えない時期もある。1日フルに活用できるようにするためには3機以上の準天頂衛星が必要だが、これは今後の衛星打ち上げの状況に左右される。

 気になるのは、今後、準天頂衛星が追加された場合にファームウェアのアップデートなどで対応が図られるかどうかだが、この点についていいよねっとに尋ねたところ、「補強信号の仕様が決定次第、対応への作業を進めさせていただきますが、今現在は対応可能であるか未知数です」とのこと。これについてはぜひ期待したい。

 GLONASSとみちびきによって測位精度が向上したこの新型eTrexシリーズは、既存のGARMINユーザーからの買い換えはもちろん、初めてハンディGPSを購入する人にもおすすめだ。アウトドアや街中などさまざまなフィールドで測位精度の高さを味わってみてはいかがだろうか。


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2012/2/9 06:00


片岡 義明
 地図に関することならインターネットの地図サイトから紙メディア、カーナビ、ハンディGPS、地球儀まで、どんなジャンルにも首を突っ込む無類の地図好きライター。地図とコンパスとGPSを片手に街や山を徘徊する日々を送る一方で、地図関連の最新情報の収集にも余念がない。書籍「パソ鉄の旅-デジタル地図に残す自分だけの鉄道記-」がインプレスジャパンから発売中。