趣味のインターネット地図ウォッチ

第136回:自動雲台「GigaPan」を使って、高解像度の“自作ストリートビュー”

コンデジでもギガピクセルの360度パノラマ写真


「GigaPan」で撮影した360度パノラマ写真をGoogle Earthで閲覧すると、まるで自家製ストリートビュー

360度パノラマ写真を撮れる自動雲台

 Google マップやGoogle Earthのストリートビューは世界各地の360度パノラマ画像を見られるサービスとして人気だが、まだまだ映像が用意されていない場所も多い。例えば山岳地域の映像については、道路のある場所ならストリートビューを見られることもあるが、登山道や山頂となるとほとんど見られない。

 屋内の写真についても、有名な施設ならストリートビューが用意されることも増えてきたが、まだまだ少ないのが実情だ。もちろんオフィスや個人宅の敷地内および室内も、セキュリティやプライバシーの問題でストリートビューを見ることはできない。

 このような場所で高解像度の360度パノラマ写真を撮影して、ストリートビューのような画像を自作できるのが、今回紹介する「GigaPan」だ。とは言っても、GigaPanに撮影機能が付いているわけではない。手持ちのデジタルカメラをGigaPanにセットすると、GigaPanが上下左右背面とさまざまな方向に首を振りながら、周囲の写真を次々に撮影。そして撮影した複数の写真をPC上でスティッチ(つなぎ合わせ)することで1枚のパノラマ写真を作る。つまり、個人レベルで手軽に使える全方位撮影用の自動雲台だ。

 数百枚をつなぎ合わせることによりギガピクセルクラスの高解像度パノラマ画像を作れるだけでなく、天頂付近を含めることも可能。撮影した写真はGoogle Earth上でストリートビューのように閲覧することも可能だ。

正面から見た「GigaPan」。左上のユニットがシャッターボタン用アームで、本体とはコードでつながっている

裏側には操作用のボタンと液晶ディスプレイが並ぶ

底面には三脚穴が開いている

コンパクトカメラから一眼レフまで対応する幅広いラインナップ

 GigaPanのラインナップは対応するカメラの大きさに合わせて、コンパクトデジタルカメラ用の「EPIC」、コンパクトデジタルカメラからミラーレス機、一眼レフまで幅広く対応する「EPIC100」、一眼レフカメラ対応の「EPIC PRO」の3種類が用意されている。それぞれ対応するカメラのリストが販売代理店のサイトに掲載されているので確認してほしい。

 このうち、EPICおよびEPIC100はカメラのシャッターを物理的なアームで押し込むのに対して、EPIC PROは電子シャッターケーブルを用いる。価格は、EPICが4万9800円、EPIC100が7万9800円、EPIC PROが9万9800円。今回は最も安価なEPICを選択した。

 GigaPanを日本で販売している会社はいくつかあるが、筆者は正規販売代理店であるGPS機器専門ショップ「GPSコンシェルジュ」で購入した。同店ではオリジナルの日本語マニュアルや専用ソフトが入ったディスクなどを独自に添付しており、定期的に講習会を開催するなど、購入者へのサポートを充実させている。

 使用したデジタルカメラは筆者手持ちのキヤノン「PowerShot 230HS」。実はこのカメラはGigaPanの対応リストには載っていないのだが、EPICのシャッターボタン用アームはかなり柔軟に位置を調節できるので、対応リストに載っていないカメラでも使えることも多い。ただしアームは上から鉛直方向に押し込む形になっているので、シャッターが斜めに傾いて配置されているものだと誤作動を起こす可能性がある。

対応機種のリストが載っている「GPSコンシェルジュ」のGigaPan販売ページ

バッテリーは単3形電池を使用

 EPICのサイズは19.8×19×12.4cm、重さは1.4kgと、GigaPanのラインナップの中では最も小さく軽い。電源は単3形電池が6本で、カートリッジにセットして本体横に差し込んで使う。カートリッジを複数用意しておけば、すばやい電池交換が可能だ。電池はニッケル水素充電池が推奨されている。

 雲台の上部にはカメラをセットするベースがあり、このベースはボタン操作により電動で上下に傾けられる。また、カメラをセットした時のシャッターボタン位置の近くにシャッターを押すアームのユニットがあり、このユニットは前述したようにある程度自由に位置を決められる。

 下部は電動で首を振る雲台となっていて、気泡式の水準器が付いている。ボタンは画角や撮影位置を設定する時のために、カメラを上下左右に傾けるための十字ボタンが中央に配置されており、その左側に「×」ボタン、右側に電源/OKボタンが搭載されている。液晶ディスプレイは2行で文字や数値が表示される。雲台の底には三脚穴が付いており、カメラ用三脚に取り付けられる。

