趣味のインターネット地図ウォッチ
第164回
渋滞などの車載カメラ画像も共有、パイオニアの最新高級ナビを体験
ARスカウターとHUDも付いてまさしく“サイバーナビ”
(2013/6/27 06:00)
低価格のPNDやスマートフォン向けナビアプリなど、カーナビにはさまざまな選択肢がある時代となったが、そんな中で従来のフルナビはどのように進化しているのだろうか。今回は、パイオニア株式会社から発売されたばかりの「carrozzeria CYBER NAVI(カロッツェリア サイバーナビ)」最新モデルを試乗車で体験する機会があったので、そのレポートをお送りしたい。
AR機能を実現するための2つのユニット
今回発売されたのは1D+1Dメインユニットタイプの「AVIC-VH0009」シリーズと、2Dメインユニットタイプの「AVIC-ZH0009」シリーズおよび「AVIC-ZH0007」シリーズ。このうち上位モデルの「AVIC-VH0009」と「AVIC-ZH0009」には、カーナビ単品のモデルのほか、実写映像から信号機や標識の情報を読み取る「ARスカウターモード」を実現する「クルーズスカウターユニット(ND-CS3)」が付属するセットと、クルーズスカウターユニットに加えてナビゲーション情報を目の前の風景に重ねて表示するヘッドアップディスプレイ「AR HUDユニット(ND-HUD2)」を付属するセットが用意される。いずれのユニットも、実写映像に情報を重ねて表示するAR機能を実現するための機器だ。
試乗車に搭載されていたのは2DメインユニットタイプのAVIC-ZH0009シリーズで、クルーズスカウターユニットとAR HUDユニットが搭載されている「AVIC-ZH0009HUD」という最上位モデル。AR HUDユニットは天井のサンバイザーのある位置に取り付けられており、運転席に座ると視界の上部3分の1くらいを透過スクリーンが占める形となる。
クルーズスカウターユニット本体はサイズが121×100×22mm(幅×高さ×厚さ)の箱型の機器で、SDカードスロットが付いており、ダッシュボード下など外からは見えにくいところに固定する。本体とは別にカメラをフロントガラスの上部に取り付けて、ケーブルで本体に接続する。
カメラで撮影した画像をドライバー間で共有
今回のモデルチェンジにおける目玉のひとつが、このクルーズスカウターユニットのカメラで撮影した画像をドライバー間で共有できる情報共有サービス「スマートループ アイ」だ。「スマートループ」というのはパイオニアのプローブ情報システムのことで、これまで各車両の移動速度や時間のデータをもとに提供していた独自のルート情報や渋滞情報に加えて、スマートループ アイでは撮影した写真までもサーバーにアップロードしてドライバー間で共有できるようになった。
具体的には、人気スポットの駐車場入口付近や渋滞が発生しやすい交差点周辺、全国の高速道路施設などを「スマートループ アイ スポット」として設定し、そのスポットを通行する際に自動的にカメラで撮影して通信モジュールによりアップロードする。アップロードした画像はサーバー側でナンバープレートなどを読めなくする画像処理などを行った上で、ほかのドライバーに公開される。なお、スマートループ アイ スポットの中からよく通る地点などを選んで「マイスポット」として登録することも可能だ。
パイオニアによると、画像がサーバーにアップロードされてからほかのドライバーに公開されるまでの時間はおよそ5分とのこと。ナビ側であらかじめ設定しておくことにより、目的地までのルート上にあるスマートループ アイの画像情報をディスプレイに表示することが可能で、次に通過するルート上のスポット画像に自動的に切り替わる。例えばこれから通過する予定のスポットが渋滞しているような場合でも、あらかじめその地点の混み具合を確認することが可能となるし、大型ショッピングセンターの駐車場入口で起こる渋滞も、そこに到着する前に察知できる。
ただし、このように事前に現地の映像が公開されるためには、同じようにCYBER NAVIを搭載したほかのユーザーによって、その地点が撮影されなければならない。今回、パイオニア本社(神奈川県川崎市幸区)の周辺を実際に走行してみたところ、何枚か画像が表示されたが、画像が用意されていないスポットもいくつかあった。また、画像があるものの、数日前に撮影された写真というケースも多く、リアルタイムに現地の情報を確認できるという感じではなかった。ちなみに画像はサーバー側に1週間保持される。
とはいえ、このスマートループ アイ スポットは、これまで集めたパイオニアのユーザーの走行データを分析して、どこにスポットを設定すればこの機能が成り立つのかを考えて設定されているとのこと。現在、全国で約5000カ所のスポットが設定されているとのことだが、このスポットの位置や数はユーザーの動きを見ながら随時調整していくという。また、VICSで工事による車線規制などが発生した場合はそこがリアルタイムに撮影スポットとして設定される。こうすることで、規制されているのが右と左どちらの車線なのか、事故の際にどれくらいの規模の事故なのかといった情報を事前に察知することができる。
ちなみに高速道路のジャンクションなどを見てみるとけっこう画像がアップロードされていたので、場所によって画像の充実度は異なるようだ。まだ製品発売直後ということもあり、使用しているユーザーが少ないということもあるが、画像情報がどれくらい充実するかは未知数といえる。スマートループ アイに対応したモデルを上位モデルだけでなく、中~下位機種にも対応させれば、それなりの数が集まるかもしれない。また、画像共有に特化したスマートフォンアプリなどを無料提供すれば、もっと多くのユーザーが集まるのではないかと思う。このあたりは今後の展開にぜひ期待したい。
信号のない横断歩道を認識して実写映像に重ねて表示
新しいCYBER NAVIのもうひとつの強化点が、カメラで撮影した映像を解析した情報を実写映像に重ねて表示する「ARスカウターモード」の検知性能の向上だ。カメラの画素数が上がり、より検知の精度が向上したことに加えて、信号機のない横断歩道を検知してイラストと効果音で通知する「横断歩道予告検知表示」という機能が新しく搭載された。これまでARスカウターモードで検知できるのは前方車および信号機、速度標識、高速道路のレーンの4種類だったが、これに「信号機のない横断歩道」が加わって、計5種類の情報に対応したわけだ。
ビューモードを「ドライバーズビュー(スカウターモード)」にセットすると、ナビの画面が実写画面へと切り替わる。この状態で運転すると、信号機や標識の上にターゲットスコープが表示されたあと、読み取った情報のイラストが表示される。信号機のない横断歩道には、手前の路面に菱型のマークが描かれているのだが、この菱型のマークを読み取ると、横断歩道標識のイラストが実写映像の上に表示される。
このARスカウターモードのコンセプトは、人間にとっての“第3の目”。人間は運転中さまざまなことに注意を払わなければならず、集中力も人それぞれ異なるので、それを補うのを目的としているのだという。集中力が落ちている時でも、ARスカウターモードで標識や信号が強調表示されることにより、「あ、ここは時速40kmなんだ」「横断歩道があるのか」と気付くことができるわけだ。しかもこれらの情報はHDD内のデータから呼び出すのではなく、撮影した画像の解析結果に基づいて表示されているため、規制速度や横断歩道の位置が変わっている場合にも最新の情報を表示できる。このARスカウターモード、今後はどのような情報に対応するのか実に楽しみである。
このほかの強化点としては、音声によるフリーワード検索が可能になったことも挙げられる。この音声認識機能は通信機能を使ってサーバー側で処理するもので、スマートフォンの音声認識機能のような高度な処理が可能。「近くのラーメン屋」と言うだけで周辺のラーメン屋を抽出してくれる。このほか、端末の操作を音声認識によって行うことも可能で、この場合は通信機能を使わずに機能を利用できる。
ナビゲーションや地図をARで表示するHUD
今回のモデルチェンジで初めて搭載されたわけではないが、このCYBER NAVIの大きな特徴となっているのが、2年前のモデルから用意された「AR HUDユニット」だ。これはナビや地図情報をフロントガラスの前方に映し出し、目の前の風景に重ねて表示できるユニットで、通常はサンバイザーを取り外して運転席の頭上に取り付ける。
このAR HUDユニットは目線よりも少し上に位置する透明なスクリーンに情報を映し出されるのだが、実際に運転席に座って見てみると、テレビを見ているような感じではなく、3mくらい先のフロントガラスの向こうに情報が浮かんでいるように見える。フロントガラス越しに見る景色と重なって見えるので焦点をあまり変えることなく、目の疲れが少ない。