 全体的にはしっかりした造りだが、複雑な形状をしていて可動部分も多いので、バッグなどに入れて持ち運ぶ際は壊さないように注意が必要だ。なお、販売代理店のGPSコンシェルジュではGigaPanを持ち運ぶための専用キャリングバッグも用意している。

気泡式の水準器を搭載

電池をセットしたカートリッジを横にセット

液晶ディスプレイ

撮影前にアーム位置の調節や視野角の設定を実施

 使用にあたっては、まずカメラをベースに設置して、シャッターボタン用アームの位置を調節する。アームがシャッターから遠すぎると、押し込んでもシャッターが切れずコマ落ちが発生してしまう。実際に筆者が最初にGigaPanでの撮影に挑戦した時もこのトラブルを起こしてしまった。かといってシャッターに近づけすぎると今度は常時、半押し状態となってしまう。このあたりの位置調整は使っていくうちに慣れるしかない。

 カメラを設置したら、電源/OKボタンを押して設定作業に入る。設定が必要なのは上下の視野角だけで、この設定値に応じて左右の視野角も決められる。設定方法は、まずレンズをズームして撮影時の焦点距離を決めてから、ディスプレイのメッセージに従って、ビルの窓枠など基準となるものに視野の上の端を合わせて電源/OKボタンを押す。終わったら今度は十字キーの上のボタンを押してカメラを上向きに動かし、先ほど上の端に位置していたものが下の端に位置するようにしてから、電源/OKボタンを押せば設定完了。上下の視野角が「11.5 degrees」などと数値で表示されるので確認する。

 なお、視野角の設定時や撮影前になると、GigaPanのディスプレイには「Set to full zoom」というようにズームを最大にするよう指示が出るが、必ずしも最大にする必要はない。ただし広角側で撮ると1枚あたりの遠近感が強調されるので、つなぎ合わせた時に不自然な画像となる可能性がある。自然なつなぎ目に仕上げるにはズームを望遠側に設定したほうがいいわけだが、望遠にすればするほど画角が狭くなるため必要なコマ数も大量になり、撮影時間がかかってしまう。焦点距離はこの点を考えながらバランスを考えて決める必要がある。


シャッターボタン用アームのユニット
ユニットを動かして上下位置を調節し、アームを動かして水平位置を調節する

カメラを取り付けた状態

アームの位置をセット

GigaPanの操作ボタンを使って上下の視野角を決める

 設定が終わったらいよいよ撮影だ。撮影モードは360度パノラマ撮影と、撮影範囲を決めるモードの2つが用意されている。360度パノラマ撮影の場合は、十字キーでカメラの傾きを上下させながら、パノラマ写真の最上部と最下部を設定する。GigaPanは天頂も撮影できるが、その構造上、真下を撮影することはできない。

 なお、360度ではなく撮影する範囲を限定する場合は、撮影したい視野の左上と右下を設定する。いずれのモードでも最終的に総撮影枚数が表示されるので、これを確認してからセンター位置を決めて撮影に入る。撮影枚数は今回の360度パノラマ写真のサンプルの場合、392(横28×縦14)ショットで、これを撮り終えるのにかかった時間は約25分だった。

撮影中の「GigaPan」の動き(正面)


撮影中の「GigaPan」の動き(背面)


PC上でスティッチしてから「GigaPan」のサイトにアップロード

 さて、すべてのコマ数を撮り終えたら今度はスティッチ(つなぎ合わせ)の作業だ。この作業はWindows/Mac向けの専用ソフト「GigaPan Stitch」を使って行う。カメラからPCに転送した画像をこのソフトから読み込み、縦横のコマ数を合わせると、コマ落ちが無ければ現場の風景がタイル状に表示される。この状態で「Save selection and Stitch」ボタンをクリックすれば、つなぎ合わせがスタートする。

 このスティッチ処理にもある程度の時間がかかる。筆者の環境では、Core i5-2400のCPUを搭載したPCで665枚の画像をつなぎ合わせるのに約20分かかった。スティッチが終了すると、ソフト上でパノラマ写真を見られるようになる。

 出来上がった写真は大量の画像をつなぎ合わせただけあって、84848×31284ピクセル(約2.65ギガピクセル)とかなりの高解像度となった。不自然なつなぎ目や変な傾きも少なく、現場の雰囲気がリアルに再現されている。画面のさまざまな個所を拡大すると、コンパクトデジタルカメラを使ったとは思えないような精細なパノラマ画像で、かなり感動的だ。