HUDに映し出される情報は、目的地までのルート表示や車間距離表示、交差点情報などを表示する「HUDドライバーモード」と、高速道路の出口までの距離や通過予想時間、車間距離などを表示する「HUDハイウェイモード」、自車位置周辺の地図を表示する「HUDマップモード」の3種類。運転しながらナビのディスプレイを見るのは面倒だし危険も伴うが、このAR HUD ユニットなら視線移動がわずかで済むのでとても楽だ。
初めにこのユニットを見た時は、視界の上部3分の1くらいを透明スクリーンが占めており、しかもこのスクリーンには波形の線が細かく入っているため、最初はそれを通して見るフロントガラスの景色に少し違和感を抱いたが、運転してしばらく経つとそれほど気にならなくなった。それよりも、運転中にナビのディスプレイを見る機会を減らせるメリットのほうがはるかに大きい。このHUDユニットが付属する「AVIC-ZH0009HUD」と、クルーズスカウターユニットしか付かない「AVIC-VH0009CS」の差は、価格.comの最安価格で比べると約3万7600円。個人的にはこの価格差であれば十分買う価値はあると思う。
10Hz測位のGPSなど基本機能も充実
さて、スマートループ アイやARスカウターモード、そしてAR HUDは、現時点ではスマートフォン用ナビアプリでは味わえない機能だが、実はこのナビはカーナビとしての基本機能についてもスマートフォンとはひと味違う。ARスカウターモードのような先進機能を実現するためには、自車位置をかなり高精度に特定する必要があり、そのためにCYBER NAVIには、路面の傾きを検知できる加速度センサーを搭載するとともに、GPSには1秒間に10回測位する10Hzのチップを採用している。
また、スマートループで集めたプローブ情報を解析して、施設の自動車の出入口を特定することにより、施設の周辺で案内をやめてしまうことなく、入口まで確実に案内してくれる。これは大型施設でどこから入っていいのか分からない場合などにかなり有効で、今回の試乗においても、広いパイオニア本社の敷地のどこに入口があるのかをしっかりと示して、見事にそこまで連れて行ってくれた。
さらに、このような出入口情報を利用することで、マップマッチング(地図上の道路の位置に合わせて自車位置表示を自動的に補正する機能)を適切なタイミングで外し、駐車場の敷地内に入っても高精度に自車位置を捉えることが可能だ。例えばロードサイドのコンビニなどで、入口と出口の位置が異なり、入ってきた方角とは違う方角に出るような場合でも、自車位置を見失ってリルートとなってしまうようなことが少ない。
自社グループ内にインクリメントP株式会社という地図会社を持っているのもパイオニアの強みで、一般のナビ用地図データに加えてドライバー視点の専用地図データも搭載しており、「ドライバーズビュー」として利用できる。また、大型施設の駐車場マップも多数収録している。
スマートフォンとの連携機能も搭載しており、スマートフォンに保存してある音楽・映像をナビで視聴できるほか、iPhone/Android向けの対応アプリをナビ側から操作できる「Linkwithモード」も搭載する。
先進機能を盛り込んだ意欲作
なお、CYBER NAVIの機能をフルに活用するにはデータ通信モジュールによる3G通信が必要で、この通信料は通信を開始した月から最大3年間無料となる。3年を過ぎると、以後は有料(年額1万円前後となる予定)になる。
このCYBER NAVI、実売価格は価格.comの最安値で20万円代前半とそれなりに値が張るが、これまで紹介したようにスマートフォンとの違いは少なくない。スマートフォンの台頭によりカーナビ専用機の存在価値が問われる今だからこそ、数々の魅力的な先進機能を盛り込んでリリースした意欲作だと思う。
スマートループ アイについては、どれくらい画像が集まり、リアルタイムに渋滞情報などが得られるかは現時点では未知数だが、パイオニアがスマートループで収集したビッグデータを解析した結果、この機能が成り立つと判断したのであるから、ある程度普及してくれば実用度が高まってくると思われる。
ARスカウターモードやAR HUDについては、高級機ならではの付加価値であり、これが無くても運転には支障はきたさない。ただ、特にAR HUDなどは実際に使ってみるとかなり楽で、これを使い続けていると手放せなくなるだろうというのは予想できる。ちょっとナビにお金をかけてみようと思っている人には注目の製品といえるだろう。