撮影した写真を「GigaPan Stitch」で読み込むと、撮影した画像がタイル状に並ぶ

スティッチ処理をすると1枚の高解像度360度パノラマ画像が完成する

画像をアップロードして位置情報を付加

 このままでもソフト上でスクロールをしながら閲覧できるのだが、この画像はインターネット上のGigaPanの公式サイトにアップロードすることにより、位置情報を付けられる。なお、アップロードの際にはGigaPanの公式サイト「GigaPan.com」でID登録をする必要があるのだが、その際、登録してログインした後に自分の氏名(First NameとLast Name)を指定しなければならない。当初、筆者は氏名を入力せずにアップロードしようとしてなぜかエラーが出てしまい、原因の特定に手間取ってしまった。GigaPan.comは英語サイトなのでわかりづらいこともあるので、何か疑問がある場合は販売代理店に相談してみるといいだろう。

 位置情報はサイト上でGoogle EarthやGoogle マップを使って指定すればOKだ。また、位置情報を付加したGigaPanの画像は、設定によりGoogle Earth上で閲覧することも可能になる。ダウンロードしたKMLファイルを実行するとGoogle Earth上にGigaPanのアイコンが登場し、これをクリックするとGoogle Earth上で360度パノラマ写真が表示されて、まるでストリートビューのような映像を楽しめる。

 Google Earth上からはGoogleのストリートビューも見られるので、ストリートビューと自作のパノラマ写真を切り替えながら比較しても面白い。ストリートビューがカバーしていない場所のパノラマ写真を次々に登録していけば、自分だけのパノラマ画像集が完成する。

 なお、アップロードした写真はサイト上で不特定多数に向けて公開することも可能だ(ただし、解像度が高いだけにプライバシー面などには十分に配慮する必要があるほか、他人の私有地内などを無許可で公開することなどのないよう留意しなければならない)。GigaPanユーザー以外もこれらの画像を見ることは可能なので、同サイト上でさまざまな場所のパノラマ写真を楽しんでみてほしい。ちなみに公開されていても位置情報が付加されていないものや、Google Earth上で見られない設定になっているものもある。

完成した画像を「GigaPan.com」にアップロード

「GigaPan.com」上で位置情報を付加する

画像の撮影位置がGoogle マップに表示される

Google Earth上にGigaPanのアイコンが出現

アイコンをクリックすると、ストリートビューのように、その場で360度見渡せる

スカイツリーの右下にあるビルを拡大

360度だけでなく、撮影範囲を指定して撮ることも可能

23コマの写真をつなぎ合わせた状態

細部まで高精細に撮れる

被災地の現状を伝える用途にも活用

 GigaPanは撮影がスタートすれば、後は放っておけるので、あっけないほど簡単に高解像度パノラマ写真が撮れる。ただし360度のパノラマを撮ろうと思うとそれなりに時間がかかるし、スティッチに要する時間も短くはない。また、GigaPan本体の電池の消耗も激しく、1シーンあたり約200~300枚を撮った場合、4~5シーンくらいしか撮れないので、替えの電池を用意しておく必要もある。

 しかし、このようなわずらわしさを補って余りあるほどの魅力がGigaPanにはあふれている。Googleのストリートビューでは細部が潰れてしまっているような個所も、GigaPanの写真なら拡大すれば細かいところまで鮮明に読める。川沿いのテラスや河川敷のサイクリングロード、登山道や山頂、家の庭やオフィスの敷地、室内など、ストリートビューで見ることのできない場所はまだまだこの世には数多くあり、このような場所でオリジナルの高解像度パノラマ画像を個人の手で作れるGigaPanは大きな可能性を秘めていると思う。

 例えばGigaPanの利用方法の例として、3.11の復興支援プロジェクト「助け合いジャパン 情報レンジャー」というサイトが挙げられる。このプロジェクトは復興のための正しい情報やニーズを届けるための活動で、その情報収集実行チームが使っているツールがGigaPanだ。情報レンジャーのサイトを見るとGigaPanで撮影したパノラマ写真が数多く載っており、被災地の現状が臨場感を持って伝わってくる。まさにGigaPanのよさを生かした使い方だと思う。

 もちろん趣味や仕事にも役立つだろう。お気に入りの場所を撮影したり、旅先の思い出を残したりするために使ってもいい。位置情報と組み合わせることでさまざまな可能性が考えられるこの製品は、地図好きの人にとっては注目の機器だ。

「助け合いジャパン 情報レンジャー」




関連情報

2012/5/24 06:00


片岡 義明
 地図に関することならインターネットの地図サイトから紙メディア、カーナビ、ハンディGPS、地球儀まで、どんなジャンルにも首を突っ込む無類の地図好きライター。地図とコンパスとGPSを片手に街や山を徘徊する日々を送る一方で、地図関連の最新情報の収集にも余念がない。書籍「パソ鉄の旅-デジタル地図に残す自分だけの鉄道記-」がインプレスジャパンから発売中